続きもの(恋の病/マルコ)
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わたしは今、相当に悩んでいる。
マルコ隊長とそういう関係になって初めて、いつもとは違う方向に悩んでいる。
マルコ隊長が、全然迫ってこない…!
いやわかるよ、受け身オンリーで何言ってんだテメーからいけよって思うよね、わかるわかる。
わたしだってできることなら迫りたいし触りたいし見たいしもうやることやりたいのよだって最推しだもの。問題はね、また倒れるかもってことよね。
こわい。
そんな最高潮でおあずけくらわせて今度こそ嫌われるんじゃないかとか気が気でない。
マルコ隊長に聞けばきっとそんかことないとかそんなことで嫌いになるわけないとかいうだろうけどさ。そりゃさ。優しいしさ。
でも知ってる、こういうのって理屈じゃないんだ…。
いくら事前にわたしはコレコレこうですが大丈夫ですか、って確認したところでさ、結局いざそうなったらサーっと冷めちゃうなんてことも全然ある。そのときにならないとわからないものなのだ。
そもそも最近なんでこんなに迫られなんだろう…私なんかやった?それともこんなヤることヤれない女やっぱり嫌になった?あ、涙出そう。
本日のシフトは洗濯当番。甲板でタオルを延々と手洗いしていると、脳内でグルグルと自分会議が開催されてしまった。単純作業というのは考え事をするのに最適ではあるけれど、逆に言えば考えたくないことも考えちゃうということで。スタートの地点もゴールの場所も変わらない脳内会議がオートでエンドレスリピートされてて、もう心が折れそう。
よし、違うこと考えよう。
洗濯って洗うのはいいけど、乾かすのが大変なんだよねー、なんかこう水分を蒸発させれるような能力のクルーを勧誘してくるかまたはそういう悪魔の実を見つけてきてくれってずっと言っているのだけど、なかなそううまくはいかず、困っているところなのである…
……………うん、全然ダメだコレ。
「すげー眉間の皺」
揶揄うような声に顔を上げると、呆れ笑いのエースに見下ろされていた。逆光で顔がよく見えない。
「またなんか悩んでんのか」
「…うーん、まぁ、そうね」
先日うっかりマルコ隊長との関係をバラしてしまってから、たびたびエースが話を聞いてくれるというかおもしろがって声をかけてくるというかで、ちゃくちょくマルコ隊長とのことを話すようになっていた。最終的に好きすぎてかっこよすぎて死にそう的なマシンガントークを炸裂させてしまい、エースがうんざりして会話が終わるところまでがいつもの流れだ。じゃあ聞いてこなきゃいいのにとも思うけど、わーっと喋ると結構スッキリするから、もしかしたらわたしのために話を聞いてくれてる部分も少しはあるのかも。少しは。
「グジグジしてねぇで行動にうつしちまえばいいのに。言いたいことは言え。そんでやりたいことはやっちまえ」
「それができたらグジグジしてないのよ…」
チラリとエースに目線を向ける。
何故か毎日当たり前に半裸、いやそれどこで買えるの?ってデザインの主張が強いテンガロンハット、なんかじゃらついたアクセサリー。その奇天烈な見た目からだけでも、きっと彼は周りの目も気にせずやりたいようにやってるタイプなのであろうことがわかる。とんでもねぇ格好してるのに、その格好も破天荒な性格も意志の強さも、全部まとめて人を惹きつける彼の魅力になっているから不思議というか人生というのは不平等なもので。いいよね確固たる自分がある人はさ。こんな十把一絡げみたいな格好の私とは違うんですよね残念ながらね。
