春探し
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「我は困った…大層、コマッタ」
用意されていた座布団に座り大谷は一人呟いた。
「貴様が悩み事を抱えるなど…珍しいな」
「まァ我も人の子、悩みの一つ二つはあるものよ」
御盆に乗せた湯呑みと茶菓子を持って三成が現れる。
ここは三成が居候している豊臣秀吉宅の屋敷。
何故、大谷がこの屋敷に居るかと言うと…
「佐伯に贈り物を…だと」
「左様よ。神子の生誕も近い故にな」
「佐伯の奴は何を望んでいる?」
「いや、それがなァ…」
妻である神子の誕生日プレゼントについて三成へ相談に乗って貰う為であった。
親友である三成でさえ大谷の悩む姿を余り見た事がない。
なので悩み事を吐く大谷を見て三成は驚き続けていた。
欲しいものが有るならば当の本人に聞くのが手っ取り早い。
そう思考する三成の言葉に大谷は溜め息を吐きながら話し始めた。
前日のとある時。
『神子よ』
『はい?何でしょうか大谷さん』
『ぬしは今、喉から手が出る程に望むものは有るか』
『喉からって…いえ、特に有りませんが…』
『遠慮せずに申してみよ』
『いいえ、本当に。大谷さんの気持ちだけで充分ですから』
『………』
「良く耳にする事だが…まさか貴様と佐伯とは」
「ぬしに似て無欲なのよ」
「そうか…」
既に神子へ質問していたのだがやはり返ってきた予測の出来る言葉。
故に大谷は心底困っていた。
前回の神子の誕生日には野鳥の図鑑をプレゼントにした。
勿論、大喜びした神子は今でもその図鑑を大切にしており暇あればいつも愛読している。
前々回の誕生日では野鳥専用の新品なカメラをプレゼントに。
どちらも神子が喜んでくれたので大成功だったのは間違い無しだが…今回の誕生日で何を送れば良いのか思い詰まってしまったのだ。
困り果てる大谷を追い詰めるかの様な神子の言葉はまだ存在していた。
『決してものじゃなくても…私、大谷さんと居られるならそれで構いませんから』
「心底無欲な奴だな」
「否定が出来ぬわ…」
神子は神子で大谷を大事に想っているのだがそれが却って悩みを生んでいた
「ちょっと失礼するよ二人共」
「半兵衛様!」
二人で頭を回転させながら考えていたら別の声が障子越しに聞こえた。
声の主を良く知る三成はガバッと立ち上がった。
「久し振りだね大谷くん。体調の方は大丈夫かい?」
「久方振りよ賢人。近頃は頗る良いのでな」
過去、己がまだこの屋敷に居て世話になった竹中半兵衛の挨拶に頭を下げながら返した。
「半兵衛様、こちらへどうぞ」
「嗚呼。ありがとう三成くん」
三成が音速で用意した座布団に座る半兵衛。
礼を言われた三成は、ほんの間(時間にしておよそ3秒)悶絶していた姿を大谷は見なかった事にした。
「廊下で聞こえてたけど…誰かにプレゼントでもするのかい?」
「ええ、刑部が奥方に贈り物をするそうで」
「そうなんだ…何を送るか決まっているのかな?」
三成から説明を受けて半兵衛が大谷に聞いてみるが答えは首を振られて返された。
「そっか…まだなんだね」
「佐伯の奴が無欲なもので…」
「神子は大谷くんが一番大事みたいだからね…そう欲張りにならないんだろう」
「はい…半兵衛様、何か良い案はないでしょうか?」
「う~ん…そうだねぇ、神子は鳥が好きなんだっけ?」
「いかにも」
顎に手を当て首を傾げて考え込んだ半兵衛は突然思い付いた様に聞き出した。
