春ざれ
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「え?大学で講演会?」
『そうだ』
春特有の暖かい日差しが差し込む日、洗濯物を畳んでいる神子に孫一から電話がきた。
『お前のレポートがかなりの評判でな。それを知った大学が是非、講演をと』
「え~?嘘。何だか俄には信じられないなー…」
『紛れもない真実だ。わざわざお前の名前を出して指名してきたんだぞ』
「聞けば聞く程、信じらんないやぁ」
自分はあくまでも、孫一達と共に仕事としてレポートを書いているのだ。
別段、様々な場所で講演会を開きたくて書いているつもりはない。
『安心しろ、その大学は決して悪い場所ではない。実際、電話を寄越した校長もなかなか良い奴だった』
「分かったよ。孫一ちゃんがそこまで言うなら私、行ってみる」
『感謝する。ならば準備はこちらが済ます。明日、八時に来てくれ』
「うん、了解。じゃまた明日ねー」
通話を切り携帯電話をパチンと閉める。
「明日は色々と忙しくなりそう…」
夕刻。
「何?私達の大学で、と…?」
「そう。校長先生から直々にだって」
訪ねて来た三成も混ぜて、大谷と夕餉を食す神子。
ニコニコと食事をしながら、昼間にきた孫一からの件を話した。
それに直ぐ様反応したのは三成で、大谷は黙って聞いているだけ。
「余り大勢の人の前で話すのは慣れてないんだけど…」
「どもるわ、噛むわで話にもならぬであろうな」
「そう言われますと余計に自信が無くなります…」
茶を淹れた湯呑みを手に、大谷がさらりと言う。
言われた神子は箸で白米を口に運びながら、軽く落ち込んでいた。
しかし、大谷は神子を慰める処か追い討ちをかけた。
「誰しもそこらにいる鳥など興味なかろうに」
「!!大谷さんの馬鹿…!」
予想出来なかった大谷の言葉に、流石の神子も憤怒した。
その会話以降、夫婦の間で言葉は交わされなかった。
珍しく起きた夫婦喧嘩に、三成は戸惑って何も言えなかった。
食器などを無言で片付け、風呂でも寝床の準備の際でも、二人が会話をする事はなかった。
「刑部、貴様の考えも理解出来ない訳ではないが…」
「ぬしには関係なかろ」
「………」
夕餉を終えたのでそろそろと帰ろうとした三成は、去り際に大谷へ声をかけたが、キッパリと返されてしまった。
少し寂しそうな顔をした三成だが仕方なしに大谷へまた明日、と残して帰って行った
翌日。
「それでは、行ってきますから…」
「………」
昨夜より機嫌が少し直った神子が大谷にやっと声をかけるが、当の本人は黙ったまま。
はぁと溜め息を吐いて、神子は小さめの鞄を持って屋敷を出た。
「…から、ここでスクリーンを変えた方が良いな」
「ふむふむ…成程」
約束の時間に仕事場である孫一の事務所に着いた。
大学に向かうまで時間に余裕があるので、資料を受け取った後、講演会でのアドバイスを貰っていた。
孫一のアドバイスはかなり分かりやすく尚且つ、興味深く感じた。
「ありがとう孫一ちゃん。これ…やっぱり孫一ちゃんがやった方が良いんじゃないかな?」
「何を言っているんだ神子。これらの資料内容は全て、お前が書いたのだぞ?我らは説明の仕方をアドバイスしただけだ」
「そ…そうかな」
「そうだ。だから自信を持て」
「…うん、頑張ってみる」
孫一の言葉で気合いを出した神子は再びお礼を言って、大学に向かった
自分の荷物、資料と道具を持って神子は大学に辿り着いた。
地元で唯一の大学―――『婆娑羅大学』に。
「やっと着いた…うぅ、来てみると改めて緊張するなぁ」
登校する在学生達に混じって校内に入る神子。
学生達の好奇な目線を受けながら、校舎を見上げてみた。
本当に巨大な校舎であり、神子は何だか自分が見下ろされている気がした。
そんな巨大な校舎の周りには、幾多の桜が咲き並んでいた。
「綺麗だなぁ~…と、見とれてる場合じゃないや。早く中に入らなきゃ」
風が吹いて散ってゆく桜の花びらをぼうっと見ていたが、直ぐに意識を覚醒させて校舎に行こうと歩みだした。
…つもりだった。
『ボフッ』
