夜の秋
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配達された新聞紙を受け取り毎朝の始まりを実感しつつ「ご苦労様です」と届けてくれた配達員へお礼の言葉をかける。
玄関の扉を閉めてサンダルを脱いでから上がりつつ新聞紙と合わせて渡された広告用紙にも目を通してみた。
「あっ、催物情報が載ってる。場所は…近めな所だ」
見出しをチラッと流し読みし自分よりはしっかりと訓む夫へ届ける為に踵を返しかけると気になる内容があった。
どうやら近所(徒歩で約二十分程)でフリーマーケットとハンドマーケットを合わせた催しが開かれるらしく珍しいなと呟きを溢した。
日付や時刻に場所を確認していればある文字へ目が釘付けとなった。
「野鳥のハンドメイド…?」
興味を持たせるつもりか細かい字の中で大きめに書かれたそれは神子の関心を引くのに充分だった。
「……いいなぁ」
「ぬし好みの新報でもあったか」
「わっ…!?お、大谷さん…いつの間に」
詳細を書き記す内容だけでも期待が止まらなくて色んな想像を膨らませていると耳元で声が聞こえる。
身を震わせてバッと振り向けば大谷が神子の背後で妻の肩に顎を乗せてしまえそうな程、距離を詰めており広告へ特徴的な目を向けていた。
余りの近さと驚きで跳ね続けたままの心臓を抑えつつ夫にも読み易い様に向き合ってそれを手渡した。
「今月中ですけれど催物があるんですって」
「ほう」
「古本を取り扱ってる方も出店されるみたいですから、もしかしたら大谷さんが読まれる本もあるかも知れませんよ」
妻から渡された用紙を受け取り目を走らせる大谷へ神子が語り掛ける。
自分に比べれば遥かに読書家で親友の石田三成からも本の虫と比喩されている様子が記憶に存在するのでそれとなく薦めてみた。
「ぬしも好餌に誘われる代物がありそうだが?」
「まぁ、はい…なかなか野鳥を中心とした手作りは動物園や博物館とかじゃないと見かけないので…」
しかし夫は食い付く処か逆に好奇心が隠し切れなそうな神子へ言及し用紙を親指と人差し指だけで摘みペラペラと揺らした。
最初から全て見抜かれていた事は薄々勘づいていたが恥ずかしさから目線を落としてぽつりぽつりと白状する妻の反応へ大谷はいつもの笑い声を出さずに口角を上げていた。
「まァ息が合う同胞 とでも行けばよいわ」
「えっ…」
「書などまだ腐る程あるのでな。我は一人留守居を、いや不幸が居たか」
摘み上げていた広告用紙を返され躊躇なく告げられる発言から呆気に取られる神子を傍らで飼い鳥である桜ブンチョウの幸の名を口にすれば居間の方から『ピーッ!』と返事の如く鳴き声が聞こえた。
「その、えっ…と…私、は」
もじもじと下ろした両手を握り合わせて小さく身動ぎする妻が先程よりも大きく感じる羞恥心に苛われながら言葉を続けた。
「私は、大谷さんと一緒に、行きたい、です…」
頬を紅潮させどうにか声を絞り出す神子の様相や願望に大谷は速攻で返答する時を逃してしまった。
妻は己よりも同じく野鳥好きの仕事仲間達と向かうに違いないと踏んでいたのだがまさかの不意を突かれた。
顔を覆い隠す包帯の下で僅かに驚愕の表情を浮かべると無自覚ながらうら恥ずかしさを感じ大谷は神子から目を逸らす。
「………ぬしがそこまで我情を突き通すならば考えてやらぬ事もない」
「!本当ですかっ!?」
「その引き換えだが誰彼構わず気立てよく振る舞うな」
「私そこまで騙されそうなんですか」
「わかったな」
「分かりました…」
沈黙の末、お互いに目を合わせずながらも好意的な答えをしてくれた夫へ顔色を今日一番で明るくさせた神子が聞き返すと人差し指を眼前に突き付けながら言い放たれた。
