夏中
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懐かしさとほんの少しの心寂しさを抱きながら思い出した過去の記憶から意識を戻せば相も変わらず、隣で並び歩く神子が己を過敏な位に気遣う現状であった。
流石に呆れを通り越して疲れに近い何かも感じたので妻の頬でもつねってやろうかと考えたが逢魔の事を思い返しやめた。
かわりに黙って包帯で包まれた手を伸ばし神子の手を取る。
不意打ちで受けた夫からのふれあいにびっくりする神子だが嬉しそうに笑って頬を赤く染めてギュッと握り返してきた。
包帯に隠された顔ながら珍しく穏やかな笑みを浮かべた大谷は神子と共に歩みを合わせて身を寄り添い合わせて家路につく。
「おかえりなさい!神子、吉継さん。ありがとうねいつもお義父様のお墓参りしてくれて」
「我が望んで好き勝手にやらせて貰っただけの事よ」
「それでもいいのよ。夫は素直に言えないだろうから代わりに言わせてちょうだい、本当にありがとう」
帰るなりほのかがパタパタと早足で玄関まで駆け付けて来るなり頭も下げて礼を言うので大谷が首を振って返した。
「お風呂も沸かしておいたから良かったら一番風呂で入っちゃって!」
「本当!?」
「我の湯治は手間が掛かる故、後回しで構わぬ」
「駄目よ!せっかくお薬を使うんだから吉継さんには気持ちよく入って貰いたいの!」
二人で墓参りへ向かっている内に夕餉を作り湯まで準備していたらしい。
押し通した神子が食器の片付けを手伝い終えた所でほのかが勧めてくるので喜ぶ娘の一方で大谷は遠慮を見せるも義母は頑なに譲らない。
父親だけでなく母親でも似通った部分を垣間見て悟った大谷は仕方なく折れて「御厚意に甘えさせて頂く」と頷き神子が嬉々として「それじゃ早速お薬を試してみましょう!」と催促してくる。
「家に帰ってからもお風呂に入れてみましょう大谷さん!」
「聞こえている故、急くに引っ張るな」
はしゃぎ出している妻にぐいぐいと腕を引かれとうとう額へデコピンをくらわす事になった。
一方の霊魔はと言うと夕餉では落ち着いて対応をしていたものの風呂と聞きつけ「夫婦とは言え不埒な真似は、」と言いかけた所をほのかが素晴らしい掌底打ちをおみまいして遮った。
「ふぅ、私も一緒に入っちゃったけどいい薬湯だった…これなら大谷さんの体ももっと良くなってくれるかな」
両親(片方はアレだったが)の気遣いへ感謝しつつ無事に風呂を終えた神子は入浴後の処置を終えてお茶を飲んでいた。
居間でくつろぐほのかと霊魔達へおやすみと挨拶を済ませてから大谷の分であるお茶を片手に廊下を歩く。
「明日は家へ帰る前に片倉さんと政宗くんの所へ寄らなきゃ。幸が待ってるだろうし預けっぱなしじゃ申し訳ないし」
大谷宅の飼い鳥である桜ブンチョウの幸は今回の里帰りの為、知り合いの片倉小十郎の元へ一時的預かって貰っていた。
本音は大谷が自分の誕生日プレゼントとして授けてくれた喜びを両親へ伝えたくて一緒に連れて来てやりたかったが、自分達夫婦以外の者には警戒心が強いのでストレスを与えてしまうのではないかと危惧もあった。
それと大谷にも同じ事を言われたので話し合いの結果、まだ鳥の扱いに慣れているであろう小十郎へお願いしたのであった。
ひとまず電話で訳を説明し相談すると小十郎は快く「構わねぇよ大事な用事なんだろう。気にせず連れて来な」と引き受けてくれた。
何度も謝罪と礼を言えば会話を傍観していた大谷と小十郎から多過ぎだと叱られてしまったが。
共に鳥を飼育する(小十郎は家畜用の鴨)者同士として信頼しているのもあり安心して幸を預ける事が出来た。