視線をもどし、ハァ…とため息をひとつ。
「……………まぁエースには一生縁のない悩みでしょうけどね…」
「感じ悪いなおい」
心が若干ささくれてるのもあって、つい棘のある言い方をしてしまった。違うんよ、乙女()が悩みを吐露しているときは解決策を提示するんじゃなくてただうんうんそうだよねって共感することが大事なんだよ。だから女子トークっていうのは何も発展せず解決もせず毎回毎回延々と同じ話をしてるんだよ…それが女子トークってやつなんだよ…
そんなことをブツブツ呟いていると、突然エースが弾けたように笑い出した。
「っはは、お前マジでずっと同じ話してんな」
「………」
ジトっとした視線をエースに向けると、何が面白いんだかさらに笑い転げ、ひとしきり笑い終えると呼吸を整えるようにひとつ息を吐いた。
「…ハァ、初恋かっての」
なんてことない呟きだったのだろうけど、…なんだろう。
ぱち、ぱち、と瞬きを2回。
うん、わりとしっくりきた。そうかもしれない。
“初恋”
「…そうね、そうかも。初恋なのかも。もしかしたらわたしは恋とかしたことなかったのかもしれない…」
初めてそういうことを経験したときだって、こんなに悩まなかった。…気がする。なんでわたしはこんなに悩んでるんだろうと考えると、それは好きだからで、嫌われなくないからに他ならなくて。マルコ隊長が規格外にカッコ良すぎるというのも一つの原因ではあるけれど、それでもやっぱり、好きだから悩むのである。
「好きなんだろ?じゃあいいじゃねぇか」
「…そりゃ好きだけど。もうめっちゃ好き。大好き。………だから嫌われたくないんでしょうが…。」
「そんな簡単に人のこと嫌うようなやつじゃないだろ」
「…それは、そう、そうだけど、別にマルコ隊長を信用してないとかじゃなくて…………」
じゃなくて、これはもう完全に私自身の問題なのだ。マルコ隊長がどうとかじゃなくて、ただわたしが不安で、焦って、でも怖がってるだけ。今の状況より悪くなるのが怖くて一歩踏み出せないだけ。
このままウダウダしてる間に、もっと素敵な女性が現れて、私に興味がなくなっちゃったらどうしよう。ていうかもういたらどうしよう。だってこないだの島に寄ってからずっと何か距離感を感じるし。
たーまに部屋に行っても、ちょっと雑談なんか話して、軽くキスして、寝るだけ。なんなら部屋に返されることもたびたびあって、……そんなことある?!?!そろそろ声もかけられなくなるんじゃないかと思って、実は内心日々びくびくしている。
「…どうすればいいんだろ」
「…………だってよマルコ、どうする?」
エースの言葉に顔を上げ、その視線の先に光の速さで顔を向けると、なんとも言えない表情をしたマルコ隊長が立っていた。
「マルコ隊長?!え、どこから?!」
「最初からいたぜ」
「ぎゃああああああああ」
久しぶりにやってしまった…
あからさまに逃げてしまった、どうしよう。
一旦部屋に逃げ帰り、乱暴に閉めたドアに寄りかかると、腰が抜けたようにズルズルと座り込んだ。
なんかこんなこと前にもあったな…成長ゼロか自分…。
ていうかそうか、エースにバレたことをマルコ隊長に伝えたことをエースも知ってるのか…え、あそこ二人でわたしの話されてるのとか普通にモヤるんですけど…?
