前進と流れ弾
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「おそーめんちゃんはどこやーい」
間の抜けそうな声色と口振りで商品棚の間を歩く晴雅はある物を探していた。
数刻前。
『それじゃあお買い物に行ってきまーす』
『待て晴雅』
夏の暑さの根源とも言える太陽が姿を隠し夕刻となった頃。
玄関の和風戸を開こうと手を掛けたら制止の言葉と名を呼ぶ声が届き振り向くと恋人の石田三成が地板側で仁王立ちしていた。
のんびりとした雰囲気な晴雅へ対し彼は生真面目な顔付きで彼女を見据えている。
『貴様一人で済ませるのか』
『出来ますとも。初めての買い出しじゃあるまいし』
『貴様如きが半兵衛様の遣いとして遂行出来るのか』
『その半兵衛様から直々にお願いされたんだけど』
そして始まる問い詰めの様な質問攻めに初めてでもない晴雅は(また始まった…と言うか捕まっちゃった)と遠い目で恋人からの言葉を受けていた。
数週間前に実家への里帰りから居候先の豊臣邸に帰宅した彼女は旧友夫婦とのやり取りでそうめんと季節の野菜天ぷらが食べたいと思考しつい呟けば、聞き逃さなかった後見人とも呼べる竹中半兵衛が本日の夕餉にて拵えると宣言した。
ただ何気なく独り言のつもりで溢しただけの晴雅は大慌てで無理に合わせなくてもと進言したが彼女の事となると判断が少し緩くなる半兵衛とこの屋敷の主、豊臣秀吉すら彼の意見を受け入れしまった。
頭を抱えたくなる衝動で駆られる彼女へ二人に尊敬を超えた感情を向ける三成から小言がぶつけられ続ける事が確定してしまった。
『晴雅、貴様は己の立場を弁えていない様だな』
『そんなつもりはなかったんだよー』
迫られる晴雅は涙を流して弁解しそれでも容赦なく問い詰める光景を見兼ねて半兵衛が助け船を出そうとしてくれたが『半兵衛様は晴雅に寛仁過ぎるのです』と表情も声も言葉も豹変させた三成に返された。
流石の半兵衛も彼の覇気に困惑しとうとう秀吉も加わるのだが全く聞く耳を持たなかった。
この世で一番に崇拝し敬愛もする主の言葉ならば受け入れると思いきや晴雅の事となると三成は頑なに成ってしまう。
とうとう己の背へ隠れ秀吉にまで頭を撫でられ始める彼女が為『じゃあ晴雅には素材を調達してきて貰おうか』と半兵衛が御使いを頼む事で事態を収束させた。
それから持たされた鞄(豊臣家の家紋入り)を肩に掛けていざ買い出しへ向かおうとしたら三成に捕まった訳である。
恋人ながらこうも小煩いのには理由があった。
時は異なるとある日、夕餉に必須な調味料が欠けていたので半兵衛は調達を屋敷の使いに頼んだのだが聞き付けた晴雅が代わりに行きたいと言い出したのだ。
最初は彼女の身を案じる余り感謝しつつやんわりと説き伏せ様と考えたのだが自ら学びも兼ねて手伝いたいのだと答えるのでやはり対応が甘くなってしまう。
後で親友へ成長の報告をしようと子煩悩に近い思考をしつつ半兵衛は『お釣りで三成くんと一緒に食べる物でも買いなさい』と晴雅を撫でながらどう見ても只の買い出しには多量な金銭を預かった。
流石にちょっとした買い出しとしては多額過ぎる有様へ困り顔で言及するも日頃から無駄遣いしない事が後押しとなり根気負けしてしまった。
仕方なく晴雅は必要な物を買い恋人と息抜きで食べる為の洋菓子を選んだのだが日頃の感謝も込めて居候先の二人の分も含めて購入した。
帰宅後、調味料と洋菓子を渡せば感謝と雀躍しそうな顔色で返してくれた半兵衛と珍しく穏やかな顔付きの秀吉達に頭を撫でられた。
