月の雨
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「晴雅殿っ!」
「…どうしたの家康くん」
婆娑羅大学にて教室へ向かっていた晴雅は背後から掛けられ生気に満ちた声で呼ばれた。
ドキリと跳ねた鼓動を整え振り向くと恋人・石田三成のクラスメイトで生徒会長の徳川家康が居た。
「もう殿は付けなくて大丈夫だよ」
「ならばワシの事も昔の様に竹千代と呼んではくれないのか?」
「流石に大学じゃねぇ…分かる人はいいんだけど」
見ているだけで不思議と温かみを錯覚してしまえそうな雰囲気の家康が残念そうに溢すので苦笑いしつつ答えた。
「それで何かあったの?」
「そうだった!実は来月の秋頃に剣道の大会があってだな、この大学でも参加者が上がったんだが一人怪我をしてしまったんだ」
「あらら…大丈夫かしら」
「しばらく安静にすれば問題ないと聞いた。ただ人数が一人欠けてしまうらしい。そこで三成を代理として頼みたいんだ」
自分を呼び止めたと言う事は何かしら事情がある筈だと察した晴雅はもしやと予想していたらそれは的中した。
「三成は居合が十八番なんだけどな。でも刀を握らせたら腕前はぴかいちだものね」
「そうなんだ!だから三成に出て貰いたいんだがなかなか了承してくれなくてなあ」
「まあそう言う事は余り気乗りしないタイプだもの」
しみじみと呟きながら恋人の勇姿を思い出す彼女に対して家康は困った顔色で眉を下げていた。
同じ様に三成の性格を熟知し理解している晴雅も諦めが近い表情となる。
「すまないが晴雅からも説得して貰えないだろうか」
「う〜ん…秀吉様か半兵衛様がお願いすれば即答するだろうけど私だと厳しそう」
「そうでもないと思うぞ。昔から三成は晴雅に可能な限り応え様と頑張ってたんだ。勿論、今も」
それでも同級生として友人として深く信頼している彼の力を借りたいと願う家康の頼みに無理だと言い切れなくてどうしようかと悩む。
しかし本音は恋人の勇ましい姿を再び見てみたい気持ちも存在し折角のチャンスだと晴雅はちゃっかり思った。
「そうね、どうせなら剣道の胴着姿な三成が見たいしやってみようか」
「本当か!晴雅ならそう言ってくれると思っていた!」
「確定した訳じゃないからね?一か八か駄目元だからね」
共に同じ屋敷で居候しながらも三成の和服姿を余り見掛けた事がない(最近だと同行してくれた自分の実家へ里帰りした時位)ので私情も混ざってはいるが家康の頼みや剣道部の者達の事もあり前向きに検討した。
まだ話題の張本人へ話してもないのに確定したかの如く声量を張り上げる家康へ晴雅が念入りで繰り返すのだった。
「はぁ…ちゃんと笑えてたかな…」
去り際でも「ありがとう晴雅っ!」と周りの生徒達が振り返る程の声で礼をしてくるので相変わらずの子だな、と内心で響かせながら手を振り返した。
家康の後ろ姿が見えなくなると同時で肩の力が抜けて口からも深い息を吐き出す。
手で顔を撫でながら自分では見えないが故に一抹の不安が過 ぎる。
相手は誠心誠意に真っ直ぐ対話してくれているのだから自分も返さなければならないのに上手く出来る自信が無かった。
見えない何かが例えるなら棘が胸中に刺さっている様な感覚がしていつもの調子を保てない。
そそくさと一人教室へ入った晴雅は自分の席で座りながら(かすがちゃんが朝練で良かった…)と安堵せざるを得なかった。
「晴雅、今日は久し振りに二人で食べないか」
「あれ?上杉先生とはどうしたの」
それから数刻後、午前中の授業を受け終えてクラスメイト兼ね親友のかすがから昼食の誘いを受けた。