あまりの混乱に、わたしはその日そのまま泣きながら寝た。誇張なく嗚咽を漏らしながら寝た。
おかげで晩ご飯を食べ損ね、多少スレンダーになったかもしれない。つらい。
アレから3日、マルコ隊長とは何の接触もないまま。
フォロー入れなきゃと思うのに、自分から行けば良いんだろうけど、そんな勇気もなくて。
マルコ隊長からも、ない。船内にいるはずなのに。
こんなとき結局いつもマルコ隊長からゆっくり距離をつめてくれて、ずっとマルコ隊長頼りだったんだな、なんて今更思う。
今度こそ呆れられたかな…。
…と思うのにやっぱり全然勇気も出なくてあっという間に1日が終わり、本日とうとうウダウダぐじぐじ4日目に突入してしまった。
今日のシフトは厨房の手伝いだ。料理人だってそれほど大人数乗せているわけではないので、野菜の皮剥きとか洗い物とかは下っ端のクルーが日替わりで受け持っている。
ハァ、と何度目かわからないため息をつきながらひたすらにジャガイモの皮を剥く。厨房の端に置いてあったパイナップルが先ほどからチラチラと目について、それだけで沈んだ気持ちがムクムクと膨らんできて、うっかり指を切りそうになった。
マルコ隊長、どこにいるのかな、なんて考えていると、食堂内がなんとなくざわついているのに気づいた。
「どうしたんでしょう?」
伝達係らしきクルーが食堂に飛び込んできて、簡単に説明をしてすぐに出ていく。
伝播してきた話を聞いてみると、1番隊が任務から帰還して、怪我人が出てるから救護にあたれる者は優先してくれとのことだった。…マルコ隊長がいなかったのは任務だったのか、と少しだけホッとしたのも束の間。怪我人と聞いて慌てて料理長に目を向けると、コクリと頷いてくれたので、包丁を置き、急いでエプロンを外すと着の身着のまま厨房を抜け出した。
戦闘ではろくに役に立てないけれど、その代わり、それ以外のところでなんとか役に立とうと日々できるだけ努力してきたつもりだ。応急処置も船医のところで勉強して、日々の研鑽の甲斐あって、今ではシフトにガッツリ医務室勤務も盛り込まれている、
そう、スーパー雑務マンとはわたしのことである(ドヤァ)。
まぁおかげで雑務担当チームみたいなところに所属することになって、永遠にマルコ隊長直属の部下になれないんだけどね!!!!涙目!!
甲板に出ると、人だかりができて怒号が飛び交っていた。野次馬を掻き分けて人の輪の中心に入る。
血に塗れた衣服を纏い、床に転がる数人のクルー。他にも傷を負った人たちが何人もいた。
キョロキョロと見渡し、船医を見つけてそちらへ向かう。
「手伝いますか?」
「…ああ、名前か。医務室から用具を持ってきてくれるか。軽傷者の手当に当たってくれ」
「はい」
怪我がひどい人は一旦担架で屋内に運ぶらしい。非力な名前は、そちらの手伝いはできそうにない。
できないことが、たくさんある。
悔しいけれど、今はそんなこと言ってる場合ではなくて、医務室へと急いだ。
「…はい。清潔にして、ちゃんと数日置きに医務室に包帯替えにきてくださいね」
「おう、すまんなぁ」
見える範囲の怪我人の手当てを終え、ほっと息をつく。念のため一人手当てするごとに手を消毒してたから、指先がもうガサガサだ。包帯や軟膏なんかももうあんまり残ってなくて、近いうちにまたどこかの島に寄って備品の補充が必要になるだろうな、と思った。
重傷者がほとんどいなかったのは、母船に戻る前にマルコ隊長がある程度不死鳥の炎で治療してくれたかららしい。とはいっても、すぐに治したのであれば話は違うが、傷は塞がれど失った血は戻らない。失血死の心配があるクルーもいて、彼らは医務室で様子を見なければならない。
ただ今回みたいな急を要する場合は別として、基本的には致命傷を負った者以外は自己治癒力で治してもらうのが方針だ。マルコ隊長に頼りきりで怪我することへのハードルが下がることはよくない。これはオヤジさんが決めたことで、文句を言う者もいなかった。
