暑気払い
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鳥籠の小さい扉を開けば中から一匹の桜ブンチョウが飛び出し己の頭に降り立った。
「ぬしは熱気があろうとお構いなしか」
『ピーッ!』
扉を開いたまま呟いた大谷の頭部で返事をする様に桜ブンチョウが鳴く。
まるで自分の治める陣地だと言わんばかりな様子で頭をもたげた。
「承允出来ぬ訳ではないが今はぬしの住処を灑掃している故、身を涼めてまちと待て」
『ピッ!』
小鳥相手だとしても言葉を掛けながら指を己の頭部へ近付ければ数度首を傾げた後にそれへと跳び移った。
ゆっくりと眼前にまで寄せて引き続き語りかければ短く鳴いて彼が用意していた水入りの器を見るなり迷いなく飛び込んだ。
「大谷さん、幸の籠掃除が大変な様でしたらお代わりしますよ」
「取り掛かる処か不幸を逃してやったばかりだが?」
身と羽を震わせ水浴びを始める様をしばし眺めてから大谷は鳥籠の掃除を始める。
つもりだったが前方の庭先から名を呼ばれて顔を上げながら妻を見て言い放った。
数滴の雫を杓から滴らせながらもう片方の手で持つ神子の手桶にはまだまだ多くの水で満たされていた。
「我に構う暇があればはやに水撒きせよ」
「はーい」
口と手を動かし金網を引き出し式の底から外しつつ大谷が指示するので神子は間延びした返事をするも言われた通りに水を再び撒き始めた。
夏も中盤になり慣れ切ったとは言えないが少し過ごし易さも感じ始めた頃。
暑さ対策として神子が屋敷の中庭で打ち水をしようと考えそれを伝えてみれば賛成の返事が返された。
夫の体調の事もあり早速行動に移ろうとした妻へ大谷が代わりに飼い鳥の桜ブンチョウ・幸(彼は不幸と呼ぶ)の鳥籠を掃除すると言い出したのだ。
基本的に幸の世話は飼う理由となった神子が率先して行っていたが己が選び迎えた事もあって可能な限りは大谷も世話をしている。
ただ今回の様に幸の住まいとも言える鳥籠を丸ごと清掃するとなると少しばかり体をそれなりに動かす事になるので彼女はそれが心配だった。
まだまだ続く夏の暑さもあって何度自分が代わると言っても大谷は首を縦に振らずむしろ依怙地になって「我とぬしの飼い鳥であろ」と言い張り出すまでとなり根気負けした神子は溜め息混じりに「じゃあ大谷さんにお任せします」と諦めた。
一目で乾きが見える土に水を撒き大人気なさが垣間見える夫へ本当にもうっと内心で呟くしかなかった。
当の幸はと言うと飼い主の一人が用意してくれていた器で悠々と水浴びをしている。
「待ち惚けたか不幸よ」
『ピーッ!』
「ぬしはかしこい鳥よな」
それからしばらく大谷は鳥籠の掃除に神子は庭の打ち水とそれぞれ集中し手を動かしていた。
金網と引き出し底やら餌入れの器に寝床の巣など可能な限りの範囲で清掃し始まりと同じ形へと組み立て直す。
一連の流れを詰まる事なく順調に終わらせ籠へ手を乗せたまま大谷が呼べば幸は水浴びをやめて飼い主を見た。
すると水で満たされた器から飛び出たと思えば何度か跳ねて彼から距離を作るとそこで身を震わせる。
バタバタと羽も広げ水を飛ばしてから改めて近付いて来る幸の姿へ大谷は感嘆していた。
鳥籠へ乗せていた手を下ろして濡れ縁に手の甲を付ければ合図も無く跳ね出して包帯で包まれたそこに収まった。
「大谷さんお掃除は終わりましたか?」
「疾くに終いとなっておるが。ぬしはどうした」
「私もそろそろ終わりそうです。全部撒き終わりましたら幸も一緒にお昼ご飯にしましょう!」
『!ピィーッ!!』
己の手に丸く収まった幸の頭部を親指で撫でてやれば喉を鳴らして喜びの鳴き声が上がる。
その様を少し眺めて微笑ましく見守っていた神子が問い掛けてくるので飼い鳥をそのままに大谷が答える。
桶の水も残り僅かとなり時間も昼餉が近い為、思い付いて提案する妻の言葉へ夫が反応するよりも幸が強く示し収まっていた手から飛び出した。