日頃から人が良過ぎるやら人を見る目が甘いやら耳に蛸が出来そうな程繰り返されているので不服そうに呟けば大谷が圧をかけてくるので納得出来ないも頷く。
「じゃあ日付とお天気と人の混み具合を考えて決めましょう」
「予見して外れたらどうする」
「確かにそれもそうですね…あっ、晴雅ちゃんに聞いてみようかな」
何はともあれ希望が叶いそうな神子は既にはしゃぎ気味で今にでも飛び出してしまいそうな様子から真反対で落ち着いている夫が短く問う。
素直にそれを思案へ入れとある知り合いを頼ってみる事にした。
登録している携帯の電話帳から通話してみれば直ぐ出てくれ『刑部さんとお出掛けですかっ!?デートみたいでテンション上がる〜〜〜っ!!』といきなり盛り上がり出すので困惑していると『一人喚いて何をしている。煩わしい』と遠くながら別の者の声が聞こえた。
恐らく通話相手、月夜野晴雅の恋人且つ夫の親友である三成であろう。
そして肝心の日付についてなのだが『すいません、私まだ鶴姫ちゃんみたいに未来の占いをするには力不足でして…いい事か悪い事が起きるか分かる位です…』と声色だけでも深い申し訳なさが伝わり逆にこちらも謝り出しそうになった。
『でも刑部さん、神子さんとお出掛け出来るならきっと凄い喜んでる筈ですよ。分かりにくいかも知れないですけど』
「そうかな…必要が無いとあんまり積極的じゃないから、無理矢理誘ったみたいになってなければいいけれど…」
『神子さんからのお誘いなら尚更ですよっ!!!』
旧い間柄の関係故か自信有りげに語り出す晴雅へ言い出した本人とは言えほんの少し不安が残る神子に荒ぶった声量で叫び出す彼女をまたしても『秀吉様と半兵衛様の御耳を煩わせるなっ!!!』と三成の声が混じり『やーんほっぺ抓らないで〜』と相変わらずの仲良しっぷりに笑みが溢れた。
数週間後。
「大谷さんご準備は大丈夫ですか」
「ぬしこそ失念して逆進せぬ様にな」
「大丈夫ですよ!昨日の夜からバッチリ準備して何回も見直しましたからっ」
約束通り催物へ向かう当日となったのでそれぞれの身支度を終えた二人は玄関にて出発前の確認を行う。
もしもの時に備えた物が肩掛けの鞄へしっかりと詰め込まれている状態を確認し一人頷いてから傍らの夫にも確かめる。
神子よりは手持ちが少ない(むしろあるのかすら怪しい)大谷から忠告を返された。
いつだか仕上げたレポートを仕事先へ提出しに向かった際、まさかの一枚だけを忘れてしまいそれを夫がわざわざ(親友の手助けも受けていたとは言え)届けてくれた件があったので似た様な事は起こすまいと心掛けなければ。
神子が再度最終確認をしている一方で大谷も己の体に纏う包帯や普段より長めの外出時のみで着込む肌襦袢を精査していた。
そして最後は平服の赤い布地に金色の刺繍で縫われた蝶々が浮かぶ羽織りを懇切丁寧、検分する。
先に草履を履き三和土 へと降りていた神子はその様子を見ていて頃合いの時に大谷の補助を始めた。
土足側の土間 ながら両膝を着いてまで妻は己の手助けを続ける。
最初は何も言わずにそれを受けていたが着衣している着物風のワンピースまでもが汚れてしまうのではないかと然りげ無く憂虜が生まれる。
言及しても己ばかりを優先するであろうと予測がつくので大谷は何も言わずに二人して立ち上がると土間へ接触していた服の膝部分を軽く叩いて可能性な限りで整えてやった。
一方の神子は夫の外出時に必須な杖を渡そうとしていた為、不意打ちの余り驚きが隠せなかったが時折に見せてくれる気遣いへ嬉しさと幸福で胸が暖かくなる。
満ち足りた笑顔で礼を返してくる妻に黙って頷き杖を受け取ると二人して和風戸を開き玄関から足を踏み出す。
