夏作
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「片倉さん、深さってこれぐらいで良いんでしょうか?」
「少し浅いな…あんまり浅過ぎると、芽処か根も出ちまうからこれぐらいの深さにしてくれ」
「分かりましたっ!」
程好い太陽の日差しを浴びながら、神子は小十郎と共に畑へと精を出していた。
秋にて収穫出来る作物の種を掘り起こした畑の穴に落として、土で埋める。
穴の深さについて小十郎に確認してみれば、詳しく教えてくれた。
小十郎の注意事項を頭で繰り返しつつ、神子は作業を進める。
「相変わらずのHardworkerじゃねぇか、神子の奴」
「度が過ぎねば良いのだがなァ」
せっせと動く小十郎と神子に対し、縁側にて腰を下ろしている大谷に伊達。
麦わら帽子を被って忙しく手を動かす神子の背中を眺めながら、伊達が隣で茶を啜る大谷へ呟いた。
ひんやりとした茶が喉を通る感触を味わう大谷は、神子の挙動一つ一つを注意して見つめていた。
暑さ対策等の為、己が口煩く言ったお陰で神子は麦わら帽子を身に付けた事に息を吐いて。
「おら、帽子が落ちたぜ」
「あっ…すみません」
大谷の然り気無い心配を余所に、神子はずり落ちた麦わら帽子を拾ってくれた小十郎から受け取っている
「ふぅ~…」
「悪いな、客人なのに手伝わせちまって」
「良いんですよ!片倉さんには色々、御野菜とか果物を頂いてますから。日頃の御返しです」
「…ありがとよ」
顔と手や腕などを土で軽く汚すも、神子は前髪を払いながら満足そうに息をつく。
同じくより一層、土にまみれた小十郎が神子の隣に歩み寄り、礼を行ってきた。
いつもと変わらない笑顔で神子が返せば、小十郎は目線を斜め下に向ける。
「Ha!小十郎の奴、照れてやがるぜ!まぁ、神子が相手なら仕方ねぇ」
「………」
二人のやり取りを傍観していた伊達は小十郎の反応に笑い、大谷は沈黙してまた茶を啜った。
「あっ、鴨ちゃん達!」
「そう言えばメシの時間だったな…神子、こいつらにメシでもやってみるか?」
「大丈夫なんですか?」
「お前ならこいつらも大丈夫だろう」
気がつけば小屋から出て来たのか、数匹の鴨達がグワグワ、ガーガーと鳴きながら小十郎の元へ歩いて来る。
家畜鳥として小十郎に飼われている鴨達を見て、鳥好きな神子がはしゃいでいると小十郎が鳥用のエサを取り出して問いた。
御主人以外の者で鴨達は大丈夫なのかと、神子は心配するが小十郎は頷いてエサを渡してきた。
「はい鴨ちゃん達、ご飯ですよ~」
神子がぱらぱらとエサを蒔いてみれば、鴨達は早足に群がって来た。
「わぁっ…!?びっくりした」
「おっと、大丈夫か?」
「すっ、すみません片倉さん…大丈夫です」
群がる鴨達に驚き、神子が思わず後退りすると背後に居た小十郎が受け止めてくれた。
慌てて謝ると大して、気にした様子を見せない小十郎は気にするなと返す。
「良くMatchしてんじゃねぇか?あの二人」
「……ぬしらに神子はやらぬ」
「言うと思ったぜ、アンタならな」
ようやく沈黙を破って返答した大谷の低い声色を聞いて、伊達は負けじと笑いながら睨み返した
「あの、片倉さん」
「ん?何だ」
「駄目ならいいんですけど…鴨ちゃん達を撫でたりとか、出来ませんか?」
腹を満たした鴨達がその場で毛繕いをしたり、居眠りを始めた光景を和んで見守っていた神子は、遠慮がちに小十郎へ問い掛けた。
「駄目な訳がねぇ、気が済むまで撫でてやってくれ」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!」
神子の様子から小十郎は頭を振って、鴨達を撫でる許可をくれた。
ぱぁっと表情を変えて相当の嬉しげな笑顔で、神子は鴨達を撫でてやる。
いきなり頭に触れるのは好ましくないだろうと考えたのか、まずは鴨の首元周辺に手を置いてみる。
力を込めずに自然と、優しい力加減で手を滑らせ鴨を撫で始めた神子。
鴨だけが持つ羽毛の感触が手に伝わって、非常に心地よい。