振り向き際で喋っていた神子は自分に迫ってきていた幸の姿に驚き後退しかけるも足元がもつれてしまった。
珍しく目を見開いて驚愕し大谷が片膝で立ち上がろうとするも間に合わず取り落とした桶がガランと地面を黒く濡らしながら転がった。
「あたた…もう幸ったら」
『ピー?』
尻餅をついた神子は頭から被った水に濡れたまま苦笑いし自分の膝に留まる幸へ溢していた。
当の本人(鳥)は首を傾げて不思議そうに彼女を見つめている。
「傷創はなかろうな」
「大丈夫です。ただ水でお洋服が…」
「不幸を招いたのは愉快であるが、ちと度が過ぎとるなァ」
『ピピッ?』
草履を履き中庭に降りて来た大谷が歩み寄って怪我の有無を確認してくるので特に何ともない神子はありのまま答える。
打ち水の為のものが妻の髪や服を濡らす様子と飼い鳥を見下ろしながら呟けばやはり首を傾げながら鳴き返された。
「やれいつまで腰を抜かしておるのか」
「腰は抜けてませんよ…ありがとうございます」
事を引き起こした原因ながら自覚が無さそうな(鳥ならば仕方ない事である)幸を己の頭へ乗る様に誘導しまだ地面で座り込んだままな神子の手を引いて大谷が立ち上がらせてくれた。
肩から手の先までも水を被った所為で夫の手を包む包帯がうっすらと濡れてしまうが本人はむしろ妻の方へ意識を向ける。
「再三に感冒で伏せられては面倒よ、即刻に衣を替えてくるがよい」
「えっ、でもこれがないと大谷さんが、」
「換え物はぬしが腐る程に工面しておるであろ」
いつだか疲労から風邪をひいて寝込んだ事実がある神子へ大谷は己が纏っている羽織を脱いで断られる前に素早く着せた。
いくら夏の日差しが降り注いでいるとは言えそう簡単に濡れた箇所や服が乾かず憂いがある彼は眉を顰めて今からでも直ぐに着替える様に催促する。
しかし一方の神子も羽織を脱げば上半身で夫の身に纏うものが包帯だけとなってしまう事が気掛かりでその場から動こうにも動く気になれなかった。
「随分と賑やかな様だねぇ!我輩も混ぜて貰えないかな?」
そんな二人(と一匹)の所へ意気揚々と甲高い声が響き渡った。
揃って顔を向け声の主を確認すればこの季節にはそぐわない服装をし立派な髭も蓄えた男が一人愉快そうに歩んで来ていた。
「あっ、最上さん」
「やぁやぁ神子くん!元気そうでなによりだよ!」
「最上さんもお元気そうで…」
現れたのは夫婦の知り合いである伊達政宗の関係者とも言える最上義光。
彼と出会ったのは伊達宅で家畜鳥として片倉小十郎に飼われている鴨達の様子を見へ行った時だ。
仕事とは言え行き先が行き先なので然りげ無く一抹の憂慮を抱いていた大谷は神子へ同行者を連れてゆく事を条件に出勤の許しを出すと宣言してきた。
何故かと己の配慮を知りもせず詰め寄ってくるので相変わらずの危機感が薄い妻へわざとらしく深い溜め息を吐き額を押さえる。
隣の親友の姿に「貴様は刑部の懸念を察する事が出来ない処か無碍にする気か」と強面顔で圧をかけてくる顔馴染み石田三成へ大谷の事を一時頼む為に呼んだ本人の神子は何も言い返せなかった。
折れた彼女は急遽、上司的存在の雑賀孫一に相談すると電話越しで『ならば姫を行かせよう』と了承してくれて何度も謝る羽目になった(直ぐに謝り過ぎだと怒られた)
柔軟な対応をしてくれた孫一へ感謝の言葉を大谷にも求めたが容赦なくデコピンで返され三成と揃ってさっさと終わらせて帰って来る様に催促されてしまった。
渋々と屋敷から出た神子は急な話だと言うのに同行を快く引き受けてくれた鶴姫と途中で落ち合い夫への愚痴を聞いて貰ったり楽しくお喋りしながら仲良く目的地に向かった。
見慣れた屋敷に到着すれば早速主の伊達が出迎えてくれ立ち話でもなんだからとお茶に誘ってくれたが傍らの片倉に諌められていた。
鶴姫に伊達と片倉で会話を弾ませながら直接、鴨達とふれあい健康状態を確認していると不意に届く声で身を震わせた。
そこへ現れたのが髭を優雅に撫でながら軽やかな足取りで歩んで来る最上だった。
