続きもの(恋の病/マルコ)
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…どうやら夢を見ていたらしい。
幸せな夢。むしろ幸せすぎて死にそうな夢。
自分には分不相応な夢。
あー、夢でよかった、と思いながら目を覚ませば。
見慣れない天井に、寝起きの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。せっかくいい夢見れた余韻に浸っていたのに、ここはどこだ、何が起こったんだ。
ムクリと起き上がれば頭がズキズキと痛み、そういえば昨日は宴だったなという記憶が蘇ってきた。
それにしてもこの広い部屋は一体。
家具の少ないスッキリとした室内をぐるりと見渡して、最後に自分が寝ていたベッドに視線を戻す。
(………………誰これ?)
自分の横で寝ている上半身裸の男。(下半身は布団に隠れていてわからないけど履いていることを願う)
その特徴的な頭部にはとても見覚えがあった。
「………え?」
思わず口から出たその疑問符に、ハッとして口を両手で抑える。…チラリと逞しい背中をうかがうと、かすかに、けれど規則正しく動いていて、どうやら起きてはいないらしいとわかった。フゥ、とため息が漏れる。
しかしこれは一体?どういう状況…?!
改めて寝ているマルコ隊長の様子をうかがう。あー寝顔も素敵過ぎてヨダレが出そう。半裸…!背中から腰にかけてのラインが素晴らしすぎて、これは芸術品として残すべきじゃないでしょうか?
というかこれ布団めくったらどうなってるんだろうハァハァハァハァ……………、じゃなくて。
(…どういうこと?)
いったん事実確認が必要だ。
…よし、わたしパンツ履いてる。体にも違和感無し。たぶん何もなかったやつだと思われる。
それだけ確認し終えると、名残惜しさを感じつつもそろそろとベッドから抜け出し、部屋のドアに向かった。できることなら永遠に寝顔を見ていたいけど、いつ起きないともわからない。途中木の床がギィ…と音を立て、心臓が飛び出しそうになったが何とか堪えた。
音が出ないよう静かにゆっくりドアを開閉し、限りなく小声で「失礼しました…」と呟くと、名前は夜明け前の船内を自室に向かって静かにダッシュした。
さて、状況整理が必要である。
これはもしかしてもしかすると、あの夢が現実だったという可能性が出てきたのではないだろうか。
昨日は宴に参加して、マルコ隊長が隣に来て、逃げようとしたら一緒にお酒取りに行くことになって、それで………………。
(好き、って、)
そう言われた夢を、見たのだと思っていたが。
「現実ってこと…?」
そう自覚すると、一気に顔が火照るのがわかった。
『お前が、好きだよい』
そう確かに言っていた。
名前を見つめる真剣な眼差し。
何度もイヤじゃないか苦手じゃないかと確認された。それも全部、そういうことだったんだなと自覚したら、堪らなくなって叫び出したい気持ちに駆られた。というかまぁ声は多少出た。いやでもしかし。
「…そこから記憶がない…」
昨日はマルコ隊長と会話を交わした時点でキャパオーバーだったから、たぶんそのままわたしの精神は召されてコト切れたのだろう。
…てことは、マルコ隊長が運んでくれたということ…?やややややややややばい恐れ多くて死ぬかもしれない。というか、一晩同じベッドで寝たということ…?
ふと思い至り、徐に自分の服を脱いで匂いを嗅いでみる。ほのかに嗅ぎ慣れない良い香りが鼻腔をくすぐった。
(家宝にします…!)
衣服をぎゅっと抱き締めると、自然に涙が出てきた。マルコ隊長の匂いがついた服。
誰かー!ジップロックジップロック!
興奮が収まらずその服を抱きしめたまま顔を埋めてゴロゴロ転がると、ベッドから落ちて頭を床に強かにぶつけた。その痛みに現実に引き戻され、だんだん冷静になってきた名前の頭に、ある疑問が浮かんできた。
(で、これからどうすれば…?!)
好きだと言われた。
けど、返事は求められなかった。と、思う。
この場合、今後わたしはどうすれば?
