春の夜の夢
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『………』
何だろう何者かが自分に語り掛けている。
『…よ、…は…の…』
上手く聞き取れないし何処から語り掛けているのか姿さえ見えない。
故に顔も見えず私は只戸惑う。
周りを見渡しても誰も居ない。
無人だ。
私が一人立ち尽くしているだけで。
人の気配さえ皆無だ。
『…の…所は…の巣、』
巣?ますます意味が分からない。
語り掛けてくる声は足を歩めて場所を変えれど私の耳に届いてくる。
私に聞かないと選択はないらしい。
別段、耳障りと言う訳でもないけれど理解出来ない言葉を語り続けられても疑念しか浮かばない。
私にどうしろと……
「出てきやれ不幸よ」
『ピーッ!』
己が飼い鳥として連れてきた桜ブンチョウ幸を籠から出そうとする大谷。
幸とではなく不幸と呼ばれた事に気付いているのか気付いていないのか鳥にそんな事を求める方が可笑しな気がするが。
それでも幸は大谷の姿を見ただけで嬉しげに鳴き声を上げた。
幸は飼い主である大谷の特に頭の部分を気に入っていた。
籠の扉を開き人差し指を差し出せば幸は躊躇も無しに飛び乗った。
包帯に包まれている指に乗っているが幸は体勢を崩す様子も見せずにご機嫌な様だ。
もう片方の人差し指で頭を撫でてやれば目を細めて大人しくなる。
頭から尾の部分まで指先を滑らせる様に撫でてみるとピピッと一声上げて大谷を見上げる。
「ぬしは甘え上手よなァ。我や神子以外の人には見向きもせぬのに」
『ピッ?』
不思議そうに呟く大谷に対して幸は首を傾けながら疑問そうに鳴いた。
幸は大谷と神子以外の人間に対しては非常に攻撃的で警戒心も強かった。
それ故とある時に三成が幸を撫でようと指を近付けたら見事に噛まれてしまった。
アレ程に三成が痛がる姿を目にしたのは久方振りよ、と語りながらまた幸を撫でる。
頭を撫でて貰えば体をバタバタを動かして歓喜の鳴き声を歌の如く上げた。
「はて?神子の姿が見えぬな。探しに行くか」
『ピ~ッ♪』
ふと妻の姿も見えず声も聞こえない事に気付いた大谷は神子探しを開始した。
そんな大谷に同行するのか幸は指から飛び立って特等席である彼の頭を陣取った。
「ぬしも来やるか」
『ピィッ』
夜の中庭を存分に眺める事が出来る縁側の廊下を歩く。
緑の若葉に散った桜の花弁が混ざる庭の光景は春にしか見られないものだ。
大谷が歩く度に頭に陣取る幸は下から上と持ち上げられ実に楽しそうな様子だった。
「神子。聞こえておるならば返事をせい」
『ピーッ!』
軽く声量をあげながら大谷は神子の名を呼ぶ。
自分も神子を呼んでいるつもりなのだろうか大谷に続いて幸も鳴き声を上げる。
返事をしなければ姿も現さない。
困った大谷は顎に手を当てて考え込んだ。
それでも歩みは止めずに屋敷内を進む。
やがて屋敷の北側にさしかかった頃。
『ピッ!ピピーッ!』
「如何した幸」
唐突に大谷の頭を軽くつつき始めた幸。
考え込むのを中断して幸に反応する。
視線を廊下の床から上へと上げればピッタリと閉め切られた障子が目に入る。
最初はその障子に仕切られた部屋の内部を思いだせなかったがどうにか記憶を辿って導き出す。
南側に比べて日差しが注がれないこの部屋は多くの書が保管される…言わば書庫だ。
日差しが当たると書が痛んでしまう為、書等は北側に置きたいと大谷が申し出た故に。
「此所に居ると?」
『ピッ…』
頭上の幸に問い掛ければ当人は障子までつつき始めたので、それを止めて大谷は障子を開いた
「!」
『ピピッ』
居た。
大谷と幸に向かって背中を向けながら畳に体を横たわらせて。
「…眠っておるのか」
『ピーッ…』