彼の登場に伊達は舌打ちをし片倉も溜め息を吐いて歓迎とは反対の表情を同じ様に表していた。
初めて出会った神子が鴨とふれあったまま二人へ問えばなんでも伊達の伯父に当たる人物だそうだが余り仲は良くなさそうな反応だ。
伊達と片倉はいつもの対応で追い返そうとしたが最上が彼女に気付いてしまった事と神子のお人好しっぷりが合わさって会話が成立した。
自らを羽州の狐やら素敵な紳士やらと得意げに語る話を嫌な顔一つせず聞いてやり初めて接触したタイプのせいか同行してきた鶴姫すら心配する程に興味津々で聞き入ってしまっていた。
やがて話は発展してゆき鴨達と親しげにふれあう姿を観察していた最上は自分の飼い鳥である超真空流星隼号の世話を神子に専属で頼みたいと言い出したのだ。
住み込みで一日三食(十五時のおやつ有)昇給や待遇も状況によって格上げすると流暢に語り始めた彼へ答えるよりも鶴姫が「神子さんは私達と一緒に働いているんです!それと大谷さんの奥さんなんですから駄目ですよっ!!」と彼女本人よりも先で高らかに却下した。
それを聞いた最上は「ええっあの小川くんの?」と呆気に取られた反応を示すだけでなく名前を間違えてたので思わず「大谷です」と神子は訂正した。
だがそれでも諦め切れないらしく様々な話を展開させて誘いを繰り返す最上だったが見ていられなくなった伊達と片倉によって屋敷から追い出されたのだった。
困惑する神子に二人は「あの自称ジェントルマンは相手にしなくていいぜ」やら「何か妙な事を言い出しやがったら無視して政宗様と俺に任せろ」と言い謝罪をするので大焦りで止めた。
以降、伊達と片倉の元へ訪問する際はひょんな事で目を掛けてくる最上の存在を頭の片隅に置かなければならなくなった。
なお当日に帰宅して彼との遭遇やら専属の世話人として抜擢されそうになった話を伝えれば大谷と三成からそら見た事かと説教を受ける憂き目にあった神子だった
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「ぬしは熱気があろうとお構いなしか」
『ピーッ!』
扉を開いたまま呟いた大谷の頭部で返事をする様に桜ブンチョウが鳴く。
まるで自分の治める陣地だと言わんばかりな様子で頭をもたげた。
「承允出来ぬ訳ではないが今はぬしの住処を灑掃している故、身を涼めてまちと待て」
『ピッ!』
小鳥相手だとしても言葉を掛けながら指を己の頭部へ近付ければ数度首を傾げた後にそれへと跳び移った。
ゆっくりと眼前にまで寄せて引き続き語りかければ短く鳴いて彼が用意していた水入りの器を見るなり迷いなく飛び込んだ。
「大谷さん、幸の籠掃除が大変な様でしたらお代わりしますよ」
「取り掛かる処か不幸を逃してやったばかりだが?」
身と羽を震わせ水浴びを始める様をしばし眺めてから大谷は鳥籠の掃除を始める。
つもりだったが前方の庭先から名を呼ばれて顔を上げながら妻を見て言い放った。
数滴の雫を杓から滴らせながらもう片方の手で持つ神子の手桶にはまだまだ多くの水で満たされていた。
「我に構う暇があればはやに水撒きせよ」
「はーい」
口と手を動かし金網を引き出し式の底から外しつつ大谷が指示するので神子は間延びした返事をするも言われた通りに水を再び撒き始めた。
夏も中盤になり慣れ切ったとは言えないが少し過ごし易さも感じ始めた頃。
暑さ対策として神子が屋敷の中庭で打ち水をしようと考えそれを伝えてみれば賛成の返事が返された。
夫の体調の事もあり早速行動に移ろうとした妻へ大谷が代わりに飼い鳥の桜ブンチョウ・幸(彼は不幸と呼ぶ)の鳥籠を掃除すると言い出したのだ。
基本的に幸の世話は飼う理由となった神子が率先して行っていたが己が選び迎えた事もあって可能な限りは大谷も世話をしている。
ただ今回の様に幸の住まいとも言える鳥籠を丸ごと清掃するとなると少しばかり体をそれなりに動かす事になるので彼女はそれが心配だった。
