立春
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「大谷さん。今日は羊羮でも、どうですか?」
昼の時間も過ぎて現在は三時。
それは俗に言うおやつの時間である。
なので神子は大谷の為にと、台所の棚から茶菓子を出したのだった。
「お茶もありますよ。ほうじ茶ですけど」
「左様か」
先日、ちょっとした買い物ついでに買ったほうじ茶も一緒に。
『チリーンッ!』
「ちわーっ!お届け物だぜー!!」
いつもより大きい鈴の音が聞こえ、その後には男の声が続いた。
「あら宅急便。ちょっと行ってきますね」
「あいわかった」
途中まで共に羊羮とほうじ茶を味わっていたが、届け物を受け取ろうと、神子が席を立った。
大谷はほうじ茶を啜りながら返事をしたのだが
「よう!神子ちゃん」
「こんにちは慶次くん!」
鈴の音を激しく揺らしたのは、宅配員の前田慶次であった。
宅急便のバイトをしながら、大学に通っている神子の知り合いだ。
「さっそくだけど…ハンコあるかな?」
「ハンコね、はいはい。これで良い?」
「オッケーだよ!」
「ここにハンコ?よいしょと」
ポンと慶次が差し出した紙に、大谷と刻まれたハンコを丁寧に押す。
「どうも!んで、これがお届け物だ!」
「重そう…あ、ここに置いて良いよ慶次くん」
「あー良いの?悪いねー」
見た目だけでも充分に重そうなその荷物は、神子が立つ床の隣に置かれた。
「いつもありがとう」
「良いって事よ。これも仕事だし、神子ちゃんに会えるなら大した事ないから」
「そんな私にって…」
「ホントだよ!おべっかじゃなんかじゃないさ」
「全く!慶次くんは…」
「はは、じゃっ他にも届け物があるからさ。そろそろ行くな」
「うん。本当に、いつもいつもありがとうね」
「良いんだよ。今度、時間があったら何処か行けると良いけどねぇ」
陽気に笑って、慶次は去って行った
「誰からだろう?あ、元親くんからだ!!」
改めて届け物を確認して見ると、それは神子の友人である長曾我部元親からのものであった。
「また魚とか送ってくれたのかな?」
届け物に貼られていた紙を読んで、魚や貝などと分かった。
直ぐに冷蔵庫に運ぼうと箱を開いて、新鮮な魚と貝の他に、手紙がある事に気づいた。
『昨日に採れたマグロとサザエだ。旦那とでも食いな』
その筆記は豪快で、誰が書いたか分かりやすいもの。
「相変わらず豪快なんだね、元親くんは…」
手紙をサッと読み、神子は困った様に笑うが、心底嬉しそうだった。
「大谷さん!大谷さん!!」
「そう叫ぶな。聞こえておる」
「ごめんなさい…。ただ、元親くんからマグロとサザエを貰いましたよ!」
「ほう、長曾我部が?」
大谷から注意を受け、しゅんとした神子だが直ぐに戻った。
「今夜はお刺身にしましょうね」
「余ったら、三成にでも分けるか」
「余裕で余りますよ、マグロ一本ですから」
「!?」
珍しく大谷が驚愕していた。
その日の夕食には、マグロの刺身が食卓に並んだ。
「やっぱり漁で採ったマグロは美味しいですね」
「ぬしは魚が好みか」
「好きな方ですよ。大谷さんは?」
「我はまあまあよ」
「どっちなんですか?」
「さァな」
『チリーンッ…』
本日二度目の鈴が鳴り、来訪者を告げる。
「今度は誰だろう?よく来るな~」
「………」
持っていた茶碗と箸を置き、神子はまた立ち上がって玄関へ。
それを呼び止めようと口を開いた大谷だったが、遅いと悟り沈黙した。
「いらっしゃ…」
訪問した客に普段は笑顔で迎える神子だが、今は違った。
何故なら。
「何だその顔は。来客に言葉の一つもかけぬのか」
来客した張本人が、神子と関係がよろしくない毛利元就故に。
「はぁ…まさか、あなたが来るなんて…何用?」
「貴様の伴侶以外に、用が有ると思うのか」
「そうね。私なんかに用が有られても困るし?上がりたいなら、上がったら?」
「貴様に言われる筋合いはない」
この様な口喧嘩に近い会話になってしまう程。
神子本人は嫌そうたが、大谷に用があるならば迎えない訳にいかない。
