神宮寺さんと呼ぶ(恋人になる前)
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注意書き
・寂雷先生の医者友達(高齢)が他界した話。
・夢主視点で滅茶苦茶喋ります。前半浮かれ気味。
・先生泣く感じです。なんでもいい方のみお進みください。
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寂雷さんが帰ってくる時間に予測を立てる。今日は19時に帰ってくるのではないか。ならば今から買い物に行っても遅くはない。突然揚げ物の気分になってしまったのだ。
食費の入った財布を持ち、スーパーへと出かけた道で、うどん屋が目に止まった。
どうやら天麩羅類の持ち帰りサービスがあるらしく、今日の主食はかき揚げ丼にしようと決めた。
「いらっしゃいませ!」
「かき揚げ二つ。持ち帰りでお願いします」
「ありがとうございます!」
元気な掛け声でもって用意された二つのかき揚げはパックが閉まりきらないほど大きく、これなら量を食べる神宮寺さんも満足するだろうと思わず頬が緩んだ。
驚いた顔をして「どこで買ったんだい?」と聞いてくるだろう。それが彼のお気に召した合図なのだ。
……いや、どうして私が作った前提ではないのだろう。やはり一工夫ならず、二、三工夫は必要なのだろうかと一人でごちる。
そんな風に大きなかき揚げに浮かれながら、帰ってきて早一時間。かき揚げがしんなりする頃には、神宮寺さんは帰ってこなかった。
スマホには「今夜は遅くなります」とだけ送られてきた。理由を聞かないのは、私が家事手伝いだからだ。
大根おろしを乗せた、しんなりしたかき揚げ丼を食べた。枝豆豆腐も食べた。漬物。わかめの味噌汁。昆布茶。
皿を洗ってからもしんなりした揚げ物の調理方法を調べた。グリルに放り込めばある程度なんとかなるらしい。
「はあ」
溜息をついたところで鍵の開く音がした。
走っていき、「おかえりなさい」と鞄とコートを受け取る。「ただいま」と笑う表情は、どこか影が差したように見えた。
玉ねぎの先端がほんのり焦げたかき揚げに、箸が全く刺さらない。
常温で保存してあるから、中までちゃんと温まった筈だ。落ち度といえば先端がほんの少し黒みがかっているだけ。
こんなに大きいかき揚げなのに、神宮寺さんは驚いた様子も無い。ただ無表情で、丼をぼうっと見つめていた。
「すまない。食指が動かないから、残してしまってもいいかな」
「はい」
神宮寺さん、お腹すいちゃいますよ。
私の心配をよそに、神宮寺さんは豆腐と漬物と味噌汁を平らげた。お茶も一気に飲み干すと、「ごちそうさま」と言って振り返らずに歩いていく。
かき揚げ、食べてもらえなかった。大盛りの丼。一口もだ。
嫌いだったのだろうか。油物は苦手なのだろうか。外で何か食べてきたのだろうか。
そのどの理由にも手掛かり一つないまま、明日の昼に食べようとラップをかけて冷蔵庫に仕舞った。
(どうしてだろう)
答えの検討が付かないままの夜に、眩暈がした。
・
・
・
一度ベッドに入って眠ろうとしたが、雇われてから初めて失敗という失敗をしたことに目が冴えて眠れない。
かき揚げでなければ良かったのか、それともたまたま食欲が無かったのか。胃もたれか。いいや神宮寺さんはいつでも自己管理が出来ていて、健康的で、コロッケだって美味しそうに沢山食べていた。
なのに、どうして。
わけもわからず、ベッドを出た。キッチン、冷蔵庫からかき揚げ丼を出し、睨む。
(何が悪かったんだ)
かき揚げが嫌いなのか? やはり胃もたれなのか? いいや神宮寺さんは健康的だから食べられる筈だ。
かき揚げが嫌いってなんだ。にんじん。たまねぎ。えび。アレルギー? エビフライは食べていた。
食欲が無い? 帰ってきたときには確かに顔色が少し悪かったかもしれない。
そもそも帰りが遅かった理由はなんだ。