ザワザワとした状況の中、マルコ隊長の所在を確認するような会話の一端が耳に入り、キョロキョロとその発言元を探す。
すると、いやぁありゃあ普通だったら致命傷だよなぁ、なんて声が聞こえて、サァーッと血の気が引いた。
思わず声がしたあたりにいたクルーの腕をぐっと掴んで引き寄せる。普段自分がそんなことするタイプじゃないからか、すごく驚いたような顔で振り向かれたけれど、取り繕う余裕などなかった。
「マルコ隊長も、怪我したの?」
「え、ああ、まぁそりゃあ、あの人は最前線だからな、まぁでも不死鳥の炎があるから大丈夫だろ」
「そうだ、傷もなかったぜ」
さすが一番隊を任されてる隊長だぜ、と、誇らしいことのように口を揃えてマルコ隊長を褒め称えるクルーたち。傷がどんなものか、どの程度の怪我だったのかと尋ねてみても、「大丈夫に決まってる」「あの人が負けるワケがねェ」と、盲信的に大丈夫だと信じているであろう彼らの言葉では、一向に安心できそうになかった。
そんな会話には参加する気にもならず、話の輪からさりげなく抜けると、ちゃんと歩けてるのかわからないふわふわした気持ちで、早く早くと船内へと足を動かした。
大丈夫、大丈夫だと思う。けど。
残念ながら戦闘要員とはいえないわたしは、マルコ隊長が戦っているところをちゃんと間近で見たことがない。
怪我しているところを見たことがないから、たぶん自分で治せるのだと思うけれど、それでも。怪我自体をしないというわけではないだろし、どんなふうに傷を受けて、どうやって治すのかわからないから、やっぱりどうしても心配で。
足早にマルコ隊長の部屋の前まできたけれど、暗く静かなその様子から、不在ということがわかった。任務の後処理に時間がかかってるのだろう、オヤジさんへの報告なんかもあるのかもしれない。
なんとも言い表せない不安に駆られ、誰かに見つかるかもなんて考えも吹っ飛んでいて、とにかく早く顔が見たくて、部屋の前に座り込んだ。
座り込んでからどれくらい時間が経ったのか、10分なのか30分なのか1時間なのかもわからない。世界がグラグラしている中、膝を抱え、大丈夫だと、自分に言い聞かせた。
「…名前?」
聞きたかった声が、自分の名前を呼んだ。
顔を上げれば、声の主はどうした、大丈夫か?と、少し不安そうな顔をしていて、これではどちらが心配される立場だったのかわからない。
その姿の上から下まで視線を移すと、衣服は汚れてたり破れてたりするけれど、ケガは無いように見えた。
ほっとしたところで、何も言葉が出てこなくて。
ただ、わたしがここに座ってるとマルコ隊長が部屋に入れないな…なんて思って、急いで(多分実際はのろのろ動いてた気もするけど)立ち上がろうと下半身に力をこめた。
「…大丈夫かよぃ」
そんな様子に、マルコ隊長がまた心配そうに手を差し伸べてくれる。
傷ひとつない顔を見つめると、ようやく実感が湧いてきた。
手を借りて、立ち上がる。気遣わしげな視線に誘われ、手を引かれ、そのまま自然にマルコ隊長の部屋に入った。
「名前も休みなしで治療にあたってたんだろ、お疲れさまだったな」
部屋に入ると、わたしをベットに座らせたマルコ隊長が、汚れたシャツを着替えながら労いの言葉をかけてくれた。わたしの様子がおかしいから、努めて普段通りにしてくれてるんだろうなとわかったけれど、申し訳ないなとかそういう気持ちも、灯の下で見たそのシャツの汚れが赤黒く固まった血液であろうことに気づいた途端、全部吹っ飛んでしまった。
「マルコ隊長、ケガ、、、」
顔を合わせてから初めて発したわたしの言葉に、マルコ隊長は目を合わせてああ、というふうに軽く微笑んだ。
「大丈夫だよい、これ全部オレの血じゃねぇ」
「…ほんとだったら致命傷だった、って、聞いて…」
「オレは不死鳥だからな」
「……でも、」
「名前、」
「でも、痛くないわけじゃないじゃないですか…」
「う、うう、うううう」
