春陰
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何だか頭が熱い…意識も朦朧としている…
自分の額に布があるが、それはもう熱を冷やす効果を全く失い、生温くなっていた。
「……ぅ…」
声を出そうとしても、聞こえるのは掠れた自分の声だけ。
せめてこの熱さから逃れたい為、思う様に動かない腕を、必死に動かす。
最初は畳特有の感触がし、次には布団に手が回る。
(嗚呼、駄目だ…体が怠くて何も出来ない…)
ひたすら続く体の怠惰感に、神子は完全に疲労してしまった。
(熱い…どうにか、冷やさない、と…)
怠惰感に続いて神子を疲労させているのは、先程から途切れない熱さである。
元々はっきりしない意識である事もたたり、神子は眠りにつき始めた
ふと気が付けば、額の生温さが消えて次の瞬間に、心地好い冷たさを感じた。
閉じかけていた目をうっすら開くと、包帯に巻かれた手が視界に入る。
「…お…おた、にさ…」
「!神子…!」
紛れもなくそれは大谷だった。
今にでも途切れそうな神子の声を聞いて、大谷は直ぐ様顔を近づけた。
「我が分かるか」
「は、い…なん…とか」
「やれ胆を冷やさせおって、ほんにぬしは抜けとるな」
「…ごめんなさい」
「我は謝りなど求めぬ。言を紡ぐ力があらば、早に治癒させよ」
「わかり、ました…」
小さな叱責を受け、神子は大人しく目を閉じた。
それを見て大谷は生温くなった布を、もう一度冷やす為に部屋を出た。
障子を閉じるその瞬間まで、大谷の目線は神子に注がれていた
「刑部、佐伯の体はどうだ?」
「良好、とは言えぬな…口を開く力ぐらいはあるが」
大谷が神子の自室から出て、向かった場所は台所だった。
さらに台所には三成が。
「急くに呼び申してすまなんだ」
「何度も言わせるな刑部。貴様の為ならば、大した事ではない」
言葉を交わしながら大谷から三成は、布を受けとる。
「だが、これで何度目だ?まさかこの屋敷中の手拭いを使うつもりか?」
「案ずるな、布きれなど呆れる程ある。神子が我の為にと、大量に仕入れてきたのでなァ」
実の所、神子の額を冷やす為に消費した手拭いの枚数は、三枚を迎えた。
先の二枚は当に潤いを失せて、洗濯籠の中に。
「やけに長引くな。たかが風邪如き」
「全くよな」
また洗濯籠に追加する手拭いをまだ、手にしながら三成は言った。
それに大谷は溜め息と同時に、相槌を返した。
事の発端は神子が風邪を拗らせ、倒れた事から始まる
大谷の友人、毛利元就が屋敷を訪問した後、神子の様子が僅かに変わった。
もちろん、大谷の世話と家事などの手を抜いた訳ではなく、神子がやけに物事へ気を打ち込む様になったのだ。
普段なら少し余裕な雰囲気を持って、炊事や屋敷内の掃除をこなしていたが、今は違う。
変に生真面目で、変に几帳面になりつつあった。
「つまり、佐伯が床に伏せたのは疲労が要因か」
「左様」
「フンッ…己の管理さえ録に出来ぬ程、馬鹿ではなかった筈だが」
鼻で笑いながらも、どこか気遣いを感じるのは気のせいだろうか。
大谷がそれを気付いているのか、いないのかは分からないが、三成は作業を進める。
大の男である三成が台所に立っている理由、それは風の病に伏せる神子への食事を作る為だ。
食事と言っても粥なのだが。
大谷も決して粥(でない他の料理でも)を作れない程、腕が酷い訳でもない。
まだ療養中の身である大谷の足は、長時間立ってはいられないからだ。
長時間も立っていると、足が痺れを感じ始めてしまう。
だから三成が大谷の代わりに粥を作る事になっている。
「出来たぞ刑部。まだ熱があるから素手で触れるな。お前の手が焼ける」
「あいわかった」
「それと粥を食わせたら、薬を飲ませろ。吐き出してもな」
「ぬしではあるまい。神子が戻す事なかろ」