眠い。目の前のかき揚げ丼のせいで眠れない。
「あ」
不意に声がした方向を見ると、廊下への扉が開いている。驚いたような顔をしてこちらを見るのは他でもない悩みの主だった。
今は夜中で、普段なら寝ている時間帯だ。明日も仕事があり、彼は眠らなければならない。
「ミコトくん。その、お腹が空いてしまって。何か食べられるものはあるかな」
申し訳なさそうにこちらに神宮寺さんが歩いてくるのを、眠い脳味噌でぼうっと見てしまっていた。
するとキッチンまでたどり着いた神宮寺さんはかき揚げ丼を見つけ、「残しておいてくれたの?」と自分の頬を指先で撫でていた。
「あっ、あたためます」
「いえ、自分でやります。ミコトくんは寝ないのかな。体に悪いですよ」
神宮寺さんはかき揚げ丼を攫って行くと電子レンジへと入れた。ああ。致し方無し。
「何か悩み事かな」
いや誰に向かって言っているのかと耳を疑う。
しかし優し気な表情には、いつもの神宮寺さんが戻りつつある気がした。
「神宮寺さんこそ、今日は何かあったんですか」
「やはり、ミコトくんは心配してくれていたね。何も言わなくてすまない」
「言いたくなければ別に」
「聞き出してほしい時もある。なんて、甘えたなことだけれどね」
それなら自ら言い出してほしいというのも、甘えたになってしまうではないか。
心でそう言い返しつつ顔を見ていると、神宮寺さんは落ち着いた声でぽつりぽつりと呟くように話した。
以前から親切にしていただいていた医師が他界した事。
その医師を神宮寺さんは深く尊敬していたこと。
高齢にもかかわらずとても元気で、笑顔を欠かした姿を見たことが無かったこと。
「私は彼に聞いたんだ。どうしてそんなに笑顔を保ち続けるのか。彼は、"患者が痛み苦しんでいるのに、こちらが痛くもないのに共に苦しんで見せるのは主義に反する。かといってどういう顔をしていいものか分からない"……と言っていた。神妙な顔は、どうしても出来なかったらしい。だからいつも笑顔であるようにしたそうだ」
神宮寺さんは愛おしげにその医師がどれほど人に好かれていたかを語った。
長い時間、共に人の命を支えているという確証があった。互いを尊敬し合い、時にライバルのように競い合った。
その終止符が突然打たれ、神宮寺寂雷の心にあったのは普段からよく感じている感覚だったという。
「そんな彼の死に顔が、…………」
そんな彼の死に顔が。その言葉を最後に、神宮寺さんは話をやめてしまう。
電子レンジが短いサウンドを鳴らして加熱を止めたのだ。
神宮寺さんが器を手に取ると、確かに温まっているらしかった。箸を手に取り、テーブルへと向かう。
私は冷蔵庫からお茶を出し、神宮寺さんの分を注いでテーブルへと置く。席にはつかず、キッチンで私もまたお茶を飲んだ。
人が死ぬ時は、本当に突然やってくる。毎分毎秒、見えないクジを引かされているように。
身近な人の死が心にその人の形の穴を開けたようになり、その存在が大きいほど、虚ろになって逃れられない。
無表情。冷たい手。今も瞼の裏に浮かび、指先に伝わる。
神宮寺さんはいただきますと手を合わせた。さくりと離れていかないかき揚げを、最終的には箸で挟んでそのままかじりついた。一口、二口と咀嚼もせず口に入れていく。タレの少し掛かった白米を、数回口に運ぶと、頬を丸くさせて咀嚼した。
「んふ、美味しくないな」
目を逸らしていたつもりが、顔が向いてしまう。
「ああ、ごめん。ほら、ふにゃふにゃで」
そのかき揚げのようにふにゃりとした眉が、悲しみを乗せて端の方を下げた。
そうですか、となんでもないように背を向け、今度こそ心配していないフリを続行。
「このかき揚げ、大きいですね」
どことなく嬉しそうな声が背後からする。分かりやすくお茶を飲んでやり過ごした。