「ぶっ…ご、ごめんなさい!急いでいたので…」
早歩きをした為、目の前に誰か居る事に気が付けず、ぶつかってしまった。
焦りながらも神子はちゃんと謝った。
「ああ…別に痛くねぇから良いけどよ…」
(何かちょっと怖い…)
ぶつかった相手は男子学生で、それもやけに体格が良く神子は思わず怖じ気付く。
「ん?良く見りゃあ…可愛い顔してんな。あんた」
「へっ!?」
「ちょうど良いや今日は授業に出んのも面倒くせぇ、なぁ今からどっか行かねぇか?」
「い、今から!?ごめんなさい…私、講演会の為に来たので…」
「へえ…今日の講演会に来んの、あんただったのか。そんならフケる必要もなかったがな」
「おーい!何やってんだぁお前?」
「おお?いや今日やる講演会に来る奴がこいつでさぁ、可愛くねぇ?」
一人いるだけでも恐ろしいのに、二人となって神子は大混乱に陥った。
「ホントだ!確かに可愛い顔してんじゃん!!」
「だろぉ?だから今日はフケって遊びに行こうと思うんだけどよ」
「良いんじゃねぇ?さっさと行っちまおうぜ」
「えぇ!?こ、困ります…」
「まあ良いじゃねぇかよ、行こうぜ!」
「ちょっ…痛っ!放して下さいよ!」
男子学生二人のうち一人に腕を掴まれてしまい、素通りする事も出来ない。
(ど…どうしよう!?このままじゃ講演が出来ない所か、校舎にさえ入れない…)
周りの生徒も見逃せずにはいるが、この男子学生二人組に怖じ気付いているのか、なかなか声をかけられずにいた。
(助けて大谷さん…)
まだ、口もきいてくれないが神子は無意識にただひたすら、大谷へ助けを求めていた。
「ぐえ!!」
思わずギュッと目を閉じていたが、次の瞬間男子学生の呻き声が耳に届いた。
恐る恐る目を開けてみると…
「おいてめぇら、俺の知り合いに何しやがんだ」
神子の腕を掴む男子学生の一人を蹴りで突き飛ばしたらしく、地面にドサリと倒れ込む音がした。
「も…元親くん!!」
「よぉ神子。相変わらず大変だなぁ、そんな顔だとよ」
男子学生に掴まれていた手が放れた瞬間、神子はぐいっと背中から引き寄せられた。
急いで顔を上げてみてみると、そこには顔馴染みの長曾我部元親が。
「長曾我部てめぇ…邪魔しやがって!」
「あぁ?てめぇらこそ神子を無理矢理つれて行こうとしてよ、勝手な真似をしてくれちゃあ困るぜ」
「うるせぇ!」
元親の言葉に怒りの声を上げながら、殴りかかろうと腕を上げた。
「元親くん!」
「大丈夫だ。あんたは下がってな」
神子は心配の余り声を上げるが、名を呼ばれた当の元親は特に気にもせず彼女を己の背中に隠す。
「取り巻きが無駄に居るからって、調子に乗ってんじゃねぇー!!」
「取り巻き?野郎共の事か?残念ながらあいつらは只の取り巻きじゃねぇよ」
苦もなく拳をかわすと、無防備となった腹に殴打を入れる。
「うげっ!?」
「あいつらは俺の兄弟よ。そこらの輩と一緒にされちゃあ困る」
『ドサッ』
男子学生二人を沈めて、元親は己の服に付いた埃をはらう。
「ありがとう…元親くん」
「気にすんな。大した事じゃねぇ。しかし災難だったな、この学校の荒くれもんに捕まっちまうなんて」
「うぅ、怖かったよ…」
「おいおい…あんたは俺より年上だろう?年下の俺に泣きついてどうすんだ」
「でも…」
「まぁ…そこが神子の可愛い所なんだがな…」
ボソッと呟いてから、今度は元親が神子の腕を掴む。
「な、何!?元親くん?」
「そうビビんなくても良いだろう。送ってやるよ、氏政ん所までよ」
「氏政?」
「あ?校長の名前も知らなかったのか?」
「いや実は、講演会の依頼を受けたのが孫一ちゃんで…私、聞いてなかったの」
「さやからしい忘れかただな…」
元親は孫一の事を何故かさやかと呼ぶ。
理由は聞いても教えて貰えないが。
「ま、これから顔を会わせるんだ。別に支障をきたしてる訳じゃねぇ。行くぜ神子」
「うん。よろしくね、元親くん」
「おうよ」
神子の言葉に元親はニカッと笑みを浮かべて返した
「そう言えば元親くん、私が講演会に来るの知ってた?」
「ん?あぁ、さやかの奴から聞いた。だから校門で迎えてやろうとしたら、なかなか来ないんでな」