こくりと頷いて即答する大谷に半兵衛が笑いながら話す。
「じゃあ飼い鳥をプレゼントするなんて…どうかな?」
「飼い鳥…?」
「そう。僕は物流交換部の管理をしているんだけど、今ね飼い鳥用の鳥を色々と見て回ってるんだ。良かったら大谷くんに一匹、譲ろうかと思って…どうかな?」
「良いのですか?半兵衛様」
「大谷くんとの仲だしね。それに僕も神子が喜んでくれるなら構わないよ」
「そうですか…刑部はどうする」
「賢人がそう言うならば言葉に甘えさせて貰う」
「よし!決まりだね。早速どの鳥にするか見て貰わないと」
こうして大谷は神子の待つ屋敷へ戻るのに遅くなった。
「おかえりなさい!今日は遅かったですね」
「ちと野暮用だったのでな」
「そうですか、脚は大丈夫なんですか?痛んでいませんか」
「ぬしは心配性よな」
帰宅した夫を迎えた神子は軽い質問攻めを行う。
それに多少呆れた顔をした大谷であった
神子の誕生日当日。
「また御出掛けになるんですか?」
「悪いのか」
「いいえ!大谷さんの御出掛けが増えたので、嬉しいだけですよ」
「左様か」
余り外出を好まない大谷だが最近は出掛けるのが多くなったので神子にとっては喜ばしい事らしい。
その神子の為に出掛けているのだが、この様な事で喜ばせるつもりはない。
「…行ってくる」
「いってらっしゃい」
これ如き喜んでいるならばあの贈物で喜んだりするのか。
一抹の不安を抱え大谷は神子に見送られて元居候先だった屋敷へと足を向かわせる。
「やあ大谷くん。約束通り、準備は出来てるよ」
「刑部!自ら歩んで来たのか!?迎えならばいつでも、」
「時には己の足で歩みたいのよ」
屋敷の門前で待っていた半兵衛と三成。
半兵衛は朗らかに迎えたのだが自ら歩んで来た事を知って大慌てになる三成を遮る羽目になった。
「…それで、これが大谷くんの所望してくれた鳥なんだけど…」
「如何したか」
「実は性格に問題があってね…」
屋敷に招き入れられ案内された先の居間には布に覆われた鳥籠が鎮座していた。
布を外し鳥を見せる前に半兵衛が大谷へ躊躇 いがちで説明する。
「ちょっと自分以外の鳥に攻撃的でね…多分、人間も論外じゃないと思うんだ」
静かに布を剥がせば鳥が姿を現す。
「これが桜ブンチョウか…」
大谷ではなく三成が声を漏らす。
「手乗り鳥しては優秀なんだけど…どうも人に慣れなくてね…」
見てて、と半兵衛が指を鳥籠に近付けてみれば…
『ピーッ!ピピッ…!』
中の桜ブンチョウは半兵衛に向かって鳴き声を張り上げる。
「こうやって威嚇しちゃうんだ…」
「貴様!半兵衛様に楯突くとは、」
「三成、相手は鳥よ」
半兵衛に威嚇した桜ブンチョウへ迫りかけた三成を大谷は冷静に止めた。
「明日になれば別の桜ブンチョウを用意出来るけど、それじゃあ神子にプレゼント出来ないよね…」
「どうするのだ刑部」
「………」
「あっ、大谷くん危ないよ」
「刑部!何をする気だっ!?」
申し訳なさそうな半兵衛に大谷は無言で返す。
さらには包帯に包まれた指を桜ブンチョウの居る鳥籠に近付け始めた。
それを心配そうな半兵衛と慌てた三成が止めようとする。
大谷の指がコツンと鳥籠に触れた。
『………』
「あれ…」
「威嚇しないだと…」
半兵衛ではあれ程に騒いでいた桜ブンチョウが大谷には沈黙していた。
「ぬしも不幸よな。親から早に引き離されて」
桜ブンチョウへ語りかけながら鳥籠の出入口を開き人差し指を差し出した。
