物置というか供養所というか
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青い色水をぶちまけたかのような空に、白い雲がたなびく。名前の気持ちとは真反対の快晴に、自分の気持ちなんて全然何に影響を与えることもなく、世界は何もなかったように淡々と流れて過ぎていってしまう事実を突きつけられているようで、なんだかとてもやりきれなかった。
もうすっかり見慣れたその船は、白波を立てながら少しずつ遠ざかっていく。
ああ、結局本当に言いたいことは何一つ言えなかった。
「ベックっていうの?わたしは名前!」
愛称で呼ぶのを許してくれて。
それは子どもだった自分への優しさだったと今ならわかるけれど。
ベックたちが寄港するたび、うっとおしいほど会いに行ったっけ。いつだったか真面目にお願いをしてみたら、しぶしぶだけど聞いてくれて。
「ねぇベック、わたしも戦えるようになりたい」
「…なんでまた」
「自分の身は自分で守れるようになりたいしさー、………それに…」
いつかベックと一緒にこの船に乗りたい、そう言ったらヤソップやらルゥやら周りの方が囃し立てて盛り上がったものだ。ベックが難色を示したから、じゃあシャンクスに教えてもらうからいいもん!と突っぱねたらめちゃくちゃ焦ってたな。結局武器はダメだってことで、体術だけ教わったんだよね。結構強くなったと思うんだけどな。
強くなって、綺麗になって、貴方の隣に立ちたいと、それだけを思って。
わたし、16歳になったよ、大人として出ていく歳だよ。
いつでも貴方についていけるように、ずっと最小限にしていた荷物を、旅カバンにギュッと詰めて、そして。
「ベック、わたしも連れてって」
ベックはわたしをチラリと見て、深く長く、紫煙の煙を吐いた。心臓がドクリと跳ねる。とうとうきたか、というような表情をしていたかと思った。
「ダメだ」
短く述べられた拒絶の言葉が、彼の本気を物語っているようで。もう何も、言えなかった。
ベックにもらったシャボン玉。
タバコを吸わせてほしいっていうお願いは、結局一度も叶えられないまま。名前にはまだこんなモンだろと怪しげな露天商で買ってくれたシャボン玉だけが、わたしとベックを繋ぐものとして手元に残った。
何年も、何年も待ち続けて追いかけ続けた。
最後に残ったのが、このシャボン玉だけ、なんて。
ガサリ、紙袋からシャボン玉を取り出す。
透明な水色の容器の蓋を開け、蓋の裏側に付いていた吹き具に息を吹きかける。虹色に透き通ったシャボンの泡がいくつも舞い上がって、音もなく、静かに消えた。
名前を危険な目に合わせたくなくて拒否したベックマンとこのあと何やかんやあって最後くっつく予定でした。