文よりも確信的なもの
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「次に会ったら私が分からせますよっ…と。わっ、速攻で返ってきた。刑部さん相当に不機嫌だなコレ…」
カチカチと携帯のボタンを押して返信すれば早打ちの一言では説明出来ない程の早さで返ってくるので、晴雅は彼の怒りが並大抵のものではない事を悟った。
ふと障子越しの廊下から声が聞こえなんだろうと軽く開いて覗いてみた。
「奥様まで出られてしまった…!」
「旦那様も御一緒だが、大丈夫だろうか」
小さい頃から見知った使用人二人が話しながら慌ただしくしている。
「どうしたの?凄い慌てて」
「晴雅お嬢様!」
「お嬢様、騒がしくしてしまい誠に申し訳ありません。ですが何も問題はありませんのでどうぞお部屋でごゆっくりされてて下さいませ」
障子を完全に全開するとその音と共に晴雅が聞けば一人は身を震わせた。
それでももう一人の使用人が冷静に部屋へ戻る様諭してくるので逆に疑問が浮かぶ。
「おっ、お嬢様ぁ!」
「お待ち下さいお嬢様!貴方が出てはなりませんっ!」
「石田様をお呼びせねば!!」
こんなに使用人が慌てる様子を見せるのは一つの理由しか思いつかない。
騒ぎの根源を察した晴雅は顔色を変えていきなり走り出した。
余りの動きに対応出来なかった使用人二人は大焦りで呼び戻そうと走り出すしかなかった。
「ーーーだから言っているでしょう、そもそも最初から貴方の所へうちの可愛い娘を行かせる訳ないし選択肢にすら無いの」
「妻がそう言って俺も一文字違わずだと言うのにまだ分からないのか」
「そこをなんとか!今回ようやく久し振りにお見かけ出来たんだ」
自分を呼び戻そうとする使用人達を振り切って玄関に辿り着けば扉越しで両親の声が聞こえる。
「お母さん!お父さん!大丈夫!?」
「ええ大丈夫よ。だから晴雅は三成くんと一緒に居なさい」
「今穏便に話し合いで解決してる途中でね。お前は部屋で待ってなさい」
すっかり空も屋敷内も中庭まで暗くなって唯一の光源は暗闇で浮かぶ丸い満月の光だけだった。
注がれるそれを浴びながら晴雅が二人並んで背を向けている両親を心配すればほぼ同時に返される。
一方の蚊帳の外にされかけている一人の男は悠長に「おおっ晴雅嬢!」と歓喜の声を上げていた。
「その呼び方は許可してませんよ。名前で呼ぶのもやめて下さい」
「まあまあそう言わずに…あなたにお会い出来て嬉しい限りなのです」
温度差が違う声色で無意識ながら恋人が口にする言葉を使い敬遠するが相手は全く意に介していなかった。
「晴雅、入るぞ」
一方の三成は風呂を終え湯気を漂わせながら恋人の自室へと戻って来た。
首に巻いたタオルを片手で押さえながら障子を開くも部屋は無人であった。
「晴雅…?何処に行った…」
己を待ってくれているだろうと頭の片隅で僅かに期待していたのにも関わらず見事それは打ち砕かれた。
少しの失望と寂しさを感じるものの諦めずに屋敷内を探し回る事にした。
「石田様!こちらにいらっしゃいましたか!」
「何だ。どうした」