というかそもそも自分はどうしたいのだろう。
そう自分に問えば、名前の脳は自然と答えを導き出した。
うーん、まぁたぶん無理だな…。
そう、無理だ。会話するだけでも死にそうなのに、好き…?って?あちらがこちらを好きでこちらもあちらを好きだと伝えた場合、それは両思いってやつでしょ?両思いといえば、あれやこれやにゃんにゃんが発生するじゃん?無理じゃん?いや無理だよね全然無理無理。鼻血による大量出血で身体の方も召されかねない。
かと言って、…こ、断る?
いや何も言われてないけど。
でも私ごときがマルコ隊長の好意を拒絶するとか許されない気がする。何に許されないかはわからないけど、いやでも許されないでしょこんな三下が。
「……………」
思い悩んだ結果、とりあえず今まで通りモブに徹することに決めた。基本的にこの広い船内で遭遇することはほぼないため、普通に生活していれば問題ないはずだ。
そもそもあれもギリギリ夢だったかもしれないし。
というか一昨日の夜ナースの子といたよね?もしかしてマルコ隊長はああいうスタイルの口説き方なのかもしれない。昨日はたまたま気が向いただけとか?
ああでもないこうでもないと頭の中は大パニックだ。
しかしやはりマルコ隊長ほどの人がわたしなんぞに本気とは考えにくい。そう考えると、自意識過剰に倒れてしまったのが今更恥ずかしくなってきた。
とりあえずまたなんか言われたら考えようそうしよう。
オーバーヒートした頭でそう結論づけると、朝食までの短い時間を睡眠にあてるべく、布団に入り直してゆっくりと目を閉じた。
そしてそういう日に限ってマルコ隊長とのニアミス率がものすごい。これまた過剰反応して都度隠れてしまうので、たまたま付近に居合わせた船員からは大層挙動不審に思われたことだろう。
各所の日用品の補充のために船内を歩き回っていたところ、遠く前方からこちらに向かってくるシルエットが視界に入った。こちらのことも豆粒程度にしか見えてないはずだとわかっているものの「あ、忘れものしちゃった」と今ちょうど思い付きました的なわざとらしい動きをして即座に踵を返す。
今日これで何度目だったろう。いつもならスンって感じですれ違って後から今日はラッキーだったとニヤニヤしているはずなのに。
そうして逃げ込んだ先は、日用品を保管してある倉庫である。もし途中まで向かう方向が同じだったとしても、ここなら不自然じゃないから逃げたように思われないはずだ。実際もう少し補充に追加したいものがあったので、立ち寄ったついでに持ち運び用に使っている段ボール箱に必要品をポイポイと放り込む。
箱がいっぱいになって手を止めると、改めて自分の情けなさや不甲斐なさにため息が漏れた。
カチャリ
不意に聞こえた、ドアがの閉まる音。
あれ、わたしドア開けっぱなしだった?そう思った瞬間、背後に人の気配を感じた。下っ端ではあれども、名前はこれでも海賊の端くれである。
その気配が静かに近づいてくる。
なんだか嫌な予感がする。
気のいいこの船の乗員たちなら、こういう時は基本的に声をかけてくれるはずなのに。背中に冷や汗が伝い落ちた気がする、体が固まって振り向けない。
「…名前、」
突然耳元で囁かれた自分の名前に、体が飛び跳ねそうになった。いい声で名前を囁いて頂きありがとうございます…!
しかし嫌な予感ほど的中するもので。いやマルコ隊長に対して嫌な予感とかほんと失礼極まりない発言でしたねほんとすません。
ギギギ、と音がしそうなほどゆっくりと後ろを振り向けば、予想通りの人の姿がそこにあった。
嫌な予感でドキドキしていたはずなのに、その姿を見れば一瞬で名前の脳内はお花畑に変わる。
はぁ、今日も素敵すぎる…!