まだ開いた障子に手を添えたまま大谷は呟いた。
躊躇いがちに小さく鳴いた幸は大谷の頭から飛び降り神子の枕元に移動する。
『ピッ、ピピッ』
そしておもむろに神子の頭を軽くつつく。
つつくと言うよりはよく見ると髪を引っ張っている様に見える。
勿論、髪を引く抜く訳がなく加減をしてクイクイと引っ張る。
「…ん、幸…?」
『ピーッ!』
数回引っ張った事でようやく神子が目覚めれば目の前に幸の姿が。
まだ軽く寝ぼけていながらも包み込む様に両手で幸を抱えてやる。
「不幸がぬしの居場所を見つけたのよ」
「大谷さん…すみません、つい眠ってしまって」
「構わぬわ。急くな出掛けでぬしも疲れておったのだろう」
「少しだけですけど。今から夕飯の支度をしますから」
「待ちやれ」
本日は朝っぱらから知り合いである豊臣秀吉の屋敷へ出掛けた事もあり神子は疲れを感じて眠りにおちたのだ。
その事を大谷に謝罪すると急いで夕餉の準備を始めようと立ち上がった。
しかし大谷が神子の腕を掴んで引き留めた
「どうしました…?」
「ぬしは何故 この間に来た」
「………」
振り向き様に大谷へ疑問の声を向ければ逆に自分が問い掛けられた。
唐突過ぎて思わず沈黙したが直ぐに口を開いた。
「ちょっと気になっただけなんですよ。色々、と」
「色々…?」
「まぁ気にしないで下さい。大した事はありませんから」
どこか独り言を呟く様に神子が言うと首を傾げながら大谷が眉をひそめる。
書庫から出ようと肩へ飛び乗って来た幸と共に神子が背を向けている内に大谷はチラリと床で置かれた本の表紙を見た。
表には桜の絵が描かれ題名は「花見の歴史」と刻まれていた。
少しばかり内容へ目を通そうと思ったが神子も幸も書庫から居なくなってしまったので本を棚に戻し大谷も廊下へと出た。
残り少なくなった桜の花が風に揺れ散った花弁が僅かに開いた障子の向こう側へと消えていった
,
何だろう何者かが自分に語り掛けている。
『…よ、…は…の…』
上手く聞き取れないし何処から語り掛けているのか姿さえ見えない。
故に顔も見えず私は只戸惑う。
周りを見渡しても誰も居ない。
無人だ。
私が一人立ち尽くしているだけで。
人の気配さえ皆無だ。
『…の…所は…の巣、』
巣?ますます意味が分からない。
語り掛けてくる声は足を歩めて場所を変えれど私の耳に届いてくる。
私に聞かないと選択はないらしい。
別段、耳障りと言う訳でもないけれど理解出来ない言葉を語り続けられても疑念しか浮かばない。
私にどうしろと……
「出てきやれ不幸よ」
『ピーッ!』
己が飼い鳥として連れてきた桜ブンチョウ幸を籠から出そうとする大谷。
幸とではなく不幸と呼ばれた事に気付いているのか気付いていないのか鳥にそんな事を求める方が可笑しな気がするが。
それでも幸は大谷の姿を見ただけで嬉しげに鳴き声を上げた。
幸は飼い主である大谷の特に頭の部分を気に入っていた。
籠の扉を開き人差し指を差し出せば幸は躊躇も無しに飛び乗った。
包帯に包まれている指に乗っているが幸は体勢を崩す様子も見せずにご機嫌な様だ。
もう片方の人差し指で頭を撫でてやれば目を細めて大人しくなる。
頭から尾の部分まで指先を滑らせる様に撫でてみるとピピッと一声上げて大谷を見上げる。
「ぬしは甘え上手よなァ。我や神子以外の人には見向きもせぬのに」
『ピッ?』
不思議そうに呟く大谷に対して幸は首を傾けながら疑問そうに鳴いた。
幸は大谷と神子以外の人間に対しては非常に攻撃的で警戒心も強かった。
それ故とある時に三成が幸を撫でようと指を近付けたら見事に噛まれてしまった。
アレ程に三成が痛がる姿を目にしたのは久方振りよ、と語りながらまた幸を撫でる。
頭を撫でて貰えば体をバタバタを動かして歓喜の鳴き声を歌の如く上げた。