仕方無しに、神子は毛利を大谷の元へ導く。
「大谷さん。毛利…さんが来ましたよ」
「神子よ、無理して名を呼ばなくとも良い」
「我も同感だ。貴様なんざにそう呼ばれる必要もない」
「そう…じゃあ毛利、せめてもっと時間を考えて貰えないかしら?大谷さんがまだ食事中なのに」
「そうよなァ、毛利。我は夕餉の半刻後と告げた筈だが」
「フン。日輪の無き今、この我がわざわざ貴様らの屋敷に訪れたのだぞ」
「それだから?私にとっては大谷さんの食事を邪魔しに来たにしか、考えられないのだけれど」
どちらも一歩を引かないまま、会話は続くかと思った。
「やれ双方待たれ。まずは場を考えぬか」
「そうですけど…」
大谷の一声で神子は押し黙る。
「毛利、ぬしもぬしよ。余り神子を刺激してくれるな」
「知らぬ。そやつからふってきたのだ」
「何を!」
「神子」
「ぬしの言い分もよう、分かる」
「…でも」
「だが毛利を屋敷に招いたのは我よ。後は我が済ます」
「分かりました…」
納得のいかない神子であったが、大谷には逆らえず押し黙った。
多少落ち込んだ様な神子を、大谷は気を遣うかの如く肩を叩いた。
「………取り敢えず何か出そうか。不本意だけど」
一人、食卓に残された神子は準備を始める
「…して、用とは?」
「あの女、佐伯神子についてだが?」
「神子か」
「貴様、このまま隠し通すつもりか」
「………」
「刺身で良いか、なんだか茶菓子を食べそうに見えないし」
毛利に出すものを決めかねていた様だが、瞬時に決めたらしい。
「ま、マグロはまだたくさん有るんだけど」
刺身を数枚、皿に盛り付けてその他もろもろはお盆に乗せて運ぶ事にした。
障子に仕切られた、寛ぐ為の畳部屋へと。
ふと、障子越しに声が聞こえる。
当然だ、今は大谷と毛利が話し込んでいるのだから。
(毛利なんかと何を話しているのだろう…ちょっと聞いてみようかな)
心の中で大谷に謝りつつも、神子は障子に耳をつける
「大谷、貴様は…を……れている」
「ぬしには……なかろう」
「理解出来ぬな。そうしてまで……を………とするのか」
「…と…時が立てば、七変化するのよ」
なるべく声を漏らさずに聞き取ろうと思うが、なかなか難しい。
「ならば…が……を…させてみせよう」
「……!決して……せぬ!!」
最初は静かに話を進めていた様子だが、段々とそれ所ではいかない雰囲気だ。
「ぬしが…を…るならば、我が…す!!」
「!!」
僅かに、ほんの僅かにだが聞き捨てならない言葉が神子の耳に届く
「毛利!貴様、大谷さんに何をする!?」
障子を強く開き過ぎて、バンッと喧しい音を立てたが神子は気にもしなかった。
ただひたすら、大谷に無理を強いる様な毛利を許せなかった。
「これ以上、大谷さんに不快な事を成すなら、即刻に去ね!!」
「言われるまでもない。今にでも立ち去るつもりだったが?」
己に睨みをきかす神子をものともせず、毛利は音も無く立ち上がった。
そしてそのまま去るかと思ったがすれ違いざまに、神子へ一声残して。
「いつぞやの時と変わらぬ」
「大谷さん…?」
「………」
毛利に対する怒りの雰囲気はとうに消え、神子はおずおずと大谷に言葉をかける。
先の神子と毛利の軽い言い合い中も、沈黙していた大谷を心配するかの如く。
「…すまぬ」
「え!?何で大谷さんが謝る必要があるんですか!謝るのは私の方で…」
「我はぬしの夫で在って良いのか…」
「な、何を今頃!私は大谷さんだから一緒になったんですよ!!だからそんな…悲しい事、言わないで…」
最後まで言葉を紡ごうとしても、嗚咽のせいで何も言えない。
「すまぬ神子…すまなんだ…神子」
「謝らないで…大谷さんは、何も悪くないのに…」
両手で顔を覆い、溢れる涙を止めようとも、流れる水は底が尽かない。
ひたすら泣く神子に大谷は優しく頭を撫でる事しか出来なかった
「………」
泣き疲れた神子を膝枕し、その肩に手を添えてやる。
「ぬしは我が守り通そう…闇の如き不幸が降り注ごうと」