「ごめんね。遅刻したら校長先生に迷惑だと思って…早めに来てたの」
「いや、俺が勝手に待ってたんだ。神子が気にする事ねぇ。おら、着いたぜ此処が氏政のいる部屋だ」
「何から何までありがとう…」
「良いんだよ、あんたの為ぐらいなら。そんじゃ俺は先に行ってるぜ。早く来てくれよ」
神子を校長室の前にまで送った元親は、先に己の教室へと戻って行った。
「失礼します…あの、本日の講演会を開かせて頂きます。大谷神子と申しますが…」
「おお!神子殿お待ちしておりましたぞ!!」
扉をノックしてから入り、頭を下げながら自己紹介をした。
すると中で立派な机と椅子に座っていた校長の北条氏政が立ち上がって挨拶を返してきた。
「初めまして。わざわざ私の様な者をお呼び頂き、ありがとうございます」
「いやいや、そう固くならなくとも結構ですぢゃ。さっ、座って下され」
「どうもすみません…」
氏政の誘導で椅子が二つ向かい合っている机まで移動する。
「いやはや…我が大学にまで来て下さり、真にありがとうございますぢゃ」
「いえいえ、こちらこそ。講演会を開かせて頂ける機会をくださってありがたいです」
「これで我が大学の学生達が少しでも自然に好奇心をもって、草花の事を考えてくれればなと…」
「そうですね。私もそうなってくれる様に、頑張りますので!」
「うむ!よろしく頼みましたぞ。風魔!家康殿を呼んで神子殿を迎えに来て貰うよう伝えてきてくれ!!」
「………」
いつの間にか氏政の背後には一人の男が立っていて、その風魔小太郎は校長室から出て行った。
「さぁ、迎えが来るまでお茶でも飲んでくだされ」
「ありがとうございます。美味しそうなお茶ですね!」
「お、分かってくれますかな。この茶は小田原産の茶葉で作りましてな…」
氏政が出したお茶の長い説明を嫌な顔一つせず、神子は熱心に聞いていた。
それは迎えの者が校長室の扉を開くまで続いた
「氏政殿!迎えに来たぞ!!」
「おぉ、やっと迎えが来よったか。では神子殿、よろしく頼みましたぞ!!」
「はい!私にお任せ下さい!!」
朗らかな声と共に扉が開かれる音が聞こえ、迎えが来訪した事を知った。
「神子!久し振りだなぁ!!」
「お久し振り、家康くん」
神子を迎えに来たのは知り合いの一人である、徳川家康だった。
家康は校長室から出るなり神子へ嬉しそうに挨拶を交わした。
神子もそれに笑顔で答える。
「あれ?家康くん息が上がってるけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。神子が来ると聞いてついつい走って来てしまったんだ」
「もう家康くんったら…あんまり無理してケガをしたら、困るんだからね」
「すまんすまん。だが神子も最近は無理をしていたんじゃないのか?」
「…誰からか聞いたの」
「お市殿からさ。神子が風邪をひいて、大変心配だと連絡がきたんだ」
「市ちゃんから…ごめんね家康くん、心配かけて…」
「良いんだ。神子が元気ならばそれで良いんだ。だが、もしも辛い事があればワシに相談してくれ。遠慮はいらないぞ」
「ありがとう」
嬉々として会話をしながら、神子と家康は廊下を歩き階段を登っていく。
家康によると目指す自分の教室は三階にあると言う。
階段を登り終えて、ようやくお目当ての教室に着いた。
扉を開けば、中へと入れる。
故に家康がいざ開こうとしたら…
「あ、あの…家康くん」
「ん?どうした神子」
「家康くんの携帯番号、教えて貰えないかな…?」
「携帯番号?おかしいな、ワシは神子に教えてた筈なんだが…」
「じ…実はね!ちょっと失敗して家康くんの携帯番号と、メールアドレスが消えちゃって…」
首を傾げる家康に神子が直ぐ様説明するが、次第に語尾が小さくなっていった。
「ごめんね…私の手違いで…」
「神子が謝る必要はないさ。誰にでも失敗はある。それじゃあ講演が終わったら教えよう」
「うん…!家康くんありがとう」
「大丈夫だ。では中に入ろうか」
神子の謝罪を振り払うかの様に、家康は笑って言ってくれた。
それに神子は元気付けられると、再びうんと頷いた