「昼前に文を寄越してきた家門の輩がお嬢様をお呼びしろと騒ぎ出して…それに気付かれた晴雅お嬢様がご自分から、」
「!!」
すると大して移動も時間も経過していない内に使用人が走り寄って来るので確認を取れば文と聞いた刹那に姿を消した三成へ二人は名を呼びながら後を追った。
「いい加減に帰って貰えます?両親どころか叩き起こされるみんなが不憫だとは思わないんですか」
「そんな滅相もない。折角お会い出来て碌にお話すら許されないのも殺生な」
一方の晴雅はと言うと相変わらず無駄に食い下がる輩に苛立ち紛れで旧友の言葉を拝借して立ち去る様告げても全く意味がなかった。
「もうビンタしていいかしら?それでも帰らないならいっそ、」
「落ち着け朔夜。気持ちは至極分かるが今回は当代本人、使いの時とは違うんだ」
そもそも午前中に届いた文の時点で怒り心頭であった妻は素振りすら始め夫が宥めるも本心は同じであった。
「どうかお話だけでも…10分、いや5分だけでもいいっ!!」
「いや本当に諦めて下さいませんか。貴方には一欠片も興味がありませんし。私はもう一生を添い遂げると決めた相手が、」
晴雅の生家、月夜野一族は代々占いを生業 としてきた。
その腕前は近所はおろか様々な業界にも影響があるのではと噂される程のもので一般人は疎かなかなかのお歴々な者達も足蹴なく通って来る。
とは言え占いを求める者達の立場関係なく老若男女、接遇するのが月夜野一族である。
当代の朔夜も言うまでもなくなのだが今強く期待されているのが娘の晴雅で何気なく占った通り掛かりの者に親切を惜しまなければ近々よい事があると教えた。
するとその者はたまたま助けた老人が富豪の名家出身でそれはなかなかの礼と待遇を受けれたそうだ。
その一件や元々から名が知れ渡っていた月夜野一族とも言うのもあり婚姻を結ばせて貰いたいと接近してきたのが、今騒動の発端となっているこの男だった。
確かにこの男もやんごとなき地位の出身だが晴雅も両親どころか使用人達も完全に眼中になかった。
元から余りいい話を聞かない家門でありそもそも一番の理由は接近する当の前から既に晴雅は三成と廻り合っており二人を知る存在全てが誰も彼も邪魔立てを望まず許さないからだ。
「貴様、何故私の許可なく晴雅にふれている」
「み、三成っ!」
もはやなり振り構ってられないのか騒動の男は彼女の手首を掴んで縁談を進めたいとしぶとく言い寄り続けた。
そこへついに駆け付けた三成が瞬足で切り払わんばかりな勢いで間に割って入り恋人を鷲掴みにする男の手ごと引き離した。
本音は巻き込みたくないと思っていた片隅で求めていた存在の出現に晴雅は堪らず名を叫びかけてしまった。
朔夜も三成の到着に安堵する一方、娘の為に動く姿へ幸甚の余り「私の娘と義理の息子が尊いわぁ〜!!」と盛り上がっていると呆れ顔の白昼から「それどころじゃないだろ」と突っ込まれていた。
「なっ、何だお前は!突然現れて、私が高貴な家だと知らず、」
「貴様の方こそ何だ。私の晴雅へ軽薄に近寄るな」
(三成が、普段は恥ずかしがって大学でも滅多に話してこない三成が…!!)