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昼の時間も過ぎて現在は三時。
それは俗に言うおやつの時間である。
なので神子は大谷の為にと、台所の棚から茶菓子を出したのだった。
「お茶もありますよ。ほうじ茶ですけど」
「左様か」
先日、ちょっとした買い物ついでに買ったほうじ茶も一緒に。
『チリーンッ!』
「ちわーっ!お届け物だぜー!!」
いつもより大きい鈴の音が聞こえ、その後には男の声が続いた。
「あら宅急便。ちょっと行ってきますね」
「あいわかった」
途中まで共に羊羮とほうじ茶を味わっていたが、届け物を受け取ろうと、神子が席を立った。
大谷はほうじ茶を啜りながら返事をしたのだが
「よう!神子ちゃん」
「こんにちは慶次くん!」
鈴の音を激しく揺らしたのは、宅配員の前田慶次であった。
宅急便のバイトをしながら、大学に通っている神子の知り合いだ。
「さっそくだけど…ハンコあるかな?」
「ハンコね、はいはい。これで良い?」
「オッケーだよ!」
「ここにハンコ?よいしょと」
ポンと慶次が差し出した紙に、大谷と刻まれたハンコを丁寧に押す。
「どうも!んで、これがお届け物だ!」
「重そう…あ、ここに置いて良いよ慶次くん」
「あー良いの?悪いねー」
見た目だけでも充分に重そうなその荷物は、神子が立つ床の隣に置かれた。
「いつもありがとう」
「良いって事よ。これも仕事だし、神子ちゃんに会えるなら大した事ないから」
「そんな私にって…」
「ホントだよ!おべっかじゃなんかじゃないさ」
「全く!慶次くんは…」
「はは、じゃっ他にも届け物があるからさ。そろそろ行くな」
「うん。本当に、いつもいつもありがとうね」
「良いんだよ。今度、時間があったら何処か行けると良いけどねぇ」
陽気に笑って、慶次は去って行った
「誰からだろう?あ、元親くんからだ!!」
改めて届け物を確認して見ると、それは神子の友人である長曾我部元親からのものであった。
「また魚とか送ってくれたのかな?」
届け物に貼られていた紙を読んで、魚や貝などと分かった。
直ぐに冷蔵庫に運ぼうと箱を開いて、新鮮な魚と貝の他に、手紙がある事に気づいた。
『昨日に採れたマグロとサザエだ。旦那とでも食いな』
その筆記は豪快で、誰が書いたか分かりやすいもの。
「相変わらず豪快なんだね、元親くんは…」
手紙をサッと読み、神子は困った様に笑うが、心底嬉しそうだった。
「大谷さん!大谷さん!!」
「そう叫ぶな。聞こえておる」
「ごめんなさい…。ただ、元親くんからマグロとサザエを貰いましたよ!」
「ほう、長曾我部が?」
大谷から注意を受け、しゅんとした神子だが直ぐに戻った。
「今夜はお刺身にしましょうね」
「余ったら、三成にでも分けるか」
「余裕で余りますよ、マグロ一本ですから」
「!?」
珍しく大谷が驚愕していた。
その日の夕食には、マグロの刺身が食卓に並んだ。
「やっぱり漁で採ったマグロは美味しいですね」
「ぬしは魚が好みか」
「好きな方ですよ。大谷さんは?」
「我はまあまあよ」
「どっちなんですか?」
「さァな」
『チリーンッ…』
本日二度目の鈴が鳴り、来訪者を告げる。
「今度は誰だろう?よく来るな~」
「………」
持っていた茶碗と箸を置き、神子はまた立ち上がって玄関へ。
それを呼び止めようと口を開いた大谷だったが、遅いと悟り沈黙した。
「いらっしゃ…」
訪問した客に普段は笑顔で迎える神子だが、今は違った。
何故なら。
「何だその顔は。来客に言葉の一つもかけぬのか」
来客した張本人が、神子と関係がよろしくない毛利元就故に。
「はぁ…まさか、あなたが来るなんて…何用?」
「貴様の伴侶以外に、用が有ると思うのか」
「そうね。私なんかに用が有られても困るし?上がりたいなら、上がったら?」
「貴様に言われる筋合いはない」
この様な口喧嘩に近い会話になってしまう程。
神子本人は嫌そうたが、大谷に用があるならば迎えない訳にいかない。
仕方無しに、神子は毛利を大谷の元へ導く。