思わずつま先から頭のてっぺんまで舐めるように視線を這わせると、目と目が合ってしまい、そこから視線が動かせなくなってしまった。
「…探したよい」
「…………マルコ隊長…」
さささ探してたって。何で。
いや理由については一応思い当たる節はあるけど。
「…黙って出てっちまうから」
節目がちにそう言うマルコ隊長を見て、ふと昨晩大層ご迷惑をおかけしたであろうことを思い出した。
グルグルしていた頭が途端に冷静になり、これは謝らねばと思い至る。
「…あ、あの、えと、昨日はご迷惑をお掛けしたようで…すみません。ありがとうございました。」
「ああ、いや…。昨日のことは…覚えてるかよぃ」
「え、ええと、あの、はい、たぶん…」
先ほど頭を下げたついでにマルコ隊長から視線を外した結果、今度は逆にマルコ隊長の顔を見れなくなってしまった。斜め下に視線を外し、ついでに今の居場所から倉庫の出口までの動線を確認する。隙をついてなんとか逃げられないだろうか。
今日も今日とて距離が近くて心臓がうるさい。
マルコ隊長の顔は間近で見たいけど自分の顔は見られなくないのでやはりこの距離感はいただけない。
するとマルコ隊長の大きな手が名前の頭の横を通り過ぎていった。ギシ、と棚が軋む音がして、名前の後ろの備品保管用のラックのポールを掴んだのだとわかる。ドアに視線を向けたのがバレのだろうか。これで動線が絶たれ、名前の唯一の逃げ道はなくなってしまった。
いや別にマルコ隊長を振り切って逃げられるとは思っていなかったけれども。悲しいことにその能力差は天と地ほどに開いている。
「…オレが昨夜言ったことも、覚えてるかよい」
「え、は、はい」
「…名前、」
「…はい、」
「…とりあえず、こっち見てくれるかよぃ」
「……………は…い」
目が潰れるかもしれないけどアーユーオーケー?
とか言ってる場合じゃなかった。
ああ、この態度、だいぶイライラさせてるかもしれない。それどころかそろそろ怒らせるかもしれない。
意を決して、恐る恐る視線を上げる。
目が合うと、驚いたことにマルコ隊長は微かに口元を緩めた。普段とは違う、少しだけ細められたその優しげな目元に、思わずドキリとしてしまう。
ああもう、かっこ良すぎない…?
あやうくまた意識を失うところだった。
マルコ隊長の顔が、至近距離で、腕が、わたしの顔のすぐ横に…!というかこの体勢、もしかしなくても壁ドンというやつでは?
「…マルコ隊長、」
「なんだよい」
「あの…、あの、本当に申し訳ないんですけど」
「…?」
「嫌いとかじゃないんです、昨日も言った通りほんと違うんですけど、」
「…」
「………もう限界でして、」
マルコ隊長が呆気に取られている間に、サッとかがんでその腕の下をくぐり抜けて走りだす。先ほど確認した動線通りに最短距離でドアまで移動し、驚いて振り向いたマルコ隊長に「すみません!失礼します!」とお辞儀をして、脱兎の如く最速で走って逃げた。
「…………あいつ、
…あんなに身のこなし軽かったかよぃ…」
ああああ、またやってしまった…。
何でわたしはいつもこうなんだろう、予備の心臓が2、3個欲しい。マルコ隊長に近づけば近づくほど、自分のことが嫌いになる。なにこの反比例。何の法則?