歩幅を合わせ肩を並べて時折に言葉も交わして大谷と神子は目的地へと向かうのだった
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玄関の扉を閉めてサンダルを脱いでから上がりつつ新聞紙と合わせて渡された広告用紙にも目を通してみた。
「あっ、催物情報が載ってる。場所は…近めな所だ」
見出しをチラッと流し読みし自分よりはしっかりと訓む夫へ届ける為に踵を返しかけると気になる内容があった。
どうやら近所(徒歩で約二十分程)でフリーマーケットとハンドマーケットを合わせた催しが開かれるらしく珍しいなと呟きを溢した。
日付や時刻に場所を確認していればある文字へ目が釘付けとなった。
「野鳥のハンドメイド…?」
興味を持たせるつもりか細かい字の中で大きめに書かれたそれは神子の関心を引くのに充分だった。
「……いいなぁ」
「ぬし好みの新報でもあったか」
「わっ…!?お、大谷さん…いつの間に」
詳細を書き記す内容だけでも期待が止まらなくて色んな想像を膨らませていると耳元で声が聞こえる。
身を震わせてバッと振り向けば大谷が神子の背後で妻の肩に顎を乗せてしまえそうな程、距離を詰めており広告へ特徴的な目を向けていた。
余りの近さと驚きで跳ね続けたままの心臓を抑えつつ夫にも読み易い様に向き合ってそれを手渡した。
「今月中ですけれど催物があるんですって」
「ほう」
「古本を取り扱ってる方も出店されるみたいですから、もしかしたら大谷さんが読まれる本もあるかも知れませんよ」
妻から渡された用紙を受け取り目を走らせる大谷へ神子が語り掛ける。
自分に比べれば遥かに読書家で親友の石田三成からも本の虫と比喩されている様子が記憶に存在するのでそれとなく薦めてみた。
「ぬしも好餌に誘われる代物がありそうだが?」
「まぁ、はい…なかなか野鳥を中心とした手作りは動物園や博物館とかじゃないと見かけないので…」
しかし夫は食い付く処か逆に好奇心が隠し切れなそうな神子へ言及し用紙を親指と人差し指だけで摘みペラペラと揺らした。
最初から全て見抜かれていた事は薄々勘づいていたが恥ずかしさから目線を落としてぽつりぽつりと白状する妻の反応へ大谷はいつもの笑い声を出さずに口角を上げていた。
「まァ息が合う
「えっ…」
「書などまだ腐る程あるのでな。我は一人留守居を、いや不幸が居たか」
摘み上げていた広告用紙を返され躊躇なく告げられる発言から呆気に取られる神子を傍らで飼い鳥である桜ブンチョウの幸の名を口にすれば居間の方から『ピーッ!』と返事の如く鳴き声が聞こえた。
「その、えっ…と…私、は」
もじもじと下ろした両手を握り合わせて小さく身動ぎする妻が先程よりも大きく感じる羞恥心に苛われながら言葉を続けた。
「私は、大谷さんと一緒に、行きたい、です…」
頬を紅潮させどうにか声を絞り出す神子の様相や願望に大谷は速攻で返答する時を逃してしまった。
妻は己よりも同じく野鳥好きの仕事仲間達と向かうに違いないと踏んでいたのだがまさかの不意を突かれた。
顔を覆い隠す包帯の下で僅かに驚愕の表情を浮かべると無自覚ながらうら恥ずかしさを感じ大谷は神子から目を逸らす。
「………ぬしがそこまで我情を突き通すならば考えてやらぬ事もない」
「!本当ですかっ!?」
「その引き換えだが誰彼構わず気立てよく振る舞うな」
「私そこまで騙されそうなんですか」
「わかったな」
「分かりました…」
沈黙の末、お互いに目を合わせずながらも好意的な答えをしてくれた夫へ顔色を今日一番で明るくさせた神子が聞き返すと人差し指を眼前に突き付けながら言い放たれた。