恋人を己の背に匿い男と対峙する三成の言動へ思わず現状も忘れて晴雅は心が弾んでしまう。
加減して引き離された彼女と違い未だ腕を掴まれ力も詰められている男は憤怒するも困惑が勝りかけていた。
背丈は大きめな方だが下手をしたら晴雅よりも色白で見掛け上は華奢な三成の存在が別異に見えて後退りをしてしまいそうになる。
「どこぞの馬の骨とも知らない輩のお前に言われる筋合いはないっ!」
「私から見れば貴様こそ馬骨の言葉が相応しいが?」
どうにか振り解いて拘束された腕を摩りながら男が声を荒くするも、対する三成は冷めた目と表情そして声色で淡々と返す。
「晴雅は予 てより私と夫婦 に為る契りを結んでいる。身の程を弁えぬ存在が出しゃばるな」
自分を庇い守る様に背を向ける恋人の言葉を聞いて晴雅は頬が熱くなる気がしてついつい俯いてしまう。
そんな晴雅の手を三成は無意識ながら強く握っていた。
「っ……!!腕前は大したもんだが男を見る目は衰えているみたいだなあ月夜野一族さん。そもそも当代の選んだ男が自分の召使いだもんな」
「ちょっと!私個人を貶すのはいいけど三成やお母さんとお父さん達を侮辱するのは許さな、」
しかしとんでもない事に悔しさや負け惜しみからか捨て台詞のつもりで男が口を開きながら踵を返す。
無論、聞き捨てならない晴雅が普段は鳴りを顰ませている声色で言い放つよりも前に刹那で動く者が居た。
「貴様もう一度言ってみろ。気疎 い言葉しか解せないその舌に加えて品性が皆無なその手を切り落としてやる」
言うまでもなく三成が男の胸ぐらを掴み上げ威圧感を伴い殺気も宿る眼光で差し貫いた。
一瞬ばかり恐怖の余り幻覚を見たかもしれない男は彼の目が赤く燐光した様に錯覚していた。
姿容の時点で別異を感じていた三成の存在がより一層超過して認識せざるを得なくその場から逃げる様に及び腰で去っていった。
「あ〜あ…折角の三成との里帰りだったのに」
騒動がようやく治って(彼女の両親はしばし「二人共エモいわ〜!!」やら「三成くん!とても男前だったよ!」と盛り上がっていたが)寝伏の時間となり屋敷は静けさを取り戻した。
自室の縁側にて恋人の膝へ座り胸元に背中を密着させて身を委ねつつ晴雅が溢す。
そんな彼女の髪を後ろから撫でて彼なりに元気付ける三成。
「ごめんね…ってまた言ったら怒るよね」
「発言しているだろう。どうしようもない奴だなお前は」
数時間前は室内でしていたやり取りを再び繰り返せば予想出来ていた通りの反応が返された。
「まぁ色々あり過ぎたけど、三成が助けてくれたからほっとしたよ。ありがとう」
「……当然の事をしたまでだ」
「謙遜しちゃって〜それがらしいんだけど」
何はともあれ自分がある意味発端(そう言うと彼は怒りそうだが)となったひと騒動は三成のおかげで終止符を打ち、それを感謝すれば目を逸らしつつ然も当然だと言い切る。
それが恋人らしくて自分の知る三成そのものであると改めて強く実感出来て晴雅は安堵と幸せを感じる。
「それにしてもあの時の三成はかっこよかったぁ〜!何度でも思い出したくなっちゃう!」
「………そうか」
「確か私は予てから三成と、」
「やめろっ!!蒸し返すな!!!」
先程から脳内で何度も反芻し今も両手で押さえる頬が紅潮する彼女は彼が口にした言葉を再現しようとした。
発言者本人はそこまでされるのは流石に見逃せないらしく己の声でそれを遮った。
数分前は彼女とのやり取りを噛み締めていたのにいつも肝心な時に晴雅が乱してしまう。
「ごめんってば三成、拗ねないで」
「………貴様は私の気も知らずに」
「からかってるみたいに感じたら本当にごめん。でも三成の気持ちならさっきのでしっかり伝わったし理解してるよ」
完全に臍を曲げてしまった恋人は見るからに顔を背けてしまい気を損ねているのが分かるものの唯一確認出来る耳が赤く染まっている事に本人は気付いていなかった。
それを指摘しないで心根から謝りながら手で頬にふれるとこちらを見てくれたのでしっかりと左右で包み込んだ。
お互いの視線が絡み合いどちらが言うまでもなく距離が縮んで唇が重なる。
目撃者も介入者も居ないが故に二人の口付けは長く続いた。
