続きもの(前世を思い出したら〜/シャンクス)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは唐突に。
本当になんの取っ掛かりもなく、ただただいつもの日常の中で、まばたきを一つしたその瞬間。
わたしは“わたし”を思い出した。
そう、わたしはふつーーーーーーーの社会人だったはずだ。なのに何故こんな快晴の空の下甲板の掃除をしているのか?
そう。それは、赤髪海賊団の船員だからですねそうですね。
いやいやいやちょっと待って???
「…オイ、名前どうした、大丈夫か?」
その声に視線を上げれば、見慣れた顔が視界に入った。同僚である彼のこともちゃんと知っている。名前もわかる。
でも、わたしは今、名前じゃない“わたし”の感覚に襲われていて。なにこれ気持ちわるっ。というか違和感がすごい。
「…あー、ちょっとクラッとして…」
「熱中症じゃねェか?食堂で冷たい飲みモンでももらって、今日はもう休んでこい」
「うん………ごめん、そうさせてもらう」
「いいってこった、ちゃんと水分摂れよ」
気の良い同僚に促され、お言葉に甘えて甲板を後にする。
部屋に戻ってちょっと考えようそうしよう。いやだっておかしい。いつ?いつわたしは名前になった?というか今現在わたしが名前であることは間違いないわけだが、とすると、“わたし”自身は一体どこへ行ってしまったというのか。
頭がクラクラするのは、暑さのせいだけではないはずだ。
そして色々考えました。
それはもう、三日三晩考えた。
そして三日経ったらようやく違和感も薄れてきて。
結果、これは流行りの転生モノってやつですね?という結論に至った。まぁ流行りっつっても、前世のだけど。
前世のわたしがどうしてこうなってしまったのか、つまり、何故、そしていつ死んでしまったのかは全然覚えてないけれど。まぁ働きすぎの過労の線が有力だろうか。最近血便出てたもんな…。ただ仲の良かった友だちや家族、楽しみにしてたコンビニの新作スイーツやら本の続きやらにもう一生お目見えできないことを悟り、少しだけ物悲しくなった。
と、まぁそんなことより今後のことを考えましょうそうしましょう。何故なら今、わたしは頭を抱えているからです。
いやだって職業海賊って。
確かに三日前までただの名前でしかなかったわたしは、この船に骨を埋めるつもりで生きていた。尊敬できる幹部陣に気の良い船員たち。四皇の船に乗れたことを誇りに思い、お頭に声をかけてもらった日なんかは飛び上がるほど喜んで、そんな密かな楽しみを持ちながら日々充実して過ごしていた。
そんな自分自身を思い出し、しばし目を閉じる。
(…よし、やめよ)
海賊やめなよなんて言われずとも。
そうよねウタちゃん。よし海賊やめよう。
あ、これもしかしなくてもワンピースの世界じゃない?なーんて心躍ったのもほんのひととき。
週休2日どころか毎日毎日働いて時には命の危機に晒されてるのに、好きなもの食べて自由に着飾ることもままならないむさ苦しい集団生活の中で若さを散らして本当にいいのか。何も知らなかった自分に正気なのかと小一時間問いただしたい。名前は海賊に憧れていたようだけれど、満ち足りたJAPAN生活を思い出してしまった今、海賊船になんか乗ってる場合じゃないのである。
今はまだ若いからいいけど、我ながら老後どうするつもりだったのか。いや何も考えてなかったんだよね本当に。若さって怖いわ〜。
残念ながら現在の職業(海賊)における将来の見通しは不透明極まりない。体力だって見た目だっていつか衰える。そのとき頼りになるものがここで得られるのか?答えはNOである。
