夏陰
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季節は夏。
程好い気温から少しばかり暑くなってきた。
麗らとした春は過ぎて夏を迎えた大谷宅。
前にも話した通り、純和風なこの屋敷にエアコンなどの冷房機具はない。
しかし気温により体調が左右される大谷の身を案じて、神子は自宅から扇風機を一台程用意したのだった。
何でもこの扇風機は神子の実家から送られたもので、差出人には神子の父親の名が書かれていた。
余分に買ってしまったので使って欲しいと(要約した内容で)書いてあった。
ちなみにこの手紙の枚数は全部で五枚。
肝心の扇風機については一枚半ぐらいしか書かれておらず、それ以降はひたすら神子の体調を気にする字や、大谷との生活はどうしているとやら、嫌な事が有ればいつでも帰って来ても良いと。
…つまりこの手紙は扇風機を送るだけが目的ではなく神子の様子を知る為の手紙だった訳だ。
手紙にぎっしりと書かれた字を全て目に通した大谷は相変わらずの親バカ加減、と思っていた。
神子と結婚をする際、勿論の事、神子の両親に挨拶へ向かった。
母の佐伯ほのかは娘の結婚を大層喜んでくれたのだが、父である佐伯霊魔は憮然とした表情を崩さなかった。
理由は簡単、霊魔は一人娘の神子を溺愛していた。
故に最愛の娘を結婚に出すなどと、想像しただけで頭痛がすると常に妻へ溢していたぐらい、大谷との結婚を認めたくなかった様である。
『…リ…ーン』
人工的に生まれた風ではなく、自然から生み出された風が屋敷に提げられている風鈴―赤い金魚と黒の出目金模様の―を揺らして音を生む。
風鈴の音色に大谷は手紙から顔を上げて外の風景を仰いだ
一方その神子はと言うと…
「お菓子はすだち餅で良いかな…あー!でも夏だから水羊羹も良いなぁ」
大谷の為にと必死に菓子を選別する。
一人大慌てしながら台所にある扉と言う扉を開いて探し物をしていた。
「もう…大谷さんをこの暑い中放っていけないし、早く持って行かなきゃ。あ…麦茶に氷入れよう」
現在の気温はなかなかの高さだ。
そのせいで少しでも大谷の体調が崩れてしまったら(神子や三成にとっては)一大事である。
「さぁ急ごう急ごう」
氷が入って湯呑みから溢れんばかりに増えた麦茶がこぼれない様に、急ぎながらも慎重に神子は大谷の元へと向かった。
「ぬしが一番に暑そうよな」
『ピーッ』
己と一緒に縁側の日陰で涼む幸に語りかける大谷。
人と違って羽毛を持つブンチョウの幸は触れる所か目にしているだけで暑くなりそうだ。
そう思う大谷だが己も包帯に身を包んでいるお陰で、少しばかり体が火照りやすい事に気付いていた。
「…まァ、ぬしには水がある故に我程暑苦しくはなかろ」
『ピッ?』
また吹いてきた風を顔の正面に受けて涼しむ大谷を、幸は首を傾げながら見ていた
「大谷さん御待たせ致しました!」
「遅い」
「ごめんなさい。でもゆっくりと準備しろと言ったのは大谷さんじゃないですか」
「我は動き過ぎで熱で倒れぬ具合にゆるりと、早く動けと言った筈だが」
「何ですかその矛盾は!?」
想像していたよりは無駄に動いてはなさそうだったが、やはり神子は自分を顧みずに大谷の事ばかりを優勢して余計に動いている様だ。
「風気の次は熱にでも負けるか。やれ愉快、ユカイ」
「まだ負けてませんよ!それになるべく熱射病対策はしてます」
ほら大谷さんだって、と神子の人差し指が指す方向には大谷の首に巻かれたタオルに包まれた保冷剤が。
治癒中の皮膚に保冷剤が直接当たらない様な時の為に包帯が有るのだが、もし冷却タオル内の保冷剤が溶け出して包帯が濡れたら大変と神子が念入りにタオルで保冷剤をくるんでいたのだ。
だから大谷がまるで首飾りをしているかの様に見えてしまうのは無理もない。
「でもそろそろ保冷剤もタオルも取った方が良いですね。麦茶とかで体の中から冷やしますし」
「ぬしも取れ」
「はいはい分かってますよ」
水饅頭と共に差し出した氷入りの麦茶の湯呑みを軽く指の腹で叩きながら神子は言う。
己を冷やすものを取って神子にもそれを促す。
若干不満そうな顔をする神子が居たが大谷は敢えて何も言わなかった
先程に用意した茶菓子が二人の口へと消えて行く。
ほんの少しばかり沈黙が続いて、風鈴の音がやけに響いて耳へ届く。
「さっきは熱射病にならないとかおっしゃられましたけど、大谷さんこそ体温調節を失敗しないで下さい」
「ぬしではあるまい。我が加減をぬかるものか」
「私は本当に心配してるんですからね」
舌を一瞬だけ出して小馬鹿にした様な動きをすると、神子は大谷にそっぽを向いて氷で冷えた茶を飲んだ。
最初は綺麗な四角形を成していた氷だったが、暑さと茶によって溶け出した氷は四角以外の形になっている。
「まァ…ぬしが慌てふためく姿を見たい訳でもない。肝には命じておく」
「本当ですね?でしたら少しでも具合が悪いと感じたら呼んで下さい。後、汗で包帯が悪くなったらいけませんのでその時は…」
無駄に意地を張ってまで神子を困らせたい理由もない。
なので素直に答えてみたら神子の長い説明が始まってしまった。
大谷はそんな神子を強制終了させる為に両頬を思い切り引っ張った
