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空はこんなに青いのに。
海はこんなに広いのに。
「…ハァ」
名前は、青一面の視界をぼんやりと眺めながら、己の悩みのちっぽけさを噛み締めて無意識にため息をついた。
「なんだ、またなんか悩んでんのか」
「?!?!お頭?!いつからそこに」
「お前が信じらんねェくらい眉間に皺寄せて3回くらい溜息ついたあたりからかな」
「つまりのほぼ最初からずっと?!」
他者からの視線を意識していない状態の己を見られていたと思うと、なんだか羞恥心が湧いてきた。変な顔していなかっただろうか。
しかし名前のそんな様子を意にも介さず、シャンクスは話を続けた。
「まァた自信喪失病か」
「う、まぁ…そうですけど…」
図星を刺され、思わず視線を伏せる。
名前の悩みの種である今の恋人と付き合うときにも、シャンクスにはその自信がないとだいぶ相談という名の愚痴を聞いてもらったものだった。
しかし。
「…いや、大丈夫です。というかお頭と2人で話してるとベックさん機嫌悪くなるので、ちょっと。」
どっかいってくださいと暗に告げると、シャンクスは一瞬目を丸くした後、なーんだと笑った。
「なんだ、愛されてるじゃねェか」
「あ、あい…!?や、そう、です、かね。」
「まぁそれとお前の不安とは無関係だもんな」
「そうそれ、そうなんですよね、」
ハァ、とため息をひとつ。
そう、自分でもちゃんとわかってるのだ。愛されて、大事にされていると。
それなのにこんなに不安なのは、結局己の自尊心の低さゆえなのだと思う。
「そんな不安にさせる男より、オレの方がよくねェか?」
「いやほんともう冗談やめてください」
こういうことをサラリと言うから自己肯定感天井知らず男は怖い、と名前は思わずあたりを見まわした。こんな発言、ベックさんに聞かれたらどうなるかわかっているのか。
「オイ、真昼間っから人の女口説いてんじゃねェよ」
「…!!!、、」
最悪のタイミングでの登場に、サーっと血の気が引いた。
ベックさん、なぜかお頭に対してだけは過剰反応するんだよな…と慌てていると(※名前がなついてるのが気に食わないから)、シャンクスがフッと鼻で笑った。
「好きになるのは自由だろ?」
「…抜かせ」
煽るな煽るな!!!悪ふざけはやめろ!
心の中ですかさずツッコミを入れてみたものの、仮にも船長であるシャンクスにそんな振る舞いができるはずもなく、名前はアタフタと左右の男に視線を交互に向けた。
というか仮にも四皇の船の船長と服船長がこんな十人並の一般ピーポーに関してこの言い合いおかしいだろう。とりあえずお頭は一旦黙ってほしい。何この空気。しんどい。
オロオロしている名前を一瞥し、ベックマンは苦々しげにため息をついた。
「名前、お頭には近づくなっつったろ」
「ご、こめんなさい…」
「オレが一方的に近づいてんだよ、こんなことでへそ曲げんなよ色男が」
「……」
「ちょ、もうお頭は悪ふざけやめてください!」
べックマンのこめかみにピシリと青筋が立つのが見えたちょうどそのとき、「島が見えたぞー!」の声が響いて、名前はようやくこの凍りついた空気から解放されたのだった。
「…名前」
最小限の明かりだけが灯された部屋に、不機嫌そうな、けれど欲情を孕んだような、低く掠れた声が小さく響いた。
…ハイ、副船長に呼び出しをくらっております。
いや仮にも恋人同士なのだから、互いの部屋を訪れることなんて、至極普通のことなのだけれども。
「…いいか、アイツに絡まれたら殴りつけて逃げろ」
「いや仮にもお頭に…」
「服船長の権限で俺が許す」
「んなアホな…」
そんなことできるかい、というツッコミを飲み込む。なんでベックさんはお頭に対してだけ当たりが強いのだろう、と再度考えながら、どう返したものかと困惑していると、ベックさんがズイとのしかかってきて、真顔で念を押された。
「…わかったか?」
「ちょ、いや、ベックさん、」
途端、彼の眉尻がピクリと上がるのを見て、しまった、と気づく。
「…名前、呼び方は?」
「…ふ、二人きりの時は、呼び捨て…」
「…ペナルティだな」
「?!」
これは、いつまでも他人行儀が直らない名前に対して、付き合い始めてすぐに交わした約束だった。最初こそそんな約束にも、呼び捨てという自分だけが特別に呼ぶことを許されたその名前にもときめきを覚えたものだったが、最近ではもはや名前の首を絞めるだけのネタと化している。
そして言い訳をする間もなく、ベックマンの顔が名前の首元に埋められた。首筋が熱く、痕を付けられていることに気づくのにそう時間はかからなかった。
「ぎゃー!ちょ、見えるとこは、ダメです…、」
熱い吐息を感じながら、尻すぼみ気味になんとか制止の言葉を吐き出すと、なんとベックマンの動きがピタリと止まった。こちらの要求を飲むなんて珍しい、とその表情をうかがってみると、こちらを見ているベックマンと目が合った。面白そうに目を細めた彼は、
「…お前もつけてみるか?」
「?!?!」
とんでもない提案をしてきよった。
「ホラ」
そう言って上体を起こして壁にもたれて座ると、名前を腰の上に跨らせた。体格差により、かなり足を開かないといけないので、跨るというよりもう腰の上に座り込む形に近い。
え、本気で?ていうか何この体勢やらしいけど大丈夫?