今世の自分は戦いに能力を全振りしていたからそれも仕方ないのかもしれないけれど、今は違う。
前世のわたしの経験や職歴を活かせば、この世界でも何かしら就ける仕事はあるはず。手に職付けて生きていかねば。
(そうと決まれば、さっそく下船交渉だわ)
ちょうど次の島は赤髪海賊団のナワバリですし。
何回か降り立ったこともあるし、顔見知りも多少いる。赤髪様のお膝元でそのご威光にあやかりながら、平穏無事な未来を手に入れようそうしよう。
頭の中を整理して、ぃよし!と拳を握る。
やることが決まったので、早速幹部陣の誰かにでも辞職の意向を伝えてこよう。
過去の例を思い返すと、基本的に引き留められることはないはずだ。盛大に名残惜しんではくれるだろうけれど。そういうところは本当、職場の人間関係はいいんだよね、この船。
とりあえず食堂に顔を出したところ、ちょうど副船長がタバコをふかしながら新聞を読んでいるところだった。ナイス。騒ぎ立てたりもしないしいろいろ察してくれる方だから、これはすんなり話がつくのではないだろうか。
ススス、と近寄り控えめに話しかける。
「服船長、ちょっとご相談いいですか」
「…おお、名前、どうした」
声をかければ、読んでいた新聞を置いて顔を向けてくれる。こんな一介の船員の名前を覚えてくれて、嫌な顔せず時間を割いてくれるあたり、本当いい職場。海賊でさえなければ。
「次の島で船を降りたいんですけど」
「………………」
たっぷりの沈黙のあと、緩慢な動きで眉間を抑える副船長。ん?よく聞こえなかったかな?
「あのー、船を、降りたいと、思ってるんですけど」
「…いや、聞こえてる。スマンな。あー、…………とりあえず理由を聞いてもいいか」
「えーと、」
ど、どうしよう何も考えてなかった。そら聞かれるよねぇ前世でいう退職ってことだもんね。
海賊という職業に未来が見えなくて、とか生粋の海賊であるこの人たちになんて口が裂けても言えるわけがないし。さて困った。
「…………あの、将来設計を、見直しまして…?安定した老後のために、陸で手に職つけて暮らしたいなー、とか…………」
「…………」
こんなぼんやりした理由でいけっかな、と副船長を見ると、副船長はわたしを通り越して後方に視線を向けていた。
オイオイ余所見せんといて。こちとら将来を左右する真面目な話をしてるんですが?後ろに何か?と振り向いてみれば、なんかすごい顔をしたお頭がこちらに歩いてきていた。
いつも朗らか(?)なだけに凄みがヤバい。
え、なになに緊急事態?!怒っているようにも驚愕の表情のようにも見えるが、どちらにしろ機嫌の良さそうな顔ではない。どうしたどうした何が起こったんだ。
副船長に何か用事だろうか。
あー、タイミング悪かったな。
「…名前、今の話、もう一回聞かせてくれるか」
…と思ったら話しかけられた。え、わたし??
この明らかに不機嫌MAXのお頭にもっかい下船交渉するの?何で?
「え、あ、あの、…………この船を降りたいと思ってまして…」
「なんでだ?」
間髪入れずこの返事。え、さっきの話全然普通に聞こえてましたやん?
いやしかしなんなのこわい。普段ヘラヘラしてるだけに(失礼)ギャップがこわい。ヒェエエエエわたし何かしましたかね?!
「あの、…人生設計を見直してみたところですね、手に職付けて、自分で自分の人生支えられるようになりたいなと思いまして…」
「………」
「なので、陸地で安定した生活基盤を築くべく、次の島で降ろしてもらいたいな、と」
「………」
「………」
「………」
ま、真顔が怖いし無言も怖い…。せめてうんとかすんとか言ってもらってもいいですかね?!
