壊れた思考
こんにちは、椎菜結衣です! 魔法少女やってます!☆
キャピキャピした若さを糧に存分にいい笑顔でくるくる踊る小学生の幼い女の子の姿が道端で発見された。
人通りが少ないとはいえ、決してゼロではない静かな道路。そこに場違いな意味不明な言葉を発する少女がいたらこうなる――すなわち、
「ってアホかあぁぁぁぁあー!!!」
野次馬が出来ていた。と言うより遠巻きに「近寄らんとこ……」という思いが聴こえるほど、ものすごく異様な物体があった。
それはものすごく大きな声で電柱に拳をぶつけていた。マンガやアニメでは電柱にヒビが入るか電柱が倒れるかするだろうその光景はだが――少女の血によってそれはないだろうと却下された。
そしてその異様な光景に周囲に群がっていた人々は既に全力で引いていた。
「もー、何やってんですかぁ」
突如として現れた謎の物体に周囲の人々はさらに警戒した。しかし、咄嗟に身構えた人々を嘲笑うようにして消えた。物理的な意味でも――記憶からも。
そうした張本人たちは今、空を漂っていた。
「はああああ…………」
「うっふふ。どうしましたぁ? 疲れた顔してぇ」
「ほんとに疲れたよ…………」
私、椎菜結衣は魔法少女をやってます。魔法少女になったきっかけは――この上機嫌でウザい魔法のステッキのせいだ。しかもなんの説明もなく戦わされ、魔法を扱わされた身にもなって欲しい。
魔法少女に憧れていたのは否定出来ない。学校で読んだ本にも載っていたし。私の願いも叶えてくれると言っていた。のだが――戦闘を強いられ、相手からはすごい殺意が感じられ、怖かった。いや、怖いなんてものじゃない。恐怖でどうにかなりそうだった。
あんな怖い思いなんてしたくない。だけど――それじゃあ、この子は――
「? どうしましたぁ?」
小首を傾げるような仕草をして、私を見つめる。
「……なんでもないよ」
薄く笑って答えた。私はとんだお人好しだったようだ。と、呆れていた。
☆ ☆ ☆
ある程度飛び回ったら人気のない森を見つけた。そこで魔法の扱い方についてステッキが教えてくれるという。
そこに降り立ち、周りを見渡す。どう見ても生い茂った木々しかなく、確かに力を振るうなら此処が良さそうだ。
「では、基本の魔法から始めていきましょう!」
「う、うん。よろしく!」
ゴクリと唾を呑み込み、何を指示されても良いように身構える。
「では、行きますよ――可愛く回ってくださぁい!」
「――は?」
「ですからぁ、可愛い感じで踊るように回ってくださぁい! 魔法少女は人気稼ぎも重要なのでぇす!」
「なんでだろう……あなたが言うとすっごく胡散臭いのに謎の説得力があるよね……」
呆れ顔でそう答える。そして、それよりも見落としている部分があるだろうと、ステッキに指摘する。
「ていうか! 誰もいないのに人気稼ぎってなに!?」
「あっははぁ。それはですねぇ、私たちからは見えない所にいるのですよ……例えばほら、画面の向こうとか――」
「さらっとメタ発言しないでくれるかなぁ!?」
ステッキが画面の向こうとやらの方を注視していて私の言葉は届いていないようだった。
ツッコミ役にどっと疲れた私はもう何もかも捨てて、どこか遠くへ行きたい――と、現実逃避することしかできなかった。
「結衣様ぁ。本当に人気稼ぎしたくないんですかぁ?」
突然声のトーンを落として悪魔が囁くように言う。
「応援されない魔法少女なんて、魔法少女じゃありませんよ!?」
「ていうかそもそも概ねあなたのせいだよねぇ!?」
全力のツッコミを入れたのだが、やはり私の言葉はステッキの耳には届かないようで――
「ではまず私の名前を決めてくれますかぁ?」
「ねぇ、私の話聞い――」
とそこで私は言葉を切った。こいつ、今なんと言った――!?