疑問を抱 く理由だが彼女は日本史の教師・上杉謙信と懇意な関係を築いている真っ最中でありここ最近の昼食が二人で仲良く過ごす大切な時間の筈だった。
なので以前の様に自分と昼食を取ると言い出すが故、心配そうな親友の様子へ急ぎかすがが「大丈夫だ。謙信様は御食事も並行した会合に御参加する日なんだ」と教えてくれた。
「嗚呼、先生達でお昼と会議を同時進行ね。そう言えば刑部さんも参加してた」
「謙信様との御時間も大事だが私は晴雅との時間も過ごしたい」
「かすがちゃあんっ…!!」
現在は自宅療養中の為、休職しているかつてこの大学で教授として勤めていた旧友との会話を回顧し懐かしく思う。
加えてかすがが迷いなく語ってくれた言葉に晴雅は歓喜し涙が出そうになり(親友が尊くて辛い)と内心で叫んでいた。
「謙信様も晴雅の話を聞かれて偶には御食事へ同席をお望みされている」
「そうなの?でも折角の二人の時間を邪魔したくないし…」
「邪魔になんてならない。晴雅ならむしろ私は嬉しい」
「かすがちゃぁぁぁんっ!!」
一緒に仲良くお喋りしつつ階段を登って屋上へ向かう途中の時点で天外突破しそうだった。
今日も運良く二人以外の生徒は見当たらなくて思う存分に弁当と青空を味わう事が出来る。
「そう言えば慶次くんも上杉先生と仲良しだし私と一緒に応援チームを結成してるんだけど呼ばなくて大丈夫?」
「慶次の奴は謙信様と仲良くし過ぎなんだっ!!」
「うん、同性でも好きな人と距離感近過ぎるといい気持ちしないよね。分かる分かる」
和気藹々と女子特有のトークを繰り返しながら「私も三成と刑部さんが仲良過ぎて変な笑いが出る時あるもん」やら「やっぱりそうなるよな」となごやかに時間も流れてゆく。
「晴雅」
「ん?なあにかすがちゃん」
お互いに懇意な存在が居る者同士で会話が途切れる事もなく弁当を食べ終えても尽きない。
すると不意にかすがが名を呼んでくるのでいつもの様に返事をした。
「私の居ない間で何かあったのか?」
「ええ何で?可笑しな所でもあった?」
「その、余計な世話になったらすまないが…いつもより空元気な様に見えてな」
「………」
しかし次に掛けられた言葉で思わず唖然となりそうだったがどうにか聞き返した。
少し言い辛そうながらも自分の身を心配してくれている親友の優しさへ沈黙してしまうがそんな形で返したくないのでなんとか話し出す。
「……この前の休みの時にねちょっといざこざがあって。大丈夫だよ本当に取っ組み合いじゃなくて口喧嘩みたいな感じ」
声量を下げておずおずと吐き出し始めた晴雅のある言葉で思わず身構えたかすがを落ち着かせ続けた。
「その時に忘れてたつもり、ううん忘れてる振りをしてた事を指摘されちゃって私はまだまだ未熟だなあって」
「未熟なんて、私も昔は忍としての在り方が危うくなっていたんだ」
どこか自虐的に笑う彼女を見兼ねて自らの身の上
を明かして励まそうとする。
「誰にだってひた隠しにしたくても隠し切れない時もある。自分一人で抱えてしまいたくなるが…少し位本音を溢したっていい」
「そうだよね…でも心配掛けたくなくて話すのをやめちゃって頭が混乱しそうなっちゃって…」
「その気持ちも分かる。だが私は晴雅に一人苦しんで欲しくない」
視線を落としいつもの明るい親友の姿が真逆に見えてかすがは何としてでも晴雅を元気付けたかった。
背中にポンッと手を当ててから摩り始めてくれた親友へ思わず涙が溢れそうなる。
だが場所や申し訳なさから我慢しようと堪えれば肩が震えだしてしまう。
そんな晴雅をかすがは優しく声をかけて寄り添い続けてくれた。
「落ち着けたか?」
「うん…ありがとうかすがちゃん、ごめんね」
「何を謝るんだ。私は晴雅の親友として当たり前の事をしたまで」
