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出された抹茶と氷が入った茶や和菓子を口にして(生き返るねぇ。やっぱり大和人として和菓子は外せないなぁ)と内心で呟きながら和む立花の様子へ神子はニコニコと笑みを絶やさずに見守っていた。
大の男でありながら親しみ易い彼の性格を知っている身としてその表情や挙動一つ一つが違って見えてこちらの方も朗らかな気分になれる。
知らぬ相手ではなく詳しい素性を知る相手なので警戒や不服は無いのだが己から意識を逸らす神子へ大谷の胸中が少しばかり穏やかではなかった。
「宗茂ここに居るのでしょう!大人しく出て来なさいっ!!」
彼女が両手で丁寧に湯呑みを持ち傾けてから口を着けると同時で玄関から高らかな呼び声が届いた。
湯呑みに口を着けたまま驚愕の顔な神子とぎょっとした顔色で焦る立花達に対して大谷だけが落ち着いた目をしている。
「む、宗茂さんお呼びされてるみたいですけれど大丈夫ですか…?」
「問題ありません!手前の問題ですので御迷惑を御掛けする前にこの辺りで失礼致します!!」
「宗茂さんっ!」
困惑する神子へ立花が声量を張り上げ非常な程、大焦りした挙動で詫びと共に頭を下げ急ぎ居間から出て行った。
その余りの慌てっぷりは走り去る途中で脚を壁にぶつけたり大柄な身の丈を倒しかけるまで躓くので彼女はかなり心配していた。
隣の夫へ声を掛けるのも忘れて立ち上がるなり同じ様に飛び出してしまったのでポツンと座布団で座ったまま一人大谷は取り残されてしまった。
「遅いですよ宗茂。朝から僕を放っておいていい度胸をしてますね!」
「申し訳ございません我が君、しかしここは友垣の室家なのでどうか御静かに…」
大した距離でもないので廊下に出れば後ろ姿からでも困っている状態が見て取れる立花とそんな彼へ不満をぶちまけている金髪の少年が。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「神子殿っ!すみません御騒がせしてしまい…直ぐに帰参致しますので、」
「おやお前の友垣とは想像出来ない御相手ですね」
大の大人である筈の立花が一回り処かそれ以上に体格も年齢差もある少年相手へたじたじとなっている姿で心配から声をかけた。
瞬時に反応して謝り出す彼と違い少年は神子の存在へ気付くと靴を履いたまま上がり框 から進もうとするのでそれを立花が制しながら「我が君っ!こちらの室家では履物を脱がれて下さい!!」と諫めた。
「初めまして大谷神子と申します」
「僕はザビー様の一番弟子にして伝道者、大友宗麟!!宗茂からは時たまあなたの話は聞いていましたよ」
悶着の末、靴は脱がずに三和土 で立ったまま会話が始まり漸く少年、大友宗麟と自己紹介を交わす事に。
歳下相手ながら頭も下げて名乗る神子へ宗麟は得意げに返す。
「噂にもよると鳥の捕獲や世話にも慣れているとかないとか。鷹狩りも如何なる程になるか是非とも見て見たいですね」
「捕獲とか鷹狩りとかはちょっと、その…」
「宗麟様。神子殿はあくまでも保護活動される傍らなのでその様な形とは異なります…」
聞き覚えの無い噂を話し出した彼へ困り顔で答える神子の助けが為に発言するがあんまり届いてはなさそうだ。
心底申し訳なさそうな表情で紹介をしてくれる立花によると宗麟は護衛対象兼ね世話相手でありとある団体・ザビー教とやらで布教を勤しんでいる身の者との事。
まだまだ幼なげな見た目だが熱意は恐らく幹部の中で右に出る者は居ない独走状態に近く街中を回りまくって精を出しているらしい。
「自信が無ければ入信して鳥への愛と共に腕前を上げていけばいいんですよ!そうすればみるみる内に斉唱部門が出来上がります!!」