「そうですね」と遅れて返す頃には、もうコップが空になっていた。「なんだかき揚げで良かったのか」などと思うには、昼ほど気楽でいられなかった。いや半分はそう思っているが、どうしても聞いた話が「わかる」のだ。
私は呆然自失としていたが、彼は切り替えが早い。
慣れているのだ。きっと。
「眠れないほど、心配してくれていた……と思ってもいいかな」
食器を返しに来た神宮寺さんは瞼を伏せて笑っている。
あるいは彼が語った人の笑みがこの人に移っていたのだ。などと直感が囁く。
そんな顔をしたこの人に労われるのは、胸が締め付けられるようだった。
「私も、ふにゃふにゃのかき揚げを食べたんですよ」
話を逸らそうとしたが逸らしきれずにいる。
食事を共にするのは、その方が美味しいと神宮寺さんが言ったからだ。
「ミコトくんは柔らかい方が好きなのかい?」
悪気無く神宮寺さんは不思議そうにする。
そうではないとだけ言うのには、悲しすぎる話を聞いた。
神宮寺さんが笑いかけただけ、それを掬い上げる言葉が必要だった。
「もし後にも先にも辛いことがあるなら、私を捌け口にした方がいいと言っているんです」
いやそんなことを言えていないのは自分でもわかっている。
大きな手から食器をひったくり、スポンジを泡立てた。
「そうしないと神宮寺さんの知らない所で勝手に美味しくないものを食べていますから」
「まさか、私が帰ってくるのを待っていてくれたのかい」
「……まあなんというか、家事手伝い以外にも仕事の円滑化には必要なことがあるんですよ。だからその、とりあえず話くらいいくらでも聞きますし、それ以外でもほら、その」
「うん」
「私たち、友人、ですから」
ゆうじん、と神宮寺寂雷が呟く。うる、と目が揺らいだように見えた。
それを隠すように神宮寺さんは目を閉じて笑う。
「今度、サクサクのかき揚げ丼を食べましょう」
「これ買ったのうどん屋なんですよ。カウンター席の」
「どんぶりでないのなら、近いうちに行けますね」
神宮寺さんはタオルを手に取り、私が洗った食器を拭いた。
おやすみなさいとそれぞれの部屋に分かれるまで、神宮寺さんは私の隣を歩いた。
注意書き
・寂雷先生の医者友達(高齢)が他界した話。
・夢主視点で滅茶苦茶喋ります。前半浮かれ気味。
・先生泣く感じです。なんでもいい方のみお進みください。
******************************/
寂雷さんが帰ってくる時間に予測を立てる。今日は19時に帰ってくるのではないか。ならば今から買い物に行っても遅くはない。突然揚げ物の気分になってしまったのだ。
食費の入った財布を持ち、スーパーへと出かけた道で、うどん屋が目に止まった。
どうやら天麩羅類の持ち帰りサービスがあるらしく、今日の主食はかき揚げ丼にしようと決めた。
「いらっしゃいませ!」
「かき揚げ二つ。持ち帰りでお願いします」
「ありがとうございます!」
元気な掛け声でもって用意された二つのかき揚げはパックが閉まりきらないほど大きく、これなら量を食べる神宮寺さんも満足するだろうと思わず頬が緩んだ。
驚いた顔をして「どこで買ったんだい?」と聞いてくるだろう。それが彼のお気に召した合図なのだ。
……いや、どうして私が作った前提ではないのだろう。やはり一工夫ならず、二、三工夫は必要なのだろうかと一人でごちる。
そんな風に大きなかき揚げに浮かれながら、帰ってきて早一時間。かき揚げがしんなりする頃には、神宮寺さんは帰ってこなかった。
スマホには「今夜は遅くなります」とだけ送られてきた。理由を聞かないのは、私が家事手伝いだからだ。
大根おろしを乗せた、しんなりしたかき揚げ丼を食べた。枝豆豆腐も食べた。漬物。わかめの味噌汁。昆布茶。
皿を洗ってからもしんなりした揚げ物の調理方法を調べた。グリルに放り込めばある程度なんとかなるらしい。
「はあ」
溜息をついたところで鍵の開く音がした。
走っていき、「おかえりなさい」と鞄とコートを受け取る。「ただいま」と笑う表情は、どこか影が差したように見えた。