軽く視界が滲んで見えつつも精一杯の笑みを浮かべて感謝を伝えれば当然だと言わんばかりに速攻で返してくれ彼女と言う存在がありがたかった。
それでもまだ調子が万全に見えないのでかすがは保健室で少し休んだ方がいいと薦め素直に頷いた晴雅を支えながら付き添っていった。
保健医に彼女を任せるなり踵を返してある場所へと素早い動きで向かい始めた。
擦れ違う男女のそれぞれが驚き振り向くが既にその姿は見えなくなっていた。
「石田っ!!」
「!」
声を張り上げながらとある教室の扉を勢い良く開けば名指しされた存在は瞬時に振り向く。
突如現れたかすがと彼女が名を叫んだ相手の三成達だけに教室内は騒然となった。
「あれ?かすがさんって上杉先生にアタックしてなかったっけ」
「石田の奴も彼女が居るって噂があるけどな」
各々がひそひそ声で憶測を話し出す中で家康と長曾我部元親そして伊達政宗が二人を見つめている。
「何用だ貴様、馴れ馴れしく私の名を呼ぶな。許可していない」
「ならさっさと言わせて貰う!お前が居ながらどうして晴雅があんな風になっているんだ!?」
「!!晴雅が何だと…?」
最初は相変わらずの強面顔で睨みまで利かせながら三成が威圧的に問うも怯む気配を見せずかすがも問い詰めた。
恋人の名を出されて一瞬ばかり目を見開いた彼は足早に近付く。
二人が漂わす尋常ではない覇気に蚊帳の外な生徒達はひそひそ話や茶化す意思さえ憚られた。
「晴雅の事だから仕方ないとは思っていた。お前となれば尚更迷惑かけまいと痩せ我慢するだろうからな」
「貴様に私達の掛り合いを詰 られる謂れはない」
「謂れなどいちいち必要ない!晴雅は私の親友なんだぞっ!」
本心は晴雅の困る様な事をしたくないがそのまま放っておくのも出来る訳がなく目の前の存在へ対峙する。
無論、三成も己と恋人の繋がりにとやかく言及される事は好ましくないが故に鋭い視線を向けて返す。
「おいおい喧嘩なんざしてる暇があったら月夜野の所へ行ってやるのが一番じゃねぇかよ」
「晴雅なら今朝、ワシも話したが特に体調は悪く見えなかったぞ。もしかして見落としてしまってたのか…」
「!!」
一触即発な気配まで生まれ出し他の生徒達が不安がる様子を見逃せず元親も言葉だけながら介入した。
そこへ家康も荒々しさを穏やかにさせ様と己が知る限りの情報を口にすれば三成は表情を一変させる。
「家康ゥ!!貴様まさか晴雅と遭逢したのか!?」
「あ、嗚呼…お前が剣道部の助太刀として参加してくれる様に説得を頼んだんだが」
「よりにもよって今、この時に…!貴様ァ…!!」
「もしかして晴雅に何かあったのか三、」
我を忘れた三成が家康の胸倉を掴んで声を荒げる姿へ元親と伊達が目を丸くして立ち上がり他の生徒達もギョッと表情が崩れ始め教室内は騒然となった。
鬼気迫る顔色で歯を食い縛りまだまだ言葉を連ねそうだったが「今はそんな事をしている場合か!お前は早く晴雅の元へ行け!!」とかすがに叱責され手を離すと一瞥処か睨みつけ目にも止まらぬ速さで部屋から出ていった。
「家康大丈夫か?」
「ワシは大丈夫だ。それよりも晴雅が心配だな」
「石田もそうだが、月夜野の奴も気骨稜稜だろうからな」
手荒な扱いを受けたにも関わらずむしろ先程から話の種となっている存在を心配する家康へ元親が気に掛ける。
そんな二人の隣で静観していた伊達が独り言の様に呟くので「どう言う意味だ?独眼竜」と家康から問われると「似たもん同士って事だ。腹の底までな」と腕を組んだまま答えた。
「晴雅っ!!」
下手をしたらヒビが走ってしまいそうな勢いで保健室の扉を開いた所為と大そうな声量で叫び養護教諭の女性が至極驚愕するのも無理はなかった。