「……!まだ覚えているのか!?」
「鮮明になァ、ヒッヒ…」
羞恥心の表情を見せる三成を置いて、大谷は神子が伏せる畳部屋へ
包帯に包まれる腕からは想像もつかない力で、大谷は盆に乗せた粥を片手に持ち、障子を開いた。
その音に、眠っている筈の神子が起きていた。
「眠れと、我は申したつもりだが」
「すみま、せん…何故か、寝付けなくて…」
またしても叱責に近い大谷の言葉を聞き、神子は大人しく謝る。
双方が口を閉じたので、沈黙に包まれる中、大谷は盆を神子の枕元近くに置いた。
「…お粥、ですか…?」
「それ以外に何がある」
「…その、言いにくいんですが…食欲、無くて」
心から申し訳なさそうな顔をし、神子は目を泳がせる。
「厄介よ、ほんに厄介よ」
「………」
吐き捨てる様に呟く大谷に、神子は何も言えなかった。
わざわざ大谷本人が粥を持って来てくれたのに、それを少しも口に出来ない自分が嫌になった。
「大谷、さん。気持ちは充分…受け取ったので、」
「強いてでも食わせるのは」
「…むっ!?」
また謝罪をしかけた神子の口を勝手に開いて、大谷が粥を突っ込むまでは
感じたのは口に突っ込まれた匙(さじ)の感触と、ほどよい暖かさの粥。
そして戻さぬ様に、閉じた神子の口を押さえる大谷の手の体温。
「んー!?」
「戻されても困るのでな。僅かでも腹に入れよ」
「むぅー!」
「戻すか?我のこの手に溢すのか?」
「む…」
「そうか、ソウカ。ならば我が口(こう)で腹に満たしてやるぞ」
「!!」
食欲の食も無いのに、大谷は神子に無理矢理でも粥を食わす気だ。
さらに今、口内にある粥を飲み込まずに溢せば、口移しで食わされる宣言までされた。
一瞬でそれらを理解すると、神子は無理をしてでも飲み込んだ
「げほっ、けほけほっ…」
「ほう、腹に入れたか。残念」
咳き込む神子を見て、大谷は言葉通りに残念そうにした。
「口移しなんて…何を考えて、」
「所望しておるのか?よかろ、たんと食うがよい」
「違っ…ん、むぅ…」
少し元気が出たのか、怒りの声を上げる神子を黙らせるかの様に、大谷は匙で己の口に粥を入れてそのまま口付ける。
「ふ、ん…やっ…やめ、大谷さ…はっ…」
まだ全快もしない体を必死に使い、抵抗する神子だが流し込まれる粥に混じって大谷の舌が口内に入ってくる。
雫が飛び散る音に近いものが、畳部屋に小さく響く。
存分に神子との口付けを堪能したのか、ようやく大谷は離れた。
当に夜を迎えていたこの部屋に、月光が差し込んで、これに照れされた大谷の舌がやけにてかる。
「はぁ、はぁ…風邪がうつっても、知りませんよ…」
「ぬしのものならば構わぬ」
「駄目ですよ…大谷さんに風邪なんて、うつせません…」
「やれ、まだ理解せぬか」
「っ!?」
息をまだ荒げている神子の腕をひっ掴み、大谷は距離を狭める
「ぬしは何故、己の身を顧みぬ」
「わ…わたし、の?」
いつもより非常に真面目な大谷の目に、神子は身を固くした。
「己の身も思考せず、我ばかり…間抜けにも程がある」
「な!私は大谷さんの為に…」
「それよ、ソレ」
「むぎゅ!」
手で神子の口を挟み、大谷は続けた。
「我と我と…ぬしの身は他の為だけに有るのか?」
「い、え…」
「そうであろ。ぬしの身はぬしのものよ。他のものばかりに使うな」
神子が風邪を引き、床に伏せる事になった理由、それは大谷の為にと疲労に疲労を重ねたせいだった。
毛利の来訪後に気を落とした大谷を見て、神子はただひたすらに彼を支えたかった。
だが自分は支える所か、泣き止む事も出来なかった。
こんな自分が不甲斐なかった。
だから倒れるまで、物事に没頭したのだ。
「わかったか?」
「わかり、ました…」
「また泣くか。やれ…困った、コマッタ」
