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第一章:独りきりの二人の旅立ち - 七節綴文編

次回でようやく転生します、もうちょっとだけお付き合い下さい……


第2話:授かった力

 取り戻せない日常と、叶えられない夢と、一人残してきた母さん。
 失った物はそれなりに多い。そしてそれは、あまりにも大きすぎた。
 それでも諦めようと努めたが、そう簡単に出来るはずもなく、ダムが決壊するように悲しみが溢れ出した。

 ひとしきり泣き、気が付いたら【前進の神】に抱かれるように身体を預けていた。
 優しく、とても優しく頭を撫でる手は慈愛に満ちていた。
 とても落ち着く温かさが枯れかけた涙をまた溢れさせたが、安堵の笑顔を浮かべられるだけの癒やしを与えてくれた。

「どうだい、もう大丈夫かい? 本当に申し訳ない事をしたね……あたし等のせいで人生を台無しにさせちまってさ……」
「もう……大丈夫です。それと、もう謝らないでください……貴女の事を恨むなんて、絶対してませんから」
「ありがとう。ツヅミちゃんは本当に心優しい子だね」

 最後にもう一度優しく頭を撫で、ゆっくりと座り直させてくれる。
 慈愛に満ちた視線も、優しい手も、鍛え上げられた腹筋も、とても素晴らしい女神だと思えた。
 そして、目元を拭い、爺さんの方に向き直ってペコリと頭を下げる。

「すいませんでした、もう大丈夫です。父さんの事を話してもらえますか」
「うむ、包み隠さず全てを話そう」

 父さんが亡くなった直後、すぐにこの【神界】に魂を呼び寄せ、【料理】で世界を変えるのを手伝って貰えないかとお願いをしたそうだ。
 しかし父さんは、神さまからのお願いを断ったらしい。
 爺さんは心底驚き、そして残念な気持ちになった。その時に理由を尋ねたら……。

『ご老人、貴方は神様なのでしょう? いったい何を見てきたというんですか。すぐ近くに、僕なんかより才能を持った者が居る……そう、僕の娘です。
 まさか、あの天才的な才能と実力を知らないとは言わせませんよ? 僕と妻の全てを吸収し、それでも飽き足らず、世界にまで足を伸ばしてしまう程だ。
 父である僕が言うのもなんですが、あの子は料理の化物ですよ……僕よりも相応しい人間が居るんです、申し訳ないですが辞退させていただきます』

 父さんらしいというかなんというか、生前から相当な親バカだった。中学・高校と進学しても娘離れが出来ず、学校のイベントには欠かさず来るほどだ。
 【化物】呼ばわりはどうかと思ったが、【料理】の腕を認めてくれていたというなら、そう悪い気はしない。亡くなってもなお思ってくれるなら、応えないわけにはいかないだろう。

其方そなたの話しをする時、ずっと誇らしい顔をしておったよ。よっぽど愛しておったんじゃろうな」
「そうですね……呆れるくらいの親バカでしたから」
「満足するまで話したんじゃろうな、本来父君に贈られるはずだった能力を、其方そなたに譲る事を強引に約束させられての……その後成仏していったわい」
「ははは……強引なところまでそのままだったんですね……」

 ここまでくると、流石にちょっと恥ずかしい。
 その光景が目に浮かぶだけに尚更だ。

「そんな訳だもんでな、其方そなたに贈る能力に父君の分を追加させてもらう」
「折角ですのでいただきます。父さんとの繋がりが、またできたような気がするので……」
「そうじゃの……上手く使いこなせるよう祈っておる。さて、能力を授ける前に転移先の詳細を話しておこうかの」
「お願いします」

 得られた情報は次のような内容だ。

 ・アノニームは地球とほぼ同じ大きさ。重力や引力もほぼ同じなので、生きる上で困ることは無さそう。
 ・人族以外にも知能ある種族が存在し、イメージは【地球】で語られるものと大差無い。ただし、細々とした違いはある。
 ・地上を闊歩する脅威から逃れるため、人族や動物など種族に関係なく縮小する方向で徐々に進化していき、今では約十分の一程度になっている。
 ・牛や鼠などの普通の動物が変異した【猛獣】という存在が居る。変異する際に体躯が五倍程に跳ね上がるらしい。
 ・最も危険視されている脅威は、地上の王者【恐竜】、空の王者【飛竜】、海の王者【海龍】で、それぞれ複数個体存在する。
 ・ゲームのような数値的なステータスは周知されておらず、【スキル】も【得意な事】という認識。

