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好きな人がいる。
もう何年になるだろう。
今夜も島に降りて酒を飲み、どこぞの女の人と密な時間を過ごしているであろうその人。長年想い続けている間に、嫉妬や煩悩なんていう感情はもう昇華してしまった。…と、言いたいけれど。
ああ、悟りを開ければいいのに。
本日この赤髪率いるレッドフォース号は、グランドラインの大きな島に停泊している。物資の補給や情報収集、船員達のハメ外しなんかのために、10日ほど滞在する予定だ。
この大層な船のお頭は、そんなのこの次の島でいいだろうと何故だかゴネていたようだったが、海上を生きる者にとって食糧備蓄は生命線だ。副船長のベックマンがビシッと黙らせていた。そんな大船の一員である名前も、何度か寄港したことのあるこの島は好きだったので、すかさず副船長に加勢した。
正確には、好きなところも、嫌いなところもあるのだが。
昼過ぎに港に着いた後、名前はいくつかの仕事を済ませて、島に降りることにした。
この島の好きなところ、お気に入りのバーにでも行こうかな、と船内を見回しながら歩く。
バーと言ってもかしこまった雰囲気の店ではなく、夜更けの客足がまばらになったカウンター席で、口の硬い硬派なマスターに恋愛相談という名の愚痴を吐くのが恒例となっていた。
他の船員たちも島に降りたのだろう、甲板の人影は少なく、名前の想い人も船内にはいないようだった。どうせいの一番に島に飲みに降りたんだろうな、と溜息を吐く。
この島の嫌いなところ。
お頭の現地妻(と名前は思っている)が2、3人いるところ。
仮にも四皇。高額賞金首。そしてあのルックスに性格。そりゃモテるのも頷けるし、一介の船員でしかない名前が口を出せる問題でもないのは十分にわかっている。
それでも、綺麗な女の人と腕を組んで歩いている姿を見るのは嫌なもので。
付き合いのある女の人がいるのはこの島だけじゃないし、一晩だけの相手が山ほどいるのも知っている。そんな中でこの島の何が特別嫌って、その現地妻と思われる女の人のうちの一人がレッドフォース号までついてくるところだ。普段はどんなに素敵な女の人でも絶対船までは連れて来ないのに、この島の現地妻は付き合いが長いせいか、なんだか特別らしい。
男女の関係になれなくても、彼女たちには決して叶わない、船長と船員という関係で同じ船に乗れているということだけが、唯一名前の心の均衡を保っていたのに。
自分のテリトリーが侵されたようで、当時はひどく凹んだ。その女の人を含めた宴に、仮病で顔を出さなかったほど。
もっと若い頃は、他の恋で忘れようと夜毎遊びに出たりもしたが、虚しさが増すだけだと気づいてやめた。本気になられて断るのもしんどいし、普通に体力も足りなくなってきたし。好きになったり、なられたり、気持ちが動くことって、体力を使うんだなぁとこの歳になって実感した。
今ではもう、心がチクリと痛むくらい。
諦めよう諦めようと思っているのに、それでもどうしても好きという気持ちを手放せない自分に、我ながら女々しいなと思いながら。
翌日はやることが山積みだった。
数え終わらなかった在庫をチェックして不足分を買い付けて来ないと行けないし、大量の廃棄物もまとめて引き取りを依頼しないといけない。そしてそういった雑用を新入りに教えるのも中堅である名前の仕事の一つだった。
医薬品が足りないな、タオルもこの間の戦いでついた血が落ちなくて大量に捨てたんだよな、そんなことを考えながら備品チェックをしていると、頭の上に暖かい何かがポン、と触れた。
「よォ、やってんな」
横を見れば、ここ数年名前を悩ませている想い人が笑顔で立っている。
「…お頭。…子供扱いやめてください」
「おっと、手厳しィな」
ジトリと睨みつけて頭上の手を払い落とすが、当のシャンクスはハハハ、と笑うだけ。このやりとりももう数え切れないほどしているのに、名前への対応は一向に改善されない。
実際は10歳も違わないというのに、シャンクスの名前への扱いはずっと、この船に拾ってもらった10代の頃のままだ。
