シャンクス長編
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朝起きると、顔を洗って食堂へ向かう。
軽く朝食をとった後は、厨房で片付けの手伝いをするのが日課となっている。
「おはようございます〜」
「オゥ名前、今日も早ぇな。ちっと溜まってて悪ィが、よろしく頼む」
「はーい」
単純作業は良い。
どれだけ眠くても無心でできるのが良い。
ひたすら無心で洗い物を片付け終わると、顔馴染みのコックが少し良いコーヒーを淹れてくれる。(食堂で出してるものとは香りから明らかに違うやつ)
厨房で談笑しながら飲んだりもするけれど、今日は天気もいいし読みかけの本もあったので水筒に淹れてもらうことにして、美味しいコーヒーをお供に、お昼までの空き時間を甲板での読書タイムに当てることにした。
「よォ、勤勉だな」
その声に顔を上げると、愛用のエモノを担いだヤソップが立っていた。…日常生活中でも常に銃を携帯している気がするのは気のせいだろうか…?
「ここの書庫は貴重そうな本が多くて。乗ってるうちにできるだけ読んでおきたいんです」
「えれェなぁ、まぁ根詰めすぎんなよ」
ポンポンと頭をふたつ叩かれる。
「ヤソップさんもお茶して行きます?」
「お、いいのか?ありがてェ」
水筒に備え付けられたコップにコーヒーを注いで渡すと、「んんん??なんかすげェうまくねェかこれ?!」と大層驚いていた。
食堂のお手伝いすると貰えますよ、とコッソリ教えたところ、大変悩んでいる素振りを見せていたので、もしかしたらそのうちヤソップと並んで皿を洗う日がくるかもしれない。
お昼の時間は片付けだけでなく、食事の準備から手伝いに入る。味付け火加減等はプロのコックたちの専売特許のためノータッチだが、名前は下っ端の如くひたすらに食材を洗う切るを繰り返す。なおこちらはプロのコックたちにも褒められた速さと正確さである。
「まぁアイツらに食わせる飯に、食材の形まで綺麗に揃える必要もねェんだけどな!」
ガッハッハと笑いながら言われれば、大雑把な男たちが一気に食事をかき込んでる光景を思い出し、確かに…と納得する。
それでもやはり料理人のプライドというものなのか、どの料理も綺麗に盛り付けて提供されているのが一流の職人の仕事と言えよう。
そして怒涛のランチタイムが終わると、ようやくコックたちと名前の昼食の時間となる。この賄い飯がとても美味しくて、名前の日々の密かな楽しみでもあった。
「名前、今日もお疲れさま〜。今日のメニューはちょっと下拵えが手間だったわよねェ」
そう言って賄い飯を手に現れたのは、料理長のハンジである。料理長自ら申し訳ない…とチラリと思ったが、良い匂いが漂うワンプレートランチに目が奪われる。今日もとっても美味しそうだ。
なお怒涛のランチタイム中は忙しすぎて雑談する時間なんて微塵もないので、食事中のトークタイムも楽しみの一つだった。
「あー、そうですね…まぁ、やや…?ご飯ありがとうございます。」
「そうよねェ、手間かけてごめんね、ちょっとレシピ見直すわ」
「いえ、ハンジさんもランチタイムお疲れさまでした」
こちらはただ指示されたことを無心でやっているだけなので、ぶっちゃけそう言われればそうだったかも…?くらいの記憶しかない。そんなことよりご飯が美味しい。
ハンジにその旨伝えると、今日の賄いは最近下っ端から料理人にランクアップした若い子が作ったのよ〜と自慢げに教えてくれた。ハンジが指導したのだろうか、なかなかに嬉しそうだ。
「…ところでアンタ、お頭とはどうなの?」
「………………は?」
想定外の質問に食事を口に運ぶ手が止まる。
「なぁんかケンカしてたらしいじゃないの」
…なんで知ってるんだろう。
いや別にケンカとかじゃないけど。
とんでもない大所帯のこの船で、第三者がそんなことまで知ってるなんて。お頭大好き船員たちの噂話の力だろうか、恐るべし。
「別にケンカじゃないです、1人で島に降りるなって言われたのでちょっと反抗してみただけです」
「あら、お頭ってばアンタに対してはけっこう過保護だものねェ。まぁでも、この船に乗ってる以上はその方がいいわね」
「………」
なるほど、過保護とは言い得て妙である。
確かにこんな居候放っといてもいいはずなのに、何かと良くしてもらっているとは思う。
「腕の件もあるけど…、それでもアンタのことは気にかけてると思うわよ」