玉ねぎの先端がほんのり焦げたかき揚げに、箸が全く刺さらない。
常温で保存してあるから、中までちゃんと温まった筈だ。落ち度といえば先端がほんの少し黒みがかっているだけ。
こんなに大きいかき揚げなのに、神宮寺さんは驚いた様子も無い。ただ無表情で、丼をぼうっと見つめていた。
「すまない。食指が動かないから、残してしまってもいいかな」
「はい」
神宮寺さん、お腹すいちゃいますよ。
私の心配をよそに、神宮寺さんは豆腐と漬物と味噌汁を平らげた。お茶も一気に飲み干すと、「ごちそうさま」と言って振り返らずに歩いていく。
かき揚げ、食べてもらえなかった。大盛りの丼。一口もだ。
嫌いだったのだろうか。油物は苦手なのだろうか。外で何か食べてきたのだろうか。
そのどの理由にも手掛かり一つないまま、明日の昼に食べようとラップをかけて冷蔵庫に仕舞った。
(どうしてだろう)
答えの検討が付かないままの夜に、眩暈がした。
・
・
・
一度ベッドに入って眠ろうとしたが、雇われてから初めて失敗という失敗をしたことに目が冴えて眠れない。
かき揚げでなければ良かったのか、それともたまたま食欲が無かったのか。胃もたれか。いいや神宮寺さんはいつでも自己管理が出来ていて、健康的で、コロッケだって美味しそうに沢山食べていた。
なのに、どうして。
わけもわからず、ベッドを出た。キッチン、冷蔵庫からかき揚げ丼を出し、睨む。
(何が悪かったんだ)
かき揚げが嫌いなのか? やはり胃もたれなのか? いいや神宮寺さんは健康的だから食べられる筈だ。
かき揚げが嫌いってなんだ。にんじん。たまねぎ。えび。アレルギー? エビフライは食べていた。
食欲が無い? 帰ってきたときには確かに顔色が少し悪かったかもしれない。
そもそも帰りが遅かった理由はなんだ。
眠い。目の前のかき揚げ丼のせいで眠れない。
「あ」
不意に声がした方向を見ると、廊下への扉が開いている。驚いたような顔をしてこちらを見るのは他でもない悩みの主だった。
今は夜中で、普段なら寝ている時間帯だ。明日も仕事があり、彼は眠らなければならない。
「ミコトくん。その、お腹が空いてしまって。何か食べられるものはあるかな」
申し訳なさそうにこちらに神宮寺さんが歩いてくるのを、眠い脳味噌でぼうっと見てしまっていた。
するとキッチンまでたどり着いた神宮寺さんはかき揚げ丼を見つけ、「残しておいてくれたの?」と自分の頬を指先で撫でていた。
「あっ、あたためます」
「いえ、自分でやります。ミコトくんは寝ないのかな。体に悪いですよ」
神宮寺さんはかき揚げ丼を攫って行くと電子レンジへと入れた。ああ。致し方無し。
「何か悩み事かな」
いや誰に向かって言っているのかと耳を疑う。
しかし優し気な表情には、いつもの神宮寺さんが戻りつつある気がした。
「神宮寺さんこそ、今日は何かあったんですか」
「やはり、ミコトくんは心配してくれていたね。何も言わなくてすまない」
「言いたくなければ別に」
「聞き出してほしい時もある。なんて、甘えたなことだけれどね」
それなら自ら言い出してほしいというのも、甘えたになってしまうではないか。
心でそう言い返しつつ顔を見ていると、神宮寺さんは落ち着いた声でぽつりぽつりと呟くように話した。
以前から親切にしていただいていた医師が他界した事。
その医師を神宮寺さんは深く尊敬していたこと。
高齢にもかかわらずとても元気で、笑顔を欠かした姿を見たことが無かったこと。
「私は彼に聞いたんだ。どうしてそんなに笑顔を保ち続けるのか。彼は、"患者が痛み苦しんでいるのに、こちらが痛くもないのに共に苦しんで見せるのは主義に反する。かといってどういう顔をしていいものか分からない"……と言っていた。神妙な顔は、どうしても出来なかったらしい。だからいつも笑顔であるようにしたそうだ」