まだまだ続く夏の暑さもあって何度自分が代わると言っても大谷は首を縦に振らずむしろ依怙地になって「我とぬしの飼い鳥であろ」と言い張り出すまでとなり根気負けした神子は溜め息混じりに「じゃあ大谷さんにお任せします」と諦めた。
一目で乾きが見える土に水を撒き大人気なさが垣間見える夫へ本当にもうっと内心で呟くしかなかった。
当の幸はと言うと飼い主の一人が用意してくれていた器で悠々と水浴びをしている。
「待ち惚けたか不幸よ」
『ピーッ!』
「ぬしはかしこい鳥よな」
それからしばらく大谷は鳥籠の掃除に神子は庭の打ち水とそれぞれ集中し手を動かしていた。
金網と引き出し底やら餌入れの器に寝床の巣など可能な限りの範囲で清掃し始まりと同じ形へと組み立て直す。
一連の流れを詰まる事なく順調に終わらせ籠へ手を乗せたまま大谷が呼べば幸は水浴びをやめて飼い主を見た。
すると水で満たされた器から飛び出たと思えば何度か跳ねて彼から距離を作るとそこで身を震わせる。
バタバタと羽も広げ水を飛ばしてから改めて近付いて来る幸の姿へ大谷は感嘆していた。
鳥籠へ乗せていた手を下ろして濡れ縁に手の甲を付ければ合図も無く跳ね出して包帯で包まれたそこに収まった。
「大谷さんお掃除は終わりましたか?」
「疾くに終いとなっておるが。ぬしはどうした」
「私もそろそろ終わりそうです。全部撒き終わりましたら幸も一緒にお昼ご飯にしましょう!」
『!ピィーッ!!』
己の手に丸く収まった幸の頭部を親指で撫でてやれば喉を鳴らして喜びの鳴き声が上がる。
その様を少し眺めて微笑ましく見守っていた神子が問い掛けてくるので飼い鳥をそのままに大谷が答える。
桶の水も残り僅かとなり時間も昼餉が近い為、思い付いて提案する妻の言葉へ夫が反応するよりも幸が強く示し収まっていた手から飛び出した。
振り向き際で喋っていた神子は自分に迫ってきていた幸の姿に驚き後退しかけるも足元がもつれてしまった。
珍しく目を見開いて驚愕し大谷が片膝で立ち上がろうとするも間に合わず取り落とした桶がガランと地面を黒く濡らしながら転がった。
「あたた…もう幸ったら」
『ピー?』
尻餅をついた神子は頭から被った水に濡れたまま苦笑いし自分の膝に留まる幸へ溢していた。
当の本人(鳥)は首を傾げて不思議そうに彼女を見つめている。
「傷創はなかろうな」
「大丈夫です。ただ水でお洋服が…」
「不幸を招いたのは愉快であるが、ちと度が過ぎとるなァ」
『ピピッ?』
草履を履き中庭に降りて来た大谷が歩み寄って怪我の有無を確認してくるので特に何ともない神子はありのまま答える。
打ち水の為のものが妻の髪や服を濡らす様子と飼い鳥を見下ろしながら呟けばやはり首を傾げながら鳴き返された。
「やれいつまで腰を抜かしておるのか」
「腰は抜けてませんよ…ありがとうございます」
事を引き起こした原因ながら自覚が無さそうな(鳥ならば仕方ない事である)幸を己の頭へ乗る様に誘導しまだ地面で座り込んだままな神子の手を引いて大谷が立ち上がらせてくれた。
肩から手の先までも水を被った所為で夫の手を包む包帯がうっすらと濡れてしまうが本人はむしろ妻の方へ意識を向ける。
「再三に感冒で伏せられては面倒よ、即刻に衣を替えてくるがよい」
「えっ、でもこれがないと大谷さんが、」
「換え物はぬしが腐る程に工面しておるであろ」
いつだか疲労から風邪をひいて寝込んだ事実がある神子へ大谷は己が纏っている羽織を脱いで断られる前に素早く着せた。
いくら夏の日差しが降り注いでいるとは言えそう簡単に濡れた箇所や服が乾かず憂いがある彼は眉を顰めて今からでも直ぐに着替える様に催促する。
しかし一方の神子も羽織を脱げば上半身で夫の身に纏うものが包帯だけとなってしまう事が気掛かりでその場から動こうにも動く気になれなかった。
「随分と賑やかな様だねぇ!我輩も混ぜて貰えないかな?」
そんな二人(と一匹)の所へ意気揚々と甲高い声が響き渡った。
