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春惜しむ

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「幸、朝御飯よ」

『ピーッ!』



大谷宅の飼い鳥となった桜ブンチョウの幸に、神子は朝御飯の用意をしてやる。



神子が現れた事と、朝御飯と告げられ、幸は御機嫌そうに鳴く。



「はい。沢山お食べ」

『ピッ…!』



ブンチョウ用の食事を入れた皿を籠の中に入れてやれば、幸は顔を突っ込んだ。



「あらあら、そんながっつく事ないのに」



それを傍で見つめている神子はクスクスと笑う。



「…今、か?急くな話よなァ…」



その一方、大谷は己の携帯で電話をしていた。



「何?晴雅が風邪気?何故この時に」



最初は呆れた様子で話していた大谷だが、段々と表情が変わってきた。



「見舞いがてら花見とは…可笑しい事、この上ない」


話し相手にはっきりと言い切る。



「……だが行かぬとは簡単には言えぬな。土産は出せぬぞ、それでも良いのか」



改めて確認を取るかの様に大谷は問い掛ける。



「左様か。ならば少しばかり待っておれ」



通話を切り携帯電話をパチンと閉める。



閉めた振動で携帯に紐でぶら下がる、紺色の鳥を模したものが揺れる。



「はい、水浴び用の水も替えたからね。しっかり水浴びをするのよ」

『ピーッ』

神子よ」

「はい?」



一方、神子は幸の水浴び用の器を取り出して、新しい水を入れた器を籠に戻していた。



そんな神子の名を呼ぶ大谷。



疑問の表情と声色を表しながら神子は大谷へ振り返る。



「安易で良い、直ぐにでも身支度をせよ」

「え?急にどうしたんですか大谷さん」

「太閤が庭で花でも愛でると。我とぬしも来やれとな」

「豊臣さんが?」

「して三成の女子が風邪気で倒れた故、見舞いがてらに」

「風邪!?この時期に?」



神子の知り合いである三成の彼女月夜野晴雅が季節外れの風邪で寝込んでしまったらしい。



その見舞いついでに豊臣宅の庭に咲く、桜の花を愛でに(簡略化すれば花見)来ないか、と三成を通して豊臣秀吉が誘ってきたのだ。



「分かりました。今から支度してきますね」

「安易で良い。土産も無しで良いわ」

「でも風邪には栄養が必要だと思うんです。だから蜜柑を持っていきますよ」



先月、宅配された蜜柑を箱から取り出し袋に詰め始めた。



「…まぁ好きにしやれ」



随分と世話好きな神子に呆れ、その背中を眺めながら大谷は溜め息をつく



夫婦二人で並び、近所の豊臣秀吉宅の屋敷へ歩む。



「今日は良い散歩日和ですね」

「全くよ」



太陽から注がれる穏やかな暖かみに、神子が和みながら呟く。



大谷も軽く快晴な空を仰いで、相槌を打ちながら頷いた。



お互いに肩を密着させて支え合いながら、足を進めてゆく。



およそ十五分後、目的の屋敷に到着した。



「お邪魔します」

「いらっしゃい。大谷くん、神子

「こんにちは、御久し振りです竹中さん」

「久し振り。ねぇ神子…僕や秀吉の事は名前で呼んでも構わないってあれ程言ったよね?」

「うっ…ごめんなさい、善処します…」

「賢人よ神子に悪気が有る訳ではない。癖故に」

「分かってるさ。でも僕達は親しい仲なんだ、少しは親近感のある感じが好ましいよ」



いきなりお喋りが始まってしまい、屋敷に来た理由が別になってしまう。



「さてお喋りはこのぐらいにしておいて、庭へ行こうか。秀吉が待っている」

「はい!大谷さん行きましょう」

「あいわかった」



話に区切りをつけ半兵衛が案内を始めようとした。



それにきっちりと返事を返し、神子は大谷と共に屋敷の庭へ。














「あ、そうだ。半兵衛さんこれ良かったら晴雅ちゃんに食べさせてあげて下さい。風邪の時には果物が良いと両親が送ってくれたので」

「あの子にかい?ありがとう。薬の前にでも出してみるよ」



土産らしい土産を持てなかったが、半兵衛は礼を言いながら受け取ってくれた



「こんにちは秀吉さん、御久し振りです」

「久方振りだな神子



屋敷の庭に来てみれば、それは美しい桜の花が咲いていた。



軽く吹き付ける風が桜の雨を降らしている。



豊臣秀吉はその真下で敷物の上に座っていた。



胡座をかいているだけでも秀吉の背丈は、非常に高く見える。



近くで咲く桜の木と良い勝負をしている。



「急くにも関わらず、良く来た。座るが良い」

「はい、失礼します。どうぞ大谷さんお先に」

「失礼する」



秀吉がまだ立ったままの二人を見て、敷物へ座るように促す。



神子はそれに頭を下げて先に大谷を座らせた。



腰を下ろす際、体勢を崩さぬ様に大谷の肩と腕に手を添えて。



「相も変わらず神子は出来た者だな、大谷よ」

「己を顧みぬ難儀があるがなァ」

「な、難儀って…」

「冗談よ」

(…冗談に聞こえない)



