続きもの(恋の病/マルコ)
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付き合うって何だっけ、
結局わたしたちはどうなったんだっけ?
わたしが死を覚悟した日から早数日、マルコ隊長との接触が全くないんですけれどももしかしたらあれらは全部わたしの欲望が見せたゆめまぼろしだったのでしょうか…?
もともと朝食の時間を(一方的に)合わせることでチラ見できる程度の接触頻度だったのだ。マルコ隊長はここのところバタバタしているようだし、そんななか自分から話しかけにいけるはずもなく。
そもそもわたしたちの関係性は一体…?
両想いイコール、付き合っている…に、なるのか…?
とはいえ関係性が周囲にバレてもいいのかというと、それはそれで船内外の女性陣からの視線が怖過ぎるから答えはNOである。それにそもそも自分自身マルコ隊長と釣り合いが取れてない自覚があり過ぎて、大っぴらになんてできそうになく。となると今後どういう風に関係を続けていけばいいのだろうか…。というか本当にあれは現実だったのか…?
甲板の隅で武器を研ぎながら、延々とそんなことを考える。
戦闘要員としては大して役に立てていないと自負しているものの、腐っても海賊である。一応小型の銃と小剣を常に持ち歩いていて、自分の身を守る程度の能力は持ち合わせている、と思う。まぁ怪物揃いのこの船では下から数えた方が早いくらいの強さではあることは間違い無いけれど。
その滅多に使わない小剣を、まとまらない思考を繰り返しながら一心不乱にシュッシュと研いでいると。
「——よォ」
声とともに、手元が暗くなる。
顔を上げれば、逆光の中に見慣れた顔が見えた。
「エース…。なんか久しぶりだね」
屈託のない笑顔を見せるその男は、この船内では気軽に会話ができる貴重な存在で。そんな彼はニッと笑いながら、隣にドカリと腰を下ろした。
「いや〜〜〜〜〜〜ここんのとこ任務でアッチコッチ忙しくてよォ」
「オヤジのシマ荒らしてるとかいう海賊の件?」
「おォ、聞いてたか。単独犯かと思ってたが、同時に複数のシマで諍いが多発してっから、たぶん組織的なモンじゃねェかって話だ」
「はぁ…それで他の隊も忙しそうなの?」
「あァ、マルコんとこと、ラクヨウ、あとハルタんとこもこの件で急ぎで遠征に出てる」
「………へぇ〜」
だからか。どうりで最近見かけないはずだ。
心配な気持ちと、一言くらい言ってってくれてもよくないだろうかというモヤっとした気持ちがよぎる。
いやでも実は全てが夢だった説もまだ捨てきれてないからな?
己の記憶すら信用できず思案していると、エースがぽつりと口を開いた。
「お前さァ、」
「…?」
「…マルコとなんかあった?」
「………………」
沈黙のち、困惑。
「え?!あ、いや、なんで?」
「いや〜アイツさ、最近なんか機嫌が良くてよォ」
「…悪いよりいいんじゃん?」
「いいんだけどよ、原因を聞いても答えねぇモンだから」
そこでなんでわたし??と聞いてもいいんだろうか。知らないフリしてそんなこと聞いて、あとでバレたら最高に恥ずかしいのでは…?
と、そんなことをチラリと考えたが、好奇心に負けて口からするりと出てしまった。
「で、なんでわたし?」
「そりゃあお前…」
わたしのほうをパッと顔を向けたのち、エースはバツが悪いような顔になって。
「いや、何もねェならいいんだ、悪ィな」
「なにその気になる濁し方。…………マルコ隊長、機嫌、良いの?」
「あァ、気持ち悪ィくらいにな。なんかあるなら今のうちに行っとけよ。ちょうど今日あたり戻ってくる頃だろ」
そう言うとエースは立ち上がり、ひらひらと手を振り去っていった。
ま、お前ならいつでも歓迎だろうけどな、という呟きは、諸々考え込み中のわたしの耳には、終ぞ届くことはなかった。
その夜、わたしは未だかつてないほどに勇気と気力を振り絞った。
通路にはポツリポツリと火が灯り、船内をうろつく人も減った夜半過ぎ。隊長クラスの部屋が並ぶエリアをコソコソと移動する姿は、挙動不審者としかいえないだろう。その目的は、もちろん。
(マルコ隊長、いるかな…)
普段の自分なら絶対にしないであろう行動だったが、わたしの記憶が願望からの捏造でなければたぶん一応両想いのはずであるし、しばらく会えてないし、まぁちょうど他の隊長の部屋への届け物もあったからそのついでというか…。
あれやこれやと理由や言い訳を浮かべてはいるが、つまりは単純にマルコ隊長に会いたいし顔が見たかったのだ。
(でもそんなの恥ずかしすぎるから、一目顔が見れたらそっと帰ろう…)
そして張り込むこと数十分。
不審者だと思われないように、人の気配がするたびに物陰に隠れるのもしんどくなってきた頃。
通路前方から独特の喋り方をする声が聞こえて、物陰からチラリと顔を覗かせ、、、———瞬時に再度物陰に身を潜めた。
(……?!)
