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怖いものなんてない、と思っていた。
でも気まぐれな海賊に拾われて、一緒に過ごすうちになんだか愛着みたいなものが湧いてきて。
「お前な、少しは自分の身を顧みろ。突っ込むなとは言わねェが、いつか大怪我すんぞ」
そこそこ名のある海賊から売られた喧嘩を買い、いのいちばんに突っ込んでいった名前は、勝利の宴の真っ最中、本来ならば名前を褒めてくれるはずの船長に真っ向から苦言を呈されていた。誰より多くの首を獲り、お宝もざっくざくゲットしたというのに。
しかしそんなことは意にも介さず、名前は目を細めてニッコリ笑った。
「だぁいじょーぶ、ちゃんとシャンクスたちが後ろにいるって思ってるから、先陣切るんだよ」
まぁ普通に趣味みたいなもんだけどねぇ、と付け加えた独り言はシャンクスの耳にもしっかり届き、彼の目が少しだけ鋭いものになる。
1人で生きていて、戦うことがそのまま生きることであった名前にとって、それは息を吸うように自然なことで。敵対する相手に対して飛びかかっていくのは、先手必勝を掲げる名前にとってもはや習慣と言っても過言ではなかった。
「ハァ、お前な、ちったぁ怖えェとかねぇのかよ…」
「フフン、死ぬこと以外はかすり傷よ」
元気よく応えた名前に、シャンクスからは再度大きなため息が漏れた。
再び顔を上げたシャンクスからちょっとこっちにこい、というように手招きされると、名前は大人しくシャンクスの元に向かい、視線で示された通りに彼の足の間に向き合う形で腰を下ろした。
「…こっち向きじゃねェ、」
「…」
苦々しく告げられ、そっちが呼んだんじゃんと思いながらも向きを変える。シャンクスに背中を預ける形で座り直すと、逞しい腕が名前の腹部に絡みついてきた。何事かと首を回そうとすれば、視界の右端に赤い髪が見える。右肩がずしりと重い。
「…オレは、怖ェもんが増えた、」
ボソリとした呟きに、目線だけをその頭に向けた。
この人はどんな表情してそんなことを言うのだろうと気になったけれど、残念ながらシャンクスの顔は名前の肩に伏せられていて、その表情は窺い知れない。
彼の1番の特徴とも言えるその真っ赤な髪が、サラリと揺れた。
「…お前を閉じ込めておけるくらいの、頑丈な箱とか、ねェもんかな」
「突然の軟禁宣言」
「例えだ馬鹿、…怪我しねぇかとか、心配してやってんだ」
「やだ愛されてるぅ」
「……」
「…無言が一番堪えるわ」
「…ハァ、どうしたもんかな…」
「えー、一応戦闘要員としてスカウトされたと思ってますが」
「…お前が強いのは、わかる。わかってて船に乗せた。…けどたまに、閉じ込めておきたくなる」
「…箱入り名前」
「……」
「……」
「…わたしも、同じ」
軽口でのやりとりが途絶え(シャンクスが諦めて喋るのやめたっぽい雰囲気)、何かないかと考えた結果、頭の中にポツリと浮かんだことば。そのまま小声で呟くと、肩の重みが少しだけ減った気がしたが、気にせず続けた。
「…昔は、怖いものなんてなかった。自分の身以外何もなかったし…死んだら楽になれるくらいに思ってた、けど、」
けど、今は違う。顔を上げれば遠くに見える、宴に浮かれて大騒ぎしている見知った顔たち。背中に感じる温もり。シャンクスの言いたいであろうことが、自分にもわかる。それはたまに泣きそうになるくらい不安で、いつも抱きしめていたいくらい大切で。一度手に入れてしまったら、手放したくなくてしがみついてしまう、そんなものだと、名前は思う。
「シャンクスが怪我したら、とか。誰か死んだら、とか。怖い。けど、…でも、だから、戦うんだよねぇ…」
体はガッチリ固定されていて動かないので(女の子相手なんだからちょっと加減したらいいと思う)、首だけ回して笑って見せると、シャンクスが少しだけ泣きそうな顔をした。
「でも!ほら、わたしのことが大事で仕方ないらしいシャンクスのために、ちゃんと自分のことも大事にしてるよ?そんな大怪我もしたことないでしょ?」
「なっ、おま、」
「わたしはシャンクスのことが大事だから守るし、シャンクスが大事に大事にしてる私のこともちゃんと大事にしてるつもりよ?」
「…」
シャンクスも、ちゃんとわかっているのだろう。腕の締め付けが少しだけキツくなり、ぐぇ、と声が出そうになるのをぐっと堪えた。
わかっていても言わずにはいられないのだということに、名前の頬が少し緩む。
「ね、それよりさ、わたしに何か言うことない?」
「は?」
「怪我させたくない大事な大事な名前さんにさ、何か言いたいことあるでしょ」
「…」
「ここまできたら、もう潔く言っちゃうのがいいと思うけど、どうだろう」
顔を上げたシャンクスと目と目をしっかり合わせ、視線で言葉を促すと、シャンクスは眉間に皺を寄せて目を逸らした。それでも根気よく彼を見つめて待っていると、視線を彷徨わせた後、ようやく小さく口を開いた。
「…今じゃねぇ」
「お、男らしくなーーーっ!」
「うるせー、雰囲気っつーもんがあんだろ!」
「意外にロマンチスト…!わかったよ、待つ待つ」
「…」
「いやでもこれでだいぶロマンチックさへのハードル上がったかんね」
「お前な…」
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