寂雷さんと呼ぶ(恋人になった後)
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注意書き
・構って神宮寺寂雷甘夢(敬語多め)(触れ合いも多め?)
・既に恋人関係 名前は出さないようにしてます
・ヒプマイ自体の設定はまだ知らない所が多いかと思われます
はまりたて。ドラマパートは麻天狼の出てくるやつだけ聞きました
・「トッ」的なやつがあります
前々作よろしく日常感溢れる感じです。いつものように休日。
夢主はクール系です。
そのほか、私なりの解釈が多めに含まれていますので心の広い方のみお進みください。
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・
・
・
甘えたい。折角の休日に恋人に甘えられないというのは苦痛だとドアノブに手を掛けそうになる。
いつもなら同じ部屋でまったりとしている筈だ。しかし今日は彼女の仕事が立て込んでいるらしく、コーヒーを淹れている目の下に隈がくっきりと出ていたのを最後に、顔を見られていない。
ふらふらと自室に戻っていく足取り。彼女が休憩を挟んでいないことは一目瞭然だった。
(ちゃんとサプリメントは摂っただろうか。倒れていないだろうか。心配だ)
お湯ある。今、湧いたところですよ。ありがと。
独歩くんのような目をした彼女。いつもは崩さない敬語を崩した彼女。眼鏡をして、前髪を上げて。目をしぱしぱとさせながら足早にコーヒーを持ち去る姿は格好いいとすら思えた。
贔屓目だとは自覚しているつもりだけれど、頑張っている姿だ。私には手伝えない類の仕事でもあるから尚更に魅力的だった。
彼女は仕事を一気に終わらせる。以前までは日常の片隅で緩やかに作品を育てていたが、昨日今日はピリピリとして納品に追われている。まるで仕事を請け負うたびに妊娠と出産をしているように見えた。
それが彼女の仕事、生き方だ。自らの中で突然湧き出たそれを外の世界へと産み落とさなければ苦しいなんて、本当にそのようではないか。だが私に手伝えることといえば、お湯を沸かすことばかり。切開など出来ようも無い。
部屋に戻るその疲れた後ろ姿を抱きしめて離さないでいたいが、子供ではないのだからと自分を必死に云い聞かせた。
けれど今日ばかりは腕が行き場を探して自分を抱きしめる始末だ。カウンセリングより外傷処置の連続。純粋に体が疲れていては少しの労いも必要だ。彼女を知ってから、それがやたらと顕著だった。
……というより、休日の朝は彼女の言葉から始まるのだから、そのルーチンをこなしてくれないと居ても立っても居られなくなってしまった。
(朝一番におはようございますと言われないと、目覚めた気がしない……なんて)
恋人の名前をドアの前で呟いても、この小さな声は聞こえないらしい。
当たり前だと分かっていても、ドアを閉めなくたってよかったじゃないかと先ほどから自室とこことで五往復はしている。ちらりと覗かれるだけで気が散ると言っていたが、一度くらい頬にキスをしてからでも仕事をするには遅くないだろう。
困った。扉の前で目を瞑る。
やりたいことはあった。医療とラップバトルの二枚の皿を回しているのだから、ないわけがない。
それでも今、たった今、突き放された分だけ君が欲しい。
……また自室に戻るのはなんだか嫌なので、リビングへと向かった。
・
・
・
(午前中がこんなに長いなんて、……知らなかった)
一時間は経っただろうと見上げた時計はまだ十分しか進んでいない。瞑想を試みたが思考の隅に柔らかい二の腕の感触がちらついて覚醒してしまう。
「私を待たせたのだから、少しくらい酷いことをしても構いませんね」。……考えるだけで、実行に移すことは無い。ひどいことはしてはいけない。けれどいつもより触れたい欲望は、いとおしいという気持ちに比例しながらも、なおかつその気持ちと拮抗している。
この気持ちは罪だ。こんな気持ちにさせる彼女に罪はない。これは私だけの罪。
だが、その罪を許してくれるのは君だけだ。
淡い恋心を成分に含んだ溜息を吐いた。
今日は休日だ。私には休む義務がある。いずれ来る急患に適切な措置をするために。
そう云い聞かせてもだめだなんて、私はどうしてしまったんだろう。と、悲観しても仕方がないので何かすることにしよう。