「は!? 名前!? 今更!?」
「まあ、確かに今更ですが良いでしょう。私にも名前がある方が何かとやりやすいでしょお?」
「それは――まあ……」
確かにその通りだと私は思う。名前があった方が意思疎通しやすいし、“ステッキ”って呼ぶのも――
「って、“ステッキ”って名前じゃなかったの!?」
「結衣様!? そんなわけないでしょう!?」
とても大きな声で叫んだ私の声はだが、ステッキのツッコミによって掻き消された。
割と本気で思っていたのだが素早いツッコミによってそれはないと断言された。
てことは――つまり――
「私が……あなたの名前を、考えるってこと?」
「いぇーす! その通りでぇす!」
そしてビシぃッっと指を刺された――ような気がする仕草をし、
「結衣様――いえ、我がマスターに決めていただきたいなと……えへ☆」
てへぺろ、と付け加え、照れくさそうに笑った――ように見えた。断言できないのは、まあ……顔がないからだ。
「うーん……そこまで言うなら…………」
と言い、数秒熟考した後――
「じ、じゃあ――ガーネット……は、どう……かな?」
「! ではぁ! これからはガーネットとお呼びくださぁい!」
上機嫌に鼻歌を歌って踊るステッキ――ガーネットの姿があった。
いつもなら衝動的に殴りたくなるのを抑えるのに必死なのだが、何故か今は――微笑ましいと思ってしまった。
と、ここで脱線していることに気が付いた。
「ね、ねぇ! 魔法の扱い方について教えてくれるんじゃ――」
「結衣! ここに居たの?」
「ん? え? ま、真菜ちゃん!?」
突如、かけられた声にびっくりして思わず声が裏返ってしまった。
私とガーネット以外誰もいなかったし、気配すら感じなかった。
「えっと……なんか驚かせてごめんね?」
不安そうに揺れる瞳を前にたじろがずにはいられなかった。
「ほぇ!? ち、違うよ! ちょっと……ガーネットが生意気で――」
「ちょっとぉ!? だーれが生意気ですかぁ!」
「どこもかしこもでしょ!?」
ギャーギャー騒ぐ私たちを余所に真菜ちゃんは不安そうな瞳を細め、空を見上げる。
そしてポツリと――
「また……私は一人にされるのか……」
誰にも聴こえないように、独り言を発した。
☆ ☆ ☆
「――増幅 !」
そう言い放つと、物理限界を突破するほどのスピードが出る。
周りを視認出来ないほどのスピード。しかし、追えないほどではない。
「――防壁 !」
ドーム状の、どこから攻撃が来ても防げるほど完全無欠の防壁が出来た。
「――全力全開! 大砲!」
鉄砲玉のようなオーブ、光の――魔法の塊が繰り出される。すると、周囲の木々を溶かし、代わりに更地ができていた。
そして――
「――再生」
目を閉じ、ステッキ――ガーネットを天に掲げる。
すると、あら不思議。溶かされた木々や更地が元通り修復されていった。
「うっふふ。だいぶさまになって来たんじゃないですかぁ?」
「そ、そう? なら良いけど……」
「やっぱり教えたかいがありましたねぇ。魔法少女っぽくなってきましたよぉ」
「うーん……強くなったって言ってほしいかな」
今回の練習で、だいぶ自信が付いてきて誰からでもガーネットを守れるのではないかと自惚れのような思考回路になった。
「わー! 私と戦った時より威力上がってない? 技の精度も高いって言うか……」
私より嬉しそうに拍手する友の姿が見えた。
友はいい笑顔で私を褒め称えた。
「いやぁ、そんな……首の皮一枚繋がった程度だよ……」
と、一応謙遜はしたが、ニヤニヤ気味悪い笑顔を浮かべていたであろう。思い上がってはダメだと首を振る。
「私が指導して上達させたんですからねぇ? 私を褒め称えてくださいませぇ!」
「え? あ、うん。ガーネットも凄いね」
私の時と違い苦笑いでガーネットに応じた真菜ちゃんにものすごく同情する。
――ガーネットに絡まれるのはすごくめんどくさいだろうな、と。
「あー! 結衣様今私をめんどくさいと思いましたねぇ!?」
「なんでそれを――じゃなくて! 私の心読まないでよ!」
「そんなんしてませぇん。結衣様のことは顔を見ればだいたい何考えてるか分かるんですぅー」
「エスパーなの!?」