「かなり駆け足で説明してしまったがの、ざっくりそんな世界じゃ」
「自分は十分の一の大きさで……巨大な猛獣が居て……ドラゴンが存在する世界ですか。なんですかその無理ゲー」
「その代わりになるか分からぬが、食べ物に関心が無い分、野生の植物はわんさかあるぞ。【地球】に存在しない野菜や果物もあるのぅ」
「そういうのは楽しみと言えば楽しみですけど……。まぁなるようにしかならないか……」
「其方の好きな【げいむ】とやらに似とるではないか。獰猛な巨獣を狩って素材を獲得するというあの」
「【猛獣を狩りし者】ですね。遊ぶのと現実とでは全くの別物じゃないですか」
「そんな事はないぞ? 剥いだ皮や骨で、武器や防具を作って抗ってるようじゃから、全く同じとは言わぬが、近い感覚ではあるんじゃないかの」
「そうだったとしても、私は【料理人】です。武器持って『狩りに行っちゃおうぜ!』ってノリは無理ですよ」
「言われてみればそうじゃったな。そういうものじゃと記憶してくれれば、それで良い」

 話している間、気が付いたら剥いた蜜柑が置かれており、横を見ると【前進の神】が剥いてくれていた。
 お礼を言うと、ポワンとした笑顔で「気にするな」と言ってまた新しい蜜柑を剥き始める。お礼を言った時に胸が揺れたのは、きっと大胸筋のせいだろう。

「さて、大雑把ではあるが【アノニーム】の事を知ってもらったところで、そろそろ能力の付与をさせてもらおうかの」
「そうですね、私にとってかなり過酷な環境だという事がよく分かりました。生き残れる能力を貰えたら嬉しいです」
「それは大丈夫じゃろう。其方には頑張ってほしいからの、『ちぃときゃら』とやらになってもらうつもりじゃ」
「チートキャラですか……どんだけやらかすつもりですか……」
「うむ、これから授けるは三つの能力と、おまけ能力じゃ。能力は、儂から一つ、【前進の神】と【嫉妬の神】から一つ、そして其方の父君から一つじゃな」
「ははは……大盤振る舞いですね」
「まずはあたしと【嫉妬】の能力から渡そうかね! んでツヅミちゃん……何がほしいか考えてもらえるかい?」

 思わずガクッとなった。完全な丸投げですか。

「急にそんな事言われましても……すぐには浮かばないですよ」
「わ、私達も色々考えたんで、ですけど……貴女がの、望む能力にした方がい、い、良いんじゃ……ないかって……」
「なるほど、考えた結果だったんですね。まぁ、私としても活用できない能力貰ってもアレだったので……良かった? です」

 とは言ったものの、実は何が欲しいか聞かれた時に、即座に浮かんだものがある。
 幼少の頃から夢にみていたものだし、それが実現するのなら、自由に考えさせてくれる二人に感謝だ。

「では、私が得意な【料理】を魔法化してもらえないでしょうか」
「【料理】を魔法にか! ツヅミちゃんは面白い事考えるんだな!」
「ふむ、魔法を生活に役立たせようとする者は居らんかったからの、なかなか斬新な考え方じゃ」
「よし! それじゃあツヅミちゃんだけが使える【料理魔法】を作ってやろう!」

 よっこいせと立ち上がり、綴文の前で片膝をついて右手を顔に翳し、何やらブツブツと呟き始める。すると、翳した手と顔の間に魔法陣が出現した。

「其方の【料理】の知識を読み取っておるんじゃよ。【前進の神】に【料理】の知識は無いからの、必要な情報だけ調べてるんじゃ」

 少しすると魔法陣がスウッと消え、代わりに野球ボールくらいの光の玉が現れた。それを【嫉妬の神】が圧縮するように力を込めていく。
 光の玉の大きさが徐々に小さくなっていき、ピンポン玉くらいになると、ゆっくりと頭の中に入ってくる。

