続きもの(惑星の森/シャンクス)
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ふと、目が覚めた。寝ぼけ眼で時計に目をやれば、シャンクスがいつもいなくなってしまう明け方の時間。
でも、と視線をうつすと。
自分の部屋のものより広いベッド。横たわる自分の隣で、今朝はまだすやすやと寝息を立てているシャンクスの髪を撫でた。
んん、と呟きながら名前の手に指を絡めた様子に、起こしてしまったかとも思ったけれど、しばらくするとパタリとその手は布団の上に落ちた。
自分よりよっぽど大きくて強いはずの彼の、子どもみたいなその様子に、くすりと頬が緩む。
その寝顔を見つめながら、一つ息をついた。
昨晩の彼の言葉を思い出す。つい絆されてしまったけれど。もちろん彼に対しての好意はあるけれど。
昨晩伝えに行った内容が、思いもよらぬ方向に落ち着いてしまったことだけは事実だった。これで一件落着、というわけにはいかない。いつまでもお姫様のようにただ守ってもらっているわけにはいかないということは、自分でもよくわかっていた。
「名前、メシ行くか」
船長の特権なのか、世間一般の朝食の時間など無視してゆったりと目を覚ましたシャンクスは、船室に備え付きのシャワーを浴びてきた後、そう名前に声をかけた。
ちなみに何故かシャンクスの部屋に名前の分の着替えが完備されていたので(下着も)、先に起きてシャワーを浴びた名前は、訝しみながらもありがたく着替えさせてもらい、昨日と同じ服でコソコソ自室に帰るという事態からは免れたのだった。
(…………………………い、一緒に…?)
とはいえ、朝、シャンクスの部屋から一緒に食堂に向かうということは、社内恋愛をしている相手の家から一緒に出社するようなむず痒さがある。というかほぼほぼ同じことだろうか。そんなことを考えながら返答を返せないでいると、シャンクスが顔を覗き込んできた。
「なんだ、行かねェのか?…あ、体しんどいとこあるのか?」
心配そうに眉尻を下げる彼の、焦った顔が可愛いと思ってしまう。まぁ確かに昨日はいつもより回数が多かった…じゃなくて。
「いや、あの、……………同じ部屋から一緒に食堂に向かうのが、ちょっと、照れるなぁ……………なんて…」
「……」
「や、チラッと思っただけです!大丈夫ですいきましょう!」
照れ隠しでつい声が大きくなる。口に出してみると、なんだか思ってた以上に気恥ずかしかった。
誤魔化すようにシャンクスの腕を引くと、逆の腕を引かれて、気づいた時には大きな胸の中におさまってしまっていた。
「…シャンクスさん…?」
「お前が朝からそんな可愛いこと言うから…離したくなくなっちまった」
「………?!」
耳元でそんなことを囁かれ、なんか当たってるな?と思っても後の祭りで。食堂へ向かうのは結局1時間後になった。
それからシャンクスは、可能な限り名前を傍に置くようになった。もちろん戦闘時なんかは例外だが、あからさまに人前でも名前への好意を隠さないようになったため、普段近くにいる船員には勘づかれていることは間違いない。
(……………なんか…いいのだろうか…。)
今宵も特に理由のない宴が開かれている甲板で、自然な流れでシャンクスの隣に座ることになった名前は、自分の立ち位置を測りかねていた。
幹部陣の多い席次なのに、何故私がここに?といった心境である。もちろん誰も彼もシャンクスと名前をワンセットとして話題を振ってくれて、ありがたいし普通に楽しいことには間違いないのだが、それでも、この船の船員でもない自分が、、、という気持ちがふとよぎる。
シャンクスへの好意は間違いなくある。けれど。
全面的に受け入れて、のほほんと過ごしているわけにはいかないのだと、内なる自分が忠告してくる。そう、ここは海賊船で、名前は戦闘経験もその覚悟さえない、ただの一般人だった。
「…オイ、名前大丈夫か?」
ほわほわとした視界に、屈強な男たちの心配そうな目がいくつもうつった。そんな悩みをこのときだけでも忘れるように、すすめられるがままに飲んだこの地方の地酒との相性がよくなかったらしい。ただならな様子の名前に、ホンゴウが心配そうにそう声をかける。
「えー、へへ、大丈夫です。」
「………大丈夫じゃねェなこりゃあ」
「…みなさんやさしいですね」
名前はニッコリ笑ったつもりであったが、どちらかというとにへらとした緩んだ笑みが溢れ、たまたま居合わせた若い船員などは見るからに頰を赤く染めていた。
見兼ねたベックマンがオイ、と小声でシャンクスに目配せすると、そんなやりとりにも気づかず、なんならもう一杯いこうとしていた名前の身体がふわりと浮き上がった。視線が高くなり、シャンクスに抱き抱えられたことに気づく。
「?!シャンクスさん?!」
「今日はもうやめとけ」
「……………………ハイ」
「おーお前ら、あとは適当にやってくれ」
そう言ってシャンクスが船内へ向かって歩き出すと同時に周りの船員から心配の声やら冷やかしの歓声があがったが、名前の耳にはすでに届いていなかった。