だが三成はそれらすら意識になく医療用カーテンに隠されたベッドへ一直線で駆け寄る。
制止する暇もなかった教諭は「もしかしてかすがさんが話してた石田くん?」とその背中に問い掛けてみれば短い相槌を打たれただけだった。
「月夜野さんなら熱もないし吐き気もないみたいだけど顔色が悪そうで心配だから念の為、横にならせて休ませたわ」
扉の時とは違ってカーテンは静かに開いた様子へ少し呆れた顔付きで現状を語られた。
カーテンと同様に白の統一されたベッドへ仰臥位 の体勢で眠っている晴雅を三成は懸念の色で見つめる。
そっと手を伸ばして頬にふれれば程良い体温を感じたが彼女の心緒を察している彼は無力さがじわじわと深くなってゆく。
何故こんな状況になってしまったのか理由を一番で知る三成はこうなる前に早く己から晴雅の心積もりを傾聴するべきだったと後悔するがどうしようもなかった。
「……みつなり」
「!晴雅っ…!」
すると自分にふれる感触で目を覚ましたのかぼんやりとした目で見上げてくる恋人が己の名を呼び覚醒に気付いた。
「調子はどうだ」
「一応大丈夫…ごめん三成。私、」
「言うな。分かっている」
身体的な具合に支障がない事は悟っているがそれでも聞かずには居られなく答えも問題なかった。
だが目線と声量も落として消え入る様な呟きを溢す晴雅の手を握りながら三成が遮る。
「現今 はもう帰参しろ。これ以上あの男と深入りするな。私も同道する」
「…うん、でも三成はちゃんと授業受けて。皆勤賞逃しちゃうから」
「そんなものどうでもいい」
一目だけで意気消沈している様が分かり今日はもう早退するべきだと提言すれば素直に受け入れられたが同行は断られた。
彼女が自分よりも己を優先したがる事は誰よりも身に染みて体験しており尚更、了承する気などなかった。
故に先手として携帯を取り出すなり居候先の屋敷へ繋げ使いの者に迎えを寄越す様告げた。
それを止めたくて動き出そうとする晴雅の額を苦もなく押さえ電話も続ける三成の背中を何とも言えない顔で傍観する教諭がいた。
「晴雅!大丈夫かっ」
「あ、かすがちゃん…本当にごめんね。今日は迷惑かけてばっかりで、」
「迷惑など思っていない、無理せず休め。授業とノートも任せろ。ほら鞄だ」
「ありがとう…」
通話を切り携帯も畳んで隠しへ仕舞う恋人の行動に諦めな溜め息が溢れるものどうせ言い聞かせても変わらないと悟って三成に手助けされながらベッドから立ち上がる。
すると再び部屋の扉が開かれ両手それぞれで鞄を持つかすがの姿が。
どうやら晴雅の鞄を持ってきてくれた様で早退を勘付いていたらしい彼女へありがたみと驚きが入り混じる。
加えて三成の分も持参してくれていた様で「ありがたく思うんだな」と言い放たれた彼は返事もせず顔を背けてしまった。
いつもの晴雅なら叱りつけている所だが状況が状況だけに眉を顰めながら恋人を見据えるだけに留まった。
それに気付いているかすがは「お前だけの為ではない。晴雅に感謝しろ」と繋げた。
その後、校門まで見送りに来てくれた親友へ感謝を告げ三成に付き添われながら晴雅は屋敷から迎えとして現れた車へ乗り込んだのだった。
「三成の完全無欠な登校経歴が〜」
「またその話か。どうでもいいと言っている筈だが」
「どうでも良くないよぉ…」
屋敷の使用人が運転する車の後部座席にて座る二人だがその距離は近く密接している。
先に乗り込んだ三成に手を引かれるがまま乗り込めばそのまま恋人の肩へ頭を預ける形となった。
いつもなら懇意な関係ながら羞恥心で積極的にはふれ合ってこない彼が自然な流れでこの様な体勢を取ってくる事に驚くも服越しながら頬から通じる三成の温度が心地良くて精神的にも落ち着いてくる。