「ちゃんと片倉さんが手入れしてるんだね…とても綺麗だし、さわり心地も文句無し」
「流石に家畜鳥とは言え、ずっと汚れたままじゃ申し訳ねぇからな」
「そうですよね。私も桜文鳥を飼っているんですけど、水浴び用の水は外せません」
「だろうな。俺もこまめに水で軽く洗ってから、
丁寧に手入れしてんだ」
揃ってうたた寝する二匹の鴨達を両手で撫でながら(右手は鴨の頭、左手は喉元を)神子が呟けば小十郎は直ぐ様に反応してくれる。
御互いに大変可愛がって、大切に飼っている桜文鳥と鴨達について語り合えば時間も忘れていた。
「見て下さい大谷さん!鴨ちゃん達、こんなに可愛いんですよ!」
「………神子、不幸が待ちくたびれて居るのを忘れては在るまいな」
気分が上々しているのか、神子がウキウキと鴨達について熱く話せば大谷は呆れた様子を声色で示した。
屋敷で飼っている桜ブンチョウの幸を、忘れているのではないかと。
「あっ…もうこんな時間!?幸にご飯をあげなくちゃ!」
大谷に言われて今、真面目に幸の事を思い出した神子はそろそろおいとまする事にした。
「もう帰っちまうのか?」
「ごめんね政宗くん…せっかくお邪魔させて貰ったのに」
「アンタだったら一日中、居てくれても良いんだぜ?」
「我らには待ち人が居るのでなァ、ここで油を売っている場合ではない故」
(待ち人って言うより、鳥なんだけど)
まだまだ神子に滞在して貰いたい伊達は、渋る様に言う。
申し訳ないと声色や表情で表す神子の前に、ずいっと大谷が割って入る。
まるで、神子と伊達の間を阻む如く。
「ほれ、さっさと踵を返せ」
「はいはい。分かりました」
「おっと、なんとか間に合ったな」
ぐいぐいと大谷に背中を押され、鴨達と別れの惜しい神子は仕方なく歩き出そうとした。
そのタイミングで、伊達の会話をしている内に姿を消していた小十郎が戻って来たのだ。
両肩に野菜の詰められた、段ボールを左右に乗せて
「片倉さん!いくら畑のお手伝いをしたからって、こんなに受けとれませんよ!!」
「あいつらの件で世話になったのも有る。今回は客なのに手伝わせちまったんだ。これぐらいの礼はさせてくれ」
ドスンと音を立てて目の前に置かれた、野菜入りの段ボール。
それを見た神子は慌てて、自分が手伝った分の礼を貰うには多過ぎると断りを入れるが小十郎は全く気にしていない。
「寄越すと言うならば、有り難く頂戴しておけば良いわ」
「いやあの大谷さん。流石にこの量は、」
「ついでお前達二人で運び易い様に、量を調整して分けたから話し合いしてから持ってきな」
「…もう受け取るの前提なんですね」
二箱程に分けられた段ボールを見下ろし、大谷が呟けば神子はまだ遠慮する兆しを見せる。
だが最初から渡すつもりの小十郎に折れて、結局のところ大量の野菜を屋敷まで運ぶ事になったのだった。
「本当に大丈夫なんですか?いくら片倉さんが私と大谷さんだけで、運べる位に調整してるからって…」
「ぬしの目はコレ程の近さでも、隣が見えぬのか」
屋敷へ帰る事をかなり渋った伊達にどうにか別れを告げ、帰路を歩む神子は並行する大谷を横目で見つめながら問い掛けた。
中身を確認した結果、重そうな野菜(南瓜・トマト・オクラ)が中心に入っている段ボールを大谷が抱えているのが不安で仕方がない神子。
自分は軽そうな野菜(にんにく・枝豆・大葉)だけが入った段ボールを抱える事になり、まだ療養中の大谷へ負担をかけたくないのに。
「お願いだから無茶をしないで下さい」
「あいわかった。と言いたいが、ぬしから言われたくはない」
「大谷さんがひどい」
思わずがっくりと項垂れそうになるが、腕に抱える段ボールの存在でそれは叶わなかった
付かず離れず、肩を並べてゆっくりと足を進めれば漸く見慣れた屋敷に辿り着いた。
「ふぅ…確かに片倉さんが考えて分けてくれたから、そんなに運ぶのは大変じゃなかったですね」
でも一度で良いから降ろしましょう。
と神子が自ら抱えていた段ボールを玄関前の地面に置けば、大谷も素直に荷物を降ろした。
「あら…?これってお向かいさんのかな」