ちょっとした動作だけでも、大谷を一に考える神子に秀吉は感心していた。



だが大谷の一言で神子の気分はガクンと落ちた。



「待たせたね秀吉、それから二人共」



ちょうどその時、半兵衛が幾つかに重なる重箱を抱えて現れた。



因みに数は三つにもなる。



「半兵衛さん大丈夫ですか!?大変でしたら手伝いましたのに、」

「大丈夫だよ神子。君はお客さんなんだから、ゆっくり待ってて貰わないと。それに三成くんが手伝ってくれたから」

「半兵衛様!こちらの数に間違いはございませんか!?」

「うん。僕のやつと合わせて六個だから、三つあれば間違いないよ」

「は!三つ共に欠けてはありません!!」



半兵衛に続いて屋敷から同じく重箱を抱えて、三成がやって来た。



「随分と豪華みたいですね…」

「太閤は宴やら花見やらが好みらしいのでな」

「へぇ~」

佐伯!何故貴様が秀吉様の目の前に居座っている!?」

「うぇ!?も、もしかして邪魔?」

「当たり前だ!秀吉様が桜を愛でられぬだろう!!」

「三成」



重箱の多さに豪華な花見になりそうだな。



そう思って隣に座る大谷と会話をしていれば、三成からの一喝を喰らった。



どうやら神子の背後には桜が有り、秀吉から見れば一直線の場に咲いていた。



故に三成は秀吉が桜を愛でるのが出来なくなる事に憤怒していたのだ。



三成の言葉に戸惑いながらも、席を移動しようと神子は立ち上がりかけた。



だがその瞬間に秀吉の声が上がる。



「我はこのままで構わぬ。お前も座れ」

「しかし秀吉様…」

「桜の全てが見えなくとも、我の目に散った桜が見えるのならば良い。神子も気にせずその場に座って居れ」

「承知、致しました…」



あれ程大きな声を発していた三成だが、秀吉の声が掛かるとあっという間に小さくなっていった。



そして秀吉の言葉を聞いた後、少し納得いかなさそうな表情で秀吉の左隣に腰を下ろす。



(こ、このままで大丈夫なのかな)「わっ…!?」

「座れと申したであろ。いつまで棒になっておる」



秀吉と三成の会話が続いてる時でも、終わった後でも、神子は座れずにいた。



棒立ちする神子の腰を掴んで大谷がその場に座らせる。



思えば、最初に座った時よりも距離が近い。



最初はお互いの間に僅かな隙間があったのだが、今では密着して間髪の間もない



「さぁ遠慮せずに食べてくれたまえ」

「凄い…!見た目だけでもう美味しそう」



半兵衛特性の料理が、重箱の蓋が外された瞬間に姿を表す。



見ただけで満足してしまいそうな程、半兵衛の料理な完璧であった。



半兵衛の腕前の事もあるが、料理の材料が全て高級品である事も、美味な理由の一つかも知れない。



「じゃあ失礼して…頂きます。あ、大谷さん何か取りましょうか?」

「そこまでせんでも良いわ。ぬしはぬしで決めよ」

「私は良いんです!大谷さんも早く元気になって欲しいので、沢山の栄養を摂らないと…」

「本当にお似合いな二人だね…秀吉」

「ああ。あれ程互いに案じ合えるのは他にいないだろう」

佐伯!秀吉様と半兵衛様が居りながら、」

「三成くん、見守ってあげるも大切だよ」



目の前の秀吉達が眼中にないのか、大谷の為に神子は料理を取ろうとし、大谷は己よりも自分が望むものを取る様に言った。



それを見た三成は秀吉と半兵衛を差し置いて大谷と食事に入る神子に、再び憤怒しかけた。



やはり半兵衛に止められたのだが。














桜の花びらが舞う中、各々望む料理を口にして時折に花を愛で、花見を堪能していた。



その中で、三成は一人俯きながら食事をしていた。



「三成くんどうしたの?大丈夫?」

「…!どうもしていない!」



所が神子はそれに気付いた様で三成へ声をかける。