身体がデカい人に目の前に立ちはだかられるとそれだけでも圧が強いものなんだなぁみつを。覇気が出てるわけでないのに謎の圧力でブっ倒れそう。
滅多に近くで拝めることのない、3本の傷痕が残る端正なご尊顔をじっと見つめる。その瞳からはお頭の感情は読めなかった。
ただの名前だった頃の記憶が駆け巡る。
こんな下っ端が雑用してるところにフランクに声をかけに来てくれるお頭に、名前は密かに憧れていた。こんな一対一で見つめ合ってる(表現の自由)状況なんて、三日前までだったら赤面モノだったろう。
そんな名前も、もちろん今もわたしの中にいるけれど。しかしそれよりも今は、安定した人生>>>(超えられない壁)>>>>儚い憧れ、である。
ハァしかしそんなこと考えてる今現在もお頭からの視線が痛すぎる。こんなに他人からまっすぐ見つめられることある?ていうかあちらさんもそんな無遠慮に他人の顔めっちゃ見てくることある?これはジャパニーズの為せる技じゃないわ。まぁ顔面から明らかにジャパニーズじゃないけど。ていうか今世のわたし自身もジャパニーズじゃないけどさ。
「……なにが必要だ?」
「…………は?」
「名前の言う“安定した生活基盤”には、何が必要なんだ」
想定外の返しに、言葉に詰まる。
な、なにこれ面接?だとしたらとんだ圧迫面接(物理的に)じゃない?
必要なもの…まぁ絶対必要なのはお金だろうな。
老後の心配がいらないほどのお金があれば安心だけど、それはどう考えても無理だし、そもそもこの世界で大金を所持するのは怖すぎる。平気で人のもの奪おうとしてくる輩が多すぎるもん。カムバック安全大国JAPAN。
であれば身体が老いていっても継続した収入を得られるような職とか技術が必要になる。名前は戦闘能力こそ高いけど、それって加齢とともに衰えるからなぁ。
前世の経歴的には、次の島の診療所とかで雇ってもらえたらなぁとコッソリ考えている。小さな家を構えて、島民たちとご近所関係を築いて、庭に花を植えて、慎ましくも穏やかな日々、、、、そんなスローライフを、前世のわたしは夢見ていた。いやまぁ実際働けたとして収入どれくらいになるかとか、いろいろ問題は山積みだけどね。
しかし今世の名前とは正反対過ぎていっそ面白い。3日前の自分だったら鼻で笑っただろうな。なに保身に走ってんの?っつってな。思い返せば名前は拳一つでここまできたのに、今から真逆の方向に人生進めようとしてるんだから不思議なもので。そしてここまでの思考でコンマ5秒くらい。面接では黙りこくらないのが鉄則ですからね。さてこれを要約するとなると…。
「必要なもの…………。…わたしがこれから何十年と年をとって体力や戦闘の能力が衰えたとしても、生活していける保証、でしょうか…。」
「………なるほど」
端的な説明ではあるが、意図は伝わったらしい。副船長もフムフムなるほど的な顔をしている。さすが察しがよろしくて助かります。
「別にお前が年取って使い物にならなくなったって、オレたちゃあ船から降ろしたりしねェぜ?」
お頭の後ろから、お肉を手にしたルーさんが現れてそう告げる。いやちょっと待って言い方酷くない?加齢とともに使い物にならなくなると思われてんのわたし??
「…そ、それはちょっと…。養ってもらってるみたいで申し訳ないですし、己の存在意義を見失いそうなので…。」
「あー、まぁちげぇねぇな」
そう、わたしは己の足で立っていたいのである。
そう告げると、思いの外スンナリと納得してもらえたらしい。
じゃ、もうサクッと降ろしてもらってよろしいかしら?
「でもよォ、下船するほどのことか?」
ハイ今度は左後方からホンゴウさん〜。
何コレなんでこんな幹部陣集まってんの?!やりづら!そんなに理由詰めないといけない感じ?!離職率とか公開されない世界なんだから別によくない?
「永遠に戦い続けられる気はしないので…」
「まぁ男と女で差があるのは仕方のねェことだけどよ。…つっても戦い以外にもお前の存在意義はあるだろ」
「…え、た、例えば?」
「………………」
いやないんかい。目を逸らすな目を。
悲しくなるじゃん、じゃあもう最初から言わんといてもらって。
「ま、まぁでもそんな今すぐ降りなくてもいいだろ」
「うーん、でも時間って有限ですし…。すでにもう大して若くもないし、早ければ早いほどいいかと…」
その言葉に、ホンゴウさんは一瞬驚いたように目を見開いた後、わたしを見つめながら眉根を寄せて目を細めた。…ギクリ。
「………なんかお前、そういうタイプだったか?」
…鋭い。まぁ確かに方向性変わりすぎてて困惑するよね、わかる。わたしも世界の方向性が変わりすぎてて大困惑だもん。
とはいえこの度は前世を思い出しまして…とかって訳を話してもたぶん頭おかしい人だと思われるだけだろうしさ。うう、別に悪いことしてないのに何だこの後ろめたさは…!