日頃から人が良過ぎるやら人を見る目が甘いやら耳に蛸が出来そうな程繰り返されているので不服そうに呟けば大谷が圧をかけてくるので納得出来ないも頷く。
「じゃあ日付とお天気と人の混み具合を考えて決めましょう」
「予見して外れたらどうする」
「確かにそれもそうですね…あっ、晴雅ちゃんに聞いてみようかな」
何はともあれ希望が叶いそうな神子は既にはしゃぎ気味で今にでも飛び出してしまいそうな様子から真反対で落ち着いている夫が短く問う。
素直にそれを思案へ入れとある知り合いを頼ってみる事にした。
登録している携帯の電話帳から通話してみれば直ぐ出てくれ『刑部さんとお出掛けですかっ!?デートみたいでテンション上がる〜〜〜っ!!』といきなり盛り上がり出すので困惑していると『一人喚いて何をしている。煩わしい』と遠くながら別の者の声が聞こえた。
恐らく通話相手、月夜野晴雅の恋人且つ夫の親友である三成であろう。
そして肝心の日付についてなのだが『すいません、私まだ鶴姫ちゃんみたいに未来の占いをするには力不足でして…いい事か悪い事が起きるか分かる位です…』と声色だけでも深い申し訳なさが伝わり逆にこちらも謝り出しそうになった。
『でも刑部さん、神子さんとお出掛け出来るならきっと凄い喜んでる筈ですよ。分かりにくいかも知れないですけど』
「そうかな…必要が無いとあんまり積極的じゃないから、無理矢理誘ったみたいになってなければいいけれど…」
『神子さんからのお誘いなら尚更ですよっ!!!』
旧い間柄の関係故か自信有りげに語り出す晴雅へ言い出した本人とは言えほんの少し不安が残る神子に荒ぶった声量で叫び出す彼女をまたしても『秀吉様と半兵衛様の御耳を煩わせるなっ!!!』と三成の声が混じり『やーんほっぺ抓らないで〜』と相変わらずの仲良しっぷりに笑みが溢れた。
数週間後。
「大谷さんご準備は大丈夫ですか」
「ぬしこそ失念して逆進せぬ様にな」
「大丈夫ですよ!昨日の夜からバッチリ準備して何回も見直しましたからっ」
約束通り催物へ向かう当日となったのでそれぞれの身支度を終えた二人は玄関にて出発前の確認を行う。
もしもの時に備えた物が肩掛けの鞄へしっかりと詰め込まれている状態を確認し一人頷いてから傍らの夫にも確かめる。
神子よりは手持ちが少ない(むしろあるのかすら怪しい)大谷から忠告を返された。
いつだか仕上げたレポートを仕事先へ提出しに向かった際、まさかの一枚だけを忘れてしまいそれを夫がわざわざ(親友の手助けも受けていたとは言え)届けてくれた件があったので似た様な事は起こすまいと心掛けなければ。
神子が再度最終確認をしている一方で大谷も己の体に纏う包帯や普段より長めの外出時のみで着込む肌襦袢を精査していた。
そして最後は平服の赤い布地に金色の刺繍で縫われた蝶々が浮かぶ羽織りを懇切丁寧、検分する。
先に草履を履き
土足側の
最初は何も言わずにそれを受けていたが着衣している着物風のワンピースまでもが汚れてしまうのではないかと然りげ無く憂虜が生まれる。
言及しても己ばかりを優先するであろうと予測がつくので大谷は何も言わずに二人して立ち上がると土間へ接触していた服の膝部分を軽く叩いて可能性な限りで整えてやった。
一方の神子は夫の外出時に必須な杖を渡そうとしていた為、不意打ちの余り驚きが隠せなかったが時折に見せてくれる気遣いへ嬉しさと幸福で胸が暖かくなる。
満ち足りた笑顔で礼を返してくる妻に黙って頷き杖を受け取ると二人して和風戸を開き玄関から足を踏み出す。
歩幅を合わせ肩を並べて時折に言葉も交わして大谷と神子は目的地へと向かうのだった
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