半兵衛と三成が息を飲んで見守る中、桜ブンチョウは威嚇する処か大谷の指に噛み付こうともしない。
それ処か自分から大谷の指に飛び乗った。
「随分と手懐けてるみたいだ」
「貴様、鳥は好きなのか?」
「嫌いではない。むしろ…好ましいな、ヒヒッ」
三成の言葉に大谷は笑い桜ブンチョウを抱え込む様に己へ近付けてもう片方の指で頭を撫でてやる。
桜ブンチョウは気持ち良さそうに目を細めた。
「大谷くん、その子で大丈夫かい?」
「構わぬ。この不幸な鳥を、我は大層気に入った」
「刑部、本当に大丈夫なのか?」
「我でなければ誰が飼う?」
「いやそれもそうだが…こいつで佐伯が納得するのか?」
「どうであろうなァ…顔合わせをせねば分からなんだ」
はっきりと答えて桜ブンチョウを鳥籠に戻す。
「良かった。僕もホッとしたよ。もし駄目だったら…この子はどうなってたか」
この桜ブンチョウをもし大谷が気に入らなければどうなるか半兵衛は心配していたが杞憂に終わった様だ。
「では賢人よ、こやつをありがたく貰ってゆく」
「大事にしてあげてね。神子も喜んでくれると良いけど」
「半兵衛様、流石に刑部一人でこの鳥籠を持つのは…」
「だね。じゃあ三成くん、車の用意をして」
「は!只今!!」
心配性の三成が半兵衛に提案する。
半兵衛もそう思っていた様子で三成に頼むと彼は瞬時に屋敷の使いを探しにいった
念の為、付き添った三成に送って貰い大谷は無事に己の屋敷に着いた。
「刑部…気を付けろそいつは猫を被って、」
「鳥が猫を被ってどうする。もう良い、ぬしには世話になった」
「…大した事ではない。さらばだ」
まだ桜ブンチョウに大して警戒心を持つ三成は大谷へ警告まがいな言葉を放つ。
それを一蹴しながら感謝すると満更でもない顔をして三成は去っていった。
「やれ三成も困ったものだ…」
鳥相手で真面目になってしまう三成で笑っていたら桜ブンチョウの様子が気になった。
「生きておるな?でなければ意味ないが」
『………』
少しだけ布を上にどけみれば桜ブンチョウはジッとしていた。
良く見れば腹が上下しており眠っているだけの様だ。
もうすぐ神子に渡す時が近付いているので軽く鳥籠をトントンと叩き桜ブンチョウを起こす。
『ピッ…?』
「起きよったか。まちと待て、直ぐに餌でもやるわ」
小さく鳴いて目覚めを知らせた桜ブンチョウへ大谷は滅多に出さない優しい声色で告げ屋敷に入る。
『チリーンッ…』
扉を開けば頭上で鈴が鳴る。
「あっ、大谷さん!おかえりなさい!!待ってましたよっ」
鈴が鳴れば神子が大谷を出迎える。
「御飯はもう作ってありますよ。食べますか?」
「食すが…その前に見せるものがある故」
「見せる…もの?その持ってるのでしょうか?」
「良いから歩め」
「分かりましたー」
大谷の言葉で鳥籠に目を向けた神子を居間に移動するように促した。
「今日はぬしの生誕よな」
「はい…そうですが」
「故にぬしへ渡すものがある」
居間に入り大谷は胡座をかいて座り神子は自然な動きで正座をして座った。
確認するかの様に神子へ話す大谷は傍らに安置させていた鳥籠を手にして目の前へ置き直した。
「もしかして…贈物ですか?」
「開けてみよ」
「じゃあ失礼して…」
そっと鳥籠を覆う布を取り払い桜ブンチョウを目に入れる。
「まぁ!可愛い桜ブンチョウ!」
一目で桜ブンチョウと分かった神子は驚嘆の声を上げながら鳥籠へ指を近付けた。
指が鳥籠に接触するまで桜ブンチョウは一声も上げなかった。