無事に夕餉も作り終え三成も含んだ四人で済ませてから折角なのでと晴雅が買ってきてくれた洋菓子を食後の甘味として出された。
まだ気が上々なのか明るく半兵衛は彼女が三成と二人だけでなくて己達の分も購ってきた事を嬉々として語った。
夕餉から湯浴みも繋げて終わらせると明日に備えて床へ就こうとする晴雅に声がかかった。
声の時点で自分を呼ぶ相手が恋人と察した彼女はいつも通りに『どうしたの』と振り返り尋ねれば生真面目な強面顔で何故、半兵衛に言われたまま己とだけの物を購ってこなかったと詰め寄られた。
『半兵衛様がどう見ても私達だけで済むお金じゃない金額を渡してきたんだよー』
『半兵衛様が仰られたままに済ませれば良いものを』
『えぇー…でも日頃からお世話になってるから少しでもお返ししたかったんですぅ』
『その気に障る口利きをやめろと言った筈だ。斬滅されたいか』
と言った事が起きており彼女が一人で買い出しに出ると警戒される様になってしまったのだ。
『もしかして半兵衛様からの御使いを受けてみたいから嫉妬してるの?』
『良し分かったそこに直れ』
『夕ご飯が遅れちゃいそうなので行ってきますっ』
『待て貴様ァ!!!』
何気なく浮かんだ疑問を口にしながら首を傾げる晴雅へ護身用として屋敷で置いてある竹刀を手にし出すので脱兎の如く踵を返して玄関から飛び出した。
三成の怒号を背中で受けながら疾走して買い出しへと向かったのだった。
「全くもう、三成は…真面目なのもいいけどちょっとは気を抜くって事が出来ないのかな」
小さい頃はまだ聞き分けが出来てたのに…と付け加えながら溜め息を吐く。
気を取り直して目的の物を探す事に集中した。
「おそうめんと言ったらコレよね。薬味は…片倉さんの所で買ったやつが残ってたって半兵衛様言ってたな」
自分と同様、買い出しへ来ているであろう者達に紛れすいすいと探索するとお目当てのそうめんを籠に入れる。
加えてお供とも言える薬味用のネギを見定め様と思ったが出発前の会話を思い出した。
そうめんの他で予定されている天ぷらの材料も見て回る前に揃っている事を覚えていたので晴雅は手短な買い出しを終わらせた。
「さて、みんなを待たせちゃったらいけないから早く帰ろ帰ろ」
会計も終わらせて買い終えたそうめんを鞄にしっかりと仕舞い店から出る。
早く帰らねば秀吉と半兵衛から無駄に心配されるし出発の際に小さいながら悶着を起こした三成から小言を受けてしまう。
と考え事で前方が不注意となってしまった所為でか出入り口から少し進んでから衝撃を受ける。
「あいた!ごめんなさいっ余所見しちゃって、」
「ごっごめんなさい!態とじゃないんですっ!!」
「……もしかして金吾?」
小走りとなってはいたが勢いはそこまでと言えなかったのでお互い転ぶ事はなかった。
瞬時に謝る晴雅だったが同じ反応をしてきた相手の声で誰なのかと気付けば声色が変化する。
それにより顔を上げれば「晴雅さんっ…!?」と驚愕する金吾と呼んだ小早川秀秋がこちらを見つめてきた。
「何してるのこんな所で」
「そっ、その…修行の一環で出歩いてたんだけどお腹が空いてちょっと…」
「また口寂しさに食べるつもりだったの?相変わらずね」
顔見知り相手が相手だけに溜め息を深く吐いて問いかければオドオドとした様子で話し出すのでこめかみに手を添えながら呟かずにいられなかった。
「晴雅さんは、何してるの?」
「夕飯で必要な物を買いに来たのよ。そう言えば金吾、また刑部さんと神子さんの所へお邪魔したんだって?」