再び涙を流す自分が本当に不甲斐ないが、自分一人が支えていたのではなく、大谷に支えられていた事を神子は知った
,
自分の額に布があるが、それはもう熱を冷やす効果を全く失い、生温くなっていた。
「……ぅ…」
声を出そうとしても、聞こえるのは掠れた自分の声だけ。
せめてこの熱さから逃れたい為、思う様に動かない腕を、必死に動かす。
最初は畳特有の感触がし、次には布団に手が回る。
(嗚呼、駄目だ…体が怠くて何も出来ない…)
ひたすら続く体の怠惰感に、神子は完全に疲労してしまった。
(熱い…どうにか、冷やさない、と…)
怠惰感に続いて神子を疲労させているのは、先程から途切れない熱さである。
元々はっきりしない意識である事もたたり、神子は眠りにつき始めた
ふと気が付けば、額の生温さが消えて次の瞬間に、心地好い冷たさを感じた。
閉じかけていた目をうっすら開くと、包帯に巻かれた手が視界に入る。
「…お…おた、にさ…」
「!神子…!」
紛れもなくそれは大谷だった。
今にでも途切れそうな神子の声を聞いて、大谷は直ぐ様顔を近づけた。
「我が分かるか」
「は、い…なん…とか」
「やれ胆を冷やさせおって、ほんにぬしは抜けとるな」
「…ごめんなさい」
「我は謝りなど求めぬ。言を紡ぐ力があらば、早に治癒させよ」
「わかり、ました…」
小さな叱責を受け、神子は大人しく目を閉じた。
それを見て大谷は生温くなった布を、もう一度冷やす為に部屋を出た。
障子を閉じるその瞬間まで、大谷の目線は神子に注がれていた
「刑部、佐伯の体はどうだ?」
「良好、とは言えぬな…口を開く力ぐらいはあるが」
大谷が神子の自室から出て、向かった場所は台所だった。
さらに台所には三成が。
「急くに呼び申してすまなんだ」
「何度も言わせるな刑部。貴様の為ならば、大した事ではない」
言葉を交わしながら大谷から三成は、布を受けとる。
「だが、これで何度目だ?まさかこの屋敷中の手拭いを使うつもりか?」
「案ずるな、布きれなど呆れる程ある。神子が我の為にと、大量に仕入れてきたのでなァ」
実の所、神子の額を冷やす為に消費した手拭いの枚数は、三枚を迎えた。
先の二枚は当に潤いを失せて、洗濯籠の中に。
「やけに長引くな。たかが風邪如き」
「全くよな」
また洗濯籠に追加する手拭いをまだ、手にしながら三成は言った。
それに大谷は溜め息と同時に、相槌を返した。
事の発端は神子が風邪を拗らせ、倒れた事から始まる
大谷の友人、毛利元就が屋敷を訪問した後、神子の様子が僅かに変わった。
もちろん、大谷の世話と家事などの手を抜いた訳ではなく、神子がやけに物事へ気を打ち込む様になったのだ。
普段なら少し余裕な雰囲気を持って、炊事や屋敷内の掃除をこなしていたが、今は違う。
変に生真面目で、変に几帳面になりつつあった。
「つまり、佐伯が床に伏せたのは疲労が要因か」
「左様」
「フンッ…己の管理さえ録に出来ぬ程、馬鹿ではなかった筈だが」
鼻で笑いながらも、どこか気遣いを感じるのは気のせいだろうか。
大谷がそれを気付いているのか、いないのかは分からないが、三成は作業を進める。
大の男である三成が台所に立っている理由、それは風の病に伏せる神子への食事を作る為だ。
食事と言っても粥なのだが。
大谷も決して粥(でない他の料理でも)を作れない程、腕が酷い訳でもない。
まだ療養中の身である大谷の足は、長時間立ってはいられないからだ。
長時間も立っていると、足が痺れを感じ始めてしまう。
だから三成が大谷の代わりに粥を作る事になっている。
「出来たぞ刑部。まだ熱があるから素手で触れるな。お前の手が焼ける」
「あいわかった」
「それと粥を食わせたら、薬を飲ませろ。吐き出してもな」
「ぬしではあるまい。神子が戻す事なかろ」
「……!まだ覚えているのか!?」
「鮮明になァ、ヒッヒ…」
