続きもの(恋の病/マルコ)
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薄ぼんやりした意識の中で、肌に感じる温もりに違和感を覚える。恋人なんて久しくいなかったし、作る気すら起きなかったはずなのに。
そんな疑問を抱きながらうっすら目を開けると、好みどストライクの端正なお顔立ちが至近距離で視界に映り込み、一瞬頭が真っ白になったのち、一気に全てを思い出して朝っぱらから血の気が引いた。
「名前、おはよう」
「…マ、ルコ、隊長…。おはよう、ございます…」
目の前の想い人は、初夜の翌朝かな?っていうくらい蕩けた瞳で微笑んでくれているのだが、初夜どころかキスもできずに失神した翌朝である。一切合切を思い出した名前としては非常に居た堪れず、咄嗟に視線を逸らしてみたものの、肌が触れ合ってる感じでおそらく上半身は裸であろうと思われるその人の、どこを見て良いのかもわからず視線を彷徨わせた。
どこを見てもマルコ隊長のどこかしらが目に入ります眼福眼福…!…じゃなくて。寝起きでこの状況とか刺激が強すぎて眩暈がしそう、というかすでに心拍数が異常値を叩き出している。
何を口に出せばいいのかもわからず頭の中でそんなことをグルグルと考えていると、目の前のその人がゆっくりと口を開いた。
「名前、昨日…」
「あの、はい、すみません…連日ご迷惑おかけして…」
見覚えのある部屋の内装に、おそらく昨日もまた意識が飛んだ名前をマルコ隊長が自室に運んでくれたのだろうと思い至り、すかさず謝罪の言葉を述べた。
申し訳ない気持ちでチラリとその顔をうかがえば、パチリと目が合い、マルコ隊長は嬉しそうに口角を持ち上げた。上司としてでも、同じ船に乗る同士としてでもない、おそらく特別に好意を抱いた相手にしか見せないであろうその表情に、ときめくやら切ないやらで心臓がぎゅうっとする。ああもうかっこいい上に可愛過ぎやしないか…?!ああああもう!好き〜〜!!
今まで見てきたどの表情とも違うその顔は、わたしの心臓を鷲掴みにした上にぐわんぐわん揺さぶっている。ああ胸が苦しい。
けれどマルコ隊長のその顔が自分自身に向けられているということが、どうにも現実味に欠けていて。実はさっきからフワフワと落ち着かず、長い夢を見ているのではないかと未だにやや疑っている自分がいる。
とはいえこの至近距離。自分の寝起きの顔とか息とか色々気になりすぎるし、そもそもマルコ隊長がかっこよくて好きすぎてもういろいろ耐えられそうにない。視線をどこに向けて良いのかもわからなくてさっきから永遠にマルコ隊長の首から鎖骨と大胸筋にかけてを凝視しているわけだけど、そろそろ限界が近づいている。
(そして間近で見る喉仏の動きが非常にセクシーであることを心のマルコ隊長観察日記に書き記しました)
よし、一旦この状況からの脱出を試みよう。
「マルコ隊長…あの、えと、お、起きますか?」
「ん?あァ、」
頭の上でクスリと笑う気配がして、
「もったいないからねぃ…もうちょっと…」
あえなく撃沈。そして名前を抱きしめている腕に少しだけ力が入り、片手で髪を撫でられたかと思ったら、その頬が名前の頭に摺り寄せられた。
「マママママママルコ隊長!」
「ん?」
この「ん?」の言い方がもう恋人のソレなんよ…!普段と全然違くて、甘くてどエロくて本当にごちそうさまです…!
ダメだ、マルコ隊長の言動全てがクリティカルヒットでわたしのHPはほぼゼロよ…!逃げるコマンドは失敗したけど、なんとか防御くらいはしないと昨日一昨日の二の舞になってしまう。
「あの、………ちょっと体の向きを変えさせていただいても…?」
「………」
「…いやあの、違くて。ええとですね、マルコ隊長が今日も今日とてカッコ良すぎて刺激が強すぎるっていうか、せっかくなのでわたしもこの機会を倒れずに乗り越えたいっていうか…そう言った前向きな意味でですね、ちょっと背中を向けさせていただけたらわたしの心臓にやさしいかなと…」
誤解を生じさせないようにと早口で捲し立てたものの、それはそれで言い訳めいて聞こえるのではないかとか、コミュ障っぷりが露呈してしまったのではないかとか、いろんなことが気になって、喋ったそばから後悔が押し寄せてくる。マルコ隊長といる時は、本当に自分で自分を制御できないから困ってしまう。
ただ昨夜、マルコ隊長に思いの丈を伝えた際に、一つだけ決めたことがあって。いかんせんマルコ隊長との接触に制限(失神やら緊張による逃走やら)が多いので、言葉でだけは気持ちをきちんと伝えようと決めたのだ。
いやでもやり過ぎたか…?!かっこいいとか好きとか言い過ぎると軽くなるかな?いやもう全然わからない、「好き」の適切な用法容量ってどれくらい?!何この悩み思春期?思春期なの?