ーーー翌日。
「久し振りねぇ秀吉。また大きくなって」
「久しいな朔夜。我はまだ止まらぬ」
二組の布団でそれぞれ眠りに就いていたものの母親に呼ばれ覚醒するその時まで三成と晴雅は手を繋いでいた。
もう居候先の屋敷から秀吉と半兵衛が迎えに来たと告げられ寝ぼけ眼から一気に目が覚めた二人は大急ぎで着替えやら準備を始めた。
大慌てな娘と恋人に笑いながら父親が朝餉を勧めどうにか白米を一粒も残さず食べ切って客室へ急げば間違いなく彼らだった。
土下座をしそうな勢いの三成を秀吉、半兵衛、朔夜が止め少しばかり談笑する。
「仕事ばかりにかまけてご飯を抜いちゃ駄目よ。特に半兵衛」
「分かっているよ朔夜。ちゃんと体調管理は秀吉のも含めて主眼を置いてる」
「それならいいんだけど。はい忘れない内にお土産、梨のタルト。みんなで分ければちょいどいい数だから」
「朔夜…我らの仲でありながら、」
「それなら私も貴方達の仲なのにって返したいんだけど?」
あの秀吉が後込み半兵衛もいつもの調子を出せない光景に三成が驚愕と新奇を感じていると真横の晴雅が「お母さんと秀吉様達はいつもあんなんなのよね」と呟く。
「本音は帰りも電車で良かったんだけど三成がなぁ」
「私に不服でもあるのか」
「いやえっと…」
話の途中で白昼が差し出してきた追加の土産で「あっ慶次の分を忘れる所だった」と溢す朔夜から追加分を預かり全員がお茶を飲み干してようやく屋敷を後にした。
豊臣邸の使いが運転する高級大型車に乗せられ帰路を進む。
不意に晴雅がポツリと溢すものだからすかさず三成が拾えば言い辛そうに口篭った。
「三成、気付いてなかったと思うけど行きの電車で乗り合わせた女の子達に注目されてたから…その」
「知らんな。むしろ貴様を秋波な眼で見る輩ばかり居たが?」
「そうなの!?」
言い淀んでいた言葉を三成の口からすらすらと出された真実に晴雅は驚きで変化させたのだった。
なおこのやり取りは前座席に居た半兵衛が知らぬ間に撮影しており後日、秀吉や彼女の両親へ送られた。
朔夜は相変わらず「国宝級っ!!!」と叫び白昼は「みんながびっくりしてるから自重しなさい」とそんな妻を落ち着かせるのに精を出していた。
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カチカチと携帯のボタンを押して返信すれば早打ちの一言では説明出来ない程の早さで返ってくるので、晴雅は彼の怒りが並大抵のものではない事を悟った。
ふと障子越しの廊下から声が聞こえなんだろうと軽く開いて覗いてみた。
「奥様まで出られてしまった…!」
「旦那様も御一緒だが、大丈夫だろうか」
小さい頃から見知った使用人二人が話しながら慌ただしくしている。
「どうしたの?凄い慌てて」
「晴雅お嬢様!」
「お嬢様、騒がしくしてしまい誠に申し訳ありません。ですが何も問題はありませんのでどうぞお部屋でごゆっくりされてて下さいませ」
障子を完全に全開するとその音と共に晴雅が聞けば一人は身を震わせた。
それでももう一人の使用人が冷静に部屋へ戻る様諭してくるので逆に疑問が浮かぶ。
「おっ、お嬢様ぁ!」
「お待ち下さいお嬢様!貴方が出てはなりませんっ!」
「石田様をお呼びせねば!!」
こんなに使用人が慌てる様子を見せるのは一つの理由しか思いつかない。
騒ぎの根源を察した晴雅は顔色を変えていきなり走り出した。
余りの動きに対応出来なかった使用人二人は大焦りで呼び戻そうと走り出すしかなかった。
「ーーーだから言っているでしょう、そもそも最初から貴方の所へうちの可愛い娘を行かせる訳ないし選択肢にすら無いの」
「妻がそう言って俺も一文字違わずだと言うのにまだ分からないのか」
「そこをなんとか!今回ようやく久し振りにお見かけ出来たんだ」
自分を呼び戻そうとする使用人達を振り切って玄関に辿り着けば扉越しで両親の声が聞こえる。
「お母さん!お父さん!大丈夫!?」
「ええ大丈夫よ。だから晴雅は三成くんと一緒に居なさい」
「今穏便に話し合いで解決してる途中でね。お前は部屋で待ってなさい」