名前は自室でどんよりと落ち込んでいた。
補充品は倉庫に置いてきてしまったし、かといってもう倉庫には取りに戻れないので、一緒に補充作業をしていた同僚に頼んで担当作業を変わってもらい、早々に終わらせて自室に戻ってきた次第だった。
のだが。
「名前〜行こう始まっちゃう!」その同僚に引きずられ、今宵も宴に参加することになってしまった。すっかり忘れていたが、この重度のイゾウ隊長崇拝者である彼女は、今度こそ体当たりでアタックすると以前から今日のこの宴会(イゾウ隊長の誕生日祝いらしい)を待ち侘びていたのだ。そして確かに一緒に参加すると約束していたことも思い出した。こんな時に限って。
今の彼女に名前の現状を説明してもきっと諦めてはくれないだろう。なんてったって一世一代の決心なのだ。
しょうがないと腹をくくった名前は、末席の末席(できれば物陰)から移動しないという約束を取り付けた上で、渋々と甲板へ向かった。
甲板をぐるりと見回すと、その姿がないことに安堵を覚えた。
自分が、マルコ隊長の姿が見えないことにホッとする日が来るなんて…ありえないことだ。人生何が起きるかわからないなぁと遠い目でお酒を頂く。
壁沿いの、積み上がった酒樽の陰の席に陣取り、同僚の話を聞きながらお酒を飲み交わす。その間もチラチラと見える範囲で甲板を見回したが、探している人のの姿は見つからなかった。ホッとしたような、寂しいような。
こんな状況でもなければ、遠くマルコ隊長を眺めながら飲むお酒が一番美味しいというのに。
夕陽が水平線に消え、月が真上にかかる頃。
「よし、そろそろ行ってくる」と良い具合にアルコールが回ってきた同僚が立ち上がった。頑張ってこいと声援を送り、もしダメだったら胸をかしてあげるよと冗談まじりのフォローも忘れずに。抱擁を交わし、彼女の後ろ姿を見送った。
同僚の帰りを待ちながら、周囲の船員たちと会話を交わす。戻ってこないということは、上手くいっているんだろうか。ちょうど空になったグラスを床に置き、そろそろ自分も退席しようかと思ったその時、ざわめきの中聞こえてきた声に名前は硬直した。
「マルコ隊長!お疲れ様です!」
「おお、邪魔するよい」
「酒何飲みますか?!」
「なんでもいいよい、あー、じゃあそこにあるやつくれ」
「ハイただいま!」
「よォマルコ、調子はどうだ?」
「あー、まぁボチボチだよい」
「マルコ隊長、こちらでご一緒しない?」
「はは、また今度ねぃ」
年若い船員たちの羨望の眼差しを一身に受け、古参の船員と軽口を交わし、セクシーなナースさんたちの誘いを断って歩みを進めてくるその人。
そして同僚がいなくなったことによってポッカリと空いていた名前の右隣へ真っ直ぐにやってくると、そのまま腰をおろした。
「よォ」
「…………マルコ隊長…、お疲れ様です…」
「おお、飲んでるかよぃ」
「はい…」
今、急激に、酔いは冷めましたけどね?
周りにいる多数の船員の手前、出来るだけ動揺した素振りを見せないように受け答えをする。いつもそんなふうに振る舞っているため、実は仲の良い船員たちには名前はマルコを苦手としていると思われていた。
どどど、どうしよう…?!
内心ブワッと冷や汗をかいたそのとき、甲板の前の方からワッと歓声が上がった。声のする方を見やれば、その中心でイゾウ隊長が立っている。どうやら宴の主役の挨拶のようだった。
イゾウ隊長のよく通る声がここまで響く。
助かった、と名前は胸を撫で下ろした。
周りに囃し立てられたり、隊長陣に少しだけイジられたりもしながら、イゾウ隊長の挨拶は続いた。この船のみんなのことが本当に大切なんだなぁと伝わってくるその挨拶の内容に、今の状況も忘れて不覚にもジーンとしてしまった。
イゾウ隊長の姿が見える左前方へ体を向けているがために、マルコ隊長が座っている右側には手をついてやや体を背けている状態なので、顔が見えないおかげでなんとか意識を保つことができている。
しかしその指先に、何かが触れた。
と気づくや否や、暖かくてゴツゴツした大きな手が、名前の手の上に覆いかぶさってきた。
(?!?!?!?!?!)
振り解けもせず、顔も向けられず、ただただ硬直するばかりの名前の耳には、もはやイゾウ隊長の話などひとつも入ってこなかった。
顔どころか耳まで赤くなっているだろう。そして、マルコ隊長からはそれも丸見えのはずで。
某初号機の搭乗者の如くどうしようどうしようどうしようと脳内で繰り返し唱えている名前が何の反応も返せずにいると、その手にギュッと力が込められた。
ああもうだめだ、我が人生に一片の悔いなし…!