見るからに恐る恐ると言った様子で聞き返されたのであるがままで答えるが自分で口にした言葉で思い出した出来事を尋ねる。
すると小早川はビクッと肩を震わせて戦々恐々とし始めていた。
「ど、どうして知ってるの…」
「めちゃくちゃ怒ってる刑部さんがメールを送りまくってきたのよ。初めてだよ、あんなに長文で即返信してくるの」
「ひぇぇ…」
それは晴雅が三成と実家へと共に里帰りしていた時。
旧友の大谷吉継からメールが届きいつもの様に確認すると初めて見る長文の内容で目を見張った。
不平不満、愚痴で綴られる情報量の多い文面で困惑した晴雅だったがその理由を理解した刹那に彼へ同感気味となった。
その理由なのだが大谷が妻である神子と夕餉を食している時に小早川が突如として訪問してきた。
小早川家当主として若いながら鍛錬の日々を専属の教育係・天海(晴雅は安易に信用出来ず余り顔を合わせたくない相手だった)によって送らされているのだがそれで困り果てた時は前述の夫婦の元へ駆け込む事があった。
知り合いではあるのだが良好な関係とは言えない大谷が門前払いをする間も無くお人好しな神子は腹を空かせた彼へ同情してしまい夫の為にと手作りした筈の天ぷらを分け与えたのだ。
この出来事へ対する胸中を長文で計三回も送ってきた旧友の様子で晴雅も小早川と出会い次第、少しばかり灸を据えなければと決意していた。
「刑部さんと神子さん達の邪魔はしないでってアレ程、言ったよね?」
「ごめんなさぃぃぃ!!」
「謝るなら刑部さんに謝って」
「邪魔をするつもりはなかったんですぅぅ!!」
「えっ、ちょっ…こんな場所でそんな謝り方をするのはやめてよ」
女性ながら晴雅の放つ圧に怖気付いた小早川はもはや絶叫とも言える謝罪の涙声を上げてその場で額、両手、両膝を地面へ投げ伏せた。
場所が場所だけに彼女は大変慌てた様子で周りを見回せばチラチラとこちらを見てくる主婦やら子連れの家族やら仕事帰りな男女性達の視線が向けられる。
確かに珍しい位な反応を見せていた旧友が為にお灸を据えるつもりだっただけでここまでさせるつもりはなかった。
「そんな詫びしないでよ!私が悪者みたいに見られるじゃないっ」
「うぅぅ…やっぱり僕は何をやっても駄目なんだ…」
「あー…もうっ、とりあえず立って!こっちに来なさい」
周りからの視線に耐え切れなくなった晴雅は小早川の腕を掴んで立ち上がらせるとそのまま引っ張り出してその場からそそくさと早足で離れ去る羽目に。
何で自分がこんな事を…と滅多に浮べない苦渋の表情を浮かべながら泣きべそをかく彼の手首を掴んで引いて歩む。
(そう言えば…私がやらかした時にこうやって三成が手を引いてくれてたっけ)
ぼんやりと懐かしさが混じる昔の記憶を思い出しながら晴雅は恋人の姿が恋しく感じていた。
「ほら、コレでも食べて飲んで元気出しなさいよ」
「うぅ〜…あ、ありがと、う…晴雅さん」
(お礼を言えるだけまだ良い方か)
店から離れて少し歩くと雨宿りが出来そうな程に大きい傘が立つ傍らで床几台がおかれた茶屋を発見したのでそこで一呼吸置く事にした。
赤い緋毛氈 が掛けられた床几台に腰掛け注文した三色団子と茶が載せられた盆を小早川の隣へ置いてやり促す。
まだ鼻をぐずらせたままだが礼を口にするので溜飲が下がった晴雅は溜め息も吐きつつ座り直した。
「修行をつけて貰ってるんだから少しはしゃんとしないと」
「無理だよ僕には…自信無いし…どうせ何やっても駄目で怒られるだけだし…」
団子を頬張ってゆく内に気力を取り戻し始めたのか顔色が明るくなり出す小早川へ晴雅は思わず溢さずには居られなかった。