羞恥心の表情を見せる三成を置いて、大谷は神子が伏せる畳部屋へ
包帯に包まれる腕からは想像もつかない力で、大谷は盆に乗せた粥を片手に持ち、障子を開いた。
その音に、眠っている筈の神子が起きていた。
「眠れと、我は申したつもりだが」
「すみま、せん…何故か、寝付けなくて…」
またしても叱責に近い大谷の言葉を聞き、神子は大人しく謝る。
双方が口を閉じたので、沈黙に包まれる中、大谷は盆を神子の枕元近くに置いた。
「…お粥、ですか…?」
「それ以外に何がある」
「…その、言いにくいんですが…食欲、無くて」
心から申し訳なさそうな顔をし、神子は目を泳がせる。
「厄介よ、ほんに厄介よ」
「………」
吐き捨てる様に呟く大谷に、神子は何も言えなかった。
わざわざ大谷本人が粥を持って来てくれたのに、それを少しも口に出来ない自分が嫌になった。
「大谷、さん。気持ちは充分…受け取ったので、」
「強いてでも食わせるのは」
「…むっ!?」
また謝罪をしかけた神子の口を勝手に開いて、大谷が粥を突っ込むまでは
感じたのは口に突っ込まれた匙(さじ)の感触と、ほどよい暖かさの粥。
そして戻さぬ様に、閉じた神子の口を押さえる大谷の手の体温。
「んー!?」
「戻されても困るのでな。僅かでも腹に入れよ」
「むぅー!」
「戻すか?我のこの手に溢すのか?」
「む…」
「そうか、ソウカ。ならば我が口(こう)で腹に満たしてやるぞ」
「!!」
食欲の食も無いのに、大谷は神子に無理矢理でも粥を食わす気だ。
さらに今、口内にある粥を飲み込まずに溢せば、口移しで食わされる宣言までされた。
一瞬でそれらを理解すると、神子は無理をしてでも飲み込んだ
「げほっ、けほけほっ…」
「ほう、腹に入れたか。残念」
咳き込む神子を見て、大谷は言葉通りに残念そうにした。
「口移しなんて…何を考えて、」
「所望しておるのか?よかろ、たんと食うがよい」
「違っ…ん、むぅ…」
少し元気が出たのか、怒りの声を上げる神子を黙らせるかの様に、大谷は匙で己の口に粥を入れてそのまま口付ける。
「ふ、ん…やっ…やめ、大谷さ…はっ…」
まだ全快もしない体を必死に使い、抵抗する神子だが流し込まれる粥に混じって大谷の舌が口内に入ってくる。
雫が飛び散る音に近いものが、畳部屋に小さく響く。
存分に神子との口付けを堪能したのか、ようやく大谷は離れた。
当に夜を迎えていたこの部屋に、月光が差し込んで、これに照れされた大谷の舌がやけにてかる。
「はぁ、はぁ…風邪がうつっても、知りませんよ…」
「ぬしのものならば構わぬ」
「駄目ですよ…大谷さんに風邪なんて、うつせません…」
「やれ、まだ理解せぬか」
「っ!?」
息をまだ荒げている神子の腕をひっ掴み、大谷は距離を狭める
「ぬしは何故、己の身を顧みぬ」
「わ…わたし、の?」
いつもより非常に真面目な大谷の目に、神子は身を固くした。
「己の身も思考せず、我ばかり…間抜けにも程がある」
「な!私は大谷さんの為に…」
「それよ、ソレ」
「むぎゅ!」
手で神子の口を挟み、大谷は続けた。
「我と我と…ぬしの身は他の為だけに有るのか?」
「い、え…」
「そうであろ。ぬしの身はぬしのものよ。他のものばかりに使うな」
神子が風邪を引き、床に伏せる事になった理由、それは大谷の為にと疲労に疲労を重ねたせいだった。
毛利の来訪後に気を落とした大谷を見て、神子はただひたすらに彼を支えたかった。
だが自分は支える所か、泣き止む事も出来なかった。
こんな自分が不甲斐なかった。
だから倒れるまで、物事に没頭したのだ。
「わかったか?」
「わかり、ました…」
「また泣くか。やれ…困った、コマッタ」
再び涙を流す自分が本当に不甲斐ないが、自分一人が支えていたのではなく、大谷に支えられていた事を神子は知った
,