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コンコン、というノックの音。
きちんとノックをしてから入ってくるのはベックマンかヤソップあたりだと目星をつけ、はーい、とドアを開ける。
「…よォ」
そこにはここ2日避け続けていた人物の姿があり、名前は反射的にドアを開ける手を止めた。
「…お、お風呂上がりなのでまた後日」
そう言ってドアを閉めようとするも一足遅く、足先でドアを閉められないよう押さえられる。いや借金の取り立てじゃないんだから。
「ハァ…お前な、そんなカッコで誰かれ構わずドア開けるんじゃねェよ」
「は、はぁ…」
「…このドア船大工に覗き穴つけてもらうか」
「…は?!いやいいです」
そんな余計な仕事させられるか。
即座にお断りしたものの、どこら辺につけるのがいいかとドアの作りをみている。本気だこの人。
大体この船にそんな危ない人は乗ってないんだが。目の前のこの男以外は。
「…な、なんのご用で…?」
「用っつぅか…お前が来ないから来たんだが」
お前が来ないからとは…?
思わず眉根に皺が寄る。もしや先日のアレコレでセフレ認定でもされたのだろうか。
寄港した島に飲み行った帰り、雨宿り先でうっかり一夜を共にしてしまったのはつい先日のことだった。酔っ払って雨に濡れた男女が宿の個室に二人きり。これはダメなやつだと思いながらも、シャンクスの押しの強さとか色香とかその場の雰囲気とか諸々に、最終的に流されてしまったのは完全に自己責任であった。
とはいえ名前としてはできれば一晩の過ちとして処理して欲しかったのだが。なんなら1週間くらい顔を合わせず過ごして忘れた頃に元の関係に戻るのがお互いにとってベストだと思ったのに。
ぐるぐると思考を巡らせ言葉が返せないでいると、シャンクスが続けた。
「そんなにあからさまに避けられたら流石の俺でも傷つく」
「…………ごめんなさい…」
バレてたか、まぁそりゃバレるか。
チラリと顔を盗み見ると、怒ってはいなさそうだ。珍しく本当に傷ついているのであれば、申し訳ない気もしてきた。
…いやでもなんでこちらが謝っているのだろう、どちらかというと襲われた側なのに?
「とりあえず、入れてくれるか?ここで話してるとまた痴話喧嘩だなんだやかましいからな」
「あ、ハイ」
確かにこんなシーン見られようもんなら、明日から軽く1週間は痴話喧嘩ネタで持ちきりだろう。この状況でそれは名前も避けたい。
いつもの”お頭”の顔で話しかけられたことに安堵し、まんまと部屋に招き入れてしまった。少々しょげているようにも見える様子のシャンクスが、実は内心笑っていたことには気づきもしなかった。
あれから2日、名前とは一度も顔を合わせていなかった。気配は感じるし姿を見かけることはあれど、朝食の時間もいつもとずらしているようでゆっくり話せるタイミングもなく。確実に避けられている。あいつ背中に目でもついてんのかという逃げっぷりだ。
多少無理はさせちまったと思うが、一昨日はブーブー言われながら部屋まで送り届け、普通の雰囲気で別れたと思う、たぶん。まぁ俺としてはもう少し艶っぽいやりとりを期待していたんだが。
これからいくらでもそういう雰囲気に持ってきゃいいだろと思っていた矢先にこの対応だ。
俺にしては珍しく、どうしたもんかと考えあぐねた結果、顔を合わせないことにはどうにもならんということで部屋を訪れることにした。
名前は多少警戒している様子を見せたものの、この二日間避けられ続けたことを告げると、ごめんなさいとしょげた様子ですんなりと部屋に入れてくれた。
しめしめと思いつつ、我ながら勝手なもので、他の奴もこんなに簡単に部屋に入れてるのかと問い詰めたくもなる。
机とベッドしかない簡素な部屋だ、先にベッドに腰掛け、警戒心からか距離を保って立ったままの名前を呼ぶ。
おずおずと隣に座った名前と自分との間に空けられた、この人一人分の距離が気にはなったが、指摘はせずに一旦話を進める。
「…避けられてたワケを聞いていいか」
名前はほんの少しだけギクリと反応し、視線を泳がせた。
「…なんていうか、その…気まずくて、というか」
名前が絞り出したその理由が全然ストンとこない。気まずいとは。一体何が。
「…悪いが、全然わからん」
「?!」
思ったことをそのまま口に出すと、名前が顔を顰めてこちらを見た。そのいつもの感じに多少安心する。
「いやだって、一応一夜を共にしたあとなので、気恥ずかしいというか…」
言葉の最後の方は尻すぼみになっていたが、
なるほど、嫌がられて避けられていたわけではないことに安堵した。
「アレやコレやした後で、突然通常モードに戻れないので…。ちょっと1週間くらい経てば普通に戻れるはずなので一旦そっとしといてもらっていいですか」
と、大真面目でそんなことを言う。
こちらとしては元の関係に戻りたくはないのだが。
しかし逆にとらえると、意識されていると言うのは良い傾向だ。暖簾に腕押し状態だった今までに比べれば、大きな進歩である。半ば無理矢理にでも肌を重ねた甲斐があった。
そんなことを考えると自然に口角が上がり、名前との間のこの一人分の距離を詰めたくなった。ギシ、とベッドを軋ませ名前に向かって体勢を変えると、それに気づいた名前も警戒してか少し後ろに姿勢を倒す。
改めて名前の姿を見ると、風呂上がりのやや濡れた髪と、寝間着から覗く鎖骨が扇情的だ。よく見れば首筋には先日つけた情事の痕が残っている。
ギシリ、と腰を浮かせベッドに片膝をつけ、名前との間の一人分の距離を詰めた。名前も慌てたようにもう一度距離を取ろうとするが、すかさず腰を引き寄せて押し倒す。
名前の瞳に怯えとも困惑ともつかぬ感情が浮かんだ。
「シャンクスさん、」
「逃げんな」
「いやでも、ちょっと、あっ、」
名前の言葉を無視して首筋に唇を押しつける。薄くなった痕に重ね付けをすれば、自分のものだと印をつけられたような気がした。このまま何回肌を重ねたら、名前の気持ちは自分に向くのだろうか。
「や、待って、ください、」
「待たねェ」
「やぁ、シャンクスさんッ…」
「…お前が、どうしても二度と触れられたくねェっていうんなら、やめる」
俺だって嫌がる相手を無理矢理抱くのは本意じゃない。欲しいのは、名前の身体じゃなくて心だ。
どうする、と問うように名前を見つめると、少しだけ瞳が揺れた後、なんとも言えない神妙な表情をして、口を開いた。
「………そ、そこまでは言ってない、けど、」
口に出した後、名前がしまったという顔をしたけれども、時すでに遅しだった。
上がっていた息がおさまってきた頃、ああまたやってしまったと、同じように隣で横たわっている二度も致してしまった相手へとゆるゆると視線を向けた。
結局この状態は一体なんなのか。
そんな名前の疑問をよそに、パチリと目があった彼は、満足げに目を細めて優しく微笑んだ。
「名前、」
逞しい腕がのびてきて、髪を撫でられ、瞼に口づけが降ってくる。
こんなにロマンチックな人だったろうか。
「…愛してる」
想定外の言葉に、名前の刻が一瞬止まった。
こういうのを「目が点になる」と言うのだろう。
「…は?」
「…え?」
そういえば好きって言ってない
(そそそそそういうことだったの?!?!?!)
(…こいつ何もわかってなかったのか…?)
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