さて、何をしようか。
「そうだ」
声に出てしまうほどいい考えだ。
コーヒーなら片手間に飲めるのだから、追加のコーヒーとケーキを差し入れよう。この前一二三くんが美味しそうなパウンドケーキの画像を送ってくれた。彼が作り独歩くんが食べたらしい。折角の休日を寝ることに費やすという独歩くんが寝ずに口をつけたのだから、その効果はきっと絶大だろう。
メールをすれば一二三君はほんの数分でレシピを送ってくれた。ありがとうと返信をして、さっそく取り掛かる。
ボウルを出して。小麦粉と、それと生クリームも。フルーツはオレンジがあった。
「ふふ」
甘い香りがする。きっと上手く出来るだろう。
・
・
・
(甘い匂いがする)
書き上げたメールを送信する。
ドアを見ても閉じられている。何度も覗きに来ていた姿を思い出す。
きつく当たってしまったことを、ぼんやりとした頭で後悔していた。
眼鏡を外す。上げていた前髪も下ろす。空いたカップを洗うため、キッチンへと自然に足が向かった。
・
・
・
型に嵌められたケーキが焼けた。表面は少し焼き過ぎてしまったようでこんがりとしている風だが、切れ端の味は悪くない。
はやく君にも食べさせたい。でも今朝淹れていたコーヒーの濃さをよく覚えていない。
インスタントのコーヒー。ミルクはいつも通り多めだっただろうか、それとも小さなカップに濃く淹れて……いや、いつも通りがいいだろう。さて、砂糖はどれくらいだっただろう。スティックシュガーをいつものカップに二本添えておいた。少ないよりはいい筈だ。
ケーキを切り分けているとドアが開いた。眠たげな目をした彼女がのそりとキッチンに目を向ける。
私の手元には君のために切られたケーキと用意された二人分の食器。
君への差し入れだと思っていたのに、いつの間に私は自分の皿まで用意していたんだろうか。
なんだか突然パウンドケーキまでも恥ずかしく思えてしまう。甘いものはいつも君が作るのに、私がレシピを見よう見まねで作って……悪いことではないが。
下心の籠ったケーキ。君に元気を出して欲しいからではなく、私が……。
「これは、その、……」
「寂雷さん、ケーキも作れたんですね」
「……この前見せた、一二三君が作ったケーキと同じレシピですよ」
「オレンジも添えられていて、爽やかですね。コーヒーもミルク多めですか?」
「そうだよ。……砂糖は、どれくらい入れますか?」
「今は二本で正解です。仕事終わりにケーキが食べられるなんて、嬉しい」
私が差し出すより早く……いや、私は差し出そうとしなかった。彼女は皿の上にケーキをひとつ取り、引き出しからフォークを二つ取り出してテーブルへと向かった。
「寂雷さんのフォークもここにありますよ。はやくはやく」
先に食べちゃいますよと言いながらオレンジを口にしている。
私だって、早くそうしたくなってしまう。
「……徹夜明けなのに、私に遠慮をしていますね?」
まるで私の恥じらいを見透かしているように私を急かしてくる。あるいは私が拗ねていると思っているのだろうか。たとえはやくケーキが食べたかっただけにしても、彼女がよく喋る時は無理をしている時だ。
私は君をよく知っている。
そして、どうやら私自身拗ねているらしいことも、そのおかげで認識出来た。
「何度も顔を見せに来た人に冷たくして、どう穴埋めをしようか考えているんです」
皿を手に、君の隣へ座る。「いただきます」と君が言うから、私は「召し上がれ」と言う。
「心配してくれていたのに突き放すようなことばかり言っている自分がいつも恥ずかしいです。根を詰めずとも頑張れたら良いんですが、変えられそうにありません」
「君はそのままで構いません。ただ私の方が、年上でありながら、折角の休みに君と過ごせないのが寂しくて子供みたいな行動をし、困らせていました」
「気にしてくれて嬉しかったですよ」
「違います。私はただ君に構ってほしかっただけでした」
君が私の口元を指で拭う。クリームがついていたなんて、本当に子どものようで恥ずかしい。
「寂雷さんがそんなセリフを言うなんて」
「言うべきことはハッキリ言わせていただきますよ」
「ビタミンや鉄分のサプリメントが『心配』じゃなければなんだって言うんですか」
「あれは、私が医師だから当然です」
「当然じゃないと思うけどもなあ……」