「さ、最近老後についての考えを改めたんです!」
「ほォ…」
「………」
「………」
「…なので、」
「…でもよォ、島に降りたところで、元手がないとどうしようもねェんじゃねぇか?」
被せてくるんじゃねー!でも確かに…!
実は手持ちのお金はほぼないに等しい。
この船はお宝のほとんどを宴とか武器とかに使っちゃうから、平船員個人への配分は実は少ない。でも海賊って別に個人でお金使うこと少ないし、衣食住のうち食と住は経費で充足に賄われてるから大して不満も出ないんだよね。だいたいみんな酒飲んで暴れられれば満足な人たちだからね。そしてまぁ三日前まではわたしもその中の1人だったんですけどね。
「一旦ここで金貯めといたほうがいいんじゃねェのか」
「…………………」
ぐうの音も出ない。正論でしかない。
ぐぬぬ、と歯を食いしばる。
ん?いや待ってなんでこんな理詰めされてんの何この状況。こんなに色々言われるとは思わんかったよ?
ふと顔を上げると、パチリと目が合ったお頭が、不敵に笑った。
「…よしわかった、しばらく名前の給料は二倍払おう」
「?!?!いやいや?!」
え、そんな理由もないあからさまな贔屓許されなくない?一般企業だったらそんなことバレたら速攻コンプライアンス委員会行きよ?
ていうかもう船から降ろしてもらえればそれでいいのに、何でこんな話になった?!
「そんなの不平等ですし、他の船員の手前理由もなしにそんなに貰えません!」
「…オレのポケットマネーでもか」
「……は?」
なんて?!
そしてなんで?!
「名前は明日から配置換えだ、オレ付きになってもらう。…そうだな、小間使いとでもしておくか」
「え?!いやいや、」
新しい役職増やさんといて!
ていうか何それ?!
止めてもらおうと周囲を伺うも、副船長始めみなさん「あーそれなら」みたいな顔をしていらっしゃってもう意味がわからない。ルーさんだけは興味なさそうにお肉を召し上がっていらっしゃるけれども!
「じゃ、これで一旦解決だな。明日から頼むぞ」
「?!?!」
そんな良い笑顔で言われましてもぉおおおおお?!?!
全然ついていけずに副船長に助けを求めて視線を送るも、目が合うとツイと逸らされてしまった。うそやん…。
前世を思い出したら給料が2倍になりました
ラノベ風タイトル笑
流行りの転生ものを書いてみたくてつい…。
全然恋愛要素ないけどシャンクス落ちになる続きを書けたらいいなと思ってます。(希望)
↓ピクシブ見てて最後にこういう解説つけるのいいなって思ったので恥ずかし気も無く早々にパクってみました。笑
シャンクス
名前に興味寄りの好意を持っている。
船長権限で無理やりにならないようにできるだけフランクに距離を詰めてきたのに、突然の下船発言に驚きを隠しきれない。が、最終的に名前を都合の良いポジションに持ってこれたのでご満悦。明日からはことあるごとに呼びつけていく所存。
ベックマン&ホンゴウ
持ち前の察しの良さでシャンクスの意向に気付き、さりげなくアシスト。通常は下船希望の者をわざわざ止めることはない。
ルー
別にシャンクスのためとかじゃないけど気になったことは口に出すタイプ。本能。
名前
医療系社畜生活を送っていた前世の意識から、突然何の保証もない冒険生活をしている己に直面して困惑に次ぐ困惑。
自分は名もない一船員くらいに思っているが、結構な主戦力。幹部陣からの覚えもめでたい。
給料は2倍になったけど、そもそもそんなにもらってないから2倍になってもたかがしてれることに気づいていない。
1/1ページ