再度騒ぎ出した私たちを見て、真菜ちゃんは今度は笑ってこう言った。
「二人ともすっごく楽しそう!」
誰もが見惚れる笑みで真菜ちゃんは私たちを見据える。
そして私たちは顔を見合わせ、真菜ちゃんに向かって私たちも同じような笑みで応えた。
――次の敵が、こちらに向かって来ることに気付かずに。
「うふふ。願いを叶えたいなぁ。その為なら――手段を選ばずにあの子に勝つわ」
不敵な笑みで不気味な笑い声を響かせる。その目には、確信さえ――浮かばせて。
キャピキャピした若さを糧に存分にいい笑顔でくるくる踊る小学生の幼い女の子の姿が道端で発見された。
人通りが少ないとはいえ、決してゼロではない静かな道路。そこに場違いな意味不明な言葉を発する少女がいたらこうなる――すなわち、
「ってアホかあぁぁぁぁあー!!!」
野次馬が出来ていた。と言うより遠巻きに「近寄らんとこ……」という思いが聴こえるほど、ものすごく異様な物体があった。
それはものすごく大きな声で電柱に拳をぶつけていた。マンガやアニメでは電柱にヒビが入るか電柱が倒れるかするだろうその光景はだが――少女の血によってそれはないだろうと却下された。
そしてその異様な光景に周囲に群がっていた人々は既に全力で引いていた。
「もー、何やってんですかぁ」
突如として現れた謎の物体に周囲の人々はさらに警戒した。しかし、咄嗟に身構えた人々を嘲笑うようにして消えた。物理的な意味でも――記憶からも。
そうした張本人たちは今、空を漂っていた。
「はああああ…………」
「うっふふ。どうしましたぁ? 疲れた顔してぇ」
「ほんとに疲れたよ…………」
私、椎菜結衣は魔法少女をやってます。魔法少女になったきっかけは――この上機嫌でウザい魔法のステッキのせいだ。しかもなんの説明もなく戦わされ、魔法を扱わされた身にもなって欲しい。
魔法少女に憧れていたのは否定出来ない。学校で読んだ本にも載っていたし。私の願いも叶えてくれると言っていた。のだが――戦闘を強いられ、相手からはすごい殺意が感じられ、怖かった。いや、怖いなんてものじゃない。恐怖でどうにかなりそうだった。
あんな怖い思いなんてしたくない。だけど――それじゃあ、この子は――
「? どうしましたぁ?」
小首を傾げるような仕草をして、私を見つめる。
「……なんでもないよ」
薄く笑って答えた。私はとんだお人好しだったようだ。と、呆れていた。
☆ ☆ ☆
ある程度飛び回ったら人気のない森を見つけた。そこで魔法の扱い方についてステッキが教えてくれるという。
そこに降り立ち、周りを見渡す。どう見ても生い茂った木々しかなく、確かに力を振るうなら此処が良さそうだ。
「では、基本の魔法から始めていきましょう!」
「う、うん。よろしく!」
ゴクリと唾を呑み込み、何を指示されても良いように身構える。
「では、行きますよ――可愛く回ってくださぁい!」
「――は?」
「ですからぁ、可愛い感じで踊るように回ってくださぁい! 魔法少女は人気稼ぎも重要なのでぇす!」
「なんでだろう……あなたが言うとすっごく胡散臭いのに謎の説得力があるよね……」
呆れ顔でそう答える。そして、それよりも見落としている部分があるだろうと、ステッキに指摘する。
「ていうか! 誰もいないのに人気稼ぎってなに!?」
「あっははぁ。それはですねぇ、私たちからは見えない所にいるのですよ……例えばほら、画面の向こうとか――」
「さらっとメタ発言しないでくれるかなぁ!?」
ステッキが画面の向こうとやらの方を注視していて私の言葉は届いていないようだった。
ツッコミ役にどっと疲れた私はもう何もかも捨てて、どこか遠くへ行きたい――と、現実逃避することしかできなかった。
「結衣様ぁ。本当に人気稼ぎしたくないんですかぁ?」
突然声のトーンを落として悪魔が囁くように言う。
「応援されない魔法少女なんて、魔法少女じゃありませんよ!?」
「ていうかそもそも概ねあなたのせいだよねぇ!?」
全力のツッコミを入れたのだが、やはり私の言葉はステッキの耳には届かないようで――
「ではまず私の名前を決めてくれますかぁ?」
「ねぇ、私の話聞い――」
とそこで私は言葉を切った。こいつ、今なんと言った――!?