すっかり空も屋敷内も中庭まで暗くなって唯一の光源は暗闇で浮かぶ丸い満月の光だけだった。
注がれるそれを浴びながら晴雅が二人並んで背を向けている両親を心配すればほぼ同時に返される。
一方の蚊帳の外にされかけている一人の男は悠長に「おおっ晴雅嬢!」と歓喜の声を上げていた。
「その呼び方は許可してませんよ。名前で呼ぶのもやめて下さい」
「まあまあそう言わずに…あなたにお会い出来て嬉しい限りなのです」
温度差が違う声色で無意識ながら恋人が口にする言葉を使い敬遠するが相手は全く意に介していなかった。
「晴雅、入るぞ」
一方の三成は風呂を終え湯気を漂わせながら恋人の自室へと戻って来た。
首に巻いたタオルを片手で押さえながら障子を開くも部屋は無人であった。
「晴雅…?何処に行った…」
己を待ってくれているだろうと頭の片隅で僅かに期待していたのにも関わらず見事それは打ち砕かれた。
少しの失望と寂しさを感じるものの諦めずに屋敷内を探し回る事にした。
「石田様!こちらにいらっしゃいましたか!」
「何だ。どうした」
「昼前に文を寄越してきた家門の輩がお嬢様をお呼びしろと騒ぎ出して…それに気付かれた晴雅お嬢様がご自分から、」
「!!」
すると大して移動も時間も経過していない内に使用人が走り寄って来るので確認を取れば文と聞いた刹那に姿を消した三成へ二人は名を呼びながら後を追った。
「いい加減に帰って貰えます?両親どころか叩き起こされるみんなが不憫だとは思わないんですか」
「そんな滅相もない。折角お会い出来て碌にお話すら許されないのも殺生な」
一方の晴雅はと言うと相変わらず無駄に食い下がる輩に苛立ち紛れで旧友の言葉を拝借して立ち去る様告げても全く意味がなかった。
「もうビンタしていいかしら?それでも帰らないならいっそ、」
「落ち着け朔夜。気持ちは至極分かるが今回は当代本人、使いの時とは違うんだ」
そもそも午前中に届いた文の時点で怒り心頭であった妻は素振りすら始め夫が宥めるも本心は同じであった。
「どうかお話だけでも…10分、いや5分だけでもいいっ!!」
「いや本当に諦めて下さいませんか。貴方には一欠片も興味がありませんし。私はもう一生を添い遂げると決めた相手が、」
晴雅の生家、月夜野一族は代々占いを
その腕前は近所はおろか様々な業界にも影響があるのではと噂される程のもので一般人は疎かなかなかのお歴々な者達も足蹴なく通って来る。
とは言え占いを求める者達の立場関係なく老若男女、接遇するのが月夜野一族である。
当代の朔夜も言うまでもなくなのだが今強く期待されているのが娘の晴雅で何気なく占った通り掛かりの者に親切を惜しまなければ近々よい事があると教えた。
するとその者はたまたま助けた老人が富豪の名家出身でそれはなかなかの礼と待遇を受けれたそうだ。
その一件や元々から名が知れ渡っていた月夜野一族とも言うのもあり婚姻を結ばせて貰いたいと接近してきたのが、今騒動の発端となっているこの男だった。
確かにこの男もやんごとなき地位の出身だが晴雅も両親どころか使用人達も完全に眼中になかった。
元から余りいい話を聞かない家門でありそもそも一番の理由は接近する当の前から既に晴雅は三成と廻り合っており二人を知る存在全てが誰も彼も邪魔立てを望まず許さないからだ。
「貴様、何故私の許可なく晴雅にふれている」
「み、三成っ!」
もはやなり振り構ってられないのか騒動の男は彼女の手首を掴んで縁談を進めたいとしぶとく言い寄り続けた。
そこへついに駆け付けた三成が瞬足で切り払わんばかりな勢いで間に割って入り恋人を鷲掴みにする男の手ごと引き離した。
本音は巻き込みたくないと思っていた片隅で求めていた存在の出現に晴雅は堪らず名を叫びかけてしまった。
朔夜も三成の到着に安堵する一方、娘の為に動く姿へ幸甚の余り「私の娘と義理の息子が尊いわぁ〜!!」と盛り上がっていると呆れ顔の白昼から「それどころじゃないだろ」と突っ込まれていた。
「なっ、何だお前は!突然現れて、私が高貴な家だと知らず、」
「貴様の方こそ何だ。私の晴雅へ軽薄に近寄るな」
(三成が、普段は恥ずかしがって大学でも滅多に話してこない三成が…!!)