女らしく言い寄ってみれば、この人はどんな顔をするだろう。そんなことを思ったりもしてみたが、すんなりやることやってそれで終わりかもしれないと思うと、到底できやしなかった。
体じゃなくて、心が欲しいのだ、この人の。
数いる内の一人じゃなくて、たった一人になりたい。体の関係だけ持ってそれで終わり、なんて。追い縋って嫌われるのも、いつ相手をしてくれるのか心を痛めながらただ待つのも自分には無理だとわかっている。
数いる女の人たちは、どうやってそれでいいと自分を納得させているんだろう。先述の彼女に今度出会った時は、避けずにそう聞いてみたい気もした。
「今日午後買い出し行きますけど、お頭も何かいるものありますか?…酒以外で」
「…いやァ?特にねェなあ、酒以外では」
「ですよね、了解です」
念のために聞いてみたもののまぁそうだろうな、と備品の書類に向き直る。さて他に必要なものは…と考え直すが、一向に消えない隣の気配。
そういえば何しに来たんだろう、この人。
距離が近くて嬉しいような、落ち着かないから早くどこかに行って欲しいような。
「…どうしたんですか?」
「ああ、いや…。買い出し、荷物持ちに付き合うか?」
「いやお頭自らまさかそんな。というかお頭も忙しいのでは?」
「あァ、まぁ、な、」
シャンクスが歯切れ悪く答えた、その時。
遠くから「お頭ぁ!」呼ぶ服船長の怒鳴り声が聞こえ、あ、やべという呟きを残してシャンクスは一瞬にして消えてしまった。
買い出しには、新入りの船員たちと一緒に向かった。買い物をして新入り船員に大荷物を持たせては船に帰って片づけるように指示を出していったため、最終的には名前一人となった。
最後の買い物を終える頃には暗くなり始めており、街のメインストリートを船へと急いで歩いていると、「名前!」と声をかけられた。声がした方に目線を向けると、雑踏の中に見慣れた古参の船員、そしてその後ろには。
赤髪の男と、その腕に腕を絡める、美人というよりは可愛い女の人。
ああ、何度見ても見慣れない。
心がスッと冷えていくのを感じ、ペコリと頭だけ下げると足早に立ち去った。
持ち帰った荷物を片付けながら、モヤモヤと考えてまうのはやはり先程見た光景のこと。
見慣れた光景とはいえ、今回はなんかすごい若かったな…。やっぱり若い子の方がいいのかな。
肌もツヤツヤで、何の臆面もなくベッタリとくっついていた様子が思い起こされる。完全に胸が腕に当たっていた。当てていた、が正解かもしれないが。若さが眩しいとはああいうことを言うんだろか。
先程の光景をかき消すように目を閉じて頭を振ると、いつもの店に向かった。
強いお酒を頼んで、しこたま飲んで、散々愚痴って、そして。
マスターの声で起こされた。
いつの間にか寝ていたらしい。
「飲み過ぎだ。一応女なんだから、気をつけろよ」
「一応…一応ね…どうせ一応だもん…。
あああああああもう卑屈になっちゃう自分が嫌だ…。お水ください…。」
ハァ、と溜息をついたマスターが、グラスに入った水を差し出しながら口を開く。
「…そんなにしんどいなら、もうやめたらどうだ」
冷たい水を飲み干すと、いくらか頭がスッキリした。もう店内の客は名前だけのようだった。
「…やめられるならとっくにやめてますー…なんでこんなに諦められないのか、わかるならとっくに…というかどうしたらやめられるのか神様に教えてほしいくらい…」
「…」
「いつも同じ愚痴を聞いてもらって、マスターにはもう、ほんと、申し訳ないなと思ってるのよ?思ってるんだけどさ…」
確かにもうそろそろマスターも聞き飽きてきただろな、この話。そう思い立ち、とりあえず謝ってみた。
「…船を、降りてみたらどうだ」
「…」
それだって何度も考えた。でもあの笑顔を見ると、大きな手で触れられると、結局行動に移せなかった結果が今なわけで。
「この島で降りるなら、俺が一生面倒見てやる」
マスターの想定外の発案に、一瞬全ての思考が止まった。
聞き間違いかな、とマスターへ目を向ければ、真っ直ぐに見返してくる真剣な眼差しと視線がぶつかった。聞き間違いではないらしい。では、面倒、とは?