「あれ?もしかして怖がられてる…?」
「黙っておるだけよ」
「黙ってるって…鳴いたんですか?ちゃんと」
「しかとな。手にでも乗せてみよ。手乗り鳥故、人には慣れ親しむ」
「大丈夫かな…」
恐る恐る出入口を開き指を出してみる。
桜ブンチョウは指に少し嘴を近付けたが直ぐに飛び乗った。
「……!乗った」
「ぬしも手懐けておるのだな」
「手懐けてなんて…私はただ鳥が好きなだけですよ」
己と同じ様に桜ブンチョウを指に乗せた神子を見て大谷が半兵衛の言葉をそのまま言った。
神子は笑って返し桜ブンチョウの喉を撫でてやった。
『ピピッ、ピーッ…』
落ち着いた様に鳴いた桜ブンチョウは自ら神子の指に擦り寄った。
「ほう、ぬしが気に入る前にそやつの方から神子を気に入ったか」
「気に入ったなんて…まぁ、私はこの子を一目見て気に入っちゃいましたけど」
「そうか、ソウカ。それはメデタキナ」
楽しそうに嬉しそうに桜ブンチョウと戯れる神子へ大谷は満足そうに頷いた。
「そうしたら名前を付けてあげないと。どうしましょうか」
「不幸、で良かろ」
「……せめて不は取ってあげませんか」
「今からぬしは不幸だ」
『ピッ?』
「少し譲って…幸(こう)でどうですか?大谷さんと私に幸福を運んでくれるようにって」
ねっ幸、と呼び掛けてやれば桜ブンチョウ…基、幸はピーッと返事をした。
「ほらやっぱり幸が良いですよ…あ」
「む…?」
神子の意見にまだ不服そうな大谷へ幸が飛び移った。
大谷の頭、にである。
「ふふふ…お似合いですよ」
「それは馬鹿にしておるのか?」
「違いますよ。大谷さんも鳥が似合うお人なんだって、そう思えたんです」
大谷の頭を陣取った幸は満足げにかしらをもたげていた
,
用意されていた座布団に座り大谷は一人呟いた。
「貴様が悩み事を抱えるなど…珍しいな」
「まァ我も人の子、悩みの一つ二つはあるものよ」
御盆に乗せた湯呑みと茶菓子を持って三成が現れる。
ここは三成が居候している豊臣秀吉宅の屋敷。
何故、大谷がこの屋敷に居るかと言うと…
「佐伯に贈り物を…だと」
「左様よ。神子の生誕も近い故にな」
「佐伯の奴は何を望んでいる?」
「いや、それがなァ…」
妻である神子の誕生日プレゼントについて三成へ相談に乗って貰う為であった。
親友である三成でさえ大谷の悩む姿を余り見た事がない。
なので悩み事を吐く大谷を見て三成は驚き続けていた。
欲しいものが有るならば当の本人に聞くのが手っ取り早い。
そう思考する三成の言葉に大谷は溜め息を吐きながら話し始めた。
前日のとある時。
『神子よ』
『はい?何でしょうか大谷さん』
『ぬしは今、喉から手が出る程に望むものは有るか』
『喉からって…いえ、特に有りませんが…』
『遠慮せずに申してみよ』
『いいえ、本当に。大谷さんの気持ちだけで充分ですから』
『………』
「良く耳にする事だが…まさか貴様と佐伯とは」
「ぬしに似て無欲なのよ」
「そうか…」
既に神子へ質問していたのだがやはり返ってきた予測の出来る言葉。
故に大谷は心底困っていた。
前回の神子の誕生日には野鳥の図鑑をプレゼントにした。
勿論、大喜びした神子は今でもその図鑑を大切にしており暇あればいつも愛読している。
前々回の誕生日では野鳥専用の新品なカメラをプレゼントに。
どちらも神子が喜んでくれたので大成功だったのは間違い無しだが…今回の誕生日で何を送れば良いのか思い詰まってしまったのだ。