「………」
「あら、自覚ないの?」
「…それは、まぁ…。男世帯に女1人ですしね、まぁそんなとこに乗せてもらったのはわたしなので申し訳なくもありますが…」
「アンタはまたそういうこと言う!すーぐ申し訳ないとか言うんだから…。アンタが乗ってきてくれて良いことの方が全然多いわよ、少なくともアタシはアンタとここで会えてよかったしね」
そう言ってフフっと笑うハンジの目がとても優しかったので、自然と名前も笑みが漏れた。
しかしこのセリフ、状況によっては口説き文句ではなかろうか、なんてちょっと思ったりもしたけれど。
「…そもそも、本当にわたし以外女の人いないんですか?」
「本船にはいないわねェ」
「というと?」
「傘下の船にはいるわよ、女の人だけのとこもあるし」
「え?!」
それは名前も初耳だった。女海賊だけの船…どんなのだろう。
というかこの大所帯に加え傘下の船なんて、総勢一体何人になるのだろう。たまに客観視するとすごい船に乗せてもらっているものだなぁと改めて思う。
「船長はワタシの奥さんよ」
「………え?」
ニッコリ笑うハンジの表情からは、冗談なのか本気なのか全然読み取れない。
「え、え?ほんとですか?ハンジさんご結婚されてるの?」
「なによその謎の敬語(笑)してるわよ、結婚」
「ええええ?!びっくり…。ヤソップさんが子持ちなのは知ってたけど、大概みんな結婚してないもんだと勝手に思ってた…」
「まぁ大概してないわね(笑)ワタシはたまたま、海上で運命の人と会えたのよ。奇跡ね(笑)」
その細められた目の奥になんとも言えない暖かさを感じて、ああ本当に奥さんに気持ちを寄せているのだなぁと自然に思えた。結婚しているというのは本当に本当なのだろう。
海賊というものは本当に出会いの場がない。と、名前は思っている。
いやあることはあるのだが、大概の場合は一夜限りか、回数を重ねても現地妻的な扱いになると思う。海上での出会いなど無いに等しく、同じ島に定期的に立ち寄るようなことも滅多にないため、陸上での真っ当な恋愛も難しい。
それこそ一目惚れからの急ピッチでの恋愛か、故郷での昔馴染みか、結婚している場合はそのどちらかが多いような気がする。
恋に落ちる男女が同じ船に乗っていれば話は簡単なのだが、女性が同乗している海賊船はそれほど多くなく、この船に至っては残念ながら女性はいない。
「よ、よろしければ馴れ初めなどを…」
「いいわよ、じゃあ話しながら一緒に残りの洗い物でも片付けましょうか」
「はいぜひ!」
女子トーク(?)に花を咲かせながら片付けた洗い物は、非常に手早く終わった。最近どうにもご無沙汰だった恋愛話も聞けて、大満足の名前であった。
男世帯のこの船上で、やはり食堂は、というかハンジとのおしゃべりは名前にとって貴重な潤い源である。
昼過ぎからは、ベックマンの指示により倉庫で日用品の在庫確認の手伝いをして過ごした。
数日後に次の島に上陸予定のため、そこで買い足す分を若手の下っ端船員たちと一緒にチェックするのだ。この船は船長の影響を受けてか大らかで気の良い船員が多いのだが、その分細々した作業を苦手とするというか、在庫確認なんてさせようもんなら誤差の範囲で済ませられない差分が発生することも多く、ぶっちゃけまぁみんなそういった細かい作業が苦手なのだろう。
とはいえわりかし歳も近いであろう下っ端船員たちの手伝いは、気も遣わなくていいし名前にとっては気が楽な作業でもあった。
「こっち終わったぜー」
「はいはい、じゃ次はこの段ね」
「おい、こっちも終わったぞ」
「えーとじゃあここからここまで頼める?」
「この棚の分は全部終わったっぽい」
「あ、じゃあもうそっちは終わりかな、在庫数メモった紙だけまとめてくれる?」
「なぁオレ恋がしたいんだけど」
「………なんの話してる?」
「いやだって毎日毎日イカついおっさんに囲まれて暮らして!暮らしに彩りもクソもねぇ毎日で!俺の青春時代こんなんで大丈夫?!あああ恋愛してぇえええええ!」
「……………」
確認作業も終盤、下っ端船員1名の突然の申し出に、何故だか周りの船員も「わかる!」「おれも!」と賛同しだし、若者の恋愛トークが始まってしまった。
今日は恋バナに縁がある1日なのだろうか。
ハンスの話を聞きながら考えた通り、出会い不足については多少同情するけれども、…いやこれ今素面でする話かな?