心臓は痛いほどにドクドクと波打ち、脳は今見たものの処理方法が分からなくてフリーズしている。
それはデジャヴかなとも思える光景だった。
マルコ隊長と、ナースの女の子。
いやでももしかしたら任務中にケガとかしたのかもしれないし何か用事とか事情があるのかも…と再度チラリと顔を出してみる。内容までは聞き取れないが、何か話している様子だった。そしてそのまましばらくその様子を伺い……………、見なければよかったと、心底後悔した。
マルコ隊長とその腕に自身の腕を絡めたナースは、連れ立ってマルコ隊長の部屋に消えたのだった。
その後どうやって部屋まで帰ったのかはほとんど記憶になく、無事部屋まで帰れたことを誰かに褒めてもらいたいくらいだ。
夜中ベッドの中で悶々と考え続け、出てくるまで見張ってればよかっただろうかとも思ったけれど、もはや後の祭りで。というか朝まで部屋から出て来なかった場合、わたしはその場で死んでいたかもしれないからやっぱり部屋に戻ってきてよかったのかも。
きっと何か事情があったのだろうと思いたい気持ちと、結局自分になんか本気じゃなかったのかな、数いるうちの一人だったのかなと思う気持ちと。いやでも数いるうちの一人になれただけでもすごく貴重な体験だったのではないかと変な方向に自分を励まそうとしてみたけど、やっぱり沈んだりもした。
遠征に出ることも知らされず、帰船後一番に部屋に招き入れたのも別の女の人で。
眠れるはずもないその夜は、果てしなく長いように感じた。
そして翌朝。
夜通しグルグルと同じことを考え続けた結果、何をどう考えても結局行き着くのは同じ結論だった。
それはつまり、わたしのターン終了のお知らせということ…。
いやでも待って。ないとは思う、ないとは思うけど、マルコ隊長が両方キープするつもりのクソ野郎だったら…?
寝不足のせいもあり、もはやとっ散らかった思考に収拾がつかない。振られるのも嫌だけど、キープされるのも嫌だな…なんて考えながら顔を洗っていると、鏡にはとんでもない顔をした自分が写っていた。
目の下の隈がかつてないほどその存在を主張している。今日が非番でよかった、と心から思った。もう今日は部屋に引き篭もろうそうしよう。
が、それでもお腹は減るもので。
そんな自分にややにガックリしながらも、食事の時間を避けてこっそりと食堂へ向かう。
ドアを開けてチラリと中を伺う。よし、前方オッケー、左右オッケー。ガラガラの様子にホッとしていると、後ろから突然話しかけられた。
「よォ名前、マルコ隊長が探してたぜ」
「え?!あ、ええ?!」
「おいお前、何だァその顔?!」
「え?あー、ちょっと寝不足で」
「大丈夫か、っと、おお、ちょうどマルコ隊長が、」
そう言いながら船員の男が片手を上げかけたとき、というかもはやマルコ隊長の”ル”あたりで足が勝手に走りだした。
(この感じ久しぶり…!)
「…あ、オイ名前?!…………どうしたんだアイツ…」
———やってしまった。
久しぶりにやってしまった。
息を切らしながらようやく自室にたどりつき、そのままフラフラと自分のベッドに座り込んだ。
だってどんな顔したらいいのかわからなかったから。昨晩のこともまだ処理できてないし、他の船員の前でマルコ隊長とどう接したらいいのかもわからなくて。ヒィなにこれ思春期…!?