無事でホッとした気持ちとか、自分の全然知らないところでもしかしたらマルコ隊長が死んじゃうことがあるんじゃないかとか、今はなんともなくてもきっと痛い思いをしてて、しかもそれは今までもずっとそうで、、、、とか。
いろんなことがぐちゃぐちゃでまとまらなくて、ただただ涙が出てきて、泣きたくなんてないのに、ぬぐってもぬぐっても止まらなくなって。マルコ隊長の前では、なんだかいつも泣いてばかりで、そんな弱い自分も嫌で、でも、涙はそんな自分の意思に反してずっと溢れ続けた。
早く泣き止まなきゃと必死に顔をこするわたしの手を、マルコ隊長がそっとつかんでゆっくりと引き剥がした。顔を上げると、今まで見たことないくらい優しい顔で笑ってて、ああ今泣き顔ブスだろうななんて思ってるわたしの気持ちをよそに、そっと胸の中に包み込んでくれた。ああ、せっかくのきれいなシャツが、わたしの涙と鼻水に塗れてしまう…。
どれくらいそうしていたのか、いつの間にかマルコ隊長にすっぽりと抱きすくめられるような形で座り込んでいた。ひとしきり泣いて落ち着くと、マルコ隊長が遠征帰りだったことを思い出した。
疲れてるだろうに申し訳なかったな、部屋に帰らなきゃ、マルコ隊長も休めないよね……泣き腫らしてうまく開かない目と、ズキズキ痛む頭でそんなことを思う。のろのろと顔を上げると、背中に回された腕にぐっと力が入った。
「マルコ隊長…?」
「……まだ、泣いてていいよい」
絞り出したみたいなその掠れた声が、なんだか切ないような、嬉しいような気がして頰が緩んだ。
マルコ隊長の腕の中におさまったまま、もう一度目を閉じて頭を預ける。傷ひとつないマルコ隊長の身体。でも、
「…わたしももっとちゃんと、戦えるようになりたいな…」
ポツリと口からこぼれ出た言葉に、マルコ隊長が反応したのがわかり、顔を上げる。眉間に皺を寄せた顔と目があった。か、かわいい。
「マルコ隊長と、どの任務でも一緒に行けるようになりたい。……そしたら、心配しなくてすむから…」
「やめろよい、おれの心臓がもたねぇだろうが…」
ほんとにちょっと焦っているような雰囲気に、ふふ、と笑みが漏れる。確かに、へなちょこな私が戦いに参加したら、今日のわたしの比じゃないくらいマルコ隊長は心配になっちゃうかもしれないなと、内心納得する。
耳を当てれば、マルコ隊長の胸から響く鼓動。
ああ、生きてる。あったかい。
「…こないだ、ごめんなさい、逃げて」
これだけ大号泣を晒したせいか、もはや何でも言える気がして、ぽつりと呟くと、マルコ隊長はああ、と思い出したように応えた。
「いや、俺も声かければよかったよい」
「……マルコ隊長、好きです、、、だから、勝手に不安になっちゃって、……信じてないとか、そういうのじゃ、ないんです」
「…わかってるよい」
「…でも今日、いつ何がどうなるかわかんないんだなって、思って。…もっと早く、ちゃんと話しにくればよかった…」
「………」
「………」
「………」
「………?」
マルコ隊長の反応がないことを不思議に思い顔を上げると、なんだか気まずそうな、言いたいことがあるのに伝え方を迷ってるような、何とも言えない表情をしていて、こちらも何て声をかけて良いのかわからず、多分変な顔をしてしまった…と、思う。
「……ま、マルコ隊長…?」
「あー、いや、オレも、悪かった。こういうのは時間が経つと拗れるモンだから、すぐ名前んとこに行こうと思ったんだが…」
「……遠征に行ってたのでは?」
「や、あれは今日突発で、」
え、じゃあ普通に船内にいて、普通にマルコ隊長サイドからも避けられてたってこと?と、内心ショックを受ける。避けられるって、こんなつらいのか………。今までの自分の行動に心底反省した。コレはしんどい。普通につらい…。
「…どんな顔していいか、わからなかったんだよい」
「…?」
「エースと…ああいうふうにしゃべってんのが、、、あー、なんだ、なんつーか少し、妬いた」
「?!?!?」
かかかか可愛すぎんか?!?!?!?!?!?!