「え、ええっと…私は人の上に立てる様な者ではないので…」
「急くな御話では御判断が曖昧となってしまうので今日 は帰参致し、」
「黙りなさい宗茂!アニマル部門に任命した筈なのに勧誘が全く進んでいないあなたが言える立場はありません!!」
「で、ですが我が君…」
語り出したら止まらない宗麟の提案でどう回答すればいいのか分からず拙い言葉で返すが諦める兆しが見えない。
己だけならばまだしも知り合いの神子まで巻き込む事だけはどうしても避けたい立花が帰宅を促すも逆に言い負かされてしまった。
「あなたに授ける洗礼名も考えていたんですよ!その名もスピリチュアル神子です!」
「す、すぴりち、あ…?」
「由来はあなたがかつて『いけません我が君っ!!!』」
止められる者が不在の中で続く入信前提の話はとうとう洗礼名にまで到達し嬉々として説明を始め様とした宗麟の口を立花が目にも止まらぬ速さで塞いだ。
「?……大谷さん、いつの間にいらっしゃったんですか」
「ぬしの名が奇怪へ変わる前によ」
「すみませんお一人にしてしまって…その、名前の件は良く分からないです」
「おやおやあなたも居たんですねフェアリー大谷!」
いきなり敏捷性を見せる立花へ驚くも不意に耳元がふれ慣れた感触と温度で包まれた気がした。
もしやと振り向けば背後には大谷が立っており存在を認識されると同時で塞いでいた妻の両耳から手を離した。
自分の耳を覆い隠していたのが夫の包帯で包まれた手だと悟り少し顔が火照った様な錯覚を覚える。
彼の姿を目で捉えると立花を振り解いた変わらぬ勢いで洗礼名らしきもので呼ぶ。
対する大谷はどこか遠い目をして心ここに在らずな様相だった。
心配する神子が(ふぇありーってなんだろ?)と頭の片隅で思いつつ夫へ声を掛け続けた。
「大谷殿、此度の件につきましては誠に誠に、申し訳ございませぬっ…!!」
「ぬしに全ての責があるとは言わぬが、危うくノドからアバラが出かかったわ」
「返す御言葉もございません……」
その後。
貰った土産の封を開いて中身を確認する様に言い出し神子を居間へ戻らせた大谷とまだまだ喋り足りない宗麟を玄関外へ押し出した立花が対話を始める。
三和土で両膝を着き頭を深く下げて詫びも入れる彼へ大谷は多少ながら同情半分、臍が曲がりそうな心緒だった。
「あっ大谷さん。立花さんは大丈夫でしたか…?」
「杞憂故、ぬしが尾を引く必要はない」
玄関の和風戸を静かに締め切るまで謝罪の言葉を口にし続けた立花が立ち去り腕を組んで小さく嘆息を溢すと妻が待つ居間へ戻る。
足を踏み入れると刹那に神子が客人を案じる言及をするので即返答して引き摺らない様にせざるを得ない。
言い付け通りに土産の封を開き包装紙を畳んでいた妻は「お土産はもみじ饅頭でした」と報告してくるので「左様か」と相槌を打った。
「いっぱい種類がありますね。食べ切れるかな…」
「持て余す位なら三成達へ分ければよかろ」
「そうですね!折角なら美味しい物を一緒に楽しんで欲しいですし」
一つ一つわざわざ個装されたそれは数だけでなく種類も豊富でこんなに上等な代物を土産として選んでくれた立花夫妻へ感謝の念が高まる。
「奥さんにもお礼のお手紙をしっかり返さなきゃ…大谷さん食べたい味とかあります?」
「我はとりわけ拘りが無い。ぬしが先に選ぶがよい」
「そうは言っても、美味しい味の物を大谷さんに食べて頂きたいですし…」
強く意識した訳ではなく無意識でもなく最早本能並に大谷を最優先で考える神子へ妻の長所でもあり欠点から悩みが尽きそうになかった。
どうするかと思考していれば「…嫌いじゃないけれど、何か躊躇しちゃうのは何でだろ」と一人でに呟いているので問い詰めてみた。
最初は呟きがバレて両手を振りながら気にしないで欲しいと繕っていたが真っ直ぐで視線を固定して送ってくる夫に仕方なく白状した。