「お前のものだって印、つけてくれるか」
優しく微笑みながらも、有無を言わせぬその瞳に、結局いつも抗いきれないのである。トントン、と彼が指差した首筋部分に、ゆっくりと口付けを落とした。
「……………」
慣れない行為に、どれくらいの力で、どれくらいの間続ければいいのかもわからず、ベックマンのそれを思い出しながらその皮膚に吸い付いてみる。
コレ意外に大変なんだなぁ、などと思いながら唇を離してチラリと確認してみると、うっっっっすらついたかな?という程度の色づきでしかなかった。2、3回瞬きをしたら、どこにつけようとしたのかもわからなくなりそうなほどだ。
名前は目を白黒させた。
え、これ痕とかつくの?強靭な皮膚過ぎない?めちゃ吸いすぎて自分の唇の方が内出血起こしそうなんですけど????
困惑しながらも、もう一度やってみる。
…うん、全然変わらない。それよりわたしの唇大丈夫そ?
そしてめげずにもう一回。
……………いや皮膚つよ!!!
これもうどう頑張ってもムリだわ!
そんなことを考えていると、クックっと笑いを噛み殺したような声が聞こえてきて、名前は顔を上げた。完全に面白がられてることに目を細めつつも、
「…ベック。…つきません」
正直に降参すると、ベックマンはふわりと優しく笑い、名前の身体を抱きしめた。腰に回された手の小指が、ツーッとくびれをなぞる。
手慣れておる…!いや知ってたけど。いやでも待って?それよりも。
「あ、あたってますが…?!」
「……なぁ、オレがキスマーク如きでこんなになるのは、お前だけだ。」
そう言って、ベックマンは名前がキスマークをつけようとした箇所と同じところ、すなわち衣服を着ても周りから見える部分に徐に口づけた。
ベックマンの唇が熱いのか、強く吸われているからなのか、触れられている肌が熱を持つ。
「ベック……」
頭のどこかではそんな目立つところに嘘でしょと感じながらも、もうこのまま、流されたい気分に飲まれてしまう。
「そんな、不安になるようなこと考えてる暇もないほど、お前が不安に思うことなんて何一つないってことを、身体に教えてやる」
流れるような動きで、今度はその薄い唇が、名前自身の唇に重なった。
嗅ぎ慣れた煙草の香りとベックマン自身の匂いが入り混じったその香りが鼻腔をくすぐる。ベックマンの無骨な手が、名前に触れる時だけ信じられないくらいに優しくて、ぐちゃぐちゃ考えていた懸念事項も全部解けてなくなっていくようだった。
「…べ、ック、灯りだけ、消して…」
「まぁだ慣れねェか」
ベックマンが燭台の灯りを消すため体勢を変えると、ギシリ、とベッドが軋んだ。フ、と灯が消えて暗くなった部屋に安堵する。
何回やっても慣れない。ベックマンの手が慣れた手つきで上衣をたくしあげるのにも、その手が肌に触れるたびに身体がこわばる。
こんなに毎回、初めて体を重ねるみたいに反応してしまって。いつか慣れる日は来るのだろうか。
そんなことを考えながらも、名前はその甘い快感の波に身を任せた。
そして翌朝。
「…やりすぎたな、すまん」
「……………」
確かに不安やら何やらは吹き飛んだけれど、それと引き換えにしばらく消えない痕やら疲れやら身体のダルさやらいろんなものが名前の身体に残った。
そしてそんな名前とは対照的に、首元の跡が消えるまで、ベックマンは大層機嫌が良かったという…。
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