続きもの(恋の病/マルコ)
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朝方、ふと、目が覚めた。
部屋の中はまだ暗くて、時計を見るとまだ針は4時過ぎを指している。再度布団に入ったものの、ゴロゴロと寝返りをうつばっかりで全然寝付けず、どうしようかな、と考えて、外の風を浴びに行くことにした。
モビーディック号はしばらくナワバリの島の一つに停泊していた。明朝早くに出航の予定のため、島でゆっくり夜を楽しめるのは昨晩までということもあり、船内に残っている者の数は多くない。ひっそりと静まり返った船内を、室内履きのサンダルでペタペタと歩く。
甲板に出て来た名前は、欄干からまだ暗い海を見渡した。ザザーン…と繰り返し港に打ち寄せる波の音が耳に心地よい。海上で聞こえる波の音とはまたどこか違って、名前はこの音を聞くのが好きだった。
まだ薄暗い空の下で、欄干を背もたれに、座り込んで目を閉じる。波の音が子守唄のようで、なんだか眠くなって来た。ああ、何か羽織るものでも持ってくればよかったな、でもまあいいか………このまま寝るか………。
「おーい名前、なにしてんだ?」
ええい誰だ睡眠の邪魔してくんのは…と思いながらのろのろと瞼を持ち上げ、声の方に目を向けると、エースがこちらへ歩いてくるところだった。
「酔っ払ってんのか?」
そう言ってわたしの目の前にしゃがみ込む。
いつもより少しだけご機嫌なその様子と、風に乗ってほのかに香るアルコールの匂い。なるほど、どうやら彼の方が夜通し遊んできて朝帰りということらしい。
「おかえり、朝帰り?」
「ああ」
「わたしはただなんか早起きしただけ。…でもまた眠くなってきた…」
ふわぁ、とあくびをひとつ。
やはり部屋に戻って寝るべきか。
「ふーん………
なぁお前、マルコと付き合ってんの?」
「……………………………………は?」
せっかく訪れていた眠気が全部どっかにとんでいった。突然なにがどうしたって?酔ってる?そうか酔ってるんだな??
いやでもそういえば前もそんなこと言ってたような…。動揺してうっかり変なこと口走らないように、一旦ぐっと口をつぐんだ。
「…ちげぇの?」
「………………」
まっすぐこちらを見据えるエース。
どうしよう…肯定するのも否定するのもなんか違うし、てなると何言ってももはやバレそう。
頭の中を一瞬でいろんな考えが逡巡したが、あんまりダンマリを決め込むのも肯定しているようでよくないし、どうしようかなええとええと、と、口に出た言葉は。
「……………マルコ隊長から…何か、聞いた?」
……言葉の選択を間違えたかもしれない。
眉間にこれでもかと皺を寄せてるであろうわたしの顔を見て、エースはなぜだか楽しそうに口の端を上げた。
「いや?」
「え、じゃ、なんで」
と、思わず口走った後に気づく。いやこれもう肯定してるようなものでは…?やばいこれはわたしが漏らした形になるか?!
背中に冷や汗が伝う。憎たらしいことに、エースは依然楽しそうに笑っていた。
「…見てりゃわかる」
「ハァ?!」
こんなに懸命に隠してるのに?!