「自分でも良く分からないんですけど、なんだかもみじ饅頭を食べる時に警戒心と言うんでしょうか…違和感があって」
「ふむ、食せぬとは言っておらぬな?」
「そうですね。和菓子は好きですから」
ぽつぽつと溢し出す神子本人も不思議そうで共に考え込んでいた大谷は指を己の顎へ添え再び問いも重ねてくる。
コクリと頷く妻を隣に机で置かれた饅頭へ包帯に巻かれた手が伸び一つ取り上げた。
滞り無く包装紙を剥がせば甘い匂いが広がり鼻腔が刺激されてためらいは薄らいでゆく。
変に意識するのも可笑しく折角の知り合いが用意してくれた菓子も無駄にしたくないし出来ないのでよしっ、と意気込んだ神子も食べてみる事にした。
すると肩にポンと手が置かれたので顔を向けると同時で口が塞がれた。
「んっ…む!?」
神子の唇に重なってきたのは無論、大谷のもので驚愕から目を見開く妻へ迷いなく舌を捩じ込ませた。
生暖かい舌に混じる餡の甘さやカステラの食感で頬張っただろうもみじ饅頭を口移しされている現状へ気がつくまで多少の時間がかかった。
「んっ…ん、ぅ!」
どうにか首をもたげて離れ様とするも後頭部にはいつのまにか手を回され固定済みで肩も置かれたそれによって押さえ込まれている。
舌を絡まされている内に口内の菓子が崩れ飲み下すに適した形となると大谷が催促するかの如く神子の喉をトントンと叩いた。
口を塞がれ深い絡みで既に感覚がぼんやりとしているのに突如刺激を重なられて一瞬ばかりビクリと体が震える。
しかしそれが功を奏したのか分からないが喉は上下されて無事に嚥下された。
「はっ…ん、なにを…して、」
「いやなにぬしが物欲しげな顔をしていたのでな、ヒヒッ」
喉を叩いてからそのまま指を添えていた故に飲み下された事を察した大谷がやっと口を離し解放され神子は呼吸を整えていた。
息を切らし頬を紅潮させ少し恨めしげに見つめてくる妻へ悪びれる様子もなく笑う。
「足りぬと言うならまだ餅に抹茶もあるぞ?」
「お気持ちだけ受け取っておきます…」
「まァそう遠慮するな」
「自分で食べれますから…」
やけに楽しげで最初に口にした(されたが正しい)大衆的な味の他まで薦めてくる夫へげんなりとした返答をするが全く意にしてない。
手を向けて顔を背けながら距離を取ろうとする神子を逃すまいと大谷が押し倒して見下ろした。
「お、大谷さん何を、」
「時には夕刻前にもぬしと戯れるのも一興と想到した故」
「!!?流石にこんな明るい時では駄目ですっ!!」
口角を上げたまま妻を見据えて告げれば顔色を一変させ大暴れとは言わないがもがき出したが敵わない。
抵抗も虚しく服が開 けられ肩が露出されてしまった。
「駄目ですって!やめて下さいっ」
「ぬしと我の仲であろ何を躊躇う必要があるのか」
「そう言う問題じゃな『大変申し訳ありません!手前こちらに失せ物が、』」
なおも事に及ぼうとする夫を必死で止めようと声も張り上げるが無意味で終わり完全に服を脱衣されそうな刹那。
屋敷から立ち去った筈の立花が弁解をしながら襖を全開にして再び居間へ現れた。
しかし眼前で起きている光景へ呆気に取られ数秒ばかり停止していた。
「ま、まこっ、とに申し訳ございませんっ!!邪魔立てするつもりは…」
「何が起こっているのですか宗茂!僕にも見せなさい!!」
「いけません宗麟様っ!!これ以上、御二人の御邪魔をしてなりません!!!」
あたふたと二人も気付かずにいた忘れ物の本(表紙には犬が載っている)を畳から拾い上げその場から大層取り乱して逃げる様に去って行った。
おまけに着いて来ていたのか宗麟の声も聞こえたが直ぐ遠ざかる。
「うぅ…立花さんに恥ずかしい姿を…」
「そう嘆く事はなかろ。まだ幕開きで済んだ所よ」
「済んでないですっ!大谷さんやめっ、」