,
『そうだ』
春特有の暖かい日差しが差し込む日、洗濯物を畳んでいる神子に孫一から電話がきた。
『お前のレポートがかなりの評判でな。それを知った大学が是非、講演をと』
「え~?嘘。何だか俄には信じられないなー…」
『紛れもない真実だ。わざわざお前の名前を出して指名してきたんだぞ』
「聞けば聞く程、信じらんないやぁ」
自分はあくまでも、孫一達と共に仕事としてレポートを書いているのだ。
別段、様々な場所で講演会を開きたくて書いているつもりはない。
『安心しろ、その大学は決して悪い場所ではない。実際、電話を寄越した校長もなかなか良い奴だった』
「分かったよ。孫一ちゃんがそこまで言うなら私、行ってみる」
『感謝する。ならば準備はこちらが済ます。明日、八時に来てくれ』
「うん、了解。じゃまた明日ねー」
通話を切り携帯電話をパチンと閉める。
「明日は色々と忙しくなりそう…」
夕刻。
「何?私達の大学で、と…?」
「そう。校長先生から直々にだって」
訪ねて来た三成も混ぜて、大谷と夕餉を食す神子。
ニコニコと食事をしながら、昼間にきた孫一からの件を話した。
それに直ぐ様反応したのは三成で、大谷は黙って聞いているだけ。
「余り大勢の人の前で話すのは慣れてないんだけど…」
「どもるわ、噛むわで話にもならぬであろうな」
「そう言われますと余計に自信が無くなります…」
茶を淹れた湯呑みを手に、大谷がさらりと言う。
言われた神子は箸で白米を口に運びながら、軽く落ち込んでいた。
しかし、大谷は神子を慰める処か追い討ちをかけた。
「誰しもそこらにいる鳥など興味なかろうに」
「!!大谷さんの馬鹿…!」
予想出来なかった大谷の言葉に、流石の神子も憤怒した。
その会話以降、夫婦の間で言葉は交わされなかった。
珍しく起きた夫婦喧嘩に、三成は戸惑って何も言えなかった。
食器などを無言で片付け、風呂でも寝床の準備の際でも、二人が会話をする事はなかった。
「刑部、貴様の考えも理解出来ない訳ではないが…」
「ぬしには関係なかろ」
「………」
夕餉を終えたのでそろそろと帰ろうとした三成は、去り際に大谷へ声をかけたが、キッパリと返されてしまった。
少し寂しそうな顔をした三成だが仕方なしに大谷へまた明日、と残して帰って行った
翌日。
「それでは、行ってきますから…」
「………」
昨夜より機嫌が少し直った神子が大谷にやっと声をかけるが、当の本人は黙ったまま。
はぁと溜め息を吐いて、神子は小さめの鞄を持って屋敷を出た。
「…から、ここでスクリーンを変えた方が良いな」
「ふむふむ…成程」
約束の時間に仕事場である孫一の事務所に着いた。
大学に向かうまで時間に余裕があるので、資料を受け取った後、講演会でのアドバイスを貰っていた。
孫一のアドバイスはかなり分かりやすく尚且つ、興味深く感じた。
「ありがとう孫一ちゃん。これ…やっぱり孫一ちゃんがやった方が良いんじゃないかな?」
「何を言っているんだ神子。これらの資料内容は全て、お前が書いたのだぞ?我らは説明の仕方をアドバイスしただけだ」
「そ…そうかな」
「そうだ。だから自信を持て」
「…うん、頑張ってみる」
孫一の言葉で気合いを出した神子は再びお礼を言って、大学に向かった
自分の荷物、資料と道具を持って神子は大学に辿り着いた。
地元で唯一の大学―――『婆娑羅大学』に。
「やっと着いた…うぅ、来てみると改めて緊張するなぁ」
登校する在学生達に混じって校内に入る神子。
学生達の好奇な目線を受けながら、校舎を見上げてみた。
本当に巨大な校舎であり、神子は何だか自分が見下ろされている気がした。
そんな巨大な校舎の周りには、幾多の桜が咲き並んでいた。
「綺麗だなぁ~…と、見とれてる場合じゃないや。早く中に入らなきゃ」
風が吹いて散ってゆく桜の花びらをぼうっと見ていたが、直ぐに意識を覚醒させて校舎に行こうと歩みだした。
…つもりだった。
『ボフッ』
「ぶっ…ご、ごめんなさい!急いでいたので…」
早歩きをした為、目の前に誰か居る事に気が付けず、ぶつかってしまった。