「晴雅さんみたいに振る舞えれば三成くんから怒られないで済むんだろうけど…」
「あら、私だって三成に怒られる時はあるわよ。一回か二回で済まない位に」
「えっ、そうなの…?」
「三成どころか秀吉様や半兵衛様からもね」
あっという間に食べ尽くされ団子が刺されていた三本の串が皿へ並べられ茶を一啜りしてから彼がポツリと呟けば直ぐ様反応してやる。
「幼馴染みな私だってこんなもんなんだもの。私だからって関係ない、問題は自分の意志を強く持って伝えられるかよ」
「でも…僕が言っても馬鹿にされるだけだよ」
「別に良いじゃない言わせとけば。誰だって初めから全ての人に受け入れて貰える訳じゃないし。分かり合える人とどうやって出会って繋がり続けるかが大事だと私は思ってる」
なんだかんだ彼の話を聞いて自分の信条を教えてやれば僅かだが顔付きが落ち着いて見えた。
「自分の気持ちをちゃんとしっかり伝えて、自信も持って接すれば三成だって分かってくれる」
「そうかな…」
「まぁ素直に話せない事もあるから分かり辛かったかも知れないけれど…あなたの事はなんだかんだ信頼はしてた筈だよ三成は」
「ほっ、本当に…?三成くんが?」
脳裏で浮かぶ恋人の本音を思い返しながら目を伏せて語る晴雅の姿や言葉で小早川は心情に変化が現れる気がした。
「本当に意地っ張りで頑固でも根は真っ直ぐだからね、弟みたいで心配になる所が相変わらずだけど」
「晴雅さんは…三成くんが大好きなんだね」
「………そうね」
続く彼女の話を聞いていた小早川は思わず口から出てしまった発言にぎょっとしたが晴雅は目を開いて沈黙するもそれを破って答えた。
「三成には誰よりも幸せになって欲しいから」
腰掛けていた床几台から立ち上がって彼へと向き合いながら言葉を紡ぐ。
「三成 の為なら私はなんだって出来る気がするの」
,
間の抜けそうな声色と口振りで商品棚の間を歩く晴雅はある物を探していた。
数刻前。
『それじゃあお買い物に行ってきまーす』
『待て晴雅』
夏の暑さの根源とも言える太陽が姿を隠し夕刻となった頃。
玄関の和風戸を開こうと手を掛けたら制止の言葉と名を呼ぶ声が届き振り向くと恋人の石田三成が地板側で仁王立ちしていた。
のんびりとした雰囲気な晴雅へ対し彼は生真面目な顔付きで彼女を見据えている。
『貴様一人で済ませるのか』
『出来ますとも。初めての買い出しじゃあるまいし』
『貴様如きが半兵衛様の遣いとして遂行出来るのか』
『その半兵衛様から直々にお願いされたんだけど』
そして始まる問い詰めの様な質問攻めに初めてでもない晴雅は(また始まった…と言うか捕まっちゃった)と遠い目で恋人からの言葉を受けていた。
数週間前に実家への里帰りから居候先の豊臣邸に帰宅した彼女は旧友夫婦とのやり取りでそうめんと季節の野菜天ぷらが食べたいと思考しつい呟けば、聞き逃さなかった後見人とも呼べる竹中半兵衛が本日の夕餉にて拵えると宣言した。
ただ何気なく独り言のつもりで溢しただけの晴雅は大慌てで無理に合わせなくてもと進言したが彼女の事となると判断が少し緩くなる半兵衛とこの屋敷の主、豊臣秀吉すら彼の意見を受け入れしまった。
頭を抱えたくなる衝動で駆られる彼女へ二人に尊敬を超えた感情を向ける三成から小言がぶつけられ続ける事が確定してしまった。
『晴雅、貴様は己の立場を弁えていない様だな』
『そんなつもりはなかったんだよー』