え、じゃあ他の人にもバレてるってこと?!?!とグルグル頭を悩ませていると、エースの笑顔は呆れ顔に変わった。
「他のヤツらはたぶん気づいてねぇよ」
「ほんと?!……あ、いや、ええっと、、」
「あー、一部の幹部陣と、…まあ、オヤジは気づいてるかもな」
「……………そう……………」
ホッとしたのも束の間。
そうか、オヤジさん、、、、そうか、、、、。
まぁいいか、マルコ隊長と一緒にこの船に骨を埋める覚悟だからね、うんうん。と、無理矢理にでも自分を納得させる。
それよりも、だ。
「…………なんでわかったの?」
「…んー、オレからするとマルコはわりとわかりやすいぜ?…………まぁでも、勘、だな」
「…………そう………」
マルコ隊長側からバレてんのか…。
それはしゃーなし文句も言えん。
勘も鋭く、ある意味野生児的なところのあるエースのことだ。我ながらマルコ隊長を連日モヤモヤヤキモキさせているであろう自覚もあるし、なんか様子がおかしいなってなったのかもしれないな…。
遠い目で考えていると、でもよォ、とエースが少し不機嫌な声で続けた。
「水くせぇじゃねェか、教えろよ」
「いやだって…ごめんね。夢みたいで、現実感なくてさ…今でも半分くらい夢じゃないかと思ってるからさ…」
「いやお前、」
「…だってさ、付き合うことになりましたぁ♡とか言ってさ、もし万が一わたしの勘違いとか夢だったらどうする…?つらすぎて目も当てられんじゃん?あんなに素敵なマルコ隊長がわたしのこと好きなわけなくない?って内なる自分が永遠に呟き続けてくんの…あともうマルコ隊長に自分の存在を認知されてると思うともう好き過ぎて眩し過ぎて緊張して直視もできない…」
「………」
「遠くから見てる分には全然かっこいい…すき…!って思ってられたけど、間近に迫るともうオーラっていうか威力っていうかすごくて、なんかもう尊過ぎて死にそうだし」
「………」
「付き合う付き合わないとか以前にもう目が合うことすら恐れ多いというか…最近なんとかようやくちょっとだけ慣れてきたけど、でも何回か限界突破してやらかしてるし、近づきたいけど近づけなくてさ、物理的にさ…」
「………」
「だから報告するとかしないとかそういう次元の話じゃなかったの。ごめんね、黙ってて。」
「…お、おう…」
そう、未だに現実味がまるでなくて困っているのだ。ちょっぴり距離が近づいて慣れたと思いきや、なぜか2、3日時間を置くとリセットされて積み重ねたはずの経験値が初期値に戻っているという不思議…。もう6話目なのに。永遠の思春期すぎない?
わりと仲が良い友人だと思っているエースにすら伝えなかったのは申し訳ないと思うけれど、こちらにものっぴきならない事情があったのである。ごめんとは思ってる。
…と、エースが少しだけ眉根を寄せて何か考えるそぶりを見せ、ポツリとつぶやいた。
「………………お前男いたことねェの?」
「え、いや?そんなことないけど」
「あー、え、じゃあマルコに対してのソレなに?え、てかお前そんな感じだったっけ?」
「は?いやだってさ、マルコ隊長は男性としても人間としても大変素晴らしくてかっこよくて世界一素敵じゃん?そんな人がわたしのこと、………す、好きとか、言うんだよ…?それはもう夢じゃん、現実であるはずないじゃん。とか思ってたら本当に現実らしくてさ、もう本当、どうしたらいいのか…?眩し過ぎて直視もできないっていうのに…!目を合わせるのに1ヶ月ほど練習しようかと思ったらそんな待てないって!そりゃそうだよね!!嬉しい!!でも身が持たない!!ああああああああああ」
頭を抱えて唸りながらも、そうか、と気づいた。
わたしは、誰かに話したかったのかもしれない。
マルコ隊長が素敵すぎて好きすぎて眩しくて。
その気持ちをひとつ口に出してみたら、次から次へと言葉が溢れた。エースがドン引きしてる空気を感じたけどまぁいいか、と無視することにして。
オタクって好きなもののことだと早口マシンガントークになるんだよね、ごめんね。エースはいいやつだし結局見捨てないでいてくれるだろう(希望)。
「………なんか、大変だな…(マルコが)」
「そうなの、まじで毎日かっこよくて本当に心臓もたない。どうしよう?」
「え、…え?あー、まぁ仲良くやってくれ」
「そうね…仲良くやりたいんだけどね…わたしのメンタルが本当にクソで…目が合うだけでも心臓破裂しそうなんだけど…」
「…まぁがんばれ」
「ちょっとそっちから聞いて来たんだから面倒くさくなるのやめてくんない?」
じゃ、オレもう寝るわ、と立ち上がり、足早に船内に向かうエース。その後ろ姿を、まだ話し足りないような、あれ?逃げられた?という気持ちで見送った。
静かな甲板にまた一人きりになり、だんだんと白んできた東の空に視線を向ける。
バレてしまった…という気持ちもあるけれど、ずっと頭の中でグルグルしていたことをようやく吐き出せた清々しさもあって、悪くはない気分だった。
ただ、少しだけ気になったのは。
エース、マルコ隊長にも言うかな…。
そう考えると少しだけ胸がざわついたけど、まぁいいか、エースとマルコ隊長の仲だしね、きっと大丈夫と思うことにした。
結局二度寝もできずに寝不足のまま朝を迎え、今朝のエースとのやりとりはいったん忘れることにして、同僚とショッピング目的で島に降りていた。
必要な消耗品や雑貨を買い込み、カフェで女子トークなんかをしたりして、あっという間に時刻は夕方を過ぎる頃。明日も早いし夕飯食べてもう帰ろうか、なんて話しながら歩いていると、マルコ隊長のことが、ふと頭によぎった。今日は何をしているだろうか。別によからぬことを疑ってたりしてはいないけど、女の人のいる場所でお酒とか飲んでたら嫌かもしれない…。
船が島に停泊している間も当然のように別行動をしているけれど、将来的にはマルコ隊長と一緒に歩いたりできる日が来るのだろうか。
…………………いや、やっぱりちょっと考えられない。
わたしと並んで島歩きしているマルコ隊長……………?