恋人を己の背に匿い男と対峙する三成の言動へ思わず現状も忘れて晴雅は心が弾んでしまう。
加減して引き離された彼女と違い未だ腕を掴まれ力も詰められている男は憤怒するも困惑が勝りかけていた。
背丈は大きめな方だが下手をしたら晴雅よりも色白で見掛け上は華奢な三成の存在が別異に見えて後退りをしてしまいそうになる。
「どこぞの馬の骨とも知らない輩のお前に言われる筋合いはないっ!」
「私から見れば貴様こそ馬骨の言葉が相応しいが?」
どうにか振り解いて拘束された腕を摩りながら男が声を荒くするも、対する三成は冷めた目と表情そして声色で淡々と返す。
「晴雅は
自分を庇い守る様に背を向ける恋人の言葉を聞いて晴雅は頬が熱くなる気がしてついつい俯いてしまう。
そんな晴雅の手を三成は無意識ながら強く握っていた。
「っ……!!腕前は大したもんだが男を見る目は衰えているみたいだなあ月夜野一族さん。そもそも当代の選んだ男が自分の召使いだもんな」
「ちょっと!私個人を貶すのはいいけど三成やお母さんとお父さん達を侮辱するのは許さな、」
しかしとんでもない事に悔しさや負け惜しみからか捨て台詞のつもりで男が口を開きながら踵を返す。
無論、聞き捨てならない晴雅が普段は鳴りを顰ませている声色で言い放つよりも前に刹那で動く者が居た。
「貴様もう一度言ってみろ。
言うまでもなく三成が男の胸ぐらを掴み上げ威圧感を伴い殺気も宿る眼光で差し貫いた。
一瞬ばかり恐怖の余り幻覚を見たかもしれない男は彼の目が赤く燐光した様に錯覚していた。
姿容の時点で別異を感じていた三成の存在がより一層超過して認識せざるを得なくその場から逃げる様に及び腰で去っていった。
「あ〜あ…折角の三成との里帰りだったのに」
騒動がようやく治って(彼女の両親はしばし「二人共エモいわ〜!!」やら「三成くん!とても男前だったよ!」と盛り上がっていたが)寝伏の時間となり屋敷は静けさを取り戻した。
自室の縁側にて恋人の膝へ座り胸元に背中を密着させて身を委ねつつ晴雅が溢す。
そんな彼女の髪を後ろから撫でて彼なりに元気付ける三成。
「ごめんね…ってまた言ったら怒るよね」
「発言しているだろう。どうしようもない奴だなお前は」
数時間前は室内でしていたやり取りを再び繰り返せば予想出来ていた通りの反応が返された。
「まぁ色々あり過ぎたけど、三成が助けてくれたからほっとしたよ。ありがとう」
「……当然の事をしたまでだ」
「謙遜しちゃって〜それがらしいんだけど」
何はともあれ自分がある意味発端(そう言うと彼は怒りそうだが)となったひと騒動は三成のおかげで終止符を打ち、それを感謝すれば目を逸らしつつ然も当然だと言い切る。
それが恋人らしくて自分の知る三成そのものであると改めて強く実感出来て晴雅は安堵と幸せを感じる。
「それにしてもあの時の三成はかっこよかったぁ〜!何度でも思い出したくなっちゃう!」
「………そうか」
「確か私は予てから三成と、」
「やめろっ!!蒸し返すな!!!」
先程から脳内で何度も反芻し今も両手で押さえる頬が紅潮する彼女は彼が口にした言葉を再現しようとした。