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程好い気温から少しばかり暑くなってきた。
麗らとした春は過ぎて夏を迎えた大谷宅。
前にも話した通り、純和風なこの屋敷にエアコンなどの冷房機具はない。
しかし気温により体調が左右される大谷の身を案じて、神子は自宅から扇風機を一台程用意したのだった。
何でもこの扇風機は神子の実家から送られたもので、差出人には神子の父親の名が書かれていた。
余分に買ってしまったので使って欲しいと(要約した内容で)書いてあった。
ちなみにこの手紙の枚数は全部で五枚。
肝心の扇風機については一枚半ぐらいしか書かれておらず、それ以降はひたすら神子の体調を気にする字や、大谷との生活はどうしているとやら、嫌な事が有ればいつでも帰って来ても良いと。
…つまりこの手紙は扇風機を送るだけが目的ではなく神子の様子を知る為の手紙だった訳だ。
手紙にぎっしりと書かれた字を全て目に通した大谷は相変わらずの親バカ加減、と思っていた。
神子と結婚をする際、勿論の事、神子の両親に挨拶へ向かった。
母の佐伯ほのかは娘の結婚を大層喜んでくれたのだが、父である佐伯霊魔は憮然とした表情を崩さなかった。
理由は簡単、霊魔は一人娘の神子を溺愛していた。
故に最愛の娘を結婚に出すなどと、想像しただけで頭痛がすると常に妻へ溢していたぐらい、大谷との結婚を認めたくなかった様である。
『…リ…ーン』
人工的に生まれた風ではなく、自然から生み出された風が屋敷に提げられている風鈴―赤い金魚と黒の出目金模様の―を揺らして音を生む。
風鈴の音色に大谷は手紙から顔を上げて外の風景を仰いだ
一方その神子はと言うと…
「お菓子はすだち餅で良いかな…あー!でも夏だから水羊羹も良いなぁ」
大谷の為にと必死に菓子を選別する。
一人大慌てしながら台所にある扉と言う扉を開いて探し物をしていた。
「もう…大谷さんをこの暑い中放っていけないし、早く持って行かなきゃ。あ…麦茶に氷入れよう」
現在の気温はなかなかの高さだ。
そのせいで少しでも大谷の体調が崩れてしまったら(神子や三成にとっては)一大事である。
「さぁ急ごう急ごう」
氷が入って湯呑みから溢れんばかりに増えた麦茶がこぼれない様に、急ぎながらも慎重に神子は大谷の元へと向かった。
「ぬしが一番に暑そうよな」
『ピーッ』
己と一緒に縁側の日陰で涼む幸に語りかける大谷。
人と違って羽毛を持つブンチョウの幸は触れる所か目にしているだけで暑くなりそうだ。
そう思う大谷だが己も包帯に身を包んでいるお陰で、少しばかり体が火照りやすい事に気付いていた。
「…まァ、ぬしには水がある故に我程暑苦しくはなかろ」
『ピッ?』
また吹いてきた風を顔の正面に受けて涼しむ大谷を、幸は首を傾げながら見ていた
「大谷さん御待たせ致しました!」
「遅い」
「ごめんなさい。でもゆっくりと準備しろと言ったのは大谷さんじゃないですか」
「我は動き過ぎで熱で倒れぬ具合にゆるりと、早く動けと言った筈だが」
「何ですかその矛盾は!?」
想像していたよりは無駄に動いてはなさそうだったが、やはり神子は自分を顧みずに大谷の事ばかりを優勢して余計に動いている様だ。
「風気の次は熱にでも負けるか。やれ愉快、ユカイ」
「まだ負けてませんよ!それになるべく熱射病対策はしてます」
ほら大谷さんだって、と神子の人差し指が指す方向には大谷の首に巻かれたタオルに包まれた保冷剤が。
治癒中の皮膚に保冷剤が直接当たらない様な時の為に包帯が有るのだが、もし冷却タオル内の保冷剤が溶け出して包帯が濡れたら大変と神子が念入りにタオルで保冷剤をくるんでいたのだ。
だから大谷がまるで首飾りをしているかの様に見えてしまうのは無理もない。
「でもそろそろ保冷剤もタオルも取った方が良いですね。麦茶とかで体の中から冷やしますし」
「ぬしも取れ」
「はいはい分かってますよ」
水饅頭と共に差し出した氷入りの麦茶の湯呑みを軽く指の腹で叩きながら神子は言う。
己を冷やすものを取って神子にもそれを促す。
若干不満そうな顔をする神子が居たが大谷は敢えて何も言わなかった
先程に用意した茶菓子が二人の口へと消えて行く。
ほんの少しばかり沈黙が続いて、風鈴の音がやけに響いて耳へ届く。
「さっきは熱射病にならないとかおっしゃられましたけど、大谷さんこそ体温調節を失敗しないで下さい」
「ぬしではあるまい。我が加減をぬかるものか」
「私は本当に心配してるんですからね」
舌を一瞬だけ出して小馬鹿にした様な動きをすると、神子は大谷にそっぽを向いて氷で冷えた茶を飲んだ。
最初は綺麗な四角形を成していた氷だったが、暑さと茶によって溶け出した氷は四角以外の形になっている。
「まァ…ぬしが慌てふためく姿を見たい訳でもない。肝には命じておく」
「本当ですね?でしたら少しでも具合が悪いと感じたら呼んで下さい。後、汗で包帯が悪くなったらいけませんのでその時は…」
無駄に意地を張ってまで神子を困らせたい理由もない。
なので素直に答えてみたら神子の長い説明が始まってしまった。
大谷はそんな神子を強制終了させる為に両頬を思い切り引っ張った
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