愛惜募れば夢と成す【鶴さに♀】
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睦月も半ば、かじかむ指先を擦りながら私は雪空の中歩を進ませていた。雪が止まることなく降り続く様は美しくとも、ただの住宅街では風情など少しもなく、ただその寒さに鬱々としていた。制服のスカートについた六花を振り払い、厚手とは言えないセーターの袖口を引き伸ばす。指先を口元に寄せ、はあっ、と息を吐き出せば僅かな温もりが指先を包んだ…が直ぐに掻き消される。雪が、強くなってきた。
この1日は散々なものだった。
私の登校した時間だけ酷く雪が降り、じっとりと重い制服を引きずりながら教室にはいれば、その途端雪は降りやんで皆晴れ晴れとした天気の中教室に入ってくるし、部活終わりに帰ろうと学校近くの駅まで行けば雪で運行休止。一時間以上待って乗った電車はもちろんすし詰めで、その上後ろのおじさんにがっつりお尻を掴まれた。
ヘロヘロになりながら電車を降り、家まであと10分くらいの距離の場所に今私はいる。
電車を降りた頃にはふわりと舞う程度だった雪も、5分そこらで猛吹雪と化した。私は雪に嫌われているのだろうか。
私の視界すべてが白銀で、もうこの先の道も見えない。慣れた道とは言え、帰ることができるか少し不安になってくる。
もし、このまま雪に包まれて浚われてしまったら。そんな少女的なことを考えながら、私は進む。さくさくと雪を踏みしめ、ローファーに染み込む冷気と水気にうんざりしながら。
こんな天気ではスマホだって触れないし、もし扱えば1日で修理まっしぐらだろう。ただ歩きながら白銀を眺めるというのは、存外つまらないものだ。
そう思った瞬間、向かい風が止み、地面を撫で上げるような追い風が吹き付けた。風が舞い上げた雪は、そのまま渦巻いて真っ白な柱となっていく。住宅街の決して広いとは言えない道に10メートルはありそうな柱が建つのはひどくアンバランスに見える。
「な、なによこれ…」
思わず口が開く。こんなにも幻想的で、美しくて、不気味な光景は見たことがない。
足がすくむ。肩にかけていたスクールバックがずり落ちた。
雪の柱は渦巻きながら次第に細く、長く天に伸びていく。柱というより、塔のようにも見えた。
ふわり。深深と緩やかな雪が私の周り、そして塔の周りを舞い踊る。あそこまで荒れていた吹雪が今では想像もつかないくらい静かだ。空を見上げながら、私は役目を果たしていたかも分からない傘を閉じる。
塔は段々と動きを穏やかにしていく。5分くらいだろうか。動きが完全に止まり、紡いだ糸が解けるように雪の塔が崩れ始めた。中が空洞だったのか大きな塊が落ちてくることもなく、粉雪がふわりと広がりながら降ってくる。
幻のような光景だった。こんなの、テレビでだって見たことはない。私はどうしようもなく怯え、驚嘆していた。こんな奇蹟に立ち会うことが出来たのはきっと地球上で私くらいのものだろう。
_____しかし数秒後、それ以上の驚きが私を襲うことになる。
雪の塔から現れた、白皙の男によって。