迫られる晴雅は涙を流して弁解しそれでも容赦なく問い詰める光景を見兼ねて半兵衛が助け船を出そうとしてくれたが『半兵衛様は晴雅に寛仁過ぎるのです』と表情も声も言葉も豹変させた三成に返された。
流石の半兵衛も彼の覇気に困惑しとうとう秀吉も加わるのだが全く聞く耳を持たなかった。
この世で一番に崇拝し敬愛もする主の言葉ならば受け入れると思いきや晴雅の事となると三成は頑なに成ってしまう。
とうとう己の背へ隠れ秀吉にまで頭を撫でられ始める彼女が為『じゃあ晴雅には素材を調達してきて貰おうか』と半兵衛が御使いを頼む事で事態を収束させた。
それから持たされた鞄(豊臣家の家紋入り)を肩に掛けていざ買い出しへ向かおうとしたら三成に捕まった訳である。
恋人ながらこうも小煩いのには理由があった。
時は異なるとある日、夕餉に必須な調味料が欠けていたので半兵衛は調達を屋敷の使いに頼んだのだが聞き付けた晴雅が代わりに行きたいと言い出したのだ。
最初は彼女の身を案じる余り感謝しつつやんわりと説き伏せ様と考えたのだが自ら学びも兼ねて手伝いたいのだと答えるのでやはり対応が甘くなってしまう。
後で親友へ成長の報告をしようと子煩悩に近い思考をしつつ半兵衛は『お釣りで三成くんと一緒に食べる物でも買いなさい』と晴雅を撫でながらどう見ても只の買い出しには多量な金銭を預かった。
流石にちょっとした買い出しとしては多額過ぎる有様へ困り顔で言及するも日頃から無駄遣いしない事が後押しとなり根気負けしてしまった。
仕方なく晴雅は必要な物を買い恋人と息抜きで食べる為の洋菓子を選んだのだが日頃の感謝も込めて居候先の二人の分も含めて購入した。
帰宅後、調味料と洋菓子を渡せば感謝と雀躍しそうな顔色で返してくれた半兵衛と珍しく穏やかな顔付きの秀吉達に頭を撫でられた。
無事に夕餉も作り終え三成も含んだ四人で済ませてから折角なのでと晴雅が買ってきてくれた洋菓子を食後の甘味として出された。
まだ気が上々なのか明るく半兵衛は彼女が三成と二人だけでなくて己達の分も購ってきた事を嬉々として語った。
夕餉から湯浴みも繋げて終わらせると明日に備えて床へ就こうとする晴雅に声がかかった。
声の時点で自分を呼ぶ相手が恋人と察した彼女はいつも通りに『どうしたの』と振り返り尋ねれば生真面目な強面顔で何故、半兵衛に言われたまま己とだけの物を購ってこなかったと詰め寄られた。
『半兵衛様がどう見ても私達だけで済むお金じゃない金額を渡してきたんだよー』
『半兵衛様が仰られたままに済ませれば良いものを』
『えぇー…でも日頃からお世話になってるから少しでもお返ししたかったんですぅ』
『その気に障る口利きをやめろと言った筈だ。斬滅されたいか』
と言った事が起きており彼女が一人で買い出しに出ると警戒される様になってしまったのだ。
『もしかして半兵衛様からの御使いを受けてみたいから嫉妬してるの?』
『良し分かったそこに直れ』
『夕ご飯が遅れちゃいそうなので行ってきますっ』
『待て貴様ァ!!!』
何気なく浮かんだ疑問を口にしながら首を傾げる晴雅へ護身用として屋敷で置いてある竹刀を手にし出すので脱兎の如く踵を返して玄関から飛び出した。
三成の怒号を背中で受けながら疾走して買い出しへと向かったのだった。
「全くもう、三成は…真面目なのもいいけどちょっとは気を抜くって事が出来ないのかな」
小さい頃はまだ聞き分けが出来てたのに…と付け加えながら溜め息を吐く。
気を取り直して目的の物を探す事に集中した。
「おそうめんと言ったらコレよね。薬味は…片倉さんの所で買ったやつが残ってたって半兵衛様言ってたな」