「衣食住、やりたいなら仕事も。幸いお前一人面倒見るくらいの売上はある。部屋もな。」
「「え?」」
誰かと声が重なり、その声が聞こえたドアの方を振り向けば、見慣れた赤髪の男が目を点にして立っていた。
これ一体どういうシーンを見られたんだろう、というかコレどういう状況だろう。頭が真っ白になったのち、「マスター!肉くれ肉ゥ!!」という雄叫びのような大声に、一瞬の静寂は破られた。
「お、名前もいるじゃねェか、一緒に飲むか?」
そう軽快に話すのは、肉がついていたであろうただの棒をガジガジとかじるルーである。空いた酒瓶を振り回しているあたり、ハシゴして何軒目かにこの店に寄ったものと見受けられた。
「…あ、や、だいぶ回ってるので。…わたしはこれで。いくらですか?」
ガヤガヤと赤髪一行が席につくのを横目に、お会計を頼むと、マスターは渋い顔で溜息をついた。
「いや、今日はいい。明日、支払いに来てくれ」
「え、でも、」
「…さっきの件、ちゃんと考えろよ」
「……」
マスターの提案の本意がわからなかったが、仲間の船員たちが飲んでる横で話を詰めるわけにもいかず、小声で是と答えた。
翌日。
名前はいつもに増してシャンクスを避けていた。
船内にいるとニアミスが避けられなさそうなので、昨日仕事を終えたのを良いことに、朝から島に降りることにした。
島内をぐるぐると当てもなく歩き、無駄にお洒落なカフェで一人ティータイムをしたりなんかした。その間も考えるのは昨日のあの出来事ばかり。
え、と言っていたので、あのくだりを聞かれていたことは間違いないだろう。
冷やかされたらブチ切れそうだし(自分が)、「お前もそんな歳か」とかも絶対言われたくない。でもすごく言いそうだ。あの笑顔で「いい男そうじゃねェか、よかったな」とでも言われようもんなら死ぬかもしれない。わたしの心が。ああでも全然想像できちゃうのが嫌だ。
マスターの意図が何にしろ、プロポーズまがいのことを言われたのに、それでも自然に考えてしまうのはシャンクスがどう思ったかなとか、どういう反応するのかなとかばかり。これは相当に重症だ。
しかし夜になればマスターに返事と、お金を払いにいかなければならないわけで。
今日一日何の成果も出していないのに、あっという間に夕方になってしまった。なんて無駄な時間を過ごしてしまったんだろう。こういう思考がお頭にはいつも「海賊らしくねェ」とか言われるんだよな、と名前は遠い目をして考えた。
そしてまた、ああでも本当どんな顔で顔を合わせれば…?と頭を抱える。
まとまらない思考でフラフラと大通りを歩いていると、オシャレな店のテラス席に見たくないものを見つけてしまった。
赤い髪。こんな時に限って。
隣には、昨日の女の子。
今日もしっとりとシャンクスにしなだれかかって、大変仲がよろしいようで。というかよく見たら現地妻その一とその二もいる。
今日も飲み歩いていたんだな…そんな風に思うと、何だかパッと答えが出たような気分になった。
ああ、そうか。
わたしがこんなにぐちゃぐちゃ悩んでいるのも全部、何でもないことなんだな。
悲しいとかつらいとかじゃなくて、ただその事実が胸にストンと落ちた。
「おう、名前!」と名前に気づいた周りの船員が手を挙げたので、ああ、見つかっちゃったか、と挙手で返す。
瞬間、頬に暖かい滴が伝った。
自分でもぎょっとして、慌てて踵を返す。
小走りで涙を拭うと、存外すぐに止まったので助かった。
結構な距離があったから、きっと見えていないはず、大丈夫と自分に言い聞かせながら、足早に歩く。かえってスッキリしたのだと自分に言い聞かせれば、もうこのままこの島で降りるのもいいのかもしれない、と思えた。馴染みのマスターのところにご厄介になりまーす!と言えば理由もそれほど追求されないだろう、そんなことを考えていると、自然と歩調が緩んできた。
それも、いいのかもしれない。
しばらくして立ち止まり、目線を上げると、逆方向に進んでいたことに気がついた。目の前には港、そしてレッドフォース号。