先程から変わらず嘆きを溢し続ける晴雅へ呆れ返るも己へ身を委ねる恋人の肩へ腕を回し支え続けた
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「…どうしたの家康くん」
婆娑羅大学にて教室へ向かっていた晴雅は背後から掛けられ生気に満ちた声で呼ばれた。
ドキリと跳ねた鼓動を整え振り向くと恋人・石田三成のクラスメイトで生徒会長の徳川家康が居た。
「もう殿は付けなくて大丈夫だよ」
「ならばワシの事も昔の様に竹千代と呼んではくれないのか?」
「流石に大学じゃねぇ…分かる人はいいんだけど」
見ているだけで不思議と温かみを錯覚してしまえそうな雰囲気の家康が残念そうに溢すので苦笑いしつつ答えた。
「それで何かあったの?」
「そうだった!実は来月の秋頃に剣道の大会があってだな、この大学でも参加者が上がったんだが一人怪我をしてしまったんだ」
「あらら…大丈夫かしら」
「しばらく安静にすれば問題ないと聞いた。ただ人数が一人欠けてしまうらしい。そこで三成を代理として頼みたいんだ」
自分を呼び止めたと言う事は何かしら事情がある筈だと察した晴雅はもしやと予想していたらそれは的中した。
「三成は居合が十八番なんだけどな。でも刀を握らせたら腕前はぴかいちだものね」
「そうなんだ!だから三成に出て貰いたいんだがなかなか了承してくれなくてなあ」
「まあそう言う事は余り気乗りしないタイプだもの」
しみじみと呟きながら恋人の勇姿を思い出す彼女に対して家康は困った顔色で眉を下げていた。
同じ様に三成の性格を熟知し理解している晴雅も諦めが近い表情となる。
「すまないが晴雅からも説得して貰えないだろうか」
「う〜ん…秀吉様か半兵衛様がお願いすれば即答するだろうけど私だと厳しそう」
「そうでもないと思うぞ。昔から三成は晴雅に可能な限り応え様と頑張ってたんだ。勿論、今も」
それでも同級生として友人として深く信頼している彼の力を借りたいと願う家康の頼みに無理だと言い切れなくてどうしようかと悩む。
しかし本音は恋人の勇ましい姿を再び見てみたい気持ちも存在し折角のチャンスだと晴雅はちゃっかり思った。
「そうね、どうせなら剣道の胴着姿な三成が見たいしやってみようか」
「本当か!晴雅ならそう言ってくれると思っていた!」
「確定した訳じゃないからね?一か八か駄目元だからね」
共に同じ屋敷で居候しながらも三成の和服姿を余り見掛けた事がない(最近だと同行してくれた自分の実家へ里帰りした時位)ので私情も混ざってはいるが家康の頼みや剣道部の者達の事もあり前向きに検討した。
まだ話題の張本人へ話してもないのに確定したかの如く声量を張り上げる家康へ晴雅が念入りで繰り返すのだった。
「はぁ…ちゃんと笑えてたかな…」
去り際でも「ありがとう晴雅っ!」と周りの生徒達が振り返る程の声で礼をしてくるので相変わらずの子だな、と内心で響かせながら手を振り返した。
家康の後ろ姿が見えなくなると同時で肩の力が抜けて口からも深い息を吐き出す。
手で顔を撫でながら自分では見えないが故に一抹の不安が
相手は誠心誠意に真っ直ぐ対話してくれているのだから自分も返さなければならないのに上手く出来る自信が無かった。
見えない何かが例えるなら棘が胸中に刺さっている様な感覚がしていつもの調子を保てない。
そそくさと一人教室へ入った晴雅は自分の席で座りながら(かすがちゃんが朝練で良かった…)と安堵せざるを得なかった。
「晴雅、今日は久し振りに二人で食べないか」
「あれ?上杉先生とはどうしたの」
それから数刻後、午前中の授業を受け終えてクラスメイト兼ね親友のかすがから昼食の誘いを受けた。