太陽の暑さで野菜が痛まない内に冷蔵庫へ早く仕舞おうと、先に段ボールの中身を運び出そうとした。
…のだが、不意に神子が何かを見つける。
近寄ってそれを拾い上げてからまじまじと観察してみれば、屋敷の向かい側に建つ一軒家から突風で飛ばされたのか、白い手拭いが落ちていた。
「すいません大谷さんこの手拭い、お向かいさんへ渡してきますから。ちょっと先に冷蔵庫へ入れて貰ってもいいですか?」
「まかせよ」
軽く付いていた砂埃を手拭いからはたき落とし、神子が許可を求めれば大谷はこくりと頷いて返してくれた。
「軽そうな野菜からで構いませんよ。今度、重そうなやつは私が運びますから」
「承知した故、往くならば早に往け」
やっぱり大谷へ負担を掛けたくない神子がくどくど続ければ、ぴしゃりと言い切られてしまった
「あ…あれれ?」
「如何した?随分と間抜けな顔で口が空いておるなァ」
「あの野菜全部、大谷さんが運んだんですか?本当に」
「文句が有るのではなかろうな。我自らが運んでやったにも関わらず」
向かい側の住人に手拭いを返しに行って、費やした時間はだいたい十分。
礼の言葉を受けてから、旦那さんの体調は大丈夫なの?等々の質問をされた神子はさらさら答えて屋敷に戻って来た。
無駄話は全くしていないのに、十分と言った時間内で大谷は野菜を全て運び終えていた。
てっきり自分が運んで来た軽めの野菜を、運び終えていると踏んでいた神子は拍子抜けするしかない。
「どうしてそんな、あっと言う間に…」
額に手を添えて考えていた神子だが、まじまじと見つめていた大谷の小さな変化についつい呟きが増えてしまう。
「今してたんですか、そのお守り」
「貰い物ながら気に入っておるのでな」
大谷の手首に通されている、澄んだ色の玉がキラリと反射した。
玉は片方に四個、赤い紐が通され数珠繋ぎで付けられている(ちなみに両手首で付けているので、玉の合計は八個になる)
「お守りを持つのは大切ですけど、持つ時にはタイミングが大事だと思います」
「我の物ならば何時何処で持とうが、勝手であろ」
肝心の野菜をどう料理していくか、その話し合いは後々に続く
.
「少し浅いな…あんまり浅過ぎると、芽処か根も出ちまうからこれぐらいの深さにしてくれ」
「分かりましたっ!」
程好い太陽の日差しを浴びながら、神子は小十郎と共に畑へと精を出していた。
秋にて収穫出来る作物の種を掘り起こした畑の穴に落として、土で埋める。
穴の深さについて小十郎に確認してみれば、詳しく教えてくれた。
小十郎の注意事項を頭で繰り返しつつ、神子は作業を進める。
「相変わらずのHardworkerじゃねぇか、神子の奴」
「度が過ぎねば良いのだがなァ」
せっせと動く小十郎と神子に対し、縁側にて腰を下ろしている大谷に伊達。
麦わら帽子を被って忙しく手を動かす神子の背中を眺めながら、伊達が隣で茶を啜る大谷へ呟いた。
ひんやりとした茶が喉を通る感触を味わう大谷は、神子の挙動一つ一つを注意して見つめていた。
暑さ対策等の為、己が口煩く言ったお陰で神子は麦わら帽子を身に付けた事に息を吐いて。
「おら、帽子が落ちたぜ」
「あっ…すみません」
大谷の然り気無い心配を余所に、神子はずり落ちた麦わら帽子を拾ってくれた小十郎から受け取っている
「ふぅ~…」
「悪いな、客人なのに手伝わせちまって」
「良いんですよ!片倉さんには色々、御野菜とか果物を頂いてますから。日頃の御返しです」
「…ありがとよ」
顔と手や腕などを土で軽く汚すも、神子は前髪を払いながら満足そうに息をつく。
同じくより一層、土にまみれた小十郎が神子の隣に歩み寄り、礼を行ってきた。
いつもと変わらない笑顔で神子が返せば、小十郎は目線を斜め下に向ける。
「Ha!小十郎の奴、照れてやがるぜ!まぁ、神子が相手なら仕方ねぇ」
「………」
二人のやり取りを傍観していた伊達は小十郎の反応に笑い、大谷は沈黙してまた茶を啜った。
「あっ、鴨ちゃん達!」
「そう言えばメシの時間だったな…神子、こいつらにメシでもやってみるか?」
「大丈夫なんですか?」
「お前ならこいつらも大丈夫だろう」