迎えへ行った際にはお礼代わりの手土産を忘れない様にしなければと神子は意気込んだ。
忘れまいと携帯へメモを残す妻の背中を見つめながら大谷は幸を迎えに行った暁に伊達が神子へアタックをするだろう懸念が生まれていた。
なお預かり先として真っ先に候補が上がったのは大谷の親友である石田三成だったが、彼は何気なく撫でてみようとした幸に指を噛まれており(人と鳥で当てはめていいのか分からないが)犬猿の仲なので二人してやめておこうと意見が一致した。
大谷の頼みであれば三成は前述の問題も関係なく引き受けそうだが。
別件の話となるがその三成の彼女が大谷と神子達の里帰りと幸の預かり先を聞きつけ、伊達宅へ突撃する事となる。
「さて、そろそろ私達も寝なきゃ…大谷さんはどこだろう」
翌日の起床は早くもないが遅くなる訳にもいかないのでそれなりな時間で寝床へ向かおうと考えていた。
自宅内故に見つけるまでは時間はかかるまいと大谷の名を呼び探し回る。
「あっ大谷さんこんな所に居たんですか。帰りの途中で幸を迎えに行きますから、もう寝ましょう」
「……良好よリョウコウ。ここに来てから何度目になるか」
う〜ん…と一人首を傾げつつふと思い当たった場所を浮かべそちらへ移動すれば案の定、実家に帰省してから直ぐさま行った逢魔への線香を上げの為の仏壇前に座る大谷を見つけた。
明かりも点けず暗がりの中で座布団に姿勢よく腰を下ろしている大谷の後ろ姿へ掛けた神子の声と夫の言葉が重なる。
「相も変わらず、己を顧みぬ悪癖はぬし譲りよなァ」
(お祖父様に話しかけてくれてるのかな。でも、なんだか誰かと喋ってる様な感じが…)
「………あいわかった。またの機会を楽しみにしておく」
好奇心から完全に声をかけず入り口付近の壁に身を隠して耳を済ませれば仏壇で安置された位牌を真っ直ぐ見つめたまま微動だにせず会話の様な発言を続けていた。
最後にコクリと頷いて軽く会釈するとグルリとこちらへ振り向き「盗み聞きとは趣味が悪いぞ神子よ」と告げられビクリと身を震わす。
「まるで間者の様よなァ、ヒヒッ…」
「すみませんでした…でもそんな時代劇みたいな…」
「ヒヒヒッ…まァ作り物に比べればぬしの方が洗練されておるわ」
バツが悪そうに肩を竦めてから謝る神子に大谷はまだ笑ったまま繋ぎ「猿飛の奴程ではないが」と付け足した。
「猿飛くんですか?言われてみれば確かに器用だし凄く動けるみたいですしね」
神子が良く和菓子を買いへ向かう店の顔見知り店員である猿飛佐助の名前が出され疑問を浮かべるも納得する理由を思い出した。
様々な和菓子を手早く苦もなく作り上げ時折に同じ店員の真田幸村へ手合わせ相手をしてる場面に鉢合わせした時の猿飛の動きは常人を超えた物だった。
それを見られた猿飛は口外しないで欲しいと懇願してきて「神子ちゃん以外の人にバレたら怖がられて売り上げに支障が出ちゃうからさ〜頼むよ!」と手を合わせてまで言うので最初からそんなつもりは無いと言い切れば胸を撫で下ろしていたのも懐かしい記憶だ。
むしろ自分では実現出来ない動きを可能にしている猿飛が凄いと伝えれば「褒め上手だねぇ神子ちゃん。そんじゃあお願いとお礼も込めてサービスしちゃおうかな」と照れくさそうながらも表情を明るくして常連の事もありそれは大層なもてなしを受けた。
「アレは一筋縄でいかぬ相手故、油断せぬ様にな」
「油断って…猿飛くんってそんなに気をつける様な人じゃないと思うんですけど」
どこか警戒する様な猿飛の何かを知っているかの様な口振りで語る大谷にお人好しな反応を見せる神子は夫の溜め息を聞き逃していた。
「ほらもうお時間ですし寝ましょうよ」