「海賊になったことに後悔はねェんだけどさ〜」
「むしろ憧れの船に乗れてラッキーだよな」
「だな」
「でもそれとこれとは別問題で」
「わかる」
「出会いがねェんだよな」
「そもそも女がいねェ」
「ちげェねェ…………」
横におりますが?と思ったが、そういうことでは無いのだろう。口を挟むと厄介そうなので黙っていることにして、黙々と備品を数える。
「ぶっちゃけさぁ…海賊になったらもっとモテると思ってた…」
「おれも」
「おれも」
「おれも」
「天下の赤髪海賊団なのにな…」
「それな…」
「……」
「……」
「……」
「「「「「どうしたら良いと思う?」」」」」
その声にチラリと視線を向けると、全員が首をそろえてこちらを見ていた。知らんがなの極みである。
「…とりあえず娼館行けば?」
「バッカお前!!!なんつーこと言うんだ!そういうんじゃねェの聞いてただろ!」
ったくわかってねェなぁとご立腹の様子だが、こちらからするとなんでこんなしょうもない話で年下の若造から怒られなくちゃいけないのか。理不尽である。
出会いの無さなんてなんとかなるものじゃないと思うのだが、何か言わないと話が終わりそうになさそうな雰囲気を察し、溜息をひとつ吐いた後、とりあえず一般論を口にしてみた。
「…寄港した島でモテたいなら外見磨いて超絶イケメンになるか海賊として名を挙げるしかないんじゃない?」
至極普通のことしか述べてないのだが、うんうんと真剣に頷かれ、で?と表情で続きを促される。
で?って言われても。非常にやりづらい。
「…ええっと、そこから遠恋したいならまぁとりあえず…給料で電電虫買えば…?一期一会ではいけなさそうだったら…………あ、そういえばさっき傘下の海賊船があるって聞いた。女の人もいるって言ってたけど…出会いとかないの?」
どよどよっと場がざわめく。
話を聞くに、みんな新入りだけあって傘下の海賊たちとは会ったことがないらしい。「その手があったか!」と一気に場が沸き立った。
そのとき。
「あー、その傘下の海賊船な、うち数隻と次の島で落ちあって、数日間一緒に滞在予定だ」
突然の聞き慣れた声に視線を向けると、この船の船長が倉庫の入り口からゆっくりと入ってきた。
先程とは違ったどよめきが場に広がる。
「お前らは初対面だな。まぁ当然毎晩宴だろうし、話す機会も多々あるだろうから…」
「ま、頑張れ」
イタズラそうにニカっと笑うその笑顔に、下っ端船員たちは一瞬言葉を失った後、「はい!」「がんばります!」「ありがとうございます!」とハキハキと返事を返した。
その様子に、そういえばうちの船長はカリスマなんだったと思い出す。下っ端船員たちのさっきまでとの態度の差がとんでもない。
「で、ちょっとコイツ借りてっていいか?」
船員たちのどよめきがおさまると、シャンクスはそう言って名前を指差した。突然の名指しに困惑の色を浮かべる名前をよそに、シャンクス信者の下っ端船員たちはこれまた元気よく返事をする。
「ハイ!どうぞどうぞ!」
「もう終わるところなんで大丈夫です!」
「名前、あとはまとめて副船長に報告しとくから戻らなくていいぞ!」
本人は一言も言葉を発しないまま、船員たちには何か含みのある笑顔で見送られ、名前はあれよあれよとシャンクスと共に倉庫を後にした。
「どうしたんですか?」
「んー、ちょっとな、あ、あそこら辺でいいか」
シャンクスが足を止めたのは甲板の後方、ヤシの木の下の日陰だった。目線で座れと促され、2人とも床に腰をおろすと、シャンクスはどこからともなく紙製の小箱を取り出した。ケーキを入れるような白い箱だ。
「ハンジから差し入れ預かってきた」
目を丸くする名前に、今日の昼頑張ってくれたお礼だそうだ、と付け加える。箱を開けると、綺麗な飴細工や飾り切りされたフルーツの乗った可愛らしいケーキが出てきた。
「残念ながらアイツらの分はなかったからな、ちっと連れ出させてもらった」
「…えええ食べるの勿体無い可愛さ…!わざわざありがとうございます」