揃って顔を向け声の主を確認すればこの季節にはそぐわない服装をし立派な髭も蓄えた男が一人愉快そうに歩んで来ていた。
「あっ、最上さん」
「やぁやぁ神子くん!元気そうでなによりだよ!」
「最上さんもお元気そうで…」
現れたのは夫婦の知り合いである伊達政宗の関係者とも言える最上義光。
彼と出会ったのは伊達宅で家畜鳥として片倉小十郎に飼われている鴨達の様子を見へ行った時だ。
仕事とは言え行き先が行き先なので然りげ無く一抹の憂慮を抱いていた大谷は神子へ同行者を連れてゆく事を条件に出勤の許しを出すと宣言してきた。
何故かと己の配慮を知りもせず詰め寄ってくるので相変わらずの危機感が薄い妻へわざとらしく深い溜め息を吐き額を押さえる。
隣の親友の姿に「貴様は刑部の懸念を察する事が出来ない処か無碍にする気か」と強面顔で圧をかけてくる顔馴染み石田三成へ大谷の事を一時頼む為に呼んだ本人の神子は何も言い返せなかった。
折れた彼女は急遽、上司的存在の雑賀孫一に相談すると電話越しで『ならば姫を行かせよう』と了承してくれて何度も謝る羽目になった(直ぐに謝り過ぎだと怒られた)
柔軟な対応をしてくれた孫一へ感謝の言葉を大谷にも求めたが容赦なくデコピンで返され三成と揃ってさっさと終わらせて帰って来る様に催促されてしまった。
渋々と屋敷から出た神子は急な話だと言うのに同行を快く引き受けてくれた鶴姫と途中で落ち合い夫への愚痴を聞いて貰ったり楽しくお喋りしながら仲良く目的地に向かった。
見慣れた屋敷に到着すれば早速主の伊達が出迎えてくれ立ち話でもなんだからとお茶に誘ってくれたが傍らの片倉に諌められていた。
鶴姫に伊達と片倉で会話を弾ませながら直接、鴨達とふれあい健康状態を確認していると不意に届く声で身を震わせた。
そこへ現れたのが髭を優雅に撫でながら軽やかな足取りで歩んで来る最上だった。
彼の登場に伊達は舌打ちをし片倉も溜め息を吐いて歓迎とは反対の表情を同じ様に表していた。
初めて出会った神子が鴨とふれあったまま二人へ問えばなんでも伊達の伯父に当たる人物だそうだが余り仲は良くなさそうな反応だ。
伊達と片倉はいつもの対応で追い返そうとしたが最上が彼女に気付いてしまった事と神子のお人好しっぷりが合わさって会話が成立した。
自らを羽州の狐やら素敵な紳士やらと得意げに語る話を嫌な顔一つせず聞いてやり初めて接触したタイプのせいか同行してきた鶴姫すら心配する程に興味津々で聞き入ってしまっていた。
やがて話は発展してゆき鴨達と親しげにふれあう姿を観察していた最上は自分の飼い鳥である超真空流星隼号の世話を神子に専属で頼みたいと言い出したのだ。
住み込みで一日三食(十五時のおやつ有)昇給や待遇も状況によって格上げすると流暢に語り始めた彼へ答えるよりも鶴姫が「神子さんは私達と一緒に働いているんです!それと大谷さんの奥さんなんですから駄目ですよっ!!」と彼女本人よりも先で高らかに却下した。
それを聞いた最上は「ええっあの小川くんの?」と呆気に取られた反応を示すだけでなく名前を間違えてたので思わず「大谷です」と神子は訂正した。
だがそれでも諦め切れないらしく様々な話を展開させて誘いを繰り返す最上だったが見ていられなくなった伊達と片倉によって屋敷から追い出されたのだった。
困惑する神子に二人は「あの自称ジェントルマンは相手にしなくていいぜ」やら「何か妙な事を言い出しやがったら無視して政宗様と俺に任せろ」と言い謝罪をするので大焦りで止めた。
以降、伊達と片倉の元へ訪問する際はひょんな事で目を掛けてくる最上の存在を頭の片隅に置かなければならなくなった。
なお当日に帰宅して彼との遭遇やら専属の世話人として抜擢されそうになった話を伝えれば大谷と三成からそら見た事かと説教を受ける憂き目にあった神子だった
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