もぐ。と大きな一口を最後に含んだ君の頬が興味深い。
私も同じようにしたけれど、普通の一口だったからそうは出来なかった。
・
・
・
それでは少し寝ますと自室に戻ろうとする恋人を引き留めてソファへと手を引く。
「私たちは恋人ですからね」と強調して、膝を叩くと彼女は吃驚した顔をこちらに向けた。
逆膝枕と言うらしい。一二三君が話題にし、独歩くんが解説してくれた。肩を貸すより横にさせた方がいいだろうと思って、腹を決めた君の頭を膝に乗せる。
「いつにも増して良い匂いですね……」
「ケーキの香りかな。さあ、目を閉じて」
「寝られませんよ……」
「そうかな? 大丈夫、すぐだから」
額に指を乗せ、眠らせた。
力尽きてだらんとなった手を取り、ふにふにと揉む。
無防備な君を、触りたい放題だ。
くすりと笑ってしまう。こんなに側に私がいるのに、安心しきっている表情をして眠っていられるのだから余程疲れていたんだろう。
それから私は膝が痺れるまでそうしていて、膝が痺れてからは君の足のツボを押したりしていた。
うなされているのがとても可愛らしかった。
やがて「おはようございます」と君が目覚めた。私からもおはようと返せることが嬉しい。
お返しに膝枕をすると言われたけれど、足が痺れるからやめた方がいいと思ったので「三分だけお願いするよ」と伝えた。
たった三分だから君ほど安らかに眠れそうにもないけれど、連日の疲れは取れそうだった。
「少しお肉がつきましたね。いい傾向です」
「……甘いものは控えた方がいいかもしれませんね」
「またケーキを作った時は、君に大きい方をあげますよ」
「困りますよ寂雷さん」
私の休日。休まなければならない時だけは、君を安息の場所にさせてほしい。
・
・
・
・・・・
・蛇足・
・・・・
「ところで……寂雷さんって何か我慢してると敬語になりません?」
「えっ?」
「仕事や初対面の時は必要があってとして、最近だとお酒飲みたい時とか、遊びに出掛ける時。あと夜に私が絡まれてる時とか……」
「そ……そう、かなあ」
「思想の為に自分を律している……と、妄想するのはやめておきますね」
注意書き
・構って神宮寺寂雷甘夢(敬語多め)(触れ合いも多め?)
・既に恋人関係 名前は出さないようにしてます
・ヒプマイ自体の設定はまだ知らない所が多いかと思われます
はまりたて。ドラマパートは麻天狼の出てくるやつだけ聞きました
・「トッ」的なやつがあります
前々作よろしく日常感溢れる感じです。いつものように休日。
夢主はクール系です。
そのほか、私なりの解釈が多めに含まれていますので心の広い方のみお進みください。
******************************/
・
・
・
甘えたい。折角の休日に恋人に甘えられないというのは苦痛だとドアノブに手を掛けそうになる。
いつもなら同じ部屋でまったりとしている筈だ。しかし今日は彼女の仕事が立て込んでいるらしく、コーヒーを淹れている目の下に隈がくっきりと出ていたのを最後に、顔を見られていない。
ふらふらと自室に戻っていく足取り。彼女が休憩を挟んでいないことは一目瞭然だった。
(ちゃんとサプリメントは摂っただろうか。倒れていないだろうか。心配だ)
お湯ある。今、湧いたところですよ。ありがと。
独歩くんのような目をした彼女。いつもは崩さない敬語を崩した彼女。眼鏡をして、前髪を上げて。目をしぱしぱとさせながら足早にコーヒーを持ち去る姿は格好いいとすら思えた。
贔屓目だとは自覚しているつもりだけれど、頑張っている姿だ。私には手伝えない類の仕事でもあるから尚更に魅力的だった。
彼女は仕事を一気に終わらせる。以前までは日常の片隅で緩やかに作品を育てていたが、昨日今日はピリピリとして納品に追われている。まるで仕事を請け負うたびに妊娠と出産をしているように見えた。
それが彼女の仕事、生き方だ。自らの中で突然湧き出たそれを外の世界へと産み落とさなければ苦しいなんて、本当にそのようではないか。だが私に手伝えることといえば、お湯を沸かすことばかり。切開など出来ようも無い。
部屋に戻るその疲れた後ろ姿を抱きしめて離さないでいたいが、子供ではないのだからと自分を必死に云い聞かせた。
けれど今日ばかりは腕が行き場を探して自分を抱きしめる始末だ。カウンセリングより外傷処置の連続。純粋に体が疲れていては少しの労いも必要だ。彼女を知ってから、それがやたらと顕著だった。