「はは、礼ならハンジに言っとけ」
ケーキなんていつぶりだろう。もちろん船内の食事で出てくることなんてないし、島に上陸しても強面の船員を連れてわざわざカフェやケーキ屋さんに行くことなんてなかったので、久しくお目にかかってなかった。
大きめに切り分けて一口で頬張る。
「…おいしい」
まさかこの船の上でスイーツがいただけるとは。
じんわり感動していると、呆れ混じりの視線に気づいた。
「………今、食べるの勿体無いねェって…」
「ナマモノですからね」
「……」
「あーしあわせ」
「……シャンクスさんも食べます?」
なんとなく視線を感じて食べづらかったので、一口分フォークですくって、隣に声をかけてみた。
まぁ言うて食べないだろうなと思っての社交辞令だったのだが。
名前のフォークを持つ手を、一回り大きいシャンクスの手が掴み、ケーキはシャンクスの口内へ消えた。
「ん、うめェな」
「…………」
素でこういうことができるのがすごいな、と呆然と隣の男を見つめていると、どうした?と言わんばかりに小首を傾げてこちらをうかがってきた。
いやまったく意識せずにこれなんだからすごい。すごいしか出てこないこの語彙力がもどかしい。
「…イエ。ケーキありがとうございました。お礼がてら食堂のお手伝いに行ってきますね」
そう言って立ちあがろうとした腕を、優しく、でもしっかりと掴まれる。
「…シャンクスさん?」
「全然休んでねェだろ、もちっとゆっくりしてけ」
「……」
まぁ確かに、今日は休憩時間が少なかったし、夕飯はいつも酒のつまみから始まるからまだ時間はある。
それより何より横の男が一向に名前の腕を離す素振りを見せないので、名前は観念してもう一度地面に腰をおろした。
「……そういえば、傘下の海賊の方?と合流するんですか」
「ああ、次の島でな」
「傘下の海賊船てたくさんあるんですか?」
「おー、今どれくらいっつったかな…あとでベックに聞いてみてくれ」
「……。ハンジさんの奥さんもいます?」
「お、よく知ってンなぁ。」
腰をおろして会話を始めたところで、ようやく掴まれていた腕が離される。
「遅れるようだが、2日目か3日目には着くって言ってたな」
「へー、あのハンジさんの奥さんってどんな人なんですかね、楽しみ」
「はは、とりあえず酒はすげェ強ェな」
「…なんか他に言うことないんですか」
「だっはっは、毎晩酒盛りだぞ」
「………え、それはちょっと…」
ごめん被りたいです、なんてそんな話しをポツポツしながら、しばらくすると会話が途切れた。
夕陽に照らされた海面を見ながら、ゆったりとした時間が流れる。波の音が耳に心地いい。
「…なァ」
シャンクスの声に、うっかり寝そうになってた頭がパッと覚醒する。
「え、はい?」
「…寝てたのか」
「…起きてましたよ?」
「………」
全然信じてない。
まぁ確かに意識は飛びそうになってたけど。
「…名前、なんか歌歌ってくれ」
「…………イヤです」
「減るもんじゃねェし」
「そういう問題じゃないです」
「…………」
「…………」
「………酒持ってくるかな」
「飲みませんし飲んでも歌いませんし」
不貞腐れたように静かになるシャンクス。
子どもか…と思いつつも、そんな軽口をやりとりできるこの感じは、なんだかとても居心地が良い。
「…シャンクスさん、そろそろ、」
行きますね、と言う前に、今度は手を掴まれた。
「もうちょっといろよ」
「………」
この人は、お頭ではなくシャンクスという一人の人間としては、思いの外寂しがり屋なのかな、なんて思ったりする。
この人の過去も、経歴も、よく考えたらはっきりした年齢も知らないけれど、そういう顔をたまに見せてくれるのはなんだかむず痒くもあり、ほんの少しだけ嬉しくもあり。
「…日が沈むまでですよ」
返事はなかったが、肩を並べて波の音を聞いているうちに、オレンジ色の夕陽はゆっくりと海に消えていった。
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