似た様に水を差された筈だがそれ如きで興が削がれる事もなかった大谷は改めて神子を堪能するのだった。
(やっぱり本当に仲良しなんだな〜あの御二人…わしも奥とああなれたらなぁ…)
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大の男でありながら親しみ易い彼の性格を知っている身としてその表情や挙動一つ一つが違って見えてこちらの方も朗らかな気分になれる。
知らぬ相手ではなく詳しい素性を知る相手なので警戒や不服は無いのだが己から意識を逸らす神子へ大谷の胸中が少しばかり穏やかではなかった。
「宗茂ここに居るのでしょう!大人しく出て来なさいっ!!」
彼女が両手で丁寧に湯呑みを持ち傾けてから口を着けると同時で玄関から高らかな呼び声が届いた。
湯呑みに口を着けたまま驚愕の顔な神子とぎょっとした顔色で焦る立花達に対して大谷だけが落ち着いた目をしている。
「む、宗茂さんお呼びされてるみたいですけれど大丈夫ですか…?」
「問題ありません!手前の問題ですので御迷惑を御掛けする前にこの辺りで失礼致します!!」
「宗茂さんっ!」
困惑する神子へ立花が声量を張り上げ非常な程、大焦りした挙動で詫びと共に頭を下げ急ぎ居間から出て行った。
その余りの慌てっぷりは走り去る途中で脚を壁にぶつけたり大柄な身の丈を倒しかけるまで躓くので彼女はかなり心配していた。
隣の夫へ声を掛けるのも忘れて立ち上がるなり同じ様に飛び出してしまったのでポツンと座布団で座ったまま一人大谷は取り残されてしまった。
「遅いですよ宗茂。朝から僕を放っておいていい度胸をしてますね!」
「申し訳ございません我が君、しかしここは友垣の室家なのでどうか御静かに…」
大した距離でもないので廊下に出れば後ろ姿からでも困っている状態が見て取れる立花とそんな彼へ不満をぶちまけている金髪の少年が。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「神子殿っ!すみません御騒がせしてしまい…直ぐに帰参致しますので、」
「おやお前の友垣とは想像出来ない御相手ですね」
大の大人である筈の立花が一回り処かそれ以上に体格も年齢差もある少年相手へたじたじとなっている姿で心配から声をかけた。
瞬時に反応して謝り出す彼と違い少年は神子の存在へ気付くと靴を履いたまま上がり
「初めまして大谷神子と申します」
「僕はザビー様の一番弟子にして伝道者、大友宗麟!!宗茂からは時たまあなたの話は聞いていましたよ」
悶着の末、靴は脱がずに
歳下相手ながら頭も下げて名乗る神子へ宗麟は得意げに返す。
「噂にもよると鳥の捕獲や世話にも慣れているとかないとか。鷹狩りも如何なる程になるか是非とも見て見たいですね」
「捕獲とか鷹狩りとかはちょっと、その…」
「宗麟様。神子殿はあくまでも保護活動される傍らなのでその様な形とは異なります…」
聞き覚えの無い噂を話し出した彼へ困り顔で答える神子の助けが為に発言するがあんまり届いてはなさそうだ。
心底申し訳なさそうな表情で紹介をしてくれる立花によると宗麟は護衛対象兼ね世話相手でありとある団体・ザビー教とやらで布教を勤しんでいる身の者との事。
まだまだ幼なげな見た目だが熱意は恐らく幹部の中で右に出る者は居ない独走状態に近く街中を回りまくって精を出しているらしい。
「自信が無ければ入信して鳥への愛と共に腕前を上げていけばいいんですよ!そうすればみるみる内に斉唱部門が出来上がります!!」
「え、ええっと…私は人の上に立てる様な者ではないので…」
「急くな御話では御判断が曖昧となってしまうので
「黙りなさい宗茂!アニマル部門に任命した筈なのに勧誘が全く進んでいないあなたが言える立場はありません!!」
「で、ですが我が君…」
