続きもの(惑星の森/シャンクス)
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目覚めると、知らない場所でした。
周りを屈強な男の人たちに囲まれ、名前は硬直していた。誰一人として知ってる顔はない。景色も、名前が今いるこの場所も、名前が知っている現実とはかけ離れたものに思えた。
顔を上げれば、大きな旗に描かれた髑髏マークが見えた。あれ、こういうの見たことあるな、マンガとかで…。
そしてふいにその髑髏マークの意味を思い出し、名前はくらりと眩暈を覚えた。
「お前、どこから来たんだ?」
そう言うのは、周りの人に「お頭」と呼ばれる赤い髪の人だ。到底カタギとは思えない面々に比べれば多少優しげな顔をしていて、他の人よりは幾分話しやすそうに感じた。
「えっ、と…」
どこから?そんなことこちらが聞きたい。
わたしは何をしてたんだったろうか、そうだ、仕事を終えて帰るところだった。電車に乗って、座ったら眠くなってきて………その後は、記憶にない。
「家に、帰るところだったはずなんですけど…気づいたら、ここに…」
「……」
訝しげにこちらの様子を伺う視線を感じる。
しかしそれ以上こちらも何もわからないのだから仕方ない。視線が気まずく、チラリと横に目をやれば、名前は信じられないものを目にした。
銃に…剣?
本物だろうか。映画のセット…とかじゃないよね…?
けれど、明らかに日本人顔じゃないこの人たちが流暢な日本語を話してる時点で、何かおかしいとは思っていた。
ここはもしかして、名前がいた世界とは、違うのではないだろうか。何が違うとまでは、わからないけれど。
視線を戻せば、赤い髪の人が困ったように口を開いた。
「あー、…どこの島から来たんだ?」
「島…?東京…あ、日本です。日本の、東京から」
「ニホンの、トウキョウ…」
知ってるか?いや聞いたことねェな、と周囲がざわめく。ああ、この反応は、やっぱり…。
「…ここは、どこなんでしょうか」
「グランドラインの後半、新世界の中ほどだ。周りに島もないはずなんだが…お前が突然甲板に現れたんだ」
「…」
今度は自分が絶句する方だった。
日本語のはずなのに知ってる単語が少な過ぎやしないか。え、ここどこだって?グランドライン?シンセカイ?
呆然とする名前に、やや同情の視線を向けながら、赤髪の人が続ける。
「俺はシャンクス、この船の船長で、ここはレッドフォース号。赤髪海賊団の船の上だ。」
サラリと紹介された内容の中に聞き捨てならない単語があり、名前は目を丸くした。
…海賊?海賊って言った?
冗談であって欲しかったけれど、船長を名乗るその男の瞳は至って真剣なもので。
「…名前、です…。か、海賊って…。あの、本当に…?」
「あァ、珍しいもんでもねェだろ。見るのは初めてか?」
珍しいもんでもないわけがない。
スッと意識が遠のいたが、かろうじて持ち堪えた。
どうしよう、ここはどこだ、怖い、帰りたい。
そんな言葉がぐるぐる頭を回って、涙が出そうだ。
「…まぁ海の上で放り出すわけにもいかねェし、次の島まで送ってやる」
そう言うと、シャンクスと名乗ったその人は周囲を取り囲んだ船員と思われる一同に向けて声を張り上げた。
「オイお前らァ!そういうわけだから、手ェ出すなよ。コイツは今からうちの客だ!」
方々から怒号のような返事が飛び交い、名前はビクリと身を震わせた。そんな名前を気遣うように、シャンクスは打って変わって優しい声色で名前に視線を向けた。
「…というわけで、詳しい事情を教えてくれるか」
優しい瞳でそう手を差し出されれば、こらえていた涙が一つポロリとこぼれ、藁にでも縋りたい気分でその手をとったのだった。
それからは、船上で雑用等をしながら過ごした。
次の島は治安が悪く、その次の島はほぼほぼ人が住んでいなくて、その次の島は別の海賊のナワバリで、その次は何だったろう…。
そんなこんなで降りるのに適した島がなく、名前は未だにレッドフォース号にご厄介になっていた。
その見た目からちょっと怖いなと勝手に思っていた船員さんたちは見た目に反して気のいい人ばかりで、文字通り天涯孤独な名前をなにかと気にかけてくれた。
特に赤髪の船長、シャンクスは気を遣ってか傍にいてくれることが多くて、ありがたいやら恐れ多いやら複雑な気持ちであった。ただやはり、ふと不安に駆られたときなんかは、傍にいてくれると何故だか落ち着くことができた。
こんな平和な日常が続くなら、知らない島におろしてもらうよりも、いつか帰れる日まで、その方法が見つかるまで、この船にいさせてもらう方がいいかも、なんて。そんな風に思い始めていた、ある日。
名前が船内で雑用をしていると、突然の轟音とともに船が大きく揺れた。
「な、なに…?」
「お、敵襲か?!久々だな、名前はここで転ばねェように隠れてろ!」
近くにいた船員はそう口早に言うと楽しそうに出て行ってしまった。
テキシュウ…敵襲…?