自分と同様、買い出しへ来ているであろう者達に紛れすいすいと探索するとお目当てのそうめんを籠に入れる。
加えてお供とも言える薬味用のネギを見定め様と思ったが出発前の会話を思い出した。
そうめんの他で予定されている天ぷらの材料も見て回る前に揃っている事を覚えていたので晴雅は手短な買い出しを終わらせた。
「さて、みんなを待たせちゃったらいけないから早く帰ろ帰ろ」
会計も終わらせて買い終えたそうめんを鞄にしっかりと仕舞い店から出る。
早く帰らねば秀吉と半兵衛から無駄に心配されるし出発の際に小さいながら悶着を起こした三成から小言を受けてしまう。
と考え事で前方が不注意となってしまった所為でか出入り口から少し進んでから衝撃を受ける。
「あいた!ごめんなさいっ余所見しちゃって、」
「ごっごめんなさい!態とじゃないんですっ!!」
「……もしかして金吾?」
小走りとなってはいたが勢いはそこまでと言えなかったのでお互い転ぶ事はなかった。
瞬時に謝る晴雅だったが同じ反応をしてきた相手の声で誰なのかと気付けば声色が変化する。
それにより顔を上げれば「晴雅さんっ…!?」と驚愕する金吾と呼んだ小早川秀秋がこちらを見つめてきた。
「何してるのこんな所で」
「そっ、その…修行の一環で出歩いてたんだけどお腹が空いてちょっと…」
「また口寂しさに食べるつもりだったの?相変わらずね」
顔見知り相手が相手だけに溜め息を深く吐いて問いかければオドオドとした様子で話し出すのでこめかみに手を添えながら呟かずにいられなかった。
「晴雅さんは、何してるの?」
「夕飯で必要な物を買いに来たのよ。そう言えば金吾、また刑部さんと神子さんの所へお邪魔したんだって?」
見るからに恐る恐ると言った様子で聞き返されたのであるがままで答えるが自分で口にした言葉で思い出した出来事を尋ねる。
すると小早川はビクッと肩を震わせて戦々恐々とし始めていた。
「ど、どうして知ってるの…」
「めちゃくちゃ怒ってる刑部さんがメールを送りまくってきたのよ。初めてだよ、あんなに長文で即返信してくるの」
「ひぇぇ…」
それは晴雅が三成と実家へと共に里帰りしていた時。
旧友の大谷吉継からメールが届きいつもの様に確認すると初めて見る長文の内容で目を見張った。
不平不満、愚痴で綴られる情報量の多い文面で困惑した晴雅だったがその理由を理解した刹那に彼へ同感気味となった。
その理由なのだが大谷が妻である神子と夕餉を食している時に小早川が突如として訪問してきた。
小早川家当主として若いながら鍛錬の日々を専属の教育係・天海(晴雅は安易に信用出来ず余り顔を合わせたくない相手だった)によって送らされているのだがそれで困り果てた時は前述の夫婦の元へ駆け込む事があった。
知り合いではあるのだが良好な関係とは言えない大谷が門前払いをする間も無くお人好しな神子は腹を空かせた彼へ同情してしまい夫の為にと手作りした筈の天ぷらを分け与えたのだ。
この出来事へ対する胸中を長文で計三回も送ってきた旧友の様子で晴雅も小早川と出会い次第、少しばかり灸を据えなければと決意していた。
「刑部さんと神子さん達の邪魔はしないでってアレ程、言ったよね?」
「ごめんなさぃぃぃ!!」
「謝るなら刑部さんに謝って」
「邪魔をするつもりはなかったんですぅぅ!!」
「えっ、ちょっ…こんな場所でそんな謝り方をするのはやめてよ」
女性ながら晴雅の放つ圧に怖気付いた小早川はもはや絶叫とも言える謝罪の涙声を上げてその場で額、両手、両膝を地面へ投げ伏せた。