そんなこんなでご飯も入手できず仕舞いで、お腹も減ったしさっきの失態も情けないしで、なんだか泣きたくなってきた。
そんな時は、もう寝てしまおうそうしよう。
昨晩寝てないからきっと寝れるはず。現実世界がつらい時は夢の世界への逃避行を決め込むに限る…と、横になり布団にくるまった、その時。
コンコン、とノックの音が響いた。
「名前、いるかよい?」
ずっと聞きたかった、けど今はどちらかというと聞きたくなかった声が耳に飛び込んできて、思わず飛び起きてベッドの上で正座になる。
反射的に返した声は、わかりやすく上擦っていた。
「は、はい!」
「………今夜、部屋に来てくれるか」
「え?!あ、はい、」
低く掠れた声はドアの外から短くそれだけを告げ、その気配は去っていった。
(お、思わずはいって言ってしまった…!)
まだ全然脳内が整理されてないのに。
そもそも夜って何時?!夜に部屋に行くってどういうことそういうこと?!?!
困惑に次ぐ困惑。……………とりあえず新品の下着をおろしておこうかな。念のため。
悶々と考えが一つもまとまらないまま、それでも時間は過ぎていき、あっという間に夜の帳が下りた。あんまり遅い時間に行くのもな、と思い、夕食後しばらくしてからマルコ隊長の部屋に向かうと、かすかに漏れた明かりから部屋にいることがわかった。
一気に緊張が走る。
できるだけ足音を立てずに部屋の前まで行き、深呼吸をして、いざノックを…!と思っているのに、一向に勇気が出ない。
一度目を閉じてから、もう一度深呼吸をする。
ノックのために握りしめた手に力が入る。手汗がヤバい。自分の記憶が正しければ多分おそらく一応両想いのはずなのに、その相手の部屋に入るというだけでこんなに緊張することがあるだろうか。いやでも今夜でその両思いが終わる可能性もあるな…ああ、ちょっと逃げたくなってきた。
しばらく立ち尽くしたままグルグルとそんなことを考えた後、覚悟を決めてドアを叩いた。
キィ、とドアが開き、頭上から「入ってくれ」と声がする。見上げなければ見えない位置にあるその人の顔を、チラリと仰ぎ見て、そして小さく頷いた。
「ったく、いつまで部屋の前で待ってるのかと思ったよぃ」
部屋に入ると、マルコ隊長は半分面白そうに、半分呆れながら笑ってそう言った。
いつもとは違う、2人だけのときに見せる砕けた表情にホッとしたのも束の間、マルコ隊長の笑顔の意味を理解してハッとした。
(そうか、気配で丸バレか…!!!)
めちゃくちゃ恥ずかしい。ドアの前で無駄に悩んでいたのも全部筒抜けだったらしい。なら声かけてくれればいいのに…。
「悪かったよい、どうするのか気になってな。つーか名前から来てもらいてェなと思ってよい」
顔に出ていたらしく、マルコ隊長がなお笑いながらそう告げた。
まぁ座ってくれと促され、簡素な椅子に腰掛ける。マルコ隊長はベッドに腰を下ろし、ベッドとマルコ隊長という組み合わせになんだか艶っぽさを感じてというか色々思い出してしまい思わず目を逸らしてしまった。ど、どエロい…!
いやこの場合どエロいのはわたしの思考か…!
「あー、久しぶりだな」
「あ、はい…あの、任務お疲れさまでした」
「聞いてたか…。急な任務で、何も言えず船を離れることにちまって…悪かったよい」
「あ、昨日、エースから聞いて…。それまでは、なんでいないのかなとか、忙しいのかなとか思ってました」
「あー、急にオヤジから呼び出されてな、………」
ああ、久しぶりのマルコ隊長。
改めて見ても好きすぎる。マルコ隊長の自室に二人きりでマルコ隊長がわたしだけに話しかけて…って、未だに現実感がない。
会えなかった期間になんかもう全部夢だったのかなとか思い始めてたから、……なんだろう、なにこれ何この状況。やっぱ夢???