困り果てる大谷を追い詰めるかの様な神子の言葉はまだ存在していた。
『決してものじゃなくても…私、大谷さんと居られるならそれで構いませんから』
「心底無欲な奴だな」
「否定が出来ぬわ…」
神子は神子で大谷を大事に想っているのだがそれが却って悩みを生んでいた
「ちょっと失礼するよ二人共」
「半兵衛様!」
二人で頭を回転させながら考えていたら別の声が障子越しに聞こえた。
声の主を良く知る三成はガバッと立ち上がった。
「久し振りだね大谷くん。体調の方は大丈夫かい?」
「久方振りよ賢人。近頃は頗る良いのでな」
過去、己がまだこの屋敷に居て世話になった竹中半兵衛の挨拶に頭を下げながら返した。
「半兵衛様、こちらへどうぞ」
「嗚呼。ありがとう三成くん」
三成が音速で用意した座布団に座る半兵衛。
礼を言われた三成は、ほんの間(時間にしておよそ3秒)悶絶していた姿を大谷は見なかった事にした。
「廊下で聞こえてたけど…誰かにプレゼントでもするのかい?」
「ええ、刑部が奥方に贈り物をするそうで」
「そうなんだ…何を送るか決まっているのかな?」
三成から説明を受けて半兵衛が大谷に聞いてみるが答えは首を振られて返された。
「そっか…まだなんだね」
「佐伯の奴が無欲なもので…」
「神子は大谷くんが一番大事みたいだからね…そう欲張りにならないんだろう」
「はい…半兵衛様、何か良い案はないでしょうか?」
「う~ん…そうだねぇ、神子は鳥が好きなんだっけ?」
「いかにも」
顎に手を当て首を傾げて考え込んだ半兵衛は突然思い付いた様に聞き出した。
こくりと頷いて即答する大谷に半兵衛が笑いながら話す。
「じゃあ飼い鳥をプレゼントするなんて…どうかな?」
「飼い鳥…?」
「そう。僕は物流交換部の管理をしているんだけど、今ね飼い鳥用の鳥を色々と見て回ってるんだ。良かったら大谷くんに一匹、譲ろうかと思って…どうかな?」
「良いのですか?半兵衛様」
「大谷くんとの仲だしね。それに僕も神子が喜んでくれるなら構わないよ」
「そうですか…刑部はどうする」
「賢人がそう言うならば言葉に甘えさせて貰う」
「よし!決まりだね。早速どの鳥にするか見て貰わないと」
こうして大谷は神子の待つ屋敷へ戻るのに遅くなった。
「おかえりなさい!今日は遅かったですね」
「ちと野暮用だったのでな」
「そうですか、脚は大丈夫なんですか?痛んでいませんか」
「ぬしは心配性よな」
帰宅した夫を迎えた神子は軽い質問攻めを行う。
それに多少呆れた顔をした大谷であった
神子の誕生日当日。
「また御出掛けになるんですか?」
「悪いのか」
「いいえ!大谷さんの御出掛けが増えたので、嬉しいだけですよ」
「左様か」
余り外出を好まない大谷だが最近は出掛けるのが多くなったので神子にとっては喜ばしい事らしい。
その神子の為に出掛けているのだが、この様な事で喜ばせるつもりはない。
「…行ってくる」
「いってらっしゃい」
これ如き喜んでいるならばあの贈物で喜んだりするのか。
一抹の不安を抱え大谷は神子に見送られて元居候先だった屋敷へと足を向かわせる。
「やあ大谷くん。約束通り、準備は出来てるよ」
「刑部!自ら歩んで来たのか!?迎えならばいつでも、」
「時には己の足で歩みたいのよ」
屋敷の門前で待っていた半兵衛と三成。
半兵衛は朗らかに迎えたのだが自ら歩んで来た事を知って大慌てになる三成を遮る羽目になった。