自分には到底及ばないような美人さんと、自分では到底想像もできないような素敵なデートをしているワンシーンくらいしか思い浮かばない。(しかも内容はわからなくて一枚絵しか想像できない)あんなにかっこよくてあんなに場数踏んでそうなマルコ隊長は、どんなデートをするんだろう。純粋に不思議で気になった。
「名前、名前ってば!」
後方から強めに名前を呼ばれ、ちょっとばかり意識がとんでいたようで、隣で歩いていたはずの同僚を後ろに置いて来てしまったことに気づく。ごめんごめん、とそちらに視線を向けると、同僚のそばに見知らぬ男性二人組。同僚は怒ったような、困ったような顔をしていた。
「だからこれから予定あるんだってば」
「何しに行くの?一緒にご飯でも行こうよ」
そのやりとりに、ナンパかぁ、と思い至る。
小柄で顔面偏差値も高めな同僚は、一緒に出かけると声をかけられることも少なくなく、そう言えば船内でもわりとアプローチを受けている気もする。まぁ彼女はイゾウ隊長信者なので誰がどれほど言い寄っても梨の礫なのだが。
「ね、名前なんていうの?」
もう一人の男性に話しかけられ、無視するかどうかと、一旦視線だけを向けた。
別にナンパ自体は男女の出会いのきっかけの一つで悪いことでもないと思うし、見知らぬ人とお酒を飲むのが楽しいこともあると思う。この人たちの見た目が悪いとかそういうのでもないけれど、ただ今我々の心中にはそれぞれの思いびとがいるもんで、残念だけど例え相手の男が絶世の美男子だったとしても、全くもってお呼びじゃないのである。
断ろうと口を開くと、ふと背中に手を回されそうになって、ブワッと鳥肌が立った。サッと距離をとろうとすると、男はさりげなくわたしのそばにまとわりついてきて、いつもなら普通にいなせるはずなのに、嫌悪感に眉根に皺が寄る。
「お姉さんたちこの島の人?じゃないよね?」
「……悪いけど、」
許可なく他人の身体に手を回してくるようなヤツにこんな枕詞いらないのにな、と思いつつ。こんなとき強く言える女性に憧れもあるけれど、平和主義者なのでつい柔らかいクッション言葉を使ってしまうのは許してほしい。あとなんでかわからないけど普通に気持ち悪いから近寄らないでほしい。マルコ隊長じゃない男の人に触れられるのって、こんなに気持ち悪かったっけ?
「ちょっと、」
触らないで、と言いかけた、そのとき。
「うちのモンに何か用かよぃ」
聞き慣れた声。突然肩に回されて、わたしの体を引き寄せた大きな手。驚いて隣に立った人を見上げると、目線の先には見慣れた輪郭があった。
「「マルコ隊長…!」」
「用件があれば代わりに聞くが」
マルコ隊長がジロリと睨みをきかす。その後ろには、体格の良い数人のクルーたち。男たちは自分たちより優に頭ひとつ分以上大きいマルコ隊長とクルーたちを見て、顔を見合わせるとササっと去っていった。
ほっ、と息を吐く。
マルコ隊長に抱かれた肩は、全然気持ち悪くない。
というかむしろ体温が伝わってきて、なんだか逆に緊張してきた。ひ、人前で、肩を、抱かれている…?!?!離れた方が良いと頭ではわかっているけど振り払うわけにもいかないし、そこそこにがっしり掴まれているし、ヒィどうしようこの状況。
いや待てよ?でもこれはこれでなんか…興奮する…ような…?