マルコ隊長がたぶん今回の任務について話してるっぽいけど何も頭に入ってこなくてひたすらにそのご尊顔を凝視してしまう。…ああ、こないだあの唇と…。って思い出すとヤバい。落ち着け忘れろ素数を数えよう……………
「〜〜から、何も言えないままで、悪かったよい。………………って、名前?聞いてるかよい」
「………!?す、すみません…久しぶり過ぎて見惚れてたら何も入ってきませんでした、ごめんなさい…。」
「お前………相変わらずだねぃ…」
マルコ隊長は苦笑いで溜め息を吐いた後、改めてわたしを見て目を細めた。一拍ののち、フと微笑む。
「名前に会いたかった、って話しだよい」
「………?!??!?!?」
直球ストレート豪速球キタ———!!!!
なにそれ!なんて返したら?!わたしも♡とかなんとか言うべきだろうか…………いや無理ィイイイイ!ていうか録音!逃した!!!
情報処理が追いつかずアワアワしていると、マルコ隊長が笑みを深めてベッドから腰を浮かせた。
(アカン近づいてきた…!!!!)
一歩、また一歩と近づいてくるにつれ、動悸が尋常でなく早くなっていくのを感じる…。
いやかっこよ…!このめっちゃ素敵なグッドルッキングガイ(中身ももちろんグッドだけど)がわたしのことを、ってどんな奇跡?わたしってば前世で徳積みまくったんだろうか。いやでもそれも今日で(以下略
「名前」
名前の!呼び方!好き!
…じゃなくて。
とりあえずなにか喋らねばと思い至る。
「あ、あの!えっと、遠征は、大丈夫だったんですか?その、ケガとか…」
咄嗟に出た言葉に、マルコ隊長の歩みがわたしの目の前で止まった。
「ああ、ケガするほどのこともなかったよい」
「………どこも?」
「ああ、全然、どこも」
「………だれも?」
「…?ああ、オレらの向かったシマでは、大した諍いも無かったしな」
「……………」
じゃあ、昨夜のナースは、なに?
「…?名前、どうかしたか」
「………」
マルコ隊長が怪訝そうな顔でこちらを覗き込む。
聞きたい、けど、何から切り出していいのかもわからない。
「昨日の夜、帰ってきたんですよね。」
「…ああ」
「早く、会いたかったです…」
「ああ、悪かったよい、オヤジへの報告やらで立て込んでてな、」
…ああダメだ、こういう駆け引きは向いてないんだ。
直球ストレート以外投げられないのだからしょうがない。
「マルコ隊長、昨日の夜、実は、……マルコ隊長の部屋の前で張りこんでたんですけど」
「…?!」
「帰ってきたって聞いて、会いたくて………」
「名前…」
「でも、その、見ちゃって」
マルコ隊長とナースの子の逢引きを、とは、泣いてしまいそうでとても口に出せなかった。
マルコ隊長はわたしの言葉に一瞬クエスチョンマークを浮かべたように見えたが、すぐになんのことか分かったようだっだ。
「あ、いや、名前アレは、」
マルコ隊長が言葉を紡ぐより先に、わたしの視界がぼやけて歪んで、喉の奥が痛くなって。きっと否定の言葉を続けようとしているだろうマルコ隊長に、なんだか腹も立ってきて。
自分の意思に反して、頬を熱いものが伝った。
泣き顔なんて見せたくなかったのに、なんだかもうヤケクソな気分になって口を開けば、堰を切ったように気持ちが言葉になって溢れた。
「わたしと、マルコ隊長の感覚は違うかもしれないけど、でも、だから、ちゃんと伝えておきたくてですね、…わたしは、マルコ隊長が女の人と自室で2人きりなのは、嫌です…。前は、マルコ隊長を見てるだけでよかった頃は、それもしょうがないと思ってたけど、今は…、マルコ隊長のことは人としても尊敬してるし大好きですけど、数いる相手のうちの一人とかじゃ、もう、やだ。こんなこと言う資格ないのもわかってますけど、わたし以外の人なんて、見ないでほしい…。で、でもやっぱり、マルコ隊長はそういう関係がご希望なのであれば、やっぱり遠くで見てるだけの方がよかったって、思いたくなくても思っちゃうし、…マルコ隊長が二人の時だけ見せる顔とか、半分呆れて笑う顔が好きとか、知っちゃったから余計につらいし、…………ああもう、こんなこと言うはずじゃなかったのに、もう、好きでしんどい…」
溢れてくる感情がそのまま全部言葉になって流れ出てきてしまう。
こんな駄々っ子みたいなこと、言いたいわけじゃないのに。両思いにならなければよかったなんて、思ってないのに。当てつけのような言葉がスルスルと出てきてしまった。
そこまで捲し立てると、突然体がふわりと浮いた。マルコ隊長に抱き上げられたのである。
いやアレどういうこと?!わたし今結構な勢いで難癖つけてたんですけど?!