「…それで、これが大谷くんの所望してくれた鳥なんだけど…」
「如何したか」
「実は性格に問題があってね…」
屋敷に招き入れられ案内された先の居間には布に覆われた鳥籠が鎮座していた。
布を外し鳥を見せる前に半兵衛が大谷へ
「ちょっと自分以外の鳥に攻撃的でね…多分、人間も論外じゃないと思うんだ」
静かに布を剥がせば鳥が姿を現す。
「これが桜ブンチョウか…」
大谷ではなく三成が声を漏らす。
「手乗り鳥しては優秀なんだけど…どうも人に慣れなくてね…」
見てて、と半兵衛が指を鳥籠に近付けてみれば…
『ピーッ!ピピッ…!』
中の桜ブンチョウは半兵衛に向かって鳴き声を張り上げる。
「こうやって威嚇しちゃうんだ…」
「貴様!半兵衛様に楯突くとは、」
「三成、相手は鳥よ」
半兵衛に威嚇した桜ブンチョウへ迫りかけた三成を大谷は冷静に止めた。
「明日になれば別の桜ブンチョウを用意出来るけど、それじゃあ神子にプレゼント出来ないよね…」
「どうするのだ刑部」
「………」
「あっ、大谷くん危ないよ」
「刑部!何をする気だっ!?」
申し訳なさそうな半兵衛に大谷は無言で返す。
さらには包帯に包まれた指を桜ブンチョウの居る鳥籠に近付け始めた。
それを心配そうな半兵衛と慌てた三成が止めようとする。
大谷の指がコツンと鳥籠に触れた。
『………』
「あれ…」
「威嚇しないだと…」
半兵衛ではあれ程に騒いでいた桜ブンチョウが大谷には沈黙していた。
「ぬしも不幸よな。親から早に引き離されて」
桜ブンチョウへ語りかけながら鳥籠の出入口を開き人差し指を差し出した。
半兵衛と三成が息を飲んで見守る中、桜ブンチョウは威嚇する処か大谷の指に噛み付こうともしない。
それ処か自分から大谷の指に飛び乗った。
「随分と手懐けてるみたいだ」
「貴様、鳥は好きなのか?」
「嫌いではない。むしろ…好ましいな、ヒヒッ」
三成の言葉に大谷は笑い桜ブンチョウを抱え込む様に己へ近付けてもう片方の指で頭を撫でてやる。
桜ブンチョウは気持ち良さそうに目を細めた。
「大谷くん、その子で大丈夫かい?」
「構わぬ。この不幸な鳥を、我は大層気に入った」
「刑部、本当に大丈夫なのか?」
「我でなければ誰が飼う?」
「いやそれもそうだが…こいつで佐伯が納得するのか?」
「どうであろうなァ…顔合わせをせねば分からなんだ」
はっきりと答えて桜ブンチョウを鳥籠に戻す。
「良かった。僕もホッとしたよ。もし駄目だったら…この子はどうなってたか」
この桜ブンチョウをもし大谷が気に入らなければどうなるか半兵衛は心配していたが杞憂に終わった様だ。
「では賢人よ、こやつをありがたく貰ってゆく」
「大事にしてあげてね。神子も喜んでくれると良いけど」
「半兵衛様、流石に刑部一人でこの鳥籠を持つのは…」
「だね。じゃあ三成くん、車の用意をして」
「は!只今!!」
心配性の三成が半兵衛に提案する。
半兵衛もそう思っていた様子で三成に頼むと彼は瞬時に屋敷の使いを探しにいった
念の為、付き添った三成に送って貰い大谷は無事に己の屋敷に着いた。
「刑部…気を付けろそいつは猫を被って、」
「鳥が猫を被ってどうする。もう良い、ぬしには世話になった」
「…大した事ではない。さらばだ」
まだ桜ブンチョウに大して警戒心を持つ三成は大谷へ警告まがいな言葉を放つ。
それを一蹴しながら感謝すると満更でもない顔をして三成は去っていった。
「やれ三成も困ったものだ…」