「マルコ隊長、ありがとうございました」
同僚が礼を告げると同時に、マルコ隊長の手はするりと解かれた。突然身体が解放されて、マルコ隊長をチラリと見やれば、いつもと同じ表情で。
ほっとしたような、少し寂しいような。
いや、でも。公の場だからこれでいいのだ。
「…いや、大丈夫だったか」
「はい、助かりました」
「ならよかった、…気をつけろよい」
「ありがとうございます」
なんてことない会話をする二人。けれど、並んで立つ二人はとても見栄えが良くて。先ほどまでのドキドキはどこへやら、ぼんやりと、釣り合ってるなぁ、なんて思った。同僚は控えめにいっても可愛い。あれくらい可愛ければ、わたしも引け目なく隣に並べるんだろうか、なんて。
ぼんやりと考えていると、マルコ隊長がこちらに視線を向けた。
「名前」
「…え、はい」
「大丈夫か」
「…はい」
「…顔色が悪いな」
「え、あ、大丈夫です!ほんとに、あの、ありがとうございます…」
「…」
マルコ隊長が短く息を吐く。
あああああごめんなさい周りの目が気になるタイプで…!もっとなんか良い答え方あっただろうに、助けてもらったのに…と、余計に申し訳なさが募る。
「…船に戻ったら声かけてくれよい。後でいい。」
「は、はい」
じゃあな、と踵を返し、クルーたちと連れ立って歩き出すマルコ隊長。意訳するとたぶん後で部屋に来てくれってことだと思う。たぶん。なにこれ職場恋愛みたい。いやまごうことなき職場恋愛ではあるんだけれども。
「ひゃー、名前大丈夫だった?」
「え?ああ、うん」
「じゃ、ご飯食べに行こっか!」
「うん」
とはいえ別にナンパに遭遇して撃退することなどさほど珍しいことでもなく、先ほどまでと同じように、同僚と並んで歩みを進めた。
「いやー、マルコ隊長たち居合わせてくれてよかったわ」
「…………ねぇ」
「てかどうしたの?マルコ隊長。最近多いよねぇ、名前なんかやらかした?」
「…………違うよ。…こないだつけてた帳簿関係で、ちょっといろいろ…確認することあってさ」
「あーそっか、…机仕事できる幹部陣ほとんどいないもんねぇ」
「………ね」
「マルコ隊長もさ、他の隊長たちができないからって戦闘から書類仕事まで働き過ぎだよねぇ」
「ほんと」
「こないだもうちの隊長がさー、」
とかなんとか誤魔化しつつ、エースには伝えたのに同僚には言えないことも申し訳なく思いながら、あらためて食事のできそうなお店を探して歩き始めた。
船に戻ると、念のため身だしなみを整えて、幹部陣の部屋があるエリアに向かった。
きょ、今日も今日とて何がどうなっちゃうんだろうか…。最近もう個別で会うときは何がどこまで進むのか、果たして自分の心臓が耐えられるのかと気が気でない。
恋人としてのステップを進めたいけれど、進めば進むほど心臓への負担が大きくて、途中でやっぱ無理ですってなって呆れられて嫌われたくなくて。でもやっぱり求められると嬉しいし、触られたら気持ちいいし、いやもうなんて贅沢な葛藤…!そんな気持ちがせめぎ合う中、緊張しつつも少し震える拳で部屋のドアを叩いた。
「失礼します」
「…ああ」
机で書類整理をしていた様子のマルコ隊長は、声をかけると振り向きざまに眼鏡をはずした。レアアイテム、眼鏡…!その場でふらりとよろめきそうになったけれど、なんとかこらえて平静を装う。
か、カッコ良すぎて直視できん…!と机に目を向けると、書類でこれでもかと積み上げられていて、え?ほんとに雑務関係で呼ばれたんじゃなかろうな?と少し心配になった。わたしは一応毎回ちゃんと無駄にキレイなパンツで来てるんだが?意味があるかどうかは別として(どうせそこまで辿りつかずに倒れるし)、まぁ、心意気的なことでね。
食事して戻って来て仕事してたのかな…と、その仕事量が心配になりながら、マルコ隊長に歩み寄る。