名前を抱き抱えながら、すでに2人の部屋のような扱いになっている船長室ドアを、シャンクスが器用に開いた。ドア横の小さな灯りをつけると、まっすぐベッドへ歩みを進め、ふんわりと名前を横たわらせる。
寝ているかと思われた名前の、シャンクスの首に回した腕が、少しだけギュッと締められた。
「…………シャンクスさん」
「寝てなかったのか」
「…ハイ」
「どうした、水飲むか?珍しいな」
少しだけ頭を横に振り、いらないという意を示すと、シャンクスが息をついて微かに笑う気配がして、その大きな手で髪をくしゃりと撫でられた感覚があった。
酩酊した意識の中で、シャンクスのその優しい声色が、名前の気持ちを揺さぶり、沈ませた。優しく大切に扱ってもらえばもらうほど、申し訳なさやら罪悪感が押し寄せてきて、何も言えなくなった。
シャンクスにも、伝わってしまっているだろうか。
「…今日はもう寝ろ」
そう言われて、首に回していた手をスルリとほどいた。だってつかまえておかなくても、彼は名前の傍からどこかへ行ったりしないから。
思った通り、名前の横に腰を下ろしたシャンクスは、名前の頭を優しく撫でた。何度も何度も、愛おしいものを慈しむようなその触れ方に、目の奥が痛くなってきて目を閉じた。
幸せと、楽しさと、不安と、焦りと、どこで区別をつけていいかもわからないような様々な感情がない混ぜになる中、名前の意識は沈んでいった。
「…寝たのか」
そう呟いたシャンクスの目は酔いなど感じさせないほど冷静で、サラリと流れた名前の髪に触れながら、ただ静かに名前を見つめていた。
この船に乗船して早数ヶ月が経とうとしていた。
その間、名前が上陸した島、0島。
いや島の数え方って島(とう)で合ってる?現代日本で島の数数えようと思ったことないからな…と、甲板で海風にあたりながらどうでもいいことを考えた。
こんなときスマホでパパッと調べられないなんて…。この世界に来るまでは見たこともなかった、けれどすでに見慣れてしまったどこまでも続く水平線を見ながら、思えば遠くに来たものだと改めてしみじみしてしまった。
先日の宴以来、毎日繰り返しそんなことばかり考えてしまう。
シャンクスとのわだかまりがなくなったのは喜ばしいことだが、だからといって赤髪海賊団の一員になったわけでは決してないのである。
海軍とやらに、保護してもらうのが一番良いのではないだろうか。
それはこの前船員に話を聞いてから、ずっとシャンクスに言おうと思っていたことだった。
言おうと思って、というか船を降りたいというところまでは言ったんだけれど、思わぬ方向に話が転んで、そして日々シャンクスから注がれる愛情やら慈しみに、どうしても言い出せず、ここまで来てしまった。
名前はこの世界のことを、あまりにも知らない。
それは島に降りておらず、この船の上のことしか知らないせいではあるのだが。
せめて知識だけでもと、ベックマンに頼んでこの世界に関する本を読ませてもらったものの、名前が元いた世界ほど生きることが容易くないということだけはわかった。
(やっぱりどこかの島に降りてみないとなぁ)
もっとこの世界と触れ合って、体感してみないことには。名前にこの世界で生きていく術があるのかどうかもわからない。
結局繰り返しこの結論に辿り着くものの、そこからどうしても行動に移せないのだった。どちらにしろ、まだ一度も名前でも降りられそうな島に着いていない。そんなに危険な島が多いものだろうかという疑念もありつつ、知識のない名前はそう言われてしまえば納得するしかないのだった。
その頃船長室では、この船のツートップによる航路についての議論が行われていた。
ここのところ堂々巡りの討論が繰り返され、揉めに揉めているその元凶は、降りられなさそうな島ばかりを進路に選ぶ迷惑な船長であった。
副船長であるベックマンが、苦々しく提言する
「…あのなァ、そろそろ大規模な補給が必要なことは、アンタもわかってるだろう」
「ああ、食料もヤベェんだよなぁ」
「わかってるならいいんだ。なら取るべき進路も決まってくるよな?」
「ああ…」
「………」
「………」
「…お頭」
沈黙に苛立ったベックマンが、語気を強めてシャンクスを呼ぶと、シャンクスはチラリとそちらに目をやり、観念したように両手をあげて首をすくめた。
「…名前が、下船を希望する可能性がある」
シャンクスの静かな呟きに、その理由がわかっていたかのように、ベックマンは息をついた。
「…ああ」
「離したくねェんだ」
「……そのための航路ばかり選ぶわけにはいかねぇんだ、アンタもわかってんだろ」
「………わかってらァ。わかってる上でなおそうしてんだ。純愛だろ。」
「…オッサンの純愛なんて呪いみてェなもんだろ、迷惑でしかねェ」
その言葉に、シャンクスは目を細めてベックマンを睨んだが、ベックマンは何食わぬ顔で部屋のドアに向かい、踵を返した。
「…頭冷やしとけよ」
バタン、と無情な音を立ててドアが閉まる。
ベックマンの足跡が遠ざかっていく中、シャンクスはガシガシと頭をかいた。
窓の外に目を向ければ、青い海と空がどこまでも広がっていた。
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