語り出したら止まらない宗麟の提案でどう回答すればいいのか分からず拙い言葉で返すが諦める兆しが見えない。
己だけならばまだしも知り合いの神子まで巻き込む事だけはどうしても避けたい立花が帰宅を促すも逆に言い負かされてしまった。
「あなたに授ける洗礼名も考えていたんですよ!その名もスピリチュアル神子です!」
「す、すぴりち、あ…?」
「由来はあなたがかつて『いけません我が君っ!!!』」
止められる者が不在の中で続く入信前提の話はとうとう洗礼名にまで到達し嬉々として説明を始め様とした宗麟の口を立花が目にも止まらぬ速さで塞いだ。
「?……大谷さん、いつの間にいらっしゃったんですか」
「ぬしの名が奇怪へ変わる前によ」
「すみませんお一人にしてしまって…その、名前の件は良く分からないです」
「おやおやあなたも居たんですねフェアリー大谷!」
いきなり敏捷性を見せる立花へ驚くも不意に耳元がふれ慣れた感触と温度で包まれた気がした。
もしやと振り向けば背後には大谷が立っており存在を認識されると同時で塞いでいた妻の両耳から手を離した。
自分の耳を覆い隠していたのが夫の包帯で包まれた手だと悟り少し顔が火照った様な錯覚を覚える。
彼の姿を目で捉えると立花を振り解いた変わらぬ勢いで洗礼名らしきもので呼ぶ。
対する大谷はどこか遠い目をして心ここに在らずな様相だった。
心配する神子が(ふぇありーってなんだろ?)と頭の片隅で思いつつ夫へ声を掛け続けた。
「大谷殿、此度の件につきましては誠に誠に、申し訳ございませぬっ…!!」
「ぬしに全ての責があるとは言わぬが、危うくノドからアバラが出かかったわ」
「返す御言葉もございません……」
その後。
貰った土産の封を開いて中身を確認する様に言い出し神子を居間へ戻らせた大谷とまだまだ喋り足りない宗麟を玄関外へ押し出した立花が対話を始める。
三和土で両膝を着き頭を深く下げて詫びも入れる彼へ大谷は多少ながら同情半分、臍が曲がりそうな心緒だった。
「あっ大谷さん。立花さんは大丈夫でしたか…?」
「杞憂故、ぬしが尾を引く必要はない」
玄関の和風戸を静かに締め切るまで謝罪の言葉を口にし続けた立花が立ち去り腕を組んで小さく嘆息を溢すと妻が待つ居間へ戻る。
足を踏み入れると刹那に神子が客人を案じる言及をするので即返答して引き摺らない様にせざるを得ない。
言い付け通りに土産の封を開き包装紙を畳んでいた妻は「お土産はもみじ饅頭でした」と報告してくるので「左様か」と相槌を打った。
「いっぱい種類がありますね。食べ切れるかな…」
「持て余す位なら三成達へ分ければよかろ」
「そうですね!折角なら美味しい物を一緒に楽しんで欲しいですし」
一つ一つわざわざ個装されたそれは数だけでなく種類も豊富でこんなに上等な代物を土産として選んでくれた立花夫妻へ感謝の念が高まる。
「奥さんにもお礼のお手紙をしっかり返さなきゃ…大谷さん食べたい味とかあります?」
「我はとりわけ拘りが無い。ぬしが先に選ぶがよい」
「そうは言っても、美味しい味の物を大谷さんに食べて頂きたいですし…」
強く意識した訳ではなく無意識でもなく最早本能並に大谷を最優先で考える神子へ妻の長所でもあり欠点から悩みが尽きそうになかった。
どうするかと思考していれば「…嫌いじゃないけれど、何か躊躇しちゃうのは何でだろ」と一人でに呟いているので問い詰めてみた。
最初は呟きがバレて両手を振りながら気にしないで欲しいと繕っていたが真っ直ぐで視線を固定して送ってくる夫に仕方なく白状した。
「自分でも良く分からないんですけど、なんだかもみじ饅頭を食べる時に警戒心と言うんでしょうか…違和感があって」
「ふむ、食せぬとは言っておらぬな?」
「そうですね。和菓子は好きですから」