疑問を
なので以前の様に自分と昼食を取ると言い出すが故、心配そうな親友の様子へ急ぎかすがが「大丈夫だ。謙信様は御食事も並行した会合に御参加する日なんだ」と教えてくれた。
「嗚呼、先生達でお昼と会議を同時進行ね。そう言えば刑部さんも参加してた」
「謙信様との御時間も大事だが私は晴雅との時間も過ごしたい」
「かすがちゃあんっ…!!」
現在は自宅療養中の為、休職しているかつてこの大学で教授として勤めていた旧友との会話を回顧し懐かしく思う。
加えてかすがが迷いなく語ってくれた言葉に晴雅は歓喜し涙が出そうになり(親友が尊くて辛い)と内心で叫んでいた。
「謙信様も晴雅の話を聞かれて偶には御食事へ同席をお望みされている」
「そうなの?でも折角の二人の時間を邪魔したくないし…」
「邪魔になんてならない。晴雅ならむしろ私は嬉しい」
「かすがちゃぁぁぁんっ!!」
一緒に仲良くお喋りしつつ階段を登って屋上へ向かう途中の時点で天外突破しそうだった。
今日も運良く二人以外の生徒は見当たらなくて思う存分に弁当と青空を味わう事が出来る。
「そう言えば慶次くんも上杉先生と仲良しだし私と一緒に応援チームを結成してるんだけど呼ばなくて大丈夫?」
「慶次の奴は謙信様と仲良くし過ぎなんだっ!!」
「うん、同性でも好きな人と距離感近過ぎるといい気持ちしないよね。分かる分かる」
和気藹々と女子特有のトークを繰り返しながら「私も三成と刑部さんが仲良過ぎて変な笑いが出る時あるもん」やら「やっぱりそうなるよな」となごやかに時間も流れてゆく。
「晴雅」
「ん?なあにかすがちゃん」
お互いに懇意な存在が居る者同士で会話が途切れる事もなく弁当を食べ終えても尽きない。
すると不意にかすがが名を呼んでくるのでいつもの様に返事をした。
「私の居ない間で何かあったのか?」
「ええ何で?可笑しな所でもあった?」
「その、余計な世話になったらすまないが…いつもより空元気な様に見えてな」
「………」
しかし次に掛けられた言葉で思わず唖然となりそうだったがどうにか聞き返した。
少し言い辛そうながらも自分の身を心配してくれている親友の優しさへ沈黙してしまうがそんな形で返したくないのでなんとか話し出す。
「……この前の休みの時にねちょっといざこざがあって。大丈夫だよ本当に取っ組み合いじゃなくて口喧嘩みたいな感じ」
声量を下げておずおずと吐き出し始めた晴雅のある言葉で思わず身構えたかすがを落ち着かせ続けた。
「その時に忘れてたつもり、ううん忘れてる振りをしてた事を指摘されちゃって私はまだまだ未熟だなあって」
「未熟なんて、私も昔は忍としての在り方が危うくなっていたんだ」
どこか自虐的に笑う彼女を見兼ねて自らの身の上
を明かして励まそうとする。
「誰にだってひた隠しにしたくても隠し切れない時もある。自分一人で抱えてしまいたくなるが…少し位本音を溢したっていい」
「そうだよね…でも心配掛けたくなくて話すのをやめちゃって頭が混乱しそうなっちゃって…」
「その気持ちも分かる。だが私は晴雅に一人苦しんで欲しくない」
視線を落としいつもの明るい親友の姿が真逆に見えてかすがは何としてでも晴雅を元気付けたかった。
背中にポンッと手を当ててから摩り始めてくれた親友へ思わず涙が溢れそうなる。
だが場所や申し訳なさから我慢しようと堪えれば肩が震えだしてしまう。
そんな晴雅をかすがは優しく声をかけて寄り添い続けてくれた。
「落ち着けたか?」
「うん…ありがとうかすがちゃん、ごめんね」
「何を謝るんだ。私は晴雅の親友として当たり前の事をしたまで」
軽く視界が滲んで見えつつも精一杯の笑みを浮かべて感謝を伝えれば当然だと言わんばかりに速攻で返してくれ彼女と言う存在がありがたかった。