場所が場所だけに彼女は大変慌てた様子で周りを見回せばチラチラとこちらを見てくる主婦やら子連れの家族やら仕事帰りな男女性達の視線が向けられる。
確かに珍しい位な反応を見せていた旧友が為にお灸を据えるつもりだっただけでここまでさせるつもりはなかった。
「そんな詫びしないでよ!私が悪者みたいに見られるじゃないっ」
「うぅぅ…やっぱり僕は何をやっても駄目なんだ…」
「あー…もうっ、とりあえず立って!こっちに来なさい」
周りからの視線に耐え切れなくなった晴雅は小早川の腕を掴んで立ち上がらせるとそのまま引っ張り出してその場からそそくさと早足で離れ去る羽目に。
何で自分がこんな事を…と滅多に浮べない苦渋の表情を浮かべながら泣きべそをかく彼の手首を掴んで引いて歩む。
(そう言えば…私がやらかした時にこうやって三成が手を引いてくれてたっけ)
ぼんやりと懐かしさが混じる昔の記憶を思い出しながら晴雅は恋人の姿が恋しく感じていた。
「ほら、コレでも食べて飲んで元気出しなさいよ」
「うぅ〜…あ、ありがと、う…晴雅さん」
(お礼を言えるだけまだ良い方か)
店から離れて少し歩くと雨宿りが出来そうな程に大きい傘が立つ傍らで床几台がおかれた茶屋を発見したのでそこで一呼吸置く事にした。
赤い
まだ鼻をぐずらせたままだが礼を口にするので溜飲が下がった晴雅は溜め息も吐きつつ座り直した。
「修行をつけて貰ってるんだから少しはしゃんとしないと」
「無理だよ僕には…自信無いし…どうせ何やっても駄目で怒られるだけだし…」
団子を頬張ってゆく内に気力を取り戻し始めたのか顔色が明るくなり出す小早川へ晴雅は思わず溢さずには居られなかった。
「晴雅さんみたいに振る舞えれば三成くんから怒られないで済むんだろうけど…」
「あら、私だって三成に怒られる時はあるわよ。一回か二回で済まない位に」
「えっ、そうなの…?」
「三成どころか秀吉様や半兵衛様からもね」
あっという間に食べ尽くされ団子が刺されていた三本の串が皿へ並べられ茶を一啜りしてから彼がポツリと呟けば直ぐ様反応してやる。
「幼馴染みな私だってこんなもんなんだもの。私だからって関係ない、問題は自分の意志を強く持って伝えられるかよ」
「でも…僕が言っても馬鹿にされるだけだよ」
「別に良いじゃない言わせとけば。誰だって初めから全ての人に受け入れて貰える訳じゃないし。分かり合える人とどうやって出会って繋がり続けるかが大事だと私は思ってる」
なんだかんだ彼の話を聞いて自分の信条を教えてやれば僅かだが顔付きが落ち着いて見えた。
「自分の気持ちをちゃんとしっかり伝えて、自信も持って接すれば三成だって分かってくれる」
「そうかな…」
「まぁ素直に話せない事もあるから分かり辛かったかも知れないけれど…あなたの事はなんだかんだ信頼はしてた筈だよ三成は」
「ほっ、本当に…?三成くんが?」
脳裏で浮かぶ恋人の本音を思い返しながら目を伏せて語る晴雅の姿や言葉で小早川は心情に変化が現れる気がした。
「本当に意地っ張りで頑固でも根は真っ直ぐだからね、弟みたいで心配になる所が相変わらずだけど」
「晴雅さんは…三成くんが大好きなんだね」
「………そうね」
続く彼女の話を聞いていた小早川は思わず口から出てしまった発言にぎょっとしたが晴雅は目を開いて沈黙するもそれを破って答えた。
「三成には誰よりも幸せになって欲しいから」
腰掛けていた床几台から立ち上がって彼へと向き合いながら言葉を紡ぐ。
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