とある遊郭
――私が、何をしたって言うの……
理由なんて簡単で、すぐに答えが出た。
すなわち――何もしていない。という事が答え。
何もしていないからこそ天罰が下った。
怠惰なこの私に――天罰が。
☆ ☆ ☆
数年後。
適当に生きてきたツケが回ってきたのだろう。
両親は事故で死ぬし、金が無いからと遊郭に入る羽目になった。
そこまでは別に良いのだが――
誰にも愛して貰えなかった私が誰かを愛せるのだろうか。
遊郭には皆体目的で来るが、それは愛されたいのと同義だと私は思う。
だからこそ私は『松本屋』に来てくれた人達には私なりの愛を注ぐと決めた。
――変わりたい。その志しを叶えるために。私は――
唐突に視界が暗くなる。
足元にある灯火が消えたのかと思ったが、そうではなかった。
「ユラ!?」
――それは私の唯一の友達だった。
☆ ☆ ☆
唐突に視界が暗くなったから何事かと思ったが、その答えはすぐに出た。
「ハハッ。どうした? お前らしくない」
「何がぁ……?」
ユラ――白銀の腰までスラリと伸びた長い髪を煌めかせ、それに負けじと輝く琥珀色の瞳を持つ狐族の16歳の少女。私と同い年だ。
それに反して私は、紫髪の肩までの手入れを怠ったボサボサな髪と漆黒の眼差しが揺らぐだけ。
――天と地の差とはこの事を言うのだろう。
だからユラが微笑むだけで如何しても訝しげな表情になってしまう。
「んー? いつも通りか? なら良いのだが……」
察しの良いこの子がどうしても好きになれない理由の一つだった。
「私はぁ、大丈夫だからぁ……気にしないでぇ〜」
精一杯の営業スマイル的な笑顔を振りまく。
要するに偽物。偽りだらけな自分に呆れを通り越してこれが本当の私だと錯覚してきた。
そう言うと、ユラは訝しげな表情をした。
バレてるのかな? と思いつつひたすら演じる。
ユラが好きな私を――
「ユラさぁん……お掃除疲れましたぁ……」
不意に声がした。ユラを呼ぶ声……この声の主は……
「あれぇ? ブランじゃん……どうしたのぉ?」
「えっ!? ムーさん!?」
その声の主はブラン――長く白い髪を高い位置に二つ結んでいて、動く度にファサッと揺れる。
ウサギ族の典型的な髪色。ウサギ族特有の白髪。
歳は十だと聞いたことがある。それにしては随分大人びているなと感じる。
そのブランが透き通るような紅玉 色の瞳を輝かせながらユラと私を交互に見て言った。
「お出かけ……しませんか?」
☆ ☆ ☆
ブランがお出かけしようと言うから何事かと思ったら……
「……ここにぃ、来たかったのぉ〜?」
「えへへ、私甘い物に目がなくて……」
テヘペロ、と付け加えてブランが答えた。
場所は――甘味処。名は『あまちゃん』。
しかし、何故急にブランは此処に三人で来たいと思ったのだろうか。
と色々考えていると……
「ちょっと待て! 私は甘い物は苦手なのだ……なのに何故……」
と、文句を言っているキツネが一匹。
「まあまあ、ユラさん。これ実は…………」
と、何やらそのキツネを宥めているウサギが一匹。
ウサギから理由を聞くとキツネは納得した表情で静かになった。
「でぇ? 私は甘い物好きだから良いんだけどぉ……なんでこの三人で此処に来たのか教えてくれない?」
私はその二人に訝しげな顔をして問うた。
「じ、つ、はぁ〜……」
とウサギことブランが答えを焦らして来た。
ブランは凄くニコニコしているから少し苛ついた。
「じゃん!」
と、それは――桃色、白色、緑色と様々な色を兼ね備えた三色団子だった。
「え、あの、え? ……ブランってぇ、みたらしが好きじゃなかったっけぇ〜?」
私がそう言うと、ブランは恥ずかしそうに目を逸らした。
それを庇うようにしてユラが言葉を紡いだ。
「ハハッ、ムーさん。ブランはな、こう言いたいんだよ。
――『この三色団子のようにこの三人で一緒に居たい』とな」
え……?私は呆然とする事しか出来なかった。
ブランは私の想いに気づいていたって事……?