焦りながらも神子はちゃんと謝った。
「ああ…別に痛くねぇから良いけどよ…」
(何かちょっと怖い…)
ぶつかった相手は男子学生で、それもやけに体格が良く神子は思わず怖じ気付く。
「ん?良く見りゃあ…可愛い顔してんな。あんた」
「へっ!?」
「ちょうど良いや今日は授業に出んのも面倒くせぇ、なぁ今からどっか行かねぇか?」
「い、今から!?ごめんなさい…私、講演会の為に来たので…」
「へえ…今日の講演会に来んの、あんただったのか。そんならフケる必要もなかったがな」
「おーい!何やってんだぁお前?」
「おお?いや今日やる講演会に来る奴がこいつでさぁ、可愛くねぇ?」
一人いるだけでも恐ろしいのに、二人となって神子は大混乱に陥った。
「ホントだ!確かに可愛い顔してんじゃん!!」
「だろぉ?だから今日はフケって遊びに行こうと思うんだけどよ」
「良いんじゃねぇ?さっさと行っちまおうぜ」
「えぇ!?こ、困ります…」
「まあ良いじゃねぇかよ、行こうぜ!」
「ちょっ…痛っ!放して下さいよ!」
男子学生二人のうち一人に腕を掴まれてしまい、素通りする事も出来ない。
(ど…どうしよう!?このままじゃ講演が出来ない所か、校舎にさえ入れない…)
周りの生徒も見逃せずにはいるが、この男子学生二人組に怖じ気付いているのか、なかなか声をかけられずにいた。
(助けて大谷さん…)
まだ、口もきいてくれないが神子は無意識にただひたすら、大谷へ助けを求めていた。
「ぐえ!!」
思わずギュッと目を閉じていたが、次の瞬間男子学生の呻き声が耳に届いた。
恐る恐る目を開けてみると…
「おいてめぇら、俺の知り合いに何しやがんだ」
神子の腕を掴む男子学生の一人を蹴りで突き飛ばしたらしく、地面にドサリと倒れ込む音がした。
「も…元親くん!!」
「よぉ神子。相変わらず大変だなぁ、そんな顔だとよ」
男子学生に掴まれていた手が放れた瞬間、神子はぐいっと背中から引き寄せられた。
急いで顔を上げてみてみると、そこには顔馴染みの長曾我部元親が。
「長曾我部てめぇ…邪魔しやがって!」
「あぁ?てめぇらこそ神子を無理矢理つれて行こうとしてよ、勝手な真似をしてくれちゃあ困るぜ」
「うるせぇ!」
元親の言葉に怒りの声を上げながら、殴りかかろうと腕を上げた。
「元親くん!」
「大丈夫だ。あんたは下がってな」
神子は心配の余り声を上げるが、名を呼ばれた当の元親は特に気にもせず彼女を己の背中に隠す。
「取り巻きが無駄に居るからって、調子に乗ってんじゃねぇー!!」
「取り巻き?野郎共の事か?残念ながらあいつらは只の取り巻きじゃねぇよ」
苦もなく拳をかわすと、無防備となった腹に殴打を入れる。
「うげっ!?」
「あいつらは俺の兄弟よ。そこらの輩と一緒にされちゃあ困る」
『ドサッ』
男子学生二人を沈めて、元親は己の服に付いた埃をはらう。
「ありがとう…元親くん」
「気にすんな。大した事じゃねぇ。しかし災難だったな、この学校の荒くれもんに捕まっちまうなんて」
「うぅ、怖かったよ…」
「おいおい…あんたは俺より年上だろう?年下の俺に泣きついてどうすんだ」
「でも…」
「まぁ…そこが神子の可愛い所なんだがな…」
ボソッと呟いてから、今度は元親が神子の腕を掴む。
「な、何!?元親くん?」
「そうビビんなくても良いだろう。送ってやるよ、氏政ん所までよ」
「氏政?」
「あ?校長の名前も知らなかったのか?」
「いや実は、講演会の依頼を受けたのが孫一ちゃんで…私、聞いてなかったの」
「さやからしい忘れかただな…」
元親は孫一の事を何故かさやかと呼ぶ。
理由は聞いても教えて貰えないが。
「ま、これから顔を会わせるんだ。別に支障をきたしてる訳じゃねぇ。行くぜ神子」
「うん。よろしくね、元親くん」
「おうよ」
神子の言葉に元親はニカッと笑みを浮かべて返した
「そう言えば元親くん、私が講演会に来るの知ってた?」
「ん?あぁ、さやかの奴から聞いた。だから校門で迎えてやろうとしたら、なかなか来ないんでな」
「ごめんね。遅刻したら校長先生に迷惑だと思って…早めに来てたの」