その光景を見て、ああでもレッドフォース号がたまに寄港するのだけ厄介だな…と思った、その時。
「名前…!」
突然、後ろから手を掴まれた。
振り向けば、見慣れた顔。
でもその人はいつもの見慣れた笑顔ではなくて、敵と対峙する時とも違う、でも眉間に皺を刻んで、少し必死そうな表情をしていた。かすかに息が上がってるから、走ってきたのかもしれない。
なんでだろう、と純粋に不思議に思っていると、シャンクスは息を切らしながら呟いた。
「昨日の男のところに、行くのか」
「え?まぁ…」
想定外の質問に驚きはしたが、支払いを済ませてない以上、そりゃ行かざるを得ないだろうと返事をする。
「ダメだ」
その表情が見たことないほど険しいものだったので、名前の頭にはハテナがいっぱいだった。お頭じゃあるまいし、食い逃げはちょっと…などとは決して言えない雰囲気である。
とはいえそんなことよりもっと他に何か話すこのないのかな、とぼんやり思った。
「下船は許さない」
「…え?」
「あいつのところに行くんだろ」
「…」
行くってそういうことか。
やっぱり昨日の会話きこえてたんだなぁ。
でもダメって。ダメだって。
嬉しいような、結局お頭への恋心の呪縛から逃れられないような、複雑な気持ち。いつまでも妹分だと思われてるんだろうけど、でも、傍にいて欲しいと言われたようで、こんな簡単な言葉で、さっきまでの気持ちがすんなり溶かされて、やっぱり離れたくないと思ってしまう。
「…悪ィとは思ってる、でも、ダメだ」
「お頭…?」
掴んだ手を引いて、シャンクスが船に向かって歩き出した。名前の制止にも聞く耳をもたず、無言で後に続くと連れてこられたのは船長室、シャンクスの部屋だった。
「お頭…どうしたんですか?」
「…」
真っ赤な髪から覗く真剣な眼差しが、名前を見つめている。シャンクスが後ろ手にカチャリと鍵をかけたのが聞こえた。
自分とシャンクス、自分から望まない限りまさかそんなことはないだろうと思っていたまさかが、今ここで発生しようとしている気がする。
「え、なんで、鍵…」
「名前、」
シャンクスが一歩、前へ出ると、名前は一歩後退った。距離を保ってジリジリと移動するも、足が何かに引っかかって柔らかいものの上に尻餅をついた。
まずい、ベッドだ。
その一瞬で、ギシリと音を立てて、シャンクスが片腕をベッドについて目の前にのしかかった。まずい。これは非常にまずい流れだ。
「おおお落ち着いて、どうしたんですか」
「あの男のところへは、もう、行くな」
あの男は、十中八九マスターのことだろう。
「いや、でも、お金…」
「踏み倒せ」
「嫌ですよ!」
真面目な顔でとんでもないこと言うもんだから、条件反射でつい突っ込みを入れてしまった。我ながら十年来の付き合いは伊達じゃない。
「嫌だ」
「……」
「前から嫌だった」
「え?」
「この島に寄るといつもあの男のところに行くだろ」
「え、ええ、まぁ…」
「もう行くな」
「…」
「船長命令だ」
「…」
「あとこないだ寄った島の美容院もダメだ、先月行った島の飲み屋もダメだし、お前がよく服買ってるあの島の店もダメだ。とりあえず店員が男の店に一人で行くのは全部ダメだ、一人で飲みに行くのも」
「お、お頭…?」
良い雰囲気になるのかと思ったら…名前の顔が引き攣った。何でわたしの行きつけの店を全部知ってるんだろう怖い、しかも店員が男の店ばかり挙げてくるではないか。
「というか、島に寄った時の男遊びもやめろ」
「…なっ、なんで…!」
知ってたのか、と動揺したが、それよりも。
困惑の色を浮かべていた名前も、これにはカチンときた。自分のことを棚に上げて何なんだこの命令形の物言いは。
「…女遊びの激しいお頭にそんなこと言われる筋合いはありません」
「…いや俺は別に女遊びしてるわけじゃ」
「でも飲みに出ればいつも女の人いますよね?そのまま朝まで帰ってこなかったりしますよね?何もないわけありませんよね?」