発言者本人はそこまでされるのは流石に見逃せないらしく己の声でそれを遮った。
数分前は彼女とのやり取りを噛み締めていたのにいつも肝心な時に晴雅が乱してしまう。
「ごめんってば三成、拗ねないで」
「………貴様は私の気も知らずに」
「からかってるみたいに感じたら本当にごめん。でも三成の気持ちならさっきのでしっかり伝わったし理解してるよ」
完全に臍を曲げてしまった恋人は見るからに顔を背けてしまい気を損ねているのが分かるものの唯一確認出来る耳が赤く染まっている事に本人は気付いていなかった。
それを指摘しないで心根から謝りながら手で頬にふれるとこちらを見てくれたのでしっかりと左右で包み込んだ。
お互いの視線が絡み合いどちらが言うまでもなく距離が縮んで唇が重なる。
目撃者も介入者も居ないが故に二人の口付けは長く続いた。
ーーー翌日。
「久し振りねぇ秀吉。また大きくなって」
「久しいな朔夜。我はまだ止まらぬ」
二組の布団でそれぞれ眠りに就いていたものの母親に呼ばれ覚醒するその時まで三成と晴雅は手を繋いでいた。
もう居候先の屋敷から秀吉と半兵衛が迎えに来たと告げられ寝ぼけ眼から一気に目が覚めた二人は大急ぎで着替えやら準備を始めた。
大慌てな娘と恋人に笑いながら父親が朝餉を勧めどうにか白米を一粒も残さず食べ切って客室へ急げば間違いなく彼らだった。
土下座をしそうな勢いの三成を秀吉、半兵衛、朔夜が止め少しばかり談笑する。
「仕事ばかりにかまけてご飯を抜いちゃ駄目よ。特に半兵衛」
「分かっているよ朔夜。ちゃんと体調管理は秀吉のも含めて主眼を置いてる」
「それならいいんだけど。はい忘れない内にお土産、梨のタルト。みんなで分ければちょいどいい数だから」
「朔夜…我らの仲でありながら、」
「それなら私も貴方達の仲なのにって返したいんだけど?」
あの秀吉が後込み半兵衛もいつもの調子を出せない光景に三成が驚愕と新奇を感じていると真横の晴雅が「お母さんと秀吉様達はいつもあんなんなのよね」と呟く。
「本音は帰りも電車で良かったんだけど三成がなぁ」
「私に不服でもあるのか」
「いやえっと…」
話の途中で白昼が差し出してきた追加の土産で「あっ慶次の分を忘れる所だった」と溢す朔夜から追加分を預かり全員がお茶を飲み干してようやく屋敷を後にした。
豊臣邸の使いが運転する高級大型車に乗せられ帰路を進む。
不意に晴雅がポツリと溢すものだからすかさず三成が拾えば言い辛そうに口篭った。
「三成、気付いてなかったと思うけど行きの電車で乗り合わせた女の子達に注目されてたから…その」
「知らんな。むしろ貴様を秋波な眼で見る輩ばかり居たが?」
「そうなの!?」
言い淀んでいた言葉を三成の口からすらすらと出された真実に晴雅は驚きで変化させたのだった。
なおこのやり取りは前座席に居た半兵衛が知らぬ間に撮影しており後日、秀吉や彼女の両親へ送られた。
朔夜は相変わらず「国宝級っ!!!」と叫び白昼は「みんながびっくりしてるから自重しなさい」とそんな妻を落ち着かせるのに精を出していた。
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