気がつけば小屋から出て来たのか、数匹の鴨達がグワグワ、ガーガーと鳴きながら小十郎の元へ歩いて来る。
家畜鳥として小十郎に飼われている鴨達を見て、鳥好きな神子がはしゃいでいると小十郎が鳥用のエサを取り出して問いた。
御主人以外の者で鴨達は大丈夫なのかと、神子は心配するが小十郎は頷いてエサを渡してきた。
「はい鴨ちゃん達、ご飯ですよ~」
神子がぱらぱらとエサを蒔いてみれば、鴨達は早足に群がって来た。
「わぁっ…!?びっくりした」
「おっと、大丈夫か?」
「すっ、すみません片倉さん…大丈夫です」
群がる鴨達に驚き、神子が思わず後退りすると背後に居た小十郎が受け止めてくれた。
慌てて謝ると大して、気にした様子を見せない小十郎は気にするなと返す。
「良くMatchしてんじゃねぇか?あの二人」
「……ぬしらに神子はやらぬ」
「言うと思ったぜ、アンタならな」
ようやく沈黙を破って返答した大谷の低い声色を聞いて、伊達は負けじと笑いながら睨み返した
「あの、片倉さん」
「ん?何だ」
「駄目ならいいんですけど…鴨ちゃん達を撫でたりとか、出来ませんか?」
腹を満たした鴨達がその場で毛繕いをしたり、居眠りを始めた光景を和んで見守っていた神子は、遠慮がちに小十郎へ問い掛けた。
「駄目な訳がねぇ、気が済むまで撫でてやってくれ」
「本当ですかっ!?ありがとうございます!」
神子の様子から小十郎は頭を振って、鴨達を撫でる許可をくれた。
ぱぁっと表情を変えて相当の嬉しげな笑顔で、神子は鴨達を撫でてやる。
いきなり頭に触れるのは好ましくないだろうと考えたのか、まずは鴨の首元周辺に手を置いてみる。
力を込めずに自然と、優しい力加減で手を滑らせ鴨を撫で始めた神子。
鴨だけが持つ羽毛の感触が手に伝わって、非常に心地よい。
「ちゃんと片倉さんが手入れしてるんだね…とても綺麗だし、さわり心地も文句無し」
「流石に家畜鳥とは言え、ずっと汚れたままじゃ申し訳ねぇからな」
「そうですよね。私も桜文鳥を飼っているんですけど、水浴び用の水は外せません」
「だろうな。俺もこまめに水で軽く洗ってから、
丁寧に手入れしてんだ」
揃ってうたた寝する二匹の鴨達を両手で撫でながら(右手は鴨の頭、左手は喉元を)神子が呟けば小十郎は直ぐ様に反応してくれる。
御互いに大変可愛がって、大切に飼っている桜文鳥と鴨達について語り合えば時間も忘れていた。
「見て下さい大谷さん!鴨ちゃん達、こんなに可愛いんですよ!」
「………神子、不幸が待ちくたびれて居るのを忘れては在るまいな」
気分が上々しているのか、神子がウキウキと鴨達について熱く話せば大谷は呆れた様子を声色で示した。
屋敷で飼っている桜ブンチョウの幸を、忘れているのではないかと。
「あっ…もうこんな時間!?幸にご飯をあげなくちゃ!」
大谷に言われて今、真面目に幸の事を思い出した神子はそろそろおいとまする事にした。
「もう帰っちまうのか?」
「ごめんね政宗くん…せっかくお邪魔させて貰ったのに」
「アンタだったら一日中、居てくれても良いんだぜ?」
「我らには待ち人が居るのでなァ、ここで油を売っている場合ではない故」
(待ち人って言うより、鳥なんだけど)
まだまだ神子に滞在して貰いたい伊達は、渋る様に言う。
申し訳ないと声色や表情で表す神子の前に、ずいっと大谷が割って入る。
まるで、神子と伊達の間を阻む如く。
「ほれ、さっさと踵を返せ」
「はいはい。分かりました」
「おっと、なんとか間に合ったな」
ぐいぐいと大谷に背中を押され、鴨達と別れの惜しい神子は仕方なく歩き出そうとした。
そのタイミングで、伊達の会話をしている内に姿を消していた小十郎が戻って来たのだ。
両肩に野菜の詰められた、段ボールを左右に乗せて
「片倉さん!いくら畑のお手伝いをしたからって、こんなに受けとれませんよ!!」
「あいつらの件で世話になったのも有る。今回は客なのに手伝わせちまったんだ。これぐらいの礼はさせてくれ」
ドスンと音を立てて目の前に置かれた、野菜入りの段ボール。