……というより、休日の朝は彼女の言葉から始まるのだから、そのルーチンをこなしてくれないと居ても立っても居られなくなってしまった。
(朝一番におはようございますと言われないと、目覚めた気がしない……なんて)
恋人の名前をドアの前で呟いても、この小さな声は聞こえないらしい。
当たり前だと分かっていても、ドアを閉めなくたってよかったじゃないかと先ほどから自室とこことで五往復はしている。ちらりと覗かれるだけで気が散ると言っていたが、一度くらい頬にキスをしてからでも仕事をするには遅くないだろう。
困った。扉の前で目を瞑る。
やりたいことはあった。医療とラップバトルの二枚の皿を回しているのだから、ないわけがない。
それでも今、たった今、突き放された分だけ君が欲しい。
……また自室に戻るのはなんだか嫌なので、リビングへと向かった。
・
・
・
(午前中がこんなに長いなんて、……知らなかった)
一時間は経っただろうと見上げた時計はまだ十分しか進んでいない。瞑想を試みたが思考の隅に柔らかい二の腕の感触がちらついて覚醒してしまう。
「私を待たせたのだから、少しくらい酷いことをしても構いませんね」。……考えるだけで、実行に移すことは無い。ひどいことはしてはいけない。けれどいつもより触れたい欲望は、いとおしいという気持ちに比例しながらも、なおかつその気持ちと拮抗している。
この気持ちは罪だ。こんな気持ちにさせる彼女に罪はない。これは私だけの罪。
だが、その罪を許してくれるのは君だけだ。
淡い恋心を成分に含んだ溜息を吐いた。
今日は休日だ。私には休む義務がある。いずれ来る急患に適切な措置をするために。
そう云い聞かせてもだめだなんて、私はどうしてしまったんだろう。と、悲観しても仕方がないので何かすることにしよう。
さて、何をしようか。
「そうだ」
声に出てしまうほどいい考えだ。
コーヒーなら片手間に飲めるのだから、追加のコーヒーとケーキを差し入れよう。この前一二三くんが美味しそうなパウンドケーキの画像を送ってくれた。彼が作り独歩くんが食べたらしい。折角の休日を寝ることに費やすという独歩くんが寝ずに口をつけたのだから、その効果はきっと絶大だろう。
メールをすれば一二三君はほんの数分でレシピを送ってくれた。ありがとうと返信をして、さっそく取り掛かる。
ボウルを出して。小麦粉と、それと生クリームも。フルーツはオレンジがあった。
「ふふ」
甘い香りがする。きっと上手く出来るだろう。
・
・
・
(甘い匂いがする)
書き上げたメールを送信する。
ドアを見ても閉じられている。何度も覗きに来ていた姿を思い出す。
きつく当たってしまったことを、ぼんやりとした頭で後悔していた。
眼鏡を外す。上げていた前髪も下ろす。空いたカップを洗うため、キッチンへと自然に足が向かった。
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型に嵌められたケーキが焼けた。表面は少し焼き過ぎてしまったようでこんがりとしている風だが、切れ端の味は悪くない。
はやく君にも食べさせたい。でも今朝淹れていたコーヒーの濃さをよく覚えていない。
インスタントのコーヒー。ミルクはいつも通り多めだっただろうか、それとも小さなカップに濃く淹れて……いや、いつも通りがいいだろう。さて、砂糖はどれくらいだっただろう。スティックシュガーをいつものカップに二本添えておいた。少ないよりはいい筈だ。
ケーキを切り分けているとドアが開いた。眠たげな目をした彼女がのそりとキッチンに目を向ける。
私の手元には君のために切られたケーキと用意された二人分の食器。
君への差し入れだと思っていたのに、いつの間に私は自分の皿まで用意していたんだろうか。
なんだか突然パウンドケーキまでも恥ずかしく思えてしまう。甘いものはいつも君が作るのに、私がレシピを見よう見まねで作って……悪いことではないが。
下心の籠ったケーキ。君に元気を出して欲しいからではなく、私が……。
「これは、その、……」
「寂雷さん、ケーキも作れたんですね」
「……この前見せた、一二三君が作ったケーキと同じレシピですよ」
「オレンジも添えられていて、爽やかですね。コーヒーもミルク多めですか?」