「承知した。盗み聞きの償いは共寝で済ませてやろ」
「えっ…!!?」
「冗談よジョウダン。流石にココでは無理がある」
「……冗談にしては度が過ぎてます」
就寝の催促をすれば賛同してくれたのだが躊躇なく発言された大谷の言葉でピシリと体が固まり心臓が跳ねた気がした神子は顔が真っ赤になっていた。
可笑しそうに笑う大谷だったが無論、時間的に声量も落としチラッと先程過ごしていた仏壇の部屋を見て訂正をする。
結局、共寝とは言ったが一組の布団で床につく事で収まった。
自分に回された包帯を纏う手が添えられ抱き締められたまま神子は大谷と共に眠りへ落ちていった。
『………』
翌朝、帰宅を惜しみまだ泊まっていっても構わないと泣きつきかける霊魔を娘から引き剥がすほのか達のやり取りを大谷が楽しげに眺め苦笑いで見ている神子達。
来訪の際は夫の意向で歩いて来たが帰りは寄り道も必要なのでタクシーを呼び出しそれへ乗り込んだ。
先に後部座席へ乗り込む神子の後へ続く大谷だったがピタリと止まり数分ばかり振り向いて屋敷を見つめていた。
「大谷さん?何か忘れ物でもありますか」
「いや何もない。はやに不幸を迎えにいかねば」
「お留守番じゃないですけど頑張ってくれたので、いつもより豪華なご飯をあげましょうね。大谷さんも沢山頭に乗せてあげて下さい」
「それで満足するか」
先に乗り込み夫の補助をしようと待ち侘びていた妻から呼ばれ正面へ向き車内へと乗車した。
『幸せそうで良かった…』
屋敷のある部屋からゆらりと立ち竦む影が遠ざかる車を見送ったまま呟いた。
『これからも二人ずっと、一緒に』
ポツリとポツリと口から溢れる言葉は届かなくとも発言者当人には関係なかった。
『神子をどうか頼むよ、吉継くん』
名を出された者がここに訪れた時から肌身離さずお守りを身に付けていた姿へ慈悲が含まれる笑みを浮かべる。
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流石に呆れを通り越して疲れに近い何かも感じたので妻の頬でもつねってやろうかと考えたが逢魔の事を思い返しやめた。
かわりに黙って包帯で包まれた手を伸ばし神子の手を取る。
不意打ちで受けた夫からのふれあいにびっくりする神子だが嬉しそうに笑って頬を赤く染めてギュッと握り返してきた。
包帯に隠された顔ながら珍しく穏やかな笑みを浮かべた大谷は神子と共に歩みを合わせて身を寄り添い合わせて家路につく。
「おかえりなさい!神子、吉継さん。ありがとうねいつもお義父様のお墓参りしてくれて」
「我が望んで好き勝手にやらせて貰っただけの事よ」
「それでもいいのよ。夫は素直に言えないだろうから代わりに言わせてちょうだい、本当にありがとう」
帰るなりほのかがパタパタと早足で玄関まで駆け付けて来るなり頭も下げて礼を言うので大谷が首を振って返した。
「お風呂も沸かしておいたから良かったら一番風呂で入っちゃって!」
「本当!?」
「我の湯治は手間が掛かる故、後回しで構わぬ」
「駄目よ!せっかくお薬を使うんだから吉継さんには気持ちよく入って貰いたいの!」
二人で墓参りへ向かっている内に夕餉を作り湯まで準備していたらしい。
押し通した神子が食器の片付けを手伝い終えた所でほのかが勧めてくるので喜ぶ娘の一方で大谷は遠慮を見せるも義母は頑なに譲らない。
父親だけでなく母親でも似通った部分を垣間見て悟った大谷は仕方なく折れて「御厚意に甘えさせて頂く」と頷き神子が嬉々として「それじゃ早速お薬を試してみましょう!」と催促してくる。
「家に帰ってからもお風呂に入れてみましょう大谷さん!」
「聞こえている故、急くに引っ張るな」