その言葉の意味を考えていると、またも船が大きく揺れた。大きな船ではあるが、所謂木造船というやつだ。沈没するのではないかとか、相手がここまできたらどうしようとか、そんな不安で微かに聞こえる怒号や砲撃音を掻き消すほどに心臓がドクドクと大きく鳴っている。
こわい、こわい、こわい。
しゃがみ込んで耳を塞ぐと、ただただこの嵐のような状況が過ぎ去ってくれるのを待った。
こわい、早く終わって欲しい、もう帰りたい。
平和な日本に、自分の家に、家族や友達のところに帰りたい。
名前はひたすらにそればかりを願った。
船の揺れが収まり、そっと目と耳を開けると、叫び声も砲撃音も何も聞こえなくなっていた。
そうなると逆に一人きりでいるのが怖くなり、ゆっくりと立ち上がって部屋を出た。廊下には誰もいなかったが、歩をすすめていくと甲板へ出る扉の外から人の話し声が聞こえる。
バレないように細く開けて外を覗き見た、その時。
パン、という乾いた破裂音が聞こえ、やや遅れて見知らぬ男が倒れる様子が、まるでスローモーションのように見えた。
打ったのは…、赤髪の男。シャンクスだ。
先程よりも大きく、ドクドクと心臓の音が聞こえる。シャンクスがこちらに気づいて何ごとか口を開いたが、名前にはもう、自分の心臓の音しか聞こえなかった。
看板に転がっている無数の人間だったモノたち。
赤黒く染まる硬い床。
そして………そして、その中で笑い合う、ここ数ヶ月で見知った人たち。
どうして。いやどうしてじゃない、彼らは海賊だ。
わかってたはずなのに、わかってなかった。
そこからの記憶は曖昧で、何やら声を掛けられて曖昧に返事をした気がする。食事を摂る気にもなれず、その日は与えてもらった簡素な部屋のベッドの上でうずくまっていた。
ここが本当に異世界だということも、海賊船に乗っていることも、この船の人たちも、そのどれもが恐ろしく思えた。先程までとは世界が一変したようにさえ感じる。
平和な日本に帰りたい、でも帰る術など、名前には知る由もなかった。
コンコン、というノックの音で顔を上げる。
誰にも会いたくなんてない、けれど、この部屋のドアに鍵はついていなかった。
「いるか?…入るぞ」
そう言ってゆっくと開かれたドアから姿を現したのは、今一番会いたくなかった人物…シャンクスだった。
その姿に思わずビクリと体が震える。
名前が昨日まで笑い合って話し、食事をとり、共に過ごしたシャンクスと同じ顔をしているが、しかしもう名前の知っているその人と同一人物とは思えなかった。
名前のその反応をすかさずとらえて、シャンクスは目を細め、眉間に皺を寄せた。
一歩近づくごとに、名前が体をこわばらせるのがわかる。
手を伸ばせば触れられる位置まで距離を縮めると、名前は目を見開いてこちらを見つめていた。その目には、恐怖の色がありありと浮かんでいる。
「…名前、」
名前を呼んで手を伸ばせば、名前の肩がビクッと震えた。かまわずそのまま頬に手を添えると、名前が震えているのを手のひらに感じる。
片膝をベッドにつけば、ギシリと軋んだ音がして、名前がヒッと息を呑んだのが聞こえた。真っ白な顔色に、目には涙を浮かべている。
「名前、」
もう一度名前を呼ぶと、名前は口を閉じたままかぶりを振った。真珠のような涙が、その衝動でポロポロとこぼれる。
心の中で、舌打ちをした。
自分が名前に恐怖の対象として見られているこの状況に、そうした事態を招いてしまった自分自身に、ひどく苛立ちを覚えた。
自分の生き方に、後悔や恥など一つもない。海賊としての生き様に誇りを持っている。しかし名前にとっては、そんな自分自身が今まさに恐怖の対象なのだ。
突然空から降ってきた、美しい異世界の少女。
保護するつもりだったが、いつからか気が変わった。共に旅をし、この世界を知り、ゆっくりと関係を築ければと思っていた。
「…名前、怖がるな、」
苦々しくそう呟けば、名前の大きな瞳がシャンクスに向けられた。宝石のようなその瞳は、涙を湛え、キラキラと輝いているようにも見える。
