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運命の邂逅

「魔法少女になりませんかぁ?」

この一言で全てが狂ったんだと思う。運命の歯車と言うか、そういうものが。日常を壊され、普通とは違った女の子になってしまった。常識なんて鼻で笑い、有り得ない事を平気でやってのける“魔法”のような力を手に入れてしまった。
そうなった原因は多分アレだと、自覚がある。そのアレがあったのがつい数時間前の出来事。

☆ ☆ ☆

私は自分が通っている小学校の最上階の角の方に位置する図書室に来ていた。うちの学校の図書室は結構変わっていて、魔導書やら妖についての本やら、オカルト的な本が沢山置いてある。
初めは私も疑問に思ったが、私がオカルトが好きなだけあって宝物庫のような場所になりつつあるため、あまり深くは考えなかった。
この時から既に運命の歯車とか言うものが廻っていたのだろう。しかし、私はそれに気付かず、いつも通りにオカルト系の本を漁っていた。
すると――

カタッ

「え、な、何……?」
何か軽い物が床に落ちたような音がした。図書室の本はいつも図書委員の人が綺麗に並べてくれているのに。
不思議に思った私は音のした方へそっと静かに歩いていった。
音を立てないよう慎重に足を運んでいたんだと思う。こういう事は滅多に起きないから少なからず興奮していた。未知への好奇心、そういうものだと思う。
そして音のした場所の近くまで来ると、本棚の陰からぴょこっと顔だけを向けてみた。
しかし――

「なんだ……何も無いじゃん……」
そう、落ちていたであろう“何か”も、本棚の変化も、何も無かった。
それが返って私の好奇心をくすぐった。普通なら気味が悪いと思うだろう。しかし私はオカルト好きなだけあって、ホラーも割と好きなのだ。
だが、これでは音の正体を調べることが出来ない。どうしようか……そう悩んでいると、下校時刻のチャイムが鳴った。
「あ、やっば!」
私は急いで帰りの支度をし、慌てて図書室から飛び出した。
私は急いでいたので本棚の陰に潜んでいたモノに気付くことが出来なかった。

☆ ☆ ☆

夕方頃帰宅すると、お母さんが暖かく迎えてくれた。
私の家庭内は何の問題もない、ごく普通の家族だ。お母さんは私の好きなシチューを作って私の帰りを待ってくれていたようだ。
私は照れくさいなと思いつつ、お母さんの優しさに甘えた。少し子供っぽいかなと思ったが、まだ小学生なのだ。別に甘えても誰にも文句は言われまい。そう結論付けて、シチューを頬張った。

夜ご飯を食べ終え、お風呂に入ると温か目なシャワーを浴びる。そして湯船に肩まで浸かると――
「え、なにこれ」
変な……いや、固い感触のものが湯船の底に沈んでいるのが分かった。手探りで探し当てると何やら本のようだった。
「は? え? えええええ!? なんで本が此処に!?!? しかもこれもうびしょびしょで読めなくなってるんじゃ……――」
そこで言葉を切った。何故かと問われれば、それは――

「な、なんで…………濡れてないの……?」

そう、湯船の底に沈み、たっぷりと水を含んでいるであろうその本は、まったくと言っていいほど濡れていなかった。
『なんで濡れてると思ったんですかぁ?(笑)』と言いたげなその本(怒)は一滴たりとも濡れの片鱗すら見せていない。
どういうことだろうと不思議に思っていると、本がひとりでにページをパラパラと捲られていった。
「ひっ! ど、どういうことなの……?」
恐怖と混乱で気絶しそうになり、本を再び湯船の中へと落としてしまった。しかし、気絶する前に本の動きがパタリと止み、ページの中身を見せつけるようにして私の手元に戻ってきた。
なんとも言えない恐怖が私を襲うが、一方で好奇心が芽生えてきているのも否定できない。恐る恐る開いているページを読んでみると、そこには――