はしゃぎ出している妻にぐいぐいと腕を引かれとうとう額へデコピンをくらわす事になった。
一方の霊魔はと言うと夕餉では落ち着いて対応をしていたものの風呂と聞きつけ「夫婦とは言え不埒な真似は、」と言いかけた所をほのかが素晴らしい掌底打ちをおみまいして遮った。
「ふぅ、私も一緒に入っちゃったけどいい薬湯だった…これなら大谷さんの体ももっと良くなってくれるかな」
両親(片方はアレだったが)の気遣いへ感謝しつつ無事に風呂を終えた神子は入浴後の処置を終えてお茶を飲んでいた。
居間でくつろぐほのかと霊魔達へおやすみと挨拶を済ませてから大谷の分であるお茶を片手に廊下を歩く。
「明日は家へ帰る前に片倉さんと政宗くんの所へ寄らなきゃ。幸が待ってるだろうし預けっぱなしじゃ申し訳ないし」
大谷宅の飼い鳥である桜ブンチョウの幸は今回の里帰りの為、知り合いの片倉小十郎の元へ一時的預かって貰っていた。
本音は大谷が自分の誕生日プレゼントとして授けてくれた喜びを両親へ伝えたくて一緒に連れて来てやりたかったが、自分達夫婦以外の者には警戒心が強いのでストレスを与えてしまうのではないかと危惧もあった。
それと大谷にも同じ事を言われたので話し合いの結果、まだ鳥の扱いに慣れているであろう小十郎へお願いしたのであった。
ひとまず電話で訳を説明し相談すると小十郎は快く「構わねぇよ大事な用事なんだろう。気にせず連れて来な」と引き受けてくれた。
何度も謝罪と礼を言えば会話を傍観していた大谷と小十郎から多過ぎだと叱られてしまったが。
共に鳥を飼育する(小十郎は家畜用の鴨)者同士として信頼しているのもあり安心して幸を預ける事が出来た。
迎えへ行った際にはお礼代わりの手土産を忘れない様にしなければと神子は意気込んだ。
忘れまいと携帯へメモを残す妻の背中を見つめながら大谷は幸を迎えに行った暁に伊達が神子へアタックをするだろう懸念が生まれていた。
なお預かり先として真っ先に候補が上がったのは大谷の親友である石田三成だったが、彼は何気なく撫でてみようとした幸に指を噛まれており(人と鳥で当てはめていいのか分からないが)犬猿の仲なので二人してやめておこうと意見が一致した。
大谷の頼みであれば三成は前述の問題も関係なく引き受けそうだが。
別件の話となるがその三成の彼女が大谷と神子達の里帰りと幸の預かり先を聞きつけ、伊達宅へ突撃する事となる。
「さて、そろそろ私達も寝なきゃ…大谷さんはどこだろう」
翌日の起床は早くもないが遅くなる訳にもいかないのでそれなりな時間で寝床へ向かおうと考えていた。
自宅内故に見つけるまでは時間はかかるまいと大谷の名を呼び探し回る。
「あっ大谷さんこんな所に居たんですか。帰りの途中で幸を迎えに行きますから、もう寝ましょう」
「……良好よリョウコウ。ここに来てから何度目になるか」
う〜ん…と一人首を傾げつつふと思い当たった場所を浮かべそちらへ移動すれば案の定、実家に帰省してから直ぐさま行った逢魔への線香を上げの為の仏壇前に座る大谷を見つけた。
明かりも点けず暗がりの中で座布団に姿勢よく腰を下ろしている大谷の後ろ姿へ掛けた神子の声と夫の言葉が重なる。
「相も変わらず、己を顧みぬ悪癖はぬし譲りよなァ」
(お祖父様に話しかけてくれてるのかな。でも、なんだか誰かと喋ってる様な感じが…)
「………あいわかった。またの機会を楽しみにしておく」
好奇心から完全に声をかけず入り口付近の壁に身を隠して耳を済ませれば仏壇で安置された位牌を真っ直ぐ見つめたまま微動だにせず会話の様な発言を続けていた。
最後にコクリと頷いて軽く会釈するとグルリとこちらへ振り向き「盗み聞きとは趣味が悪いぞ神子よ」と告げられビクリと身を震わす。