この寂しがり屋で意地っ張りなネコの本音を――
「そっ、そうだよ! 私、ムーさんとユラさんと一緒に居たいもん!」
――大好きだから……と、最後にブランが呟いた言葉に私は大きな衝撃を受けた。
大好き……? 私の事を? 暫く呆然と立ち尽くしたままになった。
そうしていると、ブランとユラが心配そうに私の顔を覗き込んで来た。
「えっと、大丈夫……?」
「どうした? ムーさん? 具合でも悪いのか?」
こういう風にいつも私の心配をしてくれる……そんな二人がずっと鬱陶しかったのに……
「ありがとう……ブラン。ユラ」
――この日この時、私は心から笑う事が出来た。
お人好しなウサギと、それに文句を言うこと無く付き合うキツネ。
この二人に、一生付いて行きたいと願った。
理由なんて簡単で、すぐに答えが出た。
すなわち――何もしていない。という事が答え。
何もしていないからこそ天罰が下った。
怠惰なこの私に――天罰が。
☆ ☆ ☆
数年後。
適当に生きてきたツケが回ってきたのだろう。
両親は事故で死ぬし、金が無いからと遊郭に入る羽目になった。
そこまでは別に良いのだが――
誰にも愛して貰えなかった私が誰かを愛せるのだろうか。
遊郭には皆体目的で来るが、それは愛されたいのと同義だと私は思う。
だからこそ私は『松本屋』に来てくれた人達には私なりの愛を注ぐと決めた。
――変わりたい。その志しを叶えるために。私は――
唐突に視界が暗くなる。
足元にある灯火が消えたのかと思ったが、そうではなかった。
「ユラ!?」
――それは私の唯一の友達だった。
☆ ☆ ☆
唐突に視界が暗くなったから何事かと思ったが、その答えはすぐに出た。
「ハハッ。どうした? お前らしくない」
「何がぁ……?」
ユラ――白銀の腰までスラリと伸びた長い髪を煌めかせ、それに負けじと輝く琥珀色の瞳を持つ狐族の16歳の少女。私と同い年だ。
それに反して私は、紫髪の肩までの手入れを怠ったボサボサな髪と漆黒の眼差しが揺らぐだけ。
――天と地の差とはこの事を言うのだろう。
だからユラが微笑むだけで如何しても訝しげな表情になってしまう。
「んー? いつも通りか? なら良いのだが……」
察しの良いこの子がどうしても好きになれない理由の一つだった。
「私はぁ、大丈夫だからぁ……気にしないでぇ〜」
精一杯の営業スマイル的な笑顔を振りまく。
要するに偽物。偽りだらけな自分に呆れを通り越してこれが本当の私だと錯覚してきた。
そう言うと、ユラは訝しげな表情をした。
バレてるのかな? と思いつつひたすら演じる。
ユラが好きな私を――
「ユラさぁん……お掃除疲れましたぁ……」
不意に声がした。ユラを呼ぶ声……この声の主は……
「あれぇ? ブランじゃん……どうしたのぉ?」
「えっ!? ムーさん!?」
その声の主はブラン――長く白い髪を高い位置に二つ結んでいて、動く度にファサッと揺れる。
ウサギ族の典型的な髪色。ウサギ族特有の白髪。
歳は十だと聞いたことがある。それにしては随分大人びているなと感じる。
そのブランが透き通るような
「お出かけ……しませんか?」
☆ ☆ ☆
ブランがお出かけしようと言うから何事かと思ったら……
「……ここにぃ、来たかったのぉ〜?」
「えへへ、私甘い物に目がなくて……」
テヘペロ、と付け加えてブランが答えた。
場所は――甘味処。名は『あまちゃん』。
しかし、何故急にブランは此処に三人で来たいと思ったのだろうか。
と色々考えていると……
「ちょっと待て! 私は甘い物は苦手なのだ……なのに何故……」
と、文句を言っているキツネが一匹。
「まあまあ、ユラさん。これ実は…………」
と、何やらそのキツネを宥めているウサギが一匹。
ウサギから理由を聞くとキツネは納得した表情で静かになった。
「でぇ? 私は甘い物好きだから良いんだけどぉ……なんでこの三人で此処に来たのか教えてくれない?」
私はその二人に訝しげな顔をして問うた。
「じ、つ、はぁ〜……」
とウサギことブランが答えを焦らして来た。
ブランは凄くニコニコしているから少し苛ついた。
「じゃん!」
と、それは――桃色、白色、緑色と様々な色を兼ね備えた三色団子だった。
「え、あの、え? ……ブランってぇ、みたらしが好きじゃなかったっけぇ〜?」
私がそう言うと、ブランは恥ずかしそうに目を逸らした。
それを庇うようにしてユラが言葉を紡いだ。
「ハハッ、ムーさん。ブランはな、こう言いたいんだよ。
――『この三色団子のようにこの三人で一緒に居たい』とな」
え……?私は呆然とする事しか出来なかった。
ブランは私の想いに気づいていたって事……?
この寂しがり屋で意地っ張りなネコの本音を――
「そっ、そうだよ! 私、ムーさんとユラさんと一緒に居たいもん!」
――大好きだから……と、最後にブランが呟いた言葉に私は大きな衝撃を受けた。
大好き……? 私の事を? 暫く呆然と立ち尽くしたままになった。
そうしていると、ブランとユラが心配そうに私の顔を覗き込んで来た。
「えっと、大丈夫……?」
「どうした? ムーさん? 具合でも悪いのか?」
こういう風にいつも私の心配をしてくれる……そんな二人がずっと鬱陶しかったのに……
「ありがとう……ブラン。ユラ」
――この日この時、私は心から笑う事が出来た。
お人好しなウサギと、それに文句を言うこと無く付き合うキツネ。
この二人に、一生付いて行きたいと願った。
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