「そうだよ。……砂糖は、どれくらい入れますか?」
「今は二本で正解です。仕事終わりにケーキが食べられるなんて、嬉しい」
私が差し出すより早く……いや、私は差し出そうとしなかった。彼女は皿の上にケーキをひとつ取り、引き出しからフォークを二つ取り出してテーブルへと向かった。
「寂雷さんのフォークもここにありますよ。はやくはやく」
先に食べちゃいますよと言いながらオレンジを口にしている。
私だって、早くそうしたくなってしまう。
「……徹夜明けなのに、私に遠慮をしていますね?」
まるで私の恥じらいを見透かしているように私を急かしてくる。あるいは私が拗ねていると思っているのだろうか。たとえはやくケーキが食べたかっただけにしても、彼女がよく喋る時は無理をしている時だ。
私は君をよく知っている。
そして、どうやら私自身拗ねているらしいことも、そのおかげで認識出来た。
「何度も顔を見せに来た人に冷たくして、どう穴埋めをしようか考えているんです」
皿を手に、君の隣へ座る。「いただきます」と君が言うから、私は「召し上がれ」と言う。
「心配してくれていたのに突き放すようなことばかり言っている自分がいつも恥ずかしいです。根を詰めずとも頑張れたら良いんですが、変えられそうにありません」
「君はそのままで構いません。ただ私の方が、年上でありながら、折角の休みに君と過ごせないのが寂しくて子供みたいな行動をし、困らせていました」
「気にしてくれて嬉しかったですよ」
「違います。私はただ君に構ってほしかっただけでした」
君が私の口元を指で拭う。クリームがついていたなんて、本当に子どものようで恥ずかしい。
「寂雷さんがそんなセリフを言うなんて」
「言うべきことはハッキリ言わせていただきますよ」
「ビタミンや鉄分のサプリメントが『心配』じゃなければなんだって言うんですか」
「あれは、私が医師だから当然です」
「当然じゃないと思うけどもなあ……」
もぐ。と大きな一口を最後に含んだ君の頬が興味深い。
私も同じようにしたけれど、普通の一口だったからそうは出来なかった。
・
・
・
それでは少し寝ますと自室に戻ろうとする恋人を引き留めてソファへと手を引く。
「私たちは恋人ですからね」と強調して、膝を叩くと彼女は吃驚した顔をこちらに向けた。
逆膝枕と言うらしい。一二三君が話題にし、独歩くんが解説してくれた。肩を貸すより横にさせた方がいいだろうと思って、腹を決めた君の頭を膝に乗せる。
「いつにも増して良い匂いですね……」
「ケーキの香りかな。さあ、目を閉じて」
「寝られませんよ……」
「そうかな? 大丈夫、すぐだから」
額に指を乗せ、眠らせた。
力尽きてだらんとなった手を取り、ふにふにと揉む。
無防備な君を、触りたい放題だ。
くすりと笑ってしまう。こんなに側に私がいるのに、安心しきっている表情をして眠っていられるのだから余程疲れていたんだろう。
それから私は膝が痺れるまでそうしていて、膝が痺れてからは君の足のツボを押したりしていた。
うなされているのがとても可愛らしかった。
やがて「おはようございます」と君が目覚めた。私からもおはようと返せることが嬉しい。
お返しに膝枕をすると言われたけれど、足が痺れるからやめた方がいいと思ったので「三分だけお願いするよ」と伝えた。
たった三分だから君ほど安らかに眠れそうにもないけれど、連日の疲れは取れそうだった。
「少しお肉がつきましたね。いい傾向です」
「……甘いものは控えた方がいいかもしれませんね」
「またケーキを作った時は、君に大きい方をあげますよ」
「困りますよ寂雷さん」
私の休日。休まなければならない時だけは、君を安息の場所にさせてほしい。
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・蛇足・
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「ところで……寂雷さんって何か我慢してると敬語になりません?」
「えっ?」
「仕事や初対面の時は必要があってとして、最近だとお酒飲みたい時とか、遊びに出掛ける時。あと夜に私が絡まれてる時とか……」
「そ……そう、かなあ」
「思想の為に自分を律している……と、妄想するのはやめておきますね」