ギシリ、ともう一度ベッドが軋んだ。
頭より体が先に動き、衝動的にキスをした。名前の小さな頭を支えながらゆっくりと上体を倒す。名前の目が大きく見開かれたのがわかったが、怯えているためか、抵抗はなかった。
ベッドに押し倒すと、左手を名前の右手に重ね逃げられないようその身を捕らえた。その手も唇も冷えてはいたが、舌を差し入れ絡めれば、その口内は熱かった。
「シャン、クス、さん…」
絞り出したかのようなその小さな声に聞こえないふりをして、服の下へと手を滑り込ませる。有無を言わせずたくしあげれば、その膨らみが露わになり、先端の突起に唇を這わせると、名前はまたビクリと肩を震わせた。
「やッ、あ、なんで…」
「…俺が、怖いか?名前…」
そう問えば、またその瞳には恐怖の色が広がった。
首筋に舌を這わせ、そのまま舐め上げるとビクンと名前の腰が跳ねる。その隙に腰に手を回し、下着ごと衣服を剥ぎ取った。
「や、シャンクスさん、やだ、」
小さな手が押し返そうとシャンクスの胸に当てられた。だが、そんな微力な抵抗はシャンクスにとっては無いものと同じだった。
そして泣きながら「こわい、」と呟いた名前を、力ずくで自分のものにした。
目覚めれば、全ては夢のようだった。
発砲音、流れる血、そして昨夜の体温。
首筋に残る花びらのような痕だけが、夢ではなかったのだと名前に告げていた。
帰りたい。けど、帰る術などどこにもない。
船に乗せてもらっている以上は、働かなければ。何か役に立たなければ。
意を決して部屋を出れば、みんな昨日のことなど嘘だったかのようにいつも通りで。
昨晩食事を摂っていないことを心配され、無理するなよと声をかけられ、気が遣えなくて悪かったと気まずいように頭を下げてくれる人もいた。
「昨日は悪かったな、お前がいた世界は平和だったんだもんな…怖かったよな」
「いえ、そんな…。ビックリしましたけど、もう、大丈夫です」
大丈夫って何だろう、頭ではそう思うのに、出てくるのは「大丈夫」という言葉。
ぎこちなくだが笑って見せれば、ヤソップも苦笑いのような笑顔を見せてくれた。
そう、みんないい人たちだ。
ここ数ヶ月重ねてきた交友と、今日のこの言葉を聞いて、それは間違いないのだと思う。
しかし同時に、構えた銃の引き金を躊躇うことなく引ける彼らを、恐ろしいとも思う。
「よォ、大丈夫か」
ふいにかけられたその声に、サッと体温が下がるのがわかった。
大丈夫かって?何が、大丈夫か、なのか。
昨日のことなど何もなかったような顔をして。
この人のことだけは、もう何もわからなくなってしまった。
「………あ、ハイ…」
その振る舞いに合わせるように、何事もなかったかのように返事を返す。
何もなかったって、大丈夫って、何が?何で?
チラリとその表情をうかがえば、いつもと同じ顔をしていて。名前の視線に気づくと、どうした?とばかりに片方の眉を少しだけ上げて微笑んだ。
昨晩のことは、恐怖のあまり見た夢だったのだろうか。そうであれば、どれほど良かったか。
「あッ、やぁ、も、やだ…」
ベッドのスプリングがギシギシと揺れる。
幾度となく果てて力なく放り出されていた肢体も、敏感なところをぐりぐりと突かれれば、否応無しに反応を返してしまう。
「も、やだ、何で…」
瞳からは生理的に涙がこぼれ落ちた。
赤い髪の間から名前を見下ろす双眸は熱を帯びていて、昨日とはまた違う恐ろしさを感じさせられる。
「シャン、クス、さん、何で…」
返答はなく、ただその熱の塊だけが名前の奥に押し付けられ、口からは濡れた声が漏れた。
「あ、ああッ、あッーー」
もう何度目かになる絶頂を迎えると、目の前が霞み、ぼやけた。赤い髪がゆっくりと近づく。
「…名前、愛してる」
夢現でそんな言葉が聞こえた。
愛してるって、誰が、誰を?何でなの?
遠のく意識の中で、赤髪の男の苦しそうな顔が見えた気がした。
続きます。
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