召される準備万端とばかりに目を閉じると、マルコ隊長の顔が名前の耳元に寄せられた気配を感じ、一瞬で意識が戻ってきた。何これやばい何この状況やばい以外の語彙力が吹っ飛ぶほどただひたすらにやばい。
「名前、ちょっといいかよい」
「…え、え?あ、はい、」
耳元で囁かれた低く掠れたその声に、ゾクッとして返事が遅れる。慌てて振り返り答えると、マルコ隊長に手を引かれ立ち上がった。
歩き出すと同時にイゾウ隊長の挨拶が終わり、船員たちが一斉立ち上がる。乾杯、の声とともにオオオオという雄叫びが海上に響いた。
壁際の物陰。
宴の席を抜け出す二人に気づく者はいなかった。
マルコ隊長と手を繋いでゆっくり歩く。
月明かりがその後ろ姿を優しく照らしている。
まるで夢のような光景だ。現実離れし過ぎていて、何だか逆に落ち着いてきた。
甲板後方、船尾の手すりの近くで足を止めたかと思うと、マルコ隊長がこちらへ振りむいた。宴の賑わいが遠く離れて聞こえ、波の音が静かに響く。
「…一度、ちゃんと話したくてねぃ」
自分のことばかりで、怒られても仕方ないようなことをした。なのに、マルコ隊長の顔をチラリと見ると、その表情はとても優しくて。逃げてばかりの自分を恥ずかしく感じた。
「マルコ隊長…」
名前を呼べば、少し目を見開いて、口角を少しだけ上げて応えてくれた。心臓が波打つ。ここで踏ん張らないと絶対にダメだと、何故だかそう強く思った。
…と言えども、片手を繋いで向き合って見つめ合うこの状況に耐えられるほど強靭なハートは持ち合わせておりませんもので。頑張る、いや頑張るけど、できる範囲での頑張りにはなりますよね?
「あの、逃げないので、…ちょっと本当申し訳ないんですけど、…せ、背中合わせで、お願いできますか…?」
「…ハァ?」
マルコ隊長が、素っ頓狂な声をあげた。
先程の優しい微笑みはどこへやら、何言ってるかわからねェよいと言わんばかりの顔をしている。
やっぱりさっきの笑顔はだいぶ無理して作られてたんじゃないだろうか。ヒィ怖い怒られたくない…!
「あ、あの、向かい合ってはちょっと耐えられそうにないので…ちょっとわたしここに座るので、…背中合わせにお座りいただいてもよろしいでしょうか…それならギリギリ大丈夫かと…」
「…わかったよい」
思いの外素直に了承してくれてホッとする。
マルコ隊長に背を向けてその場に座り込むと、マルコ隊長も素直に後ろ向きで腰を下ろしてくれた。
……と思ったけど背中が当たってる〜〜〜っていうか座った後に距離詰めてきた、よね…?
背中の温もり!ああああああもう!好き!この瞬間が人生一尊い…!
「…話していいかよい」
「あ、はい、…いろいろすみません、大丈夫です」
「…………あー、何から話すか、」
そう言ってマルコ隊長は空を仰いだようだ。
背中がズシリと圧迫されたように感じる。
マルコ隊長の重み。ふふふ、それもまた愛し。
しかし、ふと思い立って自分から口を開いた。
謝らなければならないことが、たくさんある。
「……………あの、逃げてすみませんでした…」
「自覚はあるんだねぃ」
「すみません…」
しばしの沈黙の後、マルコ隊長がポツリと呟いた。
「…オレは、どうしたらいいかねぃ」
「………………ど、どう、とは?」
「名前に避けられなくなるためにだよい」
「え、え?!ええとええと…いえ、マルコ隊長は何一つ悪いところとかないので…、これはわたしの問題なので、こちらで、なんとか、します…」
「…何とかなるのかよい」
「……………………………慣れれば……なんとか…」
「……………」
なんとか。なる可能性も、なくはない。
そう、そういうレベルの重症なのだこれは。
「慣れれば、ねぃ」
その一言に何も言葉を返せず、ただマルコ隊長が呼吸をするの背中で感じていると、ゆっくりとこちらに背中が倒れてきた。いやいやいやいやちょっと待って想像以上に重い。さすが筋肉の塊…!