「大谷さん。毛利…さんが来ましたよ」
「神子よ、無理して名を呼ばなくとも良い」
「我も同感だ。貴様なんざにそう呼ばれる必要もない」
「そう…じゃあ毛利、せめてもっと時間を考えて貰えないかしら?大谷さんがまだ食事中なのに」
「そうよなァ、毛利。我は夕餉の半刻後と告げた筈だが」
「フン。日輪の無き今、この我がわざわざ貴様らの屋敷に訪れたのだぞ」
「それだから?私にとっては大谷さんの食事を邪魔しに来たにしか、考えられないのだけれど」
どちらも一歩を引かないまま、会話は続くかと思った。
「やれ双方待たれ。まずは場を考えぬか」
「そうですけど…」
大谷の一声で神子は押し黙る。
「毛利、ぬしもぬしよ。余り神子を刺激してくれるな」
「知らぬ。そやつからふってきたのだ」
「何を!」
「神子」
「ぬしの言い分もよう、分かる」
「…でも」
「だが毛利を屋敷に招いたのは我よ。後は我が済ます」
「分かりました…」
納得のいかない神子であったが、大谷には逆らえず押し黙った。
多少落ち込んだ様な神子を、大谷は気を遣うかの如く肩を叩いた。
「………取り敢えず何か出そうか。不本意だけど」
一人、食卓に残された神子は準備を始める
「…して、用とは?」
「あの女、佐伯神子についてだが?」
「神子か」
「貴様、このまま隠し通すつもりか」
「………」
「刺身で良いか、なんだか茶菓子を食べそうに見えないし」
毛利に出すものを決めかねていた様だが、瞬時に決めたらしい。
「ま、マグロはまだたくさん有るんだけど」
刺身を数枚、皿に盛り付けてその他もろもろはお盆に乗せて運ぶ事にした。
障子に仕切られた、寛ぐ為の畳部屋へと。
ふと、障子越しに声が聞こえる。
当然だ、今は大谷と毛利が話し込んでいるのだから。
(毛利なんかと何を話しているのだろう…ちょっと聞いてみようかな)
心の中で大谷に謝りつつも、神子は障子に耳をつける
「大谷、貴様は…を……れている」
「ぬしには……なかろう」
「理解出来ぬな。そうしてまで……を………とするのか」
「…と…時が立てば、七変化するのよ」
なるべく声を漏らさずに聞き取ろうと思うが、なかなか難しい。
「ならば…が……を…させてみせよう」
「……!決して……せぬ!!」
最初は静かに話を進めていた様子だが、段々とそれ所ではいかない雰囲気だ。
「ぬしが…を…るならば、我が…す!!」
「!!」
僅かに、ほんの僅かにだが聞き捨てならない言葉が神子の耳に届く
「毛利!貴様、大谷さんに何をする!?」
障子を強く開き過ぎて、バンッと喧しい音を立てたが神子は気にもしなかった。
ただひたすら、大谷に無理を強いる様な毛利を許せなかった。
「これ以上、大谷さんに不快な事を成すなら、即刻に去ね!!」
「言われるまでもない。今にでも立ち去るつもりだったが?」
己に睨みをきかす神子をものともせず、毛利は音も無く立ち上がった。
そしてそのまま去るかと思ったがすれ違いざまに、神子へ一声残して。
「いつぞやの時と変わらぬ」
「大谷さん…?」
「………」
毛利に対する怒りの雰囲気はとうに消え、神子はおずおずと大谷に言葉をかける。
先の神子と毛利の軽い言い合い中も、沈黙していた大谷を心配するかの如く。
「…すまぬ」
「え!?何で大谷さんが謝る必要があるんですか!謝るのは私の方で…」
「我はぬしの夫で在って良いのか…」
「な、何を今頃!私は大谷さんだから一緒になったんですよ!!だからそんな…悲しい事、言わないで…」
最後まで言葉を紡ごうとしても、嗚咽のせいで何も言えない。
「すまぬ神子…すまなんだ…神子」
「謝らないで…大谷さんは、何も悪くないのに…」
両手で顔を覆い、溢れる涙を止めようとも、流れる水は底が尽かない。
ひたすら泣く神子に大谷は優しく頭を撫でる事しか出来なかった
「………」
泣き疲れた神子を膝枕し、その肩に手を添えてやる。
「ぬしは我が守り通そう…闇の如き不幸が降り注ごうと」
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