「は!? 名前!? 今更!?」
「まあ、確かに今更ですが良いでしょう。私にも名前がある方が何かとやりやすいでしょお?」
「それは――まあ……」
確かにその通りだと私は思う。名前があった方が意思疎通しやすいし、“ステッキ”って呼ぶのも――
「って、“ステッキ”って名前じゃなかったの!?」
「結衣様!? そんなわけないでしょう!?」
とても大きな声で叫んだ私の声はだが、ステッキのツッコミによって掻き消された。
割と本気で思っていたのだが素早いツッコミによってそれはないと断言された。
てことは――つまり――
「私が……あなたの名前を、考えるってこと?」
「いぇーす! その通りでぇす!」
そしてビシぃッっと指を刺された――ような気がする仕草をし、
「結衣様――いえ、我がマスターに決めていただきたいなと……えへ☆」
てへぺろ、と付け加え、照れくさそうに笑った――ように見えた。断言できないのは、まあ……顔がないからだ。
「うーん……そこまで言うなら…………」
と言い、数秒熟考した後――
「じ、じゃあ――ガーネット……は、どう……かな?」
「! ではぁ! これからはガーネットとお呼びくださぁい!」
上機嫌に鼻歌を歌って踊るステッキ――ガーネットの姿があった。
いつもなら衝動的に殴りたくなるのを抑えるのに必死なのだが、何故か今は――微笑ましいと思ってしまった。
と、ここで脱線していることに気が付いた。
「ね、ねぇ! 魔法の扱い方について教えてくれるんじゃ――」
「結衣! ここに居たの?」
「ん? え? ま、真菜ちゃん!?」
突如、かけられた声にびっくりして思わず声が裏返ってしまった。
私とガーネット以外誰もいなかったし、気配すら感じなかった。
「えっと……なんか驚かせてごめんね?」
不安そうに揺れる瞳を前にたじろがずにはいられなかった。
「ほぇ!? ち、違うよ! ちょっと……ガーネットが生意気で――」
「ちょっとぉ!? だーれが生意気ですかぁ!」
「どこもかしこもでしょ!?」
ギャーギャー騒ぐ私たちを余所に真菜ちゃんは不安そうな瞳を細め、空を見上げる。
そしてポツリと――
「また……私は一人にされるのか……」
誰にも聴こえないように、独り言を発した。
☆ ☆ ☆
「――
そう言い放つと、物理限界を突破するほどのスピードが出る。
周りを視認出来ないほどのスピード。しかし、追えないほどではない。
「――
ドーム状の、どこから攻撃が来ても防げるほど完全無欠の防壁が出来た。
「――全力全開! 大砲!」
鉄砲玉のようなオーブ、光の――魔法の塊が繰り出される。すると、周囲の木々を溶かし、代わりに更地ができていた。
そして――
「――再生」
目を閉じ、ステッキ――ガーネットを天に掲げる。
すると、あら不思議。溶かされた木々や更地が元通り修復されていった。
「うっふふ。だいぶさまになって来たんじゃないですかぁ?」
「そ、そう? なら良いけど……」
「やっぱり教えたかいがありましたねぇ。魔法少女っぽくなってきましたよぉ」
「うーん……強くなったって言ってほしいかな」
今回の練習で、だいぶ自信が付いてきて誰からでもガーネットを守れるのではないかと自惚れのような思考回路になった。
「わー! 私と戦った時より威力上がってない? 技の精度も高いって言うか……」
私より嬉しそうに拍手する友の姿が見えた。
友はいい笑顔で私を褒め称えた。
「いやぁ、そんな……首の皮一枚繋がった程度だよ……」
と、一応謙遜はしたが、ニヤニヤ気味悪い笑顔を浮かべていたであろう。思い上がってはダメだと首を振る。
「私が指導して上達させたんですからねぇ? 私を褒め称えてくださいませぇ!」
「え? あ、うん。ガーネットも凄いね」
私の時と違い苦笑いでガーネットに応じた真菜ちゃんにものすごく同情する。
――ガーネットに絡まれるのはすごくめんどくさいだろうな、と。
「あー! 結衣様今私をめんどくさいと思いましたねぇ!?」
「なんでそれを――じゃなくて! 私の心読まないでよ!」
「そんなんしてませぇん。結衣様のことは顔を見ればだいたい何考えてるか分かるんですぅー」
「エスパーなの!?」
再度騒ぎ出した私たちを見て、真菜ちゃんは今度は笑ってこう言った。
「二人ともすっごく楽しそう!」
誰もが見惚れる笑みで真菜ちゃんは私たちを見据える。
そして私たちは顔を見合わせ、真菜ちゃんに向かって私たちも同じような笑みで応えた。
――次の敵が、こちらに向かって来ることに気付かずに。
「うふふ。願いを叶えたいなぁ。その為なら――手段を選ばずにあの子に勝つわ」
不敵な笑みで不気味な笑い声を響かせる。その目には、確信さえ――浮かばせて。