「ちょ、マルコ隊長!おも、重いです!」
「はは、お前の普通は、そんな感じだよねぃ」
「う、いや、はい…」
そう返事を返せば、スッと背中の重みが消えた。
何だか少しだけ名残惜しいような気がして、チラリと後ろに視線を向けると、同じく振り向いてこちらを見ているマルコ隊長と目があった。
「全部ひっくるめて、そのままの名前が好きだよい」
そう言って笑うその笑顔が眩しくて、涙が出そうだ。
こんなにすごい人が、こんなに自分を好きになってくれるなんて。そのままでいいと言ってもらえることが、こんなに泣きたくなるほど幸せだなんて。
「…わたしも、、」
「わたしも、好きです。ずっと、ずっと前から」
「でも、こんなわたし、なんて…マルコ隊長は、すごく素敵なのに…」
途切れ途切れに話すだけでもやっとだった。
視界がだんだんとぼやけてくる。
えええ、このタイミングで泣くのかわたし…?!
「好きって言ってもらって、嬉しかったけど、こ、こわい気持ちの方が大きくて、………わたしなんて、好きになってもらうようなとこ、ないし…」
ああ、涙とともに鼻水も出てきた。
なんて格好つかないんだろ。とりあえず袖で全部拭ってみたけど、あとからあとから溢れてくるから全然追いつかない。せめて鼻水だけでも止まってほしい。ムードもクソもない。
「すぐ飽きられるかなとか、冗談だったのかなとか遊びかなとか、不安が先にきちゃって予防線張っちゃう自分も嫌だし、でも、……………あ、マルコ隊長、」
自分の言葉から重要なことを思い出した。
そういえば、あれ?この人こないだ。
「一昨日の夜新人ナースの子と一緒にいましたよね?」
一拍ののち、いつも半分くらいしか開いてないマルコ隊長の目が驚くほど見開かれた。
そして体ごとこちらに向き直り、焦ったように口を開く。
「いや、あれは違うよい!最近よく声かけられるんだが、あの日は何もなかったよい」
「…………あの日は、」
「や、お前な、言葉の綾だ綾!まぁ過去には…そういうこともなくはなかったのは事実だが……、名前を好きになってからは、一度もないよい」
「…………」
必死に弁解して、気まずそうに視線を逸らす様子がなんだか可愛らしくて、ようやく本当に好かれてるのかもしれないという実感が湧いてきた。こんなすごい人が、わたしを。信じられない、けど、もうただただマルコ隊長が好きな気持ちでいっぱいで、不安やら緊張やらは、何処かにいってしまったみたいだ。
「…わかりました、変なこと言ってごめんなさい。………ちょっと、モヤモヤ、してて、」
素直に謝れば、マルコ隊長の頬はわかりやすく緩んだ。
ああ、この人はこんな風にも笑うのか。
「両想いってことで、いいんだよねぃ」
「う、………………ハイ」
小声でコクリと頷けば、マルコ隊長の腕が素早く伸びてきて、そっと抱き上げられたかと思うとその膝の上にちょこんと乗せられた。
いや、わたしの体格及び体重的には、ちょこんという表現は正しくない気もするが。
「………え?!え?!!!!」
「ちゃんと少しずつ慣らしていくよい」
いや待って少しずつの基準がたぶんわたしとマルコ隊長で全然違うと思う。
こちらとしてはまず目を合わせる訓練を1ヶ月ほど行いたい。
「今日はどこまでしていいのかねぃ」
どこまで…?!し、シテ…?!??!
いやこれそういう意味?!え?!え?!
「……名前は本当よく表情が変わるねい…」
「す、すいませんもうマルコ隊長の一挙手一投足に反応しちゃって…恥ずかしい、死にそう…………」
「…そんなとこも可愛いよい」
両手で顔を覆って隠してみたものの、すぐに長い指に掬い取られてしまう。
「…名前、こっち見ろよい」
「………」
あまりの距離の近さに逸らしていた目線を、ゆっくりとマルコ隊長に向ける。嬉しそうに細められた目が愛おしい。
後頭部に回されたマルコ隊長の右手が、名前の顔を少しだけ上向きにした。これは、ももももしかして。
マルコ隊長が優しく微笑み、その唇が近づく。
もはや気絶するかの如くスッと目を閉じれば、
そこからは記憶がなくなった。
恋の病(次の日)
我慢して我慢して、いつもの自分では考えられないくらい優しく扱って、ようやくここまでこぎつけたのに。
「…名前…またかよぃ………」
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