「あったかい……これで能力を授かったんですね」
「そうだよ、大事に使ってやっておくれ? 真心込めて作ったからさ!」

 ――スキル【料理魔法クゥイズィーン・マジー】を習得した

 突然頭の中に某声のアンドロイドのような機械音声が流れ、ビックリした。
 でも神さまの世界だし、こういうものなんだろうと納得した。

「次は儂じゃな。儂からは【概念書換アヴァロン・コード】という能力を贈ろう」
「【概念書換】って……なんですか?」
「そうじゃの……。一つの【石】があるとするじゃろ。その【石】には、【石】という概念しかないんじゃが、【火】という概念を付加して【燃える石】に変える事ができるんじゃ」
「使いようによっては、とんでもない能力になるんじゃないですか?」
「いかにも。もし鉄よりも硬い鉱物があった場合、それを【概念化】し、其方の包丁に付加する事だってできるんじゃよ」

 なかなかにとんでもないスキルなんじゃないだろうか……何が対象になるかでだいぶ変わるとは思うけど。
 【概念】を書き換えるなんて、それこそ神の御業と同じなんじゃ……。

 ――スキル【概念書換】を習得した

 貰っちゃったよ……まぁ良いか。変なことしなきゃ目をつけられる事もないだろうし。
 ポジティブポジティブ、前向き前向き。

「最後は、其方の父君に贈るはずじゃった能力【記憶鮮明ミモアフォトグラフィ】。瞬間記憶や、五感による記憶を強化してくれる優れものじゃ」
「便利そうな能力ですね。年老いた時に役に立ちそうですよ」
「年老いてなくても有効活用してほしいんじゃが……」

 冗談はともかく、父さんから譲ってもらった能力だし、大事に有効活用していかないとね。

 ――スキル【記憶鮮明】を習得した

「ここからは、儂等からのおまけ能力じゃ。他の転生者にもおまけはしておるから、遠慮せずに受け取ってほしい」
「私以外にも転生者が居るんですか?」
「其方を含めて四人の転生者が居る。皆同じ年頃での、転生場所も種族もバラバラじゃが、もし出会ったら仲良くやってほしい」
「はい、それはもう。今から楽しみにしておきます」

 他に転生者が居るとは思わなかったから驚いた。どんな人達かは分からないけど、話が合う人達だと嬉しいな。
 好きな事以外は喋れなくなっちゃうから、上手くやれるかちょっと不安だけど……。

「まずは他の三人にも渡しておる【能力強化スタチブース】じゃな。単純な身体能力の強化と、成長しやすくなる能力じゃ」
「あたしからは【魔眼/賢者ノ瞳ロイデュサガ】だよ! 猛獣の弱点が分かったりして便利だから、肉を狩る時にでも有効活用してくれ」
「じゃ、じゃあ私からはつ、対になる【魔眼/鑑定眼アヴィデクスパー】を……。は、初めて見る物でも、詳細がわ、分かったり……します……」
「儂からは、其方が亡くなった時に持っておった【たぶれっと】とやらを人工遺物アーティファクト化しておこうかの。いくつかの能力を【あぷり】として使えるようにしておくぞぃ」

 いやいや人工遺物って……過ぎたる力は身を滅ぼさんのですか? 大丈夫ですか? 

「其方なら大丈夫じゃろうて。【たぶれっと】は他の者には視認できん、上手く使ってやっとくれ」
「は……はぁ……」

 不安しかないし、チートキャラどころか完全なぶっ壊れ性能じゃないですかね、コレ。
 ってか人間辞めてません? 

 ――パッシブスキル【能力強化】を獲得した
 ――スキル【魔眼/賢者ノ瞳】を獲得した
 ――スキル【魔眼/鑑定眼】を獲得した
 ――スキル【タブレット】を獲得した

「さて、儂等から贈る能力は以上じゃ」

 異常じゃ、の間違いじゃなくて? 

「ちなみにの、生まれる者みなが必ず受け取る【ギフト】というものがあるんじゃ。貰えるギフトは儂等にも分からんのでな、自分の目で確認してほしい」
「それは、【神さまからの授け物】という認識で大丈夫ですかね」
「そうじゃの、転生かどうかに関わらず、皆が生誕の祝福として持っている能力じゃな」
「貰える能力は神のみぞ知る……いや神さまも知らないし、誰なら知ってるんだ?」
「じゃからの? 自分の目での?」

 爺さんがショボンとしているが、既に慣れてしまったのだろう、二人の神さまは和やかにお茶を啜っている。
 今気付いたけど、【嫉妬の神】の声ほとんど聞いてないな。喋り方からして、口下手で無口なんだろうか。
 メソメソしている爺さんを無視してお茶を啜り、剥いて置かれた蜜柑に手を伸ばす。はぁ……甘くて美味しい。
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