「まるで間者の様よなァ、ヒヒッ…」
「すみませんでした…でもそんな時代劇みたいな…」
「ヒヒヒッ…まァ作り物に比べればぬしの方が洗練されておるわ」
バツが悪そうに肩を竦めてから謝る神子に大谷はまだ笑ったまま繋ぎ「猿飛の奴程ではないが」と付け足した。
「猿飛くんですか?言われてみれば確かに器用だし凄く動けるみたいですしね」
神子が良く和菓子を買いへ向かう店の顔見知り店員である猿飛佐助の名前が出され疑問を浮かべるも納得する理由を思い出した。
様々な和菓子を手早く苦もなく作り上げ時折に同じ店員の真田幸村へ手合わせ相手をしてる場面に鉢合わせした時の猿飛の動きは常人を超えた物だった。
それを見られた猿飛は口外しないで欲しいと懇願してきて「神子ちゃん以外の人にバレたら怖がられて売り上げに支障が出ちゃうからさ〜頼むよ!」と手を合わせてまで言うので最初からそんなつもりは無いと言い切れば胸を撫で下ろしていたのも懐かしい記憶だ。
むしろ自分では実現出来ない動きを可能にしている猿飛が凄いと伝えれば「褒め上手だねぇ神子ちゃん。そんじゃあお願いとお礼も込めてサービスしちゃおうかな」と照れくさそうながらも表情を明るくして常連の事もありそれは大層なもてなしを受けた。
「アレは一筋縄でいかぬ相手故、油断せぬ様にな」
「油断って…猿飛くんってそんなに気をつける様な人じゃないと思うんですけど」
どこか警戒する様な猿飛の何かを知っているかの様な口振りで語る大谷にお人好しな反応を見せる神子は夫の溜め息を聞き逃していた。
「ほらもうお時間ですし寝ましょうよ」
「承知した。盗み聞きの償いは共寝で済ませてやろ」
「えっ…!!?」
「冗談よジョウダン。流石にココでは無理がある」
「……冗談にしては度が過ぎてます」
就寝の催促をすれば賛同してくれたのだが躊躇なく発言された大谷の言葉でピシリと体が固まり心臓が跳ねた気がした神子は顔が真っ赤になっていた。
可笑しそうに笑う大谷だったが無論、時間的に声量も落としチラッと先程過ごしていた仏壇の部屋を見て訂正をする。
結局、共寝とは言ったが一組の布団で床につく事で収まった。
自分に回された包帯を纏う手が添えられ抱き締められたまま神子は大谷と共に眠りへ落ちていった。
『………』
翌朝、帰宅を惜しみまだ泊まっていっても構わないと泣きつきかける霊魔を娘から引き剥がすほのか達のやり取りを大谷が楽しげに眺め苦笑いで見ている神子達。
来訪の際は夫の意向で歩いて来たが帰りは寄り道も必要なのでタクシーを呼び出しそれへ乗り込んだ。
先に後部座席へ乗り込む神子の後へ続く大谷だったがピタリと止まり数分ばかり振り向いて屋敷を見つめていた。
「大谷さん?何か忘れ物でもありますか」
「いや何もない。はやに不幸を迎えにいかねば」
「お留守番じゃないですけど頑張ってくれたので、いつもより豪華なご飯をあげましょうね。大谷さんも沢山頭に乗せてあげて下さい」
「それで満足するか」
先に乗り込み夫の補助をしようと待ち侘びていた妻から呼ばれ正面へ向き車内へと乗車した。
『幸せそうで良かった…』
屋敷のある部屋からゆらりと立ち竦む影が遠ざかる車を見送ったまま呟いた。
『これからも二人ずっと、一緒に』
ポツリとポツリと口から溢れる言葉は届かなくとも発言者当人には関係なかった。
『神子をどうか頼むよ、吉継くん』
名を出された者がここに訪れた時から肌身離さずお守りを身に付けていた姿へ慈悲が含まれる笑みを浮かべる。
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