己のことでいっぱいいっぱいの名前は、マルコがフと笑みを漏らしたことにも気付かなかった。
「名前は…目を合わせないほうが、落ち着く?」
「…え?!えー、そう、ですね…うーん、、、目を合わせないっていうか…マルコ隊長のことはずっと見ていたいんですけど、自分がマルコ隊長に見られてると思うと…恥ずかしいやら緊張やらマルコ隊長がカッコ良過ぎるやらで、、、、ぎゃーってなります」
「…ぎゃー…」
マルコ隊長がこんな自分の意を汲んでくれようとしてくれることが嬉しいやら申し訳ないやらで。でもやっぱり嬉しくて。
できるだけ自分も真っ直ぐ好意を伝えたい、その上で倒れるならそれはそれで仕方ない。いやだってこればっかりは頑張って何とかなるものではないのでね?半裸のマルコ隊長が目の前にいる状況で意識を保てている自分を誰か褒めて頂きたい。
「…正直この状況も夢みたいでずっとフワフワしてて、…脳内の整理が全然追いつきません…」
「………」
「こんな至近距離でマルコ隊長の顔を見続けてたら、好きすぎて心臓が止まるかもしれないですし…」
「………」
「ていうかすでにもう、ドキドキが限界突破しそうなんですけど…」
「………」
「……マルコ隊長?」
今度はマルコが顔を逸らす番であった。
昨日までは逃げ回ってた名前を自分の方が追いかけていたはずなのに、突然こんなに甘い言葉がポンポン出てくるのはどういう心境の変化だというのか。先程まで必死に顔を隠していたかと思えば、上目遣いでこちらの反応をうかがってくるのその様子は、このまま全て自分のものにしたくなるほど愛おしくて。
比較的理性的な人間であると自負しているはずのこの自分が、名前の言葉にこんなに簡単に翻弄されるとは。理性はどこいった理性は。思春期じゃあるまいし。
「…いいよい、向き、変えて」
「……すみません、それじゃあ、失礼して…」
そろりそろりと体を動かす名前。身体を180度回転させてマルコに背を向けると、シャンプーの香りだろうか、名前とすれ違うときにたまに香る、甘過ぎず透明感のある香りがふんわりと鼻腔をくすぐった。
ああ、と思うと同時に、激しい衝動が押し寄せる。
ようやくこの手につかまえることができた、いつもするりと逃げてしまう彼女を、抱き寄せて、キスして、触れて、そうして…。と思うけれども。
まだその時でないことだけはわかるから、名前の後頭部に顔を埋め、その柔らかい身体に手を回して、軽く抱き寄せる程度にとどめた。名前が抵抗しない(というか緊張しすぎてそれどころでないだけなのだが)ところをみると、これくらいならきっと許されるのだろう。
「マ、マルコ隊長…」
「ん?」
人間というのは欲深いもので、ひとつ許されたと思うと、さらにその次が欲しくなってしまう。
何か言いたげな名前にかまわず、そのまま真っ赤になっている耳元にキスをひとつ落としてみる。
「ひゃあ!な、え、マルコ隊長!?」
「なんだよい」
存外に艶っぽい声が返ってきて、その反応に口もとが緩んだ。気を良くしたまま、右手で名前の髪を掬い、梳きながらよける。そして露わになったその首筋にも軽くキスをしてみた。
「や、マルコたいちょ、」
「…ふ、可愛いねぃ、名前」
ちゅう、と音を出して軽く痕をつけてみる。怒るだろうか?…しかし名前に怒られてみるのも、それはそれで悪くないと思えるから不思議なもので。
自分の前では緊張してばかりの名前の、もっといろんな顔を暴いてみたい。そんな意地の悪い気持ちがムクムクと湧き上がる。
「やぁ、も、無理です、」
「煽ってるようにしか聞こえないねぃ」
「マルコたいちょ、」
「名前、上向いて?」
「…?!む〜り〜で〜すぅ〜〜〜」
これからされるであろうことを察したのか、両手で真っ赤な顔を覆う名前の声は涙で震えていて、どうにもマルコの嗜虐心をくすぐった。
(どう考えても煽ってるよねぃ…)
本人にその自覚はないのだとしても。
ここでやり過ぎて一歩前進がパァになるのは本意ではないので、湧き上がる欲情をグッと堪えて、右手で優しく名前の手を包み込んだ。
「名前、顔、見せて…?」
その華奢な手をそっと顔から剥がすと、思った通りの顔をした…頰を紅潮させた名前が、潤んだ瞳に涙を溜めてマルコへと顔を向けた。
ゾワリの背筋が粟立つ。このまま名前を自分のものにしてしまいたい、そんな衝動を抑えながら、微笑みを浮かべてその小さな顎に指をかけた。
一瞬目を見開いた名前の反応を待たないまま、その形の良い唇に自分のソレを押し当てる。硬く引き結ばれた唇は想定内であったものの、やはり多少おもしろくない気持ちもあり、名前の唇をペロリと舐めてみる。
「?!?!」
その瞬間、ぎゅっと閉じられていた名前の瞳が大きく開き、彼女の意識が失われていないことがわかった。正直また気絶されることも織り込み済みでの行為だったのだが、思わぬ収穫に笑みが漏れる。名残惜しみながらも重なった唇をゆっくりと離すと、名前は真っ赤な顔でぱくぱくと口だけを動かした。
「…キス、できるようなったねぃ」
「〜〜〜〜!!!!!」
「ゆっくり慣らしていくのも楽しいもんだねぃ」
「?!?!」
どこがゆっくり?!と言わんばかりの名前だが、混乱やら恥ずかしさやらで言葉が出てこない様子だ。代わりにまた背中を向けてそっぽ向いてしまったので、マルコは再度その身体を抱きしめて、その後頭部に顔を埋めた。
その様子は、間違いなく恋人同士そのもので。
「…名前?」
「………」
「怒ってるかよい」
「ちが、違います!」
「嫌だった?」
「い、イヤなわけないです!けど…でも、、、」
未だに耳まで真っ赤な名前が、ボソボソと小声で呟く。
「……心臓がもちません………というか目を合わせられるようになるまでに、まず1ヶ月を予定してたんですけど…」
「…1ヶ月ってお前…。そんな悠長に待ってられる
「…………」
ド正論の返答にぐうの音も出ない名前は、諦めたかのように静かに目を閉じた。
(このペースだと近日中に死ぬかもしれない…)
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