『願いを。強きなる願いを聞かせよ。さすればその願い、聞き入れてみせよう。』

と何故か上から目線を感じる文章がでかでかと書かれているだけだった。
「よし、無視しよう」
私は何もかも写さぬ瞳でほかのページを捲ろうと試み、指を動かすが、何故か開かない。見て見ぬ振りもさせてもらえないようだ。
私は諦めて再びあのページへと目を走らせる。つくづく胡散臭い文章である。
私はオカルトを好んではいるがそれはあくまで物語の中でだけであって、自分自身の身に起きてほしいとは思っていない。
だが、しかし……と、瞳を揺らして

「ま、まあ? 言うだけならタダだし? 言っても、ねぇ?」
そわそわと挙動不審になりながら本を見つめる。そして欲望に勝てず、私の願い、望みを発した。

「私の、願い……は――」

一瞬の間。シーンという音だけが鳴り響く静寂。しかしそれも一瞬のこと。私が首を傾げ、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すと、本がひとりでに空中に浮かび、光を放つ。
全てを包み込むような鋭い光の中、私は目を開けていられず、腕で目を隠しながら光が消えるのを待った。

暫くすると光が止み、ゆっくりと目を開けるとそこには、本の代わりに一本のステッキが浮かんでいた。
ステッキは私と対峙するように浮かび、見定めているような気配を感じさせた。
異常なまでの威圧感。ゴクリと唾を飲み込むと、そのステッキは口を――いや、口などないのだが、口を開いた。

「いやっふ〜! そこのあなた! 魔法少女になりませんかぁ?」

――……は?
なんだコイツ。頭ないけど頭イカれてんの?

「あの〜、全部聞こえてますがぁ……」
さっきとは裏腹に呆れ気味に口を零す。しかし一言目のテンションの高さはステッキの性格? なのか、落ち着きなく風呂場を飛び回っている。
混乱していて、言いたいことが沢山あるのに出てこない。と言うか頭が状況に追いつかない。
流石にそんな私に見兼ねたのかステッキがまた言葉を発する。
「えっと……とりあえずあなたの名前を聞かせていただけますかぁ?」
「……椎菜、結衣……」
「なるほどなるほど! では結衣様、私を手で掴んでくれますかぁ?」
「え……なんで?」
「いいから早くっ!」
強引に急かされ、考える間も与えないための策略だろうと知っていたが、それを遂行することさえ考えさせてくれなかった。
おずおずと手をステッキへと伸ばし、掴んだ。瞬間、全身が光に包まれ、風呂場にいたはずが、何故か煌びやかな背景に変わった。
「えっ…………えええええ!!!!」
ステッキをぎゅっと握りしめ、胸の前に持ってくる。さっきから困惑と恐怖に包まれて頭がおかしくなりそうだった。
「うっふっふ。これであなたは、魔法少女になったのでぇす!」
ステッキが何やら変なことをボヤいていたが、今の私にはそれはどうでもいい雑音でしかなかった。
そして――
「へっ!? 変身したの!?!?」
「いえーす!! いいですねぇ、素敵ですよぉ」
「わ、悪くはない……けど…………なんか、あざとすぎるような……」
ひらふわなスカートに右の腿にガーターベルト、そして極めつけに――
「幼稚園の時ですらこんな髪型しなかったのに……」
ツーサイドアップ、という髪型でまあ要するにアレだ…………

「こ、こんなの無理いいい!!!」

近所迷惑も考えず、思わず叫び出してしまったのだが――
「ふう、危ない所でしたぁ……音量調節魔法を使っていなければ今頃お母さんにお風呂の中で魔法少女のコスプレをする変な子だと思われる所でしたよぉ」
「だからそれってあなたのせいだよねぇ!?」
さらっと魔法を使ったというステッキを受け流して突っ込む。
「てへ☆ これは失礼を……では、本題に入りましょうか!」
「へ?」

どうやらこれから――とんでもないことが……待っているみたいです。……泣きたい。
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