や、焼いた、、、じゃなくて妬いた?!
うそうそうそうそマルコ隊長のし、し、し、嫉妬…?!尊ぉおおおおおおおおお!!!
マルコ隊長からこちらの顔が見えないのをいいことに、その逞しい胴回りに手を回し、ガッと力を込めた。つまり抱きついたのだ。
もしかしたらもしかしなくても、たぶんわたしは顔さえ見られてなければある程度のことはできるのかもしれない。
…にしても。
「…ずるい」
「?」
「…もう、マルコ隊長が好きすぎて、おかしくなりそう」
「…名前、」
「…全然まだ目もまともに見れないのに、こんなに好きだと、もっとずっと緊張しちゃう。もっともっと好きになってずっとドキドキして何にも進展できなかったらどうしよう…」
好きになればなるほど、マルコ隊長が神さまみたいになっていく。尊すぎてどうしよう、一生崇めるだけで終わるかもしれない…。
そんなわたしの不安をよそに、マルコ隊長はフッと笑った。
「…名前は、そのままでいいよい」
「でも」
「反省したんだよい、早く全部オレなものにしちまいたくて、気が急いた。そのままの名前がいいっていってたのにな、ごめんな」
「……」
「…名前に、変わってほしいわけじゃない」
「…でも」
「無理しなくていい、お前以外抱く気もねぇ」
ハスキーボイスも、蕩けるようなその言葉の一つひとつも、耳に心地よくて、つい浸ってしまいたくなる。でも、だからいつも、結局、マルコ隊長に甘やかされて進歩できていないのだ。
…というか、もう早くマルコ隊長の身も心もわたしのものにして、………いやおかしいな?早くわたしの身も心も…と思ったけど心はもう全部開け渡してるから、早くこの身をマルコ隊長のものにしてもらって関係性を盤石にしたいしとにかく触りたいし見たいし安心したいのだ、わたし自身が。
そんな覚悟で、キッと顔を上げる。
「…でも、でもでもでも、溜まりに溜まった制欲に負けて酔った勢いでナイスバディなべっぴんさんにフラッといくかもしれないじゃないですか…マルコ隊長をオトそうとクスリを盛ってくる不埒な輩もいるかもしれないし…」
「オト…」
「精神と身体はベツモノって言いますし」
「おま、………今日の今日まで惚れた女を前にして我慢に我慢を重ねてるオレの精神力舐めんなよぃ」
「う、」
確かに、と言葉に詰まる。
いやでも、今わたしはそういうやりとりをしたいんじゃなくて。
「じゃなくて、わたしが、変わりたいってことが言いたくて」
「….」
「マルコ隊長は頑張らなくていいって、そのままでいいって言ってくれるけど、……わたしは、頑張りたいの。変わりたい」
「…名前」
「だから、今度しこたまお酒飲んでからお部屋に来てもいいですか!!!」
「…………は?」
名付けて大飲み爆酔い大作戦。
もしかして酔っ払ってたらいろんなハードルが取っ払われるんじゃない?という寸法だ。
マルコ隊長は一瞬言いたいことが山ほどあるような表情をしていたけど、ひとつ息をつくと、大きな手でわたしの頭をその胸にもたれかからせた。
「…わかった、わかったから、今日はもう寝ろ」
これは呆れてる時の反応だ…わたしは本気だというのに…。
もうちょっと話したかったけれど、マルコ隊長はわたしの頭を撫で付けて寝かしつけにかかり、すでに泣き疲れていたわたしは、ものの数秒で眠りに落ちた。
そして後日。
計画通り盛大に酔っ払ってマルコ隊長の部屋を襲来したわたしは、ドアを開けた後の記憶がなく朝を迎え、起きるなりマルコ隊長に謝り倒すことになった。
(あとどうやらマルコ隊長はそもそもケガ自体しないってことも教えもらって、一旦戦闘員になる野望は捨てました)
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