ぽつぽつと溢し出す神子本人も不思議そうで共に考え込んでいた大谷は指を己の顎へ添え再び問いも重ねてくる。
コクリと頷く妻を隣に机で置かれた饅頭へ包帯に巻かれた手が伸び一つ取り上げた。
滞り無く包装紙を剥がせば甘い匂いが広がり鼻腔が刺激されてためらいは薄らいでゆく。
変に意識するのも可笑しく折角の知り合いが用意してくれた菓子も無駄にしたくないし出来ないのでよしっ、と意気込んだ神子も食べてみる事にした。
すると肩にポンと手が置かれたので顔を向けると同時で口が塞がれた。
「んっ…む!?」
神子の唇に重なってきたのは無論、大谷のもので驚愕から目を見開く妻へ迷いなく舌を捩じ込ませた。
生暖かい舌に混じる餡の甘さやカステラの食感で頬張っただろうもみじ饅頭を口移しされている現状へ気がつくまで多少の時間がかかった。
「んっ…ん、ぅ!」
どうにか首をもたげて離れ様とするも後頭部にはいつのまにか手を回され固定済みで肩も置かれたそれによって押さえ込まれている。
舌を絡まされている内に口内の菓子が崩れ飲み下すに適した形となると大谷が催促するかの如く神子の喉をトントンと叩いた。
口を塞がれ深い絡みで既に感覚がぼんやりとしているのに突如刺激を重なられて一瞬ばかりビクリと体が震える。
しかしそれが功を奏したのか分からないが喉は上下されて無事に嚥下された。
「はっ…ん、なにを…して、」
「いやなにぬしが物欲しげな顔をしていたのでな、ヒヒッ」
喉を叩いてからそのまま指を添えていた故に飲み下された事を察した大谷がやっと口を離し解放され神子は呼吸を整えていた。
息を切らし頬を紅潮させ少し恨めしげに見つめてくる妻へ悪びれる様子もなく笑う。
「足りぬと言うならまだ餅に抹茶もあるぞ?」
「お気持ちだけ受け取っておきます…」
「まァそう遠慮するな」
「自分で食べれますから…」
やけに楽しげで最初に口にした(されたが正しい)大衆的な味の他まで薦めてくる夫へげんなりとした返答をするが全く意にしてない。
手を向けて顔を背けながら距離を取ろうとする神子を逃すまいと大谷が押し倒して見下ろした。
「お、大谷さん何を、」
「時には夕刻前にもぬしと戯れるのも一興と想到した故」
「!!?流石にこんな明るい時では駄目ですっ!!」
口角を上げたまま妻を見据えて告げれば顔色を一変させ大暴れとは言わないがもがき出したが敵わない。
抵抗も虚しく服が
「駄目ですって!やめて下さいっ」
「ぬしと我の仲であろ何を躊躇う必要があるのか」
「そう言う問題じゃな『大変申し訳ありません!手前こちらに失せ物が、』」
なおも事に及ぼうとする夫を必死で止めようと声も張り上げるが無意味で終わり完全に服を脱衣されそうな刹那。
屋敷から立ち去った筈の立花が弁解をしながら襖を全開にして再び居間へ現れた。
しかし眼前で起きている光景へ呆気に取られ数秒ばかり停止していた。
「ま、まこっ、とに申し訳ございませんっ!!邪魔立てするつもりは…」
「何が起こっているのですか宗茂!僕にも見せなさい!!」
「いけません宗麟様っ!!これ以上、御二人の御邪魔をしてなりません!!!」
あたふたと二人も気付かずにいた忘れ物の本(表紙には犬が載っている)を畳から拾い上げその場から大層取り乱して逃げる様に去って行った。
おまけに着いて来ていたのか宗麟の声も聞こえたが直ぐ遠ざかる。
「うぅ…立花さんに恥ずかしい姿を…」
「そう嘆く事はなかろ。まだ幕開きで済んだ所よ」
「済んでないですっ!大谷さんやめっ、」
似た様に水を差された筈だがそれ如きで興が削がれる事もなかった大谷は改めて神子を堪能するのだった。
(やっぱり本当に仲良しなんだな〜あの御二人…わしも奥とああなれたらなぁ…)
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