「はて?神子の姿が見えぬな。探しに行くか」
『ピ~ッ♪』
ふと妻の姿も見えず声も聞こえない事に気付いた大谷は神子探しを開始した。
そんな大谷に同行するのか幸は指から飛び立って特等席である彼の頭を陣取った。
「ぬしも来やるか」
『ピィッ』
夜の中庭を存分に眺める事が出来る縁側の廊下を歩く。
緑の若葉に散った桜の花弁が混ざる庭の光景は春にしか見られないものだ。
大谷が歩く度に頭に陣取る幸は下から上と持ち上げられ実に楽しそうな様子だった。
「神子。聞こえておるならば返事をせい」
『ピーッ!』
軽く声量をあげながら大谷は神子の名を呼ぶ。
自分も神子を呼んでいるつもりなのだろうか大谷に続いて幸も鳴き声を上げる。
返事をしなければ姿も現さない。
困った大谷は顎に手を当てて考え込んだ。
それでも歩みは止めずに屋敷内を進む。
やがて屋敷の北側にさしかかった頃。
『ピッ!ピピーッ!』
「如何した幸」
唐突に大谷の頭を軽くつつき始めた幸。
考え込むのを中断して幸に反応する。
視線を廊下の床から上へと上げればピッタリと閉め切られた障子が目に入る。
最初はその障子に仕切られた部屋の内部を思いだせなかったがどうにか記憶を辿って導き出す。
南側に比べて日差しが注がれないこの部屋は多くの書が保管される…言わば書庫だ。
日差しが当たると書が痛んでしまう為、書等は北側に置きたいと大谷が申し出た故に。
「此所に居ると?」
『ピッ…』
頭上の幸に問い掛ければ当人は障子までつつき始めたので、それを止めて大谷は障子を開いた
「!」
『ピピッ』
居た。
大谷と幸に向かって背中を向けながら畳に体を横たわらせて。
「…眠っておるのか」
『ピーッ…』
まだ開いた障子に手を添えたまま大谷は呟いた。
躊躇いがちに小さく鳴いた幸は大谷の頭から飛び降り神子の枕元に移動する。
『ピッ、ピピッ』
そしておもむろに神子の頭を軽くつつく。
つつくと言うよりはよく見ると髪を引っ張っている様に見える。
勿論、髪を引く抜く訳がなく加減をしてクイクイと引っ張る。
「…ん、幸…?」
『ピーッ!』
数回引っ張った事でようやく神子が目覚めれば目の前に幸の姿が。
まだ軽く寝ぼけていながらも包み込む様に両手で幸を抱えてやる。
「不幸がぬしの居場所を見つけたのよ」
「大谷さん…すみません、つい眠ってしまって」
「構わぬわ。急くな出掛けでぬしも疲れておったのだろう」
「少しだけですけど。今から夕飯の支度をしますから」
「待ちやれ」
本日は朝っぱらから知り合いである豊臣秀吉の屋敷へ出掛けた事もあり神子は疲れを感じて眠りにおちたのだ。
その事を大谷に謝罪すると急いで夕餉の準備を始めようと立ち上がった。
しかし大谷が神子の腕を掴んで引き留めた
「どうしました…?」
「ぬしは
「………」
振り向き様に大谷へ疑問の声を向ければ逆に自分が問い掛けられた。
唐突過ぎて思わず沈黙したが直ぐに口を開いた。
「ちょっと気になっただけなんですよ。色々、と」
「色々…?」
「まぁ気にしないで下さい。大した事はありませんから」
どこか独り言を呟く様に神子が言うと首を傾げながら大谷が眉をひそめる。
書庫から出ようと肩へ飛び乗って来た幸と共に神子が背を向けている内に大谷はチラリと床で置かれた本の表紙を見た。
表には桜の絵が描かれ題名は「花見の歴史」と刻まれていた。
少しばかり内容へ目を通そうと思ったが神子も幸も書庫から居なくなってしまったので本を棚に戻し大谷も廊下へと出た。
残り少なくなった桜の花が風に揺れ散った花弁が僅かに開いた障子の向こう側へと消えていった
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