「昼間はありがとうございました」
「いや…大丈夫だったか」
「はい」
「…そうか」
「…」
なんか…なんか変。
いつものこう、ギラついた雰囲気がない。
いやあんまり押してこられても困るは困るんだけど。なんだか物足りないと思えるのは、少しずつでも慣れて来たおかげだろうか。
マルコ隊長のそばまで来ると、いつもみたいに立ち上がって抱きしめられたり抱き上げられるなりしてベッドに移動してイチャコラするんだろうかという3割期待7割緊張くらいの心持ちで、体が勝手にこわばった。
しかし、そんな考えとは裏腹に、マルコ隊長は椅子から腰を上げることもなく、少し考え事をしてるようなそぶりを見せ、呟くように口を開いた。
「……名前は、」
「…はい?」
「………」
「………」
「………や、なんでもないよい」
「?」
なんでもないこたなくないか???
頭の中は疑問符だらけである。
この空気感何?!どうしたらいいの?
グルグルと考えていると、マルコ隊長はすまなさそうにふっと笑った。
「わざわざ来てもらって悪かったな、…ちょっと顔が見たかっただけだよい」
「…」
頭をポンと撫でられる。すき。
………いやいやいやいや本当にどうしたの?今日何?!まぁこれはこれで萌えだけど!にしても!
なんだか納得いかない気持ちでマルコ隊長の前の書類の山を見つめた。
と、そういえば。
「…マルコ隊長、そういえば」
「ん?」
「……………あの、エースに、バレました、ごめんなさい」
あんなにまだみんなに言えないとか言っといて…!こんなにあっけなくバラしてしまってなんかもう恥ずかしいし申し訳ないしとにかくごめんなさいの気持ち…!
「…ああ、」
「でも、とりあえず知ってるのもエースだけみたいで。なんか、勘でわかった、って言ってたんで…」
「…」
「なんかどっかで見られた、とかいうわけじゃなくて、言いふらすとかもないと思うので、その、、、、」
申し訳ない気持ちで視線を伏せると、マルコ隊長が息を吐く気配がした。
「気にすんなよい。エースについては…まぁ、心当たりも、多少ある」
「…?」
「大体バラしたくないって言ってるのはオレじゃなくて名前だからな?」
確かに…!と思い顔を上げると、マルコ隊長に意地悪そうな笑みを向けられ、少しホッとした。
「オレは別に言いふらしてもらってもいいんだが?」
「え!え、えーと、、、」
「…わかってるよい。待つっつったろ」
「…す、すみません…ありがとう、ございます」
ありがたいやら申し訳ないやらの気持ちもあれど、それでもエースにバレたことが問題なさそうでホッとする。
ひとつ息を吐くと、マルコ隊長が、じゃ、と言って立ち上がった。反射的に少しだけ身体が後退き、心臓が跳ねる。
「明日は早ぇし、今日は疲れただろう、もう休め」
「……………………?」
な、、、、なんて???
え、本当に?今日これでおわり?
「部屋まで送ってってやりてぇが、まだ時間も早いしな。見つかると困るだろ、…帰れるか?」
「……子どもじゃないですし、平気です」
ちょっとだけ不服そうな顔をしてみると、マルコ隊長は笑ってもう一度わたしの頭を撫でた。すき。
「気をつけろよい」
「はい、…………おやすみなさい」
そうして扉は、無常にもバタンと閉じた。
………拍子抜けすぎるんだが?!??
そんなことある?!?!
今日チューもしてない!!!!!
えーいもうぶっちゃけるけど期待してた!正直期待してたのに!え、わたし何かした?!?!
落胆と安堵と混乱で、わけがわからない。
ただただ自分がショックを受けていることだけは確かで。
とはいえもう一度その扉を叩くほどの勇気もなくて、大困惑の中、仕方なく帰路を辿ったのだった。
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