「いや、俺が勝手に待ってたんだ。神子が気にする事ねぇ。おら、着いたぜ此処が氏政のいる部屋だ」
「何から何までありがとう…」
「良いんだよ、あんたの為ぐらいなら。そんじゃ俺は先に行ってるぜ。早く来てくれよ」
神子を校長室の前にまで送った元親は、先に己の教室へと戻って行った。
「失礼します…あの、本日の講演会を開かせて頂きます。大谷神子と申しますが…」
「おお!神子殿お待ちしておりましたぞ!!」
扉をノックしてから入り、頭を下げながら自己紹介をした。
すると中で立派な机と椅子に座っていた校長の北条氏政が立ち上がって挨拶を返してきた。
「初めまして。わざわざ私の様な者をお呼び頂き、ありがとうございます」
「いやいや、そう固くならなくとも結構ですぢゃ。さっ、座って下され」
「どうもすみません…」
氏政の誘導で椅子が二つ向かい合っている机まで移動する。
「いやはや…我が大学にまで来て下さり、真にありがとうございますぢゃ」
「いえいえ、こちらこそ。講演会を開かせて頂ける機会をくださってありがたいです」
「これで我が大学の学生達が少しでも自然に好奇心をもって、草花の事を考えてくれればなと…」
「そうですね。私もそうなってくれる様に、頑張りますので!」
「うむ!よろしく頼みましたぞ。風魔!家康殿を呼んで神子殿を迎えに来て貰うよう伝えてきてくれ!!」
「………」
いつの間にか氏政の背後には一人の男が立っていて、その風魔小太郎は校長室から出て行った。
「さぁ、迎えが来るまでお茶でも飲んでくだされ」
「ありがとうございます。美味しそうなお茶ですね!」
「お、分かってくれますかな。この茶は小田原産の茶葉で作りましてな…」
氏政が出したお茶の長い説明を嫌な顔一つせず、神子は熱心に聞いていた。
それは迎えの者が校長室の扉を開くまで続いた
「氏政殿!迎えに来たぞ!!」
「おぉ、やっと迎えが来よったか。では神子殿、よろしく頼みましたぞ!!」
「はい!私にお任せ下さい!!」
朗らかな声と共に扉が開かれる音が聞こえ、迎えが来訪した事を知った。
「神子!久し振りだなぁ!!」
「お久し振り、家康くん」
神子を迎えに来たのは知り合いの一人である、徳川家康だった。
家康は校長室から出るなり神子へ嬉しそうに挨拶を交わした。
神子もそれに笑顔で答える。
「あれ?家康くん息が上がってるけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。神子が来ると聞いてついつい走って来てしまったんだ」
「もう家康くんったら…あんまり無理してケガをしたら、困るんだからね」
「すまんすまん。だが神子も最近は無理をしていたんじゃないのか?」
「…誰からか聞いたの」
「お市殿からさ。神子が風邪をひいて、大変心配だと連絡がきたんだ」
「市ちゃんから…ごめんね家康くん、心配かけて…」
「良いんだ。神子が元気ならばそれで良いんだ。だが、もしも辛い事があればワシに相談してくれ。遠慮はいらないぞ」
「ありがとう」
嬉々として会話をしながら、神子と家康は廊下を歩き階段を登っていく。
家康によると目指す自分の教室は三階にあると言う。
階段を登り終えて、ようやくお目当ての教室に着いた。
扉を開けば、中へと入れる。
故に家康がいざ開こうとしたら…
「あ、あの…家康くん」
「ん?どうした神子」
「家康くんの携帯番号、教えて貰えないかな…?」
「携帯番号?おかしいな、ワシは神子に教えてた筈なんだが…」
「じ…実はね!ちょっと失敗して家康くんの携帯番号と、メールアドレスが消えちゃって…」
首を傾げる家康に神子が直ぐ様説明するが、次第に語尾が小さくなっていった。
「ごめんね…私の手違いで…」
「神子が謝る必要はないさ。誰にでも失敗はある。それじゃあ講演が終わったら教えよう」
「うん…!家康くんありがとう」
「大丈夫だ。では中に入ろうか」
神子の謝罪を振り払うかの様に、家康は笑って言ってくれた。
それに神子は元気付けられると、再びうんと頷いた
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