それでもまだ調子が万全に見えないのでかすがは保健室で少し休んだ方がいいと薦め素直に頷いた晴雅を支えながら付き添っていった。
保健医に彼女を任せるなり踵を返してある場所へと素早い動きで向かい始めた。
擦れ違う男女のそれぞれが驚き振り向くが既にその姿は見えなくなっていた。
「石田っ!!」
「!」
声を張り上げながらとある教室の扉を勢い良く開けば名指しされた存在は瞬時に振り向く。
突如現れたかすがと彼女が名を叫んだ相手の三成達だけに教室内は騒然となった。
「あれ?かすがさんって上杉先生にアタックしてなかったっけ」
「石田の奴も彼女が居るって噂があるけどな」
各々がひそひそ声で憶測を話し出す中で家康と長曾我部元親そして伊達政宗が二人を見つめている。
「何用だ貴様、馴れ馴れしく私の名を呼ぶな。許可していない」
「ならさっさと言わせて貰う!お前が居ながらどうして晴雅があんな風になっているんだ!?」
「!!晴雅が何だと…?」
最初は相変わらずの強面顔で睨みまで利かせながら三成が威圧的に問うも怯む気配を見せずかすがも問い詰めた。
恋人の名を出されて一瞬ばかり目を見開いた彼は足早に近付く。
二人が漂わす尋常ではない覇気に蚊帳の外な生徒達はひそひそ話や茶化す意思さえ憚られた。
「晴雅の事だから仕方ないとは思っていた。お前となれば尚更迷惑かけまいと痩せ我慢するだろうからな」
「貴様に私達の掛り合いを
「謂れなどいちいち必要ない!晴雅は私の親友なんだぞっ!」
本心は晴雅の困る様な事をしたくないがそのまま放っておくのも出来る訳がなく目の前の存在へ対峙する。
無論、三成も己と恋人の繋がりにとやかく言及される事は好ましくないが故に鋭い視線を向けて返す。
「おいおい喧嘩なんざしてる暇があったら月夜野の所へ行ってやるのが一番じゃねぇかよ」
「晴雅なら今朝、ワシも話したが特に体調は悪く見えなかったぞ。もしかして見落としてしまってたのか…」
「!!」
一触即発な気配まで生まれ出し他の生徒達が不安がる様子を見逃せず元親も言葉だけながら介入した。
そこへ家康も荒々しさを穏やかにさせ様と己が知る限りの情報を口にすれば三成は表情を一変させる。
「家康ゥ!!貴様まさか晴雅と遭逢したのか!?」
「あ、嗚呼…お前が剣道部の助太刀として参加してくれる様に説得を頼んだんだが」
「よりにもよって今、この時に…!貴様ァ…!!」
「もしかして晴雅に何かあったのか三、」
我を忘れた三成が家康の胸倉を掴んで声を荒げる姿へ元親と伊達が目を丸くして立ち上がり他の生徒達もギョッと表情が崩れ始め教室内は騒然となった。
鬼気迫る顔色で歯を食い縛りまだまだ言葉を連ねそうだったが「今はそんな事をしている場合か!お前は早く晴雅の元へ行け!!」とかすがに叱責され手を離すと一瞥処か睨みつけ目にも止まらぬ速さで部屋から出ていった。
「家康大丈夫か?」
「ワシは大丈夫だ。それよりも晴雅が心配だな」
「石田もそうだが、月夜野の奴も気骨稜稜だろうからな」
手荒な扱いを受けたにも関わらずむしろ先程から話の種となっている存在を心配する家康へ元親が気に掛ける。
そんな二人の隣で静観していた伊達が独り言の様に呟くので「どう言う意味だ?独眼竜」と家康から問われると「似たもん同士って事だ。腹の底までな」と腕を組んだまま答えた。
「晴雅っ!!」
下手をしたらヒビが走ってしまいそうな勢いで保健室の扉を開いた所為と大そうな声量で叫び養護教諭の女性が至極驚愕するのも無理はなかった。
だが三成はそれらすら意識になく医療用カーテンに隠されたベッドへ一直線で駆け寄る。