鳥相手で真面目になってしまう三成で笑っていたら桜ブンチョウの様子が気になった。
「生きておるな?でなければ意味ないが」
『………』
少しだけ布を上にどけみれば桜ブンチョウはジッとしていた。
良く見れば腹が上下しており眠っているだけの様だ。
もうすぐ神子に渡す時が近付いているので軽く鳥籠をトントンと叩き桜ブンチョウを起こす。
『ピッ…?』
「起きよったか。まちと待て、直ぐに餌でもやるわ」
小さく鳴いて目覚めを知らせた桜ブンチョウへ大谷は滅多に出さない優しい声色で告げ屋敷に入る。
『チリーンッ…』
扉を開けば頭上で鈴が鳴る。
「あっ、大谷さん!おかえりなさい!!待ってましたよっ」
鈴が鳴れば神子が大谷を出迎える。
「御飯はもう作ってありますよ。食べますか?」
「食すが…その前に見せるものがある故」
「見せる…もの?その持ってるのでしょうか?」
「良いから歩め」
「分かりましたー」
大谷の言葉で鳥籠に目を向けた神子を居間に移動するように促した。
「今日はぬしの生誕よな」
「はい…そうですが」
「故にぬしへ渡すものがある」
居間に入り大谷は胡座をかいて座り神子は自然な動きで正座をして座った。
確認するかの様に神子へ話す大谷は傍らに安置させていた鳥籠を手にして目の前へ置き直した。
「もしかして…贈物ですか?」
「開けてみよ」
「じゃあ失礼して…」
そっと鳥籠を覆う布を取り払い桜ブンチョウを目に入れる。
「まぁ!可愛い桜ブンチョウ!」
一目で桜ブンチョウと分かった神子は驚嘆の声を上げながら鳥籠へ指を近付けた。
指が鳥籠に接触するまで桜ブンチョウは一声も上げなかった。
「あれ?もしかして怖がられてる…?」
「黙っておるだけよ」
「黙ってるって…鳴いたんですか?ちゃんと」
「しかとな。手にでも乗せてみよ。手乗り鳥故、人には慣れ親しむ」
「大丈夫かな…」
恐る恐る出入口を開き指を出してみる。
桜ブンチョウは指に少し嘴を近付けたが直ぐに飛び乗った。
「……!乗った」
「ぬしも手懐けておるのだな」
「手懐けてなんて…私はただ鳥が好きなだけですよ」
己と同じ様に桜ブンチョウを指に乗せた神子を見て大谷が半兵衛の言葉をそのまま言った。
神子は笑って返し桜ブンチョウの喉を撫でてやった。
『ピピッ、ピーッ…』
落ち着いた様に鳴いた桜ブンチョウは自ら神子の指に擦り寄った。
「ほう、ぬしが気に入る前にそやつの方から神子を気に入ったか」
「気に入ったなんて…まぁ、私はこの子を一目見て気に入っちゃいましたけど」
「そうか、ソウカ。それはメデタキナ」
楽しそうに嬉しそうに桜ブンチョウと戯れる神子へ大谷は満足そうに頷いた。
「そうしたら名前を付けてあげないと。どうしましょうか」
「不幸、で良かろ」
「……せめて不は取ってあげませんか」
「今からぬしは不幸だ」
『ピッ?』
「少し譲って…幸(こう)でどうですか?大谷さんと私に幸福を運んでくれるようにって」
ねっ幸、と呼び掛けてやれば桜ブンチョウ…基、幸はピーッと返事をした。
「ほらやっぱり幸が良いですよ…あ」
「む…?」
神子の意見にまだ不服そうな大谷へ幸が飛び移った。
大谷の頭、にである。
「ふふふ…お似合いですよ」
「それは馬鹿にしておるのか?」
「違いますよ。大谷さんも鳥が似合うお人なんだって、そう思えたんです」
大谷の頭を陣取った幸は満足げにかしらをもたげていた
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