「…え?」
突然高くなった視界に驚いて言葉をなくしているうちに、マルコ隊長はわたしを抱えたままつかつかとベッドサイドまで歩みをすすめ、それはもう宝物を扱うかのようにふんわりと優しくわたしをベッドに下ろした。
「…な、なん、」
突然何ですか、と言おうと顔を上げると、言葉を発する間もないほどに、瞼に、頬に、耳に、そして唇に。キスの雨が降ってきて。
ちょっと、こんなんで誤魔化されないんですからね、と反論しようとしたけれど、唇を開くとすかさず熱いナニカが滑り込んできたため、んぅ、とくぐもった声しか出なかった。いや、んんんん?!?これはもしや…?!?!
その熱を帯びた未確認物体はわたしの舌を絡め取り、歯列をなぞり、甘噛みされたり吸われたりと、比喩などではなくそのまま食べられてしまうのではないかと思った。わたしが知るソレとは全然違くて、えー、つまりとりあえず死にそうです。
抵抗する気も失せ(どちらにしろ力では敵わないし)、されるがままに翻弄されて、ようやく解放されたと思ったら。
マルコ隊長がそのままのしかかって倒れてきた。
「ちょ、おも!!」
その体格差により些細な抵抗も功を奏さず、マルコ隊長に押し倒される形でベッドに倒れ込む。すんでのところでマルコ隊長が己の腕で体重を支えてくれなければ、押し潰されるところだった。危ない。
「っぶね、我慢がきかねェところだった…」
「…?!」
「遠征遠征で全然会えねェし、久しぶりに会ったら何するか自分でもわかんねェから、これでもめちゃくちゃ自分を抑えてたっつーのに…。名前がそんなかわいいこと言うもんだからよぃ」
「…?!」
何言ってんだわたしの推しはカッコいいのにめちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!!!!
…と思ったらマルコ隊長の笑みを湛えたお顔が近づいてきて、もう一度唇が重ねられた。
今度はゆっくりと、深くまでマルコ隊長が入ってきて、さっきとは違う静かで深いキスにまたもや意識を失いかけた。危ない。
いや待って誤魔化されんぞ?
息継ぎのタイミングで頭を逸らし、無駄な抵抗とは思いつつもその厚い胸板を押し返した。
「わ、わけがわかりません、…そんなことで誤魔化されないんですからね」
「っと、悪ィ、ちゃんと全部説明するよい」
あ、忘れてた、というような表情でマルコ隊長は起き上がり、なんとわたしを足の間に座らせた。いやいやいやいや全然落ち着かないんですけど?!?!?!
マルコ隊長が話すたびにそのハスキーボイスが後頭部に響いて死にそうなんですが???
腹部にはシートベルトの如く2本の逞しい腕が回されていて、もう、今日が命日になりそう。
そんなこんなで全然話が入ってこなかったので、結局隣に座り直させてもらって、なんとか話を理解した。
つまりはこういうことだ。あのナースの彼女はわたしたちの関係に勘づいていて、マルコ隊長に真偽の程について詰め寄ったらしい。
(…いやでも自室に連れてく必要ある…?)
「これは、あー、結局後付けの言い訳みたいになっちまうが…。名前とのことに余計なチャチャを入れられたくなかったというか…オレの方で揉み消しときたかったんだよい…それは、悪かった」
…なるほど。誰かに見られて冷やかされたり、話の内容を聞かれてわたしたちのことがバレたりする可能性があるので個室に入った、と。そんでそれはたぶん周囲バレすることによってわたしが色々気にするだろうから、と。よくわかっていらっしゃる…。
「オレとしては、牽制も兼ねて言っちまいてェとは思うが、たぶん名前はそうじゃねェだろぃ?」
「………」
重ね重ねよくわかっていらっしゃる。
でもマルコ隊長が、わたしとのことを隠さず言いたいと思っていてくれることがなんだかとても嬉しくて。いやでも普通に牽制とかはいらんと思うけどね?