神宮寺さんは愛おしげにその医師がどれほど人に好かれていたかを語った。
長い時間、共に人の命を支えているという確証があった。互いを尊敬し合い、時にライバルのように競い合った。
その終止符が突然打たれ、神宮寺寂雷の心にあったのは普段からよく感じている感覚だったという。
「そんな彼の死に顔が、…………」
そんな彼の死に顔が。その言葉を最後に、神宮寺さんは話をやめてしまう。
電子レンジが短いサウンドを鳴らして加熱を止めたのだ。
神宮寺さんが器を手に取ると、確かに温まっているらしかった。箸を手に取り、テーブルへと向かう。
私は冷蔵庫からお茶を出し、神宮寺さんの分を注いでテーブルへと置く。席にはつかず、キッチンで私もまたお茶を飲んだ。
人が死ぬ時は、本当に突然やってくる。毎分毎秒、見えないクジを引かされているように。
身近な人の死が心にその人の形の穴を開けたようになり、その存在が大きいほど、虚ろになって逃れられない。
無表情。冷たい手。今も瞼の裏に浮かび、指先に伝わる。
神宮寺さんはいただきますと手を合わせた。さくりと離れていかないかき揚げを、最終的には箸で挟んでそのままかじりついた。一口、二口と咀嚼もせず口に入れていく。タレの少し掛かった白米を、数回口に運ぶと、頬を丸くさせて咀嚼した。
「んふ、美味しくないな」
目を逸らしていたつもりが、顔が向いてしまう。
「ああ、ごめん。ほら、ふにゃふにゃで」
そのかき揚げのようにふにゃりとした眉が、悲しみを乗せて端の方を下げた。
そうですか、となんでもないように背を向け、今度こそ心配していないフリを続行。
「このかき揚げ、大きいですね」
どことなく嬉しそうな声が背後からする。分かりやすくお茶を飲んでやり過ごした。
「そうですね」と遅れて返す頃には、もうコップが空になっていた。「なんだかき揚げで良かったのか」などと思うには、昼ほど気楽でいられなかった。いや半分はそう思っているが、どうしても聞いた話が「わかる」のだ。
私は呆然自失としていたが、彼は切り替えが早い。
慣れているのだ。きっと。
「眠れないほど、心配してくれていた……と思ってもいいかな」
食器を返しに来た神宮寺さんは瞼を伏せて笑っている。
あるいは彼が語った人の笑みがこの人に移っていたのだ。などと直感が囁く。
そんな顔をしたこの人に労われるのは、胸が締め付けられるようだった。
「私も、ふにゃふにゃのかき揚げを食べたんですよ」
話を逸らそうとしたが逸らしきれずにいる。
食事を共にするのは、その方が美味しいと神宮寺さんが言ったからだ。
「ミコトくんは柔らかい方が好きなのかい?」
悪気無く神宮寺さんは不思議そうにする。
そうではないとだけ言うのには、悲しすぎる話を聞いた。
神宮寺さんが笑いかけただけ、それを掬い上げる言葉が必要だった。
「もし後にも先にも辛いことがあるなら、私を捌け口にした方がいいと言っているんです」
いやそんなことを言えていないのは自分でもわかっている。
大きな手から食器をひったくり、スポンジを泡立てた。
「そうしないと神宮寺さんの知らない所で勝手に美味しくないものを食べていますから」
「まさか、私が帰ってくるのを待っていてくれたのかい」
「……まあなんというか、家事手伝い以外にも仕事の円滑化には必要なことがあるんですよ。だからその、とりあえず話くらいいくらでも聞きますし、それ以外でもほら、その」
「うん」
「私たち、友人、ですから」
ゆうじん、と神宮寺寂雷が呟く。うる、と目が揺らいだように見えた。
それを隠すように神宮寺さんは目を閉じて笑う。
「今度、サクサクのかき揚げ丼を食べましょう」
「これ買ったのうどん屋なんですよ。カウンター席の」
「どんぶりでないのなら、近いうちに行けますね」
神宮寺さんはタオルを手に取り、私が洗った食器を拭いた。
おやすみなさいとそれぞれの部屋に分かれるまで、神宮寺さんは私の隣を歩いた。