それを見た神子は慌てて、自分が手伝った分の礼を貰うには多過ぎると断りを入れるが小十郎は全く気にしていない。
「寄越すと言うならば、有り難く頂戴しておけば良いわ」
「いやあの大谷さん。流石にこの量は、」
「ついでお前達二人で運び易い様に、量を調整して分けたから話し合いしてから持ってきな」
「…もう受け取るの前提なんですね」
二箱程に分けられた段ボールを見下ろし、大谷が呟けば神子はまだ遠慮する兆しを見せる。
だが最初から渡すつもりの小十郎に折れて、結局のところ大量の野菜を屋敷まで運ぶ事になったのだった。
「本当に大丈夫なんですか?いくら片倉さんが私と大谷さんだけで、運べる位に調整してるからって…」
「ぬしの目はコレ程の近さでも、隣が見えぬのか」
屋敷へ帰る事をかなり渋った伊達にどうにか別れを告げ、帰路を歩む神子は並行する大谷を横目で見つめながら問い掛けた。
中身を確認した結果、重そうな野菜(南瓜・トマト・オクラ)が中心に入っている段ボールを大谷が抱えているのが不安で仕方がない神子。
自分は軽そうな野菜(にんにく・枝豆・大葉)だけが入った段ボールを抱える事になり、まだ療養中の大谷へ負担をかけたくないのに。
「お願いだから無茶をしないで下さい」
「あいわかった。と言いたいが、ぬしから言われたくはない」
「大谷さんがひどい」
思わずがっくりと項垂れそうになるが、腕に抱える段ボールの存在でそれは叶わなかった
付かず離れず、肩を並べてゆっくりと足を進めれば漸く見慣れた屋敷に辿り着いた。
「ふぅ…確かに片倉さんが考えて分けてくれたから、そんなに運ぶのは大変じゃなかったですね」
でも一度で良いから降ろしましょう。
と神子が自ら抱えていた段ボールを玄関前の地面に置けば、大谷も素直に荷物を降ろした。
「あら…?これってお向かいさんのかな」
太陽の暑さで野菜が痛まない内に冷蔵庫へ早く仕舞おうと、先に段ボールの中身を運び出そうとした。
…のだが、不意に神子が何かを見つける。
近寄ってそれを拾い上げてからまじまじと観察してみれば、屋敷の向かい側に建つ一軒家から突風で飛ばされたのか、白い手拭いが落ちていた。
「すいません大谷さんこの手拭い、お向かいさんへ渡してきますから。ちょっと先に冷蔵庫へ入れて貰ってもいいですか?」
「まかせよ」
軽く付いていた砂埃を手拭いからはたき落とし、神子が許可を求めれば大谷はこくりと頷いて返してくれた。
「軽そうな野菜からで構いませんよ。今度、重そうなやつは私が運びますから」
「承知した故、往くならば早に往け」
やっぱり大谷へ負担を掛けたくない神子がくどくど続ければ、ぴしゃりと言い切られてしまった
「あ…あれれ?」
「如何した?随分と間抜けな顔で口が空いておるなァ」
「あの野菜全部、大谷さんが運んだんですか?本当に」
「文句が有るのではなかろうな。我自らが運んでやったにも関わらず」
向かい側の住人に手拭いを返しに行って、費やした時間はだいたい十分。
礼の言葉を受けてから、旦那さんの体調は大丈夫なの?等々の質問をされた神子はさらさら答えて屋敷に戻って来た。
無駄話は全くしていないのに、十分と言った時間内で大谷は野菜を全て運び終えていた。
てっきり自分が運んで来た軽めの野菜を、運び終えていると踏んでいた神子は拍子抜けするしかない。
「どうしてそんな、あっと言う間に…」
額に手を添えて考えていた神子だが、まじまじと見つめていた大谷の小さな変化についつい呟きが増えてしまう。
「今してたんですか、そのお守り」
「貰い物ながら気に入っておるのでな」
大谷の手首に通されている、澄んだ色の玉がキラリと反射した。
玉は片方に四個、赤い紐が通され数珠繋ぎで付けられている(ちなみに両手首で付けているので、玉の合計は八個になる)
「お守りを持つのは大切ですけど、持つ時にはタイミングが大事だと思います」
「我の物ならば何時何処で持とうが、勝手であろ」
肝心の野菜をどう料理していくか、その話し合いは後々に続く
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