「いやそれは」
「だいたいこの島にも2、3人いますよね、お気に入りの女の人。昨日からベタベタしてる女の子も。」
「それはお前が、」
「絶対やることやってないって言い切れます?」
自分の中で消化しきれてなかったイライラモヤモヤが、一つ口に出せば堰を切ったように次から次へと溢れて止まらない。
「それは…言い切れん、すまん。でもあいつらは違うんだ」
「………何がですか」
「お前の……島での様子を、探ってもらってた」
「………………は?」
予想外の言葉に、名前の目は点になった。
何故だ。悪さでもすると思われているのか。
「…ああクソ、こんな風に言うつもりじゃなかったんだが」
シャンクスは気まずそうに視線を落とし、長い溜息をつくと、観念したように口を開いた。
「お前が、好きだ、名前」
「あいつらは、あの男とお前がどうなってるか探って報告してくれてただけだ、まぁ一緒に飲んだり………も、あったが……。昔馴染みの女たちに、お前の様子を探ってもらっていた、すまん。他の島の馴染み達も…大体そんな感じだ」
天下の四皇が一体何をしているんだろう、そう怒るべきか、それとも喜ぶべきなのか、突然の告白に名前の脳は情報の処理が全然追いつかなかった。
「…お、怒ってるか…?」
先程までの剣幕とは打って変わって、眉尻を下げてそう呟く様子はなんだか捨てられた子犬のようで。
なんで、どうして、本気なのかと、ああでもないこうでもないとやかましい頭の中を空にして、名前は一旦考えるのをやめた。
こんな情けないところも可愛いと思えるのだから、これはもう、どうしようもないのだ。
「…まぁ正直…何してるのこの人とは思いましたけど…
…わたしも好きです」
一拍ののち、シャンクスがゆっくりと顔をあげた。
「というか、わたしの方が好きです、ずっと好きでした」
「………」
「お頭が女の人と遊び歩いてるのめちゃくちゃ嫌だったし、馴染みの女の人とこの船で飲んでたときなんか部屋で泣き濡れてました。マジです。男遊びは…ただ単にお頭が遊んでばっかいるから当てつけというか…別の人で忘れようと思ったというか…」
「名前…」
「マスターのところには行きません。昨日あんなとこ見られて、お頭と顔合わせづらくて、わたしが一日中一人モヤモヤしていたのにお頭が女の人たちと楽しくお酒飲んでたのはショックでしたが…」
「ちがっ、あれは昨日のあの件の確認と対策をだな、」
「…なんかそれでもお頭の傍にいたいみたいで。わたしの方からは離れられません。」
シャンクスの目がかつてないほど見開かれている。
あーあ、言ってしまった。でもずっと言いたかったことでもあって、もうどう転んでも清々しい気分だ。
「…名前、」
そう呟いたかと思うと、シャンクスがのしかかっていた体勢から腕の力を抜き、ゆっくりと覆いかぶさってきた。
「俺は、名前以外いらねェ」
吐息がかかるほど顔が近くて、シャンクスの耳にかかっていた髪がハラリと落ちて名前の顔に当たる。さっきまで子犬みたいだった瞳が、飢えた獣のようなそれに変わっていて、思わずギクリとする。
今までこの人の相手をしてきた女の人たちはこれに耐えられたのか…と、何か違うことを考えてないとメデューサに見つめられたかの如く石になりそうだった。
つまりは距離が近くて心臓が持ちそうにない。
「名前だけだ」
「お、お頭…」
とっくに成人した男女が2人。
それもどうやら両思いらしく、男の部屋のベッドの上で。
「愛してる…」
名前はこの夜、100回くらいトキメキ過多で死にそうになった。
「なァ、もうちょっと両思いっぽくイチャイチャしようぜ」
「ぎゃあ!ちょっとそのいい声での耳元での囁き禁止です!」
「褒めてんのかそれ」
「声も顔も体も好きですが、心臓が持たないので」
「はは、じゃあ毎晩慣らしていくか」
「………!!!!!!」
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