神子の言葉に他の者達も三成の異変に気付く。



三成はぶっきらぼうに返すが、その表情は心配そうな顔を浮かべていた。



それをいち早く察し、勘づいた半兵衛は先程に神子が渡してくれた蜜柑を手渡した。



晴雅が心配なんだろう」

「………」

「なら行っておいで。あの子ももしかしたら寂しがっているかも知れない」

「………はい、ありがとうございます半兵衛様。秀吉様、御付き合い出来ず、大変申し訳ありません」

「気にするでない。我も晴雅が気掛かりだ。行ってやれ」

「ありがとうございます…」



秀吉達との花見から離脱しなければいけない事に三成は非常に悔いている様で、その場に土下座をする程だった。



秀吉はそんな三成の肩に手を添えて、頭を上げさせる。



そしてこの花見に参加出来なかった己の恋人の為に、早く行ってやるよう語りかける。



大きく頷いた三成は秀吉だけでなく、半兵衛にも抜かりない礼をしその場を後にした



「そう言えば晴雅ちゃんは大丈夫ですか?」

「うん。熱は余り無いし意識もハッキリしてるから大丈夫だけど誰か看ていないと勝手に起きてしまいそうでね」

「空元気よな、カラゲンキ」

「多分そうだろうね。最初はあの子が風邪をひいたから花見は中止にしようと思ったんだけど、本人が自分に構わずやってと言うから開いたんだ。でも本当は自分も出たくて堪らないんだろう…」

「あいつは我らに弱音を吐いたりせぬからな」

「全くだよ。困ったもんだ」



今だ床に伏せる三成の彼女に溜め息をつく秀吉と半兵衛。



二人の会話を聞いていた大谷はチラリと隣の神子を見る。



「何ですか大谷さん。私の顔に何か付いているんですか?」

「いや、ぬしも無駄な我慢とやらをするのでな。太閤と賢人の考えも分からなくはないのよ」

「無駄な我慢!?」



大谷に言われても、自分の悪い癖をなかなか気付けない神子



花見は日が落ちるまで続いた。














「あの良かったらでいいんです、ちょっと晴雅ちゃんのお見舞いをしたいのですが…」

「心配してくれるのは嬉しいけど…神子に風邪が移ったら困るし、あの子も望まないだろう。でも寂しがっているかも知れないから、障子越しでなら良いよ」

「本当ですか?ありがとうございます!」



今回、共に花見を楽しめなかった三成の彼女を心配する神子は帰り際に半兵衛へ、見舞いをする許可を求めた。



最初は考え込んでいた半兵衛だが、少しでも晴雅の寂しさを紛らわして欲しいのか、直接会えないが見舞いの許可は貰えた。



「でも何でこんな時期に風邪なんか?」

「夜更かしでも長々としておったのだろう、ヒヒッ」

晴雅ちゃんは夜型ですもんね、此所かな」



縁側の長い廊下を歩きながら大谷と話していれば、目当ての部屋に着いた。



障子越しのみの見舞いなので中には入れない。



なので神子は障子を軽く叩いた。



『トントンッ』



「!?誰だ、障子を開けずに参ったのは!?」

「三成、障子を開けないのは仕方ないでしょ」



障子を叩けば三成の怒号が響き、次には女子の声もする。



「突然ごめんなさいね。つい晴雅ちゃんが心配だったから」

「その声は神子さん!?来てくれたんですね!」

「うん。熱は大丈夫?」

「大丈夫ですよ。昨日に比べれば下がってきた方なので。神子さんはまた風邪をひかない様に注意して下さいよ」

「分かった。もう無理して風邪はひかないから」

「本当ですね?もしひいちゃったりしたら、見舞いがてらに突撃しますからね?」

「フフッ…楽しみにしてるよ」



声だけでも和気あいあいとした雰囲気で神子は、晴雅と話に華を咲かせていた。



「ぬしもほんに一途よな、三成」

「うるさい、貴様もそうだろう刑部」



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