「……ごめんなさい…そう思ってくれてることは、すごく嬉しいです。でも、あの、もうちょっと………」
もうちょっと、自信が持てたら。
マルコ隊長の隣にいる自分を好きになれたら。
「もうちょっとだけ、待っててもらってもいいでしょうか…」
尻すぼみ気味にそう問うと、マルコ隊長は何もかもお見通しかのように優しく笑った。
「…ああ、わかったよい」
ああ、この人が好きだなぁ。
マルコ隊長のその笑顔を見てたら、なんだか泣きたくなってきた。
どうしたらこの気持ちを100パーセント伝えられるだろうか。その心遣いが、こんな自分に歩調を合わせてくれるマルコ隊長が、本当に泣きそうなくらい、こんなに好きだと、どうしたら伝わるかな。
———よし。
優しく微笑むマルコ隊長の眼を見て、腹を決めた。
マジで心臓が止まる5秒前の状況下もなんのその。
マルコ隊長の、唇に、自分のソレを当ててみた。
人はそれをキスと呼びます。
とはいえ触れた唇は一瞬で離れ、恥ずかしさのあまりマルコ隊長の胸に顔を埋めさせていただいた。さっきもしたというのに、自分からするキスというのは、こんなに勇気がいるものだったろうか。
ああ、今マルコ隊長はどんな顔をしているだろう。
ただマルコ隊長の表情を見たい気持ちよりも、恥ずかしさとか真っ赤であろう自分の顔を見られたくない気持ちの方が強いことだけは確かだった。
しかしマルコ隊長の反応を待つ沈黙がつらすぎる……。こうなったらもう勢いのままよ。言いたいこと全部言っとこう。
「…マルコ隊長。…………ほんとに、ほんとに、ほんとに、…好きです」
「………」
「わたしこんなんですけど、でも、本当に、マルコ隊長が好きなんです…」
「名前…」
「…その、めんどくさくて、重くて、本当それは、ごめんなさい…。」
「…オレは、そのままのお前が、いいんだよい」
マルコ隊長の手が背中に回されて、互いに抱き合う形になった。
ああもう、幸せ過ぎる。あとなんかいい匂いもする。
「………名前、」
「……?」
「この状況でその言動っつーことは、…………いいのか?」
何が、と思うほどわたしも場数を踏んでいないわけではなくて。
「……!!!!」
思わず両手を上げて身体を離し、そして咄嗟にそんな行動をとってしまったことに慌てふためく。
「いや、違くて!嫌だとかじゃくて!ただ、その、あの…」
…やってしもうた。
嫌ではない。決して嫌ではないのだけれども。
「………決して、決して嫌ではないんです。それはもう断じて!………………なんですけど、心意気的にはそうなんですけど、……でもたぶんその、マルコ隊長との接触自体が久しぶりだし、たぶんまぁ間違いなくいつもの展開になりそうで…」
「………」
「だから、その、久しぶりに会えたし、できるだけ長くマルコ隊長と、こう触れ合ったり…?声を聞いたり、したいので…………」
「今日はこのまま、ただただ一緒にいてもらうことはできませんでしょうか………?」
わかってる、生殺し的なことだよねそうだよね…!
どどどどうしようマルコ隊長怒るかな呆れるかな…?!
そんなことを思いながらマルコ隊長の顔をチラリと仰ぎ見ると、何故か額を押さえていた。
「マ、マルコたいちょ」
「………お前はほんっとに…」
はぁあああああ、とながーい溜め息を吐いたのち、マルコ隊長は額を覆っていた手で髪をかき上げた。ヒィ!すき!もう一回お願いします!!
「煽りにしかなってねェんだよい、いい加減自覚しろい…!」
「すすすすすすみません…!」
マルコ隊長は、不機嫌そうに再度溜め息をつくと、
「……わかったよい。今日のところは勘弁してやる。」
「マルコ隊長…!」
なんて男気!!!と思ったのも束の間。
見れば、意地の悪い笑みでニヤリと笑い、
「………キスまでは、いいんだよねい?」
「え」
その夜、私は初めて服も脱いでないのにキスだけでこんなにどエロいことあるんだ…という経験をしました。そして結局日付が変わるのを待たずに意識を手放しました。おわり。
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