制止する暇もなかった教諭は「もしかしてかすがさんが話してた石田くん?」とその背中に問い掛けてみれば短い相槌を打たれただけだった。
「月夜野さんなら熱もないし吐き気もないみたいだけど顔色が悪そうで心配だから念の為、横にならせて休ませたわ」
扉の時とは違ってカーテンは静かに開いた様子へ少し呆れた顔付きで現状を語られた。
カーテンと同様に白の統一されたベッドへ
そっと手を伸ばして頬にふれれば程良い体温を感じたが彼女の心緒を察している彼は無力さがじわじわと深くなってゆく。
何故こんな状況になってしまったのか理由を一番で知る三成はこうなる前に早く己から晴雅の心積もりを傾聴するべきだったと後悔するがどうしようもなかった。
「……みつなり」
「!晴雅っ…!」
すると自分にふれる感触で目を覚ましたのかぼんやりとした目で見上げてくる恋人が己の名を呼び覚醒に気付いた。
「調子はどうだ」
「一応大丈夫…ごめん三成。私、」
「言うな。分かっている」
身体的な具合に支障がない事は悟っているがそれでも聞かずには居られなく答えも問題なかった。
だが目線と声量も落として消え入る様な呟きを溢す晴雅の手を握りながら三成が遮る。
「
「…うん、でも三成はちゃんと授業受けて。皆勤賞逃しちゃうから」
「そんなものどうでもいい」
一目だけで意気消沈している様が分かり今日はもう早退するべきだと提言すれば素直に受け入れられたが同行は断られた。
彼女が自分よりも己を優先したがる事は誰よりも身に染みて体験しており尚更、了承する気などなかった。
故に先手として携帯を取り出すなり居候先の屋敷へ繋げ使いの者に迎えを寄越す様告げた。
それを止めたくて動き出そうとする晴雅の額を苦もなく押さえ電話も続ける三成の背中を何とも言えない顔で傍観する教諭がいた。
「晴雅!大丈夫かっ」
「あ、かすがちゃん…本当にごめんね。今日は迷惑かけてばっかりで、」
「迷惑など思っていない、無理せず休め。授業とノートも任せろ。ほら鞄だ」
「ありがとう…」
通話を切り携帯も畳んで隠しへ仕舞う恋人の行動に諦めな溜め息が溢れるものどうせ言い聞かせても変わらないと悟って三成に手助けされながらベッドから立ち上がる。
すると再び部屋の扉が開かれ両手それぞれで鞄を持つかすがの姿が。
どうやら晴雅の鞄を持ってきてくれた様で早退を勘付いていたらしい彼女へありがたみと驚きが入り混じる。
加えて三成の分も持参してくれていた様で「ありがたく思うんだな」と言い放たれた彼は返事もせず顔を背けてしまった。
いつもの晴雅なら叱りつけている所だが状況が状況だけに眉を顰めながら恋人を見据えるだけに留まった。
それに気付いているかすがは「お前だけの為ではない。晴雅に感謝しろ」と繋げた。
その後、校門まで見送りに来てくれた親友へ感謝を告げ三成に付き添われながら晴雅は屋敷から迎えとして現れた車へ乗り込んだのだった。
「三成の完全無欠な登校経歴が〜」
「またその話か。どうでもいいと言っている筈だが」
「どうでも良くないよぉ…」
屋敷の使用人が運転する車の後部座席にて座る二人だがその距離は近く密接している。
先に乗り込んだ三成に手を引かれるがまま乗り込めばそのまま恋人の肩へ頭を預ける形となった。
いつもなら懇意な関係ながら羞恥心で積極的にはふれ合ってこない彼が自然な流れでこの様な体勢を取ってくる事に驚くも服越しながら頬から通じる三成の温度が心地良くて精神的にも落ち着いてくる。
先程から変わらず嘆きを溢し続ける晴雅へ呆れ返るも己へ身を委ねる恋人の肩へ腕を回し支え続けた
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