シャンクス長編
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名前は本日、ユーリと島に上陸していた。
誰かに付き合わせるのも申し訳ないし、欲しいものもないし、一日船でゆっくり過ごすつもりだったのだが。気を遣ってくれたのか、買い出しの荷物持ちに付き合えと誘ってくれたのだ。
「これで全部か?」
「うん、あ、あとお酒」
「…酒は予定になかったはずだぞ」
「え?でもメモの端っこにほら、」
そう言って買い出しリストの一番下に殴り書きされてる文字を見せる。
「あー、誰かが勝手に書き足したんだろ、無視無視」
「ふーん」
「食糧品は俺らの担当じゃねぇし。大体酒は酒屋に頼んで直接運び込んでもらうんだ、とんでもねェ量頼むからな」
「あー…」
それは容易く想像できた。確かに名前とユーリが手で持って帰れる量なんてたかが知れている。
「誰かが今日飲む酒欲しさに書いたんだろ、ったく自分で行けっつー話だよな」
「はは、じゃあでもこれで全部終わりかな」
「おー、どっか寄って帰るか?」
「んー、買いたい物とかはないんだけど…ユーリは?」
「おれも特に…じゃ、散歩でもして帰っか」
「え?ほんと?いいの?!」
「お、おお…。なんだお前そんなに散歩したかったのか、先に言えよ」
「いや…なんかただ歩くとか、疲れるしいやかなと思って」
「んなことで気ィ遣うな、嫌じゃねぇよ」
ユーリがそう言って笑うので、名前はお言葉に甘えて付き合ってもらうことにした。
じゃあ、と言って実は昨日から気になっていた場所に視線を向ける。
「あそこに行きたい」
それはこの島中央の丘の頂上。遠すぎてそれが何なのかわからないが、薄ピンク色の塊があるのがわかる。大きな木か、花畑か何かだろうか、二時間くらい歩けばきっとわかるだろう。
「嘘だろ…」
ちょっとした街歩きのつもりだったユーリは、あんぐりと口を開けた。
その薄ピンクは、花が咲いた大きな木だった。
サクラという花だそうだ。昔この島に訪れたワノ国からの旅人が植えて行ったものらしい。
風が吹くと花びらが一斉に散り、まるで雪のようで、言葉が出ないほど綺麗だった。途中までブーブー言っていたユーリも、サクラを見ると静かになったほどだ。
そして薄暗くなってきた頃、ようやく二人は帰路に着いた。
「綺麗だったねぇ」
「…ああ」
「歩いてきた甲斐があったねぇ」
「…いやそんなサラリとお前…どんだけ歩いたと思ってんだ?!」
「多少」
「ンなわけあるか!絶対ェ明日筋肉痛だぞ…」
「若いから大丈夫大丈夫、これもトレーニングよ」
「…お前…。…ったくお頭のせいでとんだ目にあったぜ…」
「?」
ボソリと呟かれた言葉に、なんでそこでシャンクスさん?とユーリの顔を覗きこむと、あ、ヤベとばかりに視線を逸らされた。なので口に出してみる。
「シャンクスさん?」
ユーリが観念したようにこちらを見て、ハァと溜息をついた。俺が言ったって言うなよ、と情けない念押しをされ、シャンクスに連れ出してやってくれと頼まれたのだと白状した。
結局あの後まだシャンクスとは顔を合わせていない。
「お頭となんかあったのか?」
「あー、なんかちょっと…揉めたと言うか…」
「お前が?珍しいな」
「ちょっと一人歩き禁止令に納得いかなくて…」
昨日の話をサラッと話すと、ユーリにはそりゃお頭たちが正しいだろ!と笑い飛ばされた。船長室の扉を叩き閉めて以降顔が合わせづらいくだりを話したときなんか大爆笑していた。
「あ、そうだコレ。忘れてた」
笑いがようやくおさまった頃、そう言ってユーリが差し出してきたのは、両手に乗るくらいのサイズのずっしりと重そうな小袋だった。
「?何これ」
「お前の金」
「…は?なんで?」
「今日買い物するなら使えって。預かった。」
持ってみると予想以上に重く、開けてみてさらに驚いた。買い物するなら使えとかいう額じゃない。
「いや貰えないでしょ、なにこの量…。」
「いやオレも預かりモンだから、返されても困るし…まぁ貰っとけば?」
「こんなに働いてないし…」
「これから働けばいいじゃん」
ベックマンと同じことを言う。
そりゃ働く気は満々だけれども。
「とにかく俺に返されてもどうしようもねェから。言いたいことあるならお頭に言えよ、ちょうどいいじゃねぇか」
「……」
それがそう簡単にはいかないからこちらも困っているわけで。
重い小袋がポケットからなくなったことで幾分軽い足取りで歩き出したユーリの後ろで、悪いやつにでも見つかったらすぐさまその身を狙われるレベルの大金を、そっと荷袋の中に隠したのだった。
サクラ鑑賞会(ユーリ曰く地獄のハイキング)にだいぶ時間を取られたため、船に帰る頃には夕飯の時間はとうに過ぎ、食堂の人はまばらだった。
どちらにしろ船員の大半が島に出ているのだろう。男所帯の船上生活から解き放たれ、ひと時の陸地での生活を楽しんでいるはずだ。いろいろと。
閑散とした食堂で、こんな時間にすみません、とキッチンを覗くと、ハンジが快く食事を用意してくれた。上陸中は利用者がグンと減るため、人員を減らして交代制で働いているそうだ。
街が見える窓辺の席に座り食事を摂ると、歩き疲れたせいか腰が重くて動きたくなくなってしまい、しばらくその場でぼーっとしていた。
普段の騒々しい食堂では一人でぼんやりすることなど出来やしないので、見慣れた空間のはずが静かすぎて違う場所のように感じる。そんなことを不思議に思いながら、ぼんやりと街の灯りを眺めていると。
「行きてェか?」
突然頭上で声が聞こえた。驚いて目を向けると、昨日から気まずい相手が立っている。目が合うとフッと小さく笑い、突然のことに言葉が出ない名前の隣の椅子に腰掛けると、もう一度同じ質問を口にした。
「街に行きてェのか?」
「あ、いえ…。ただ、綺麗だなと思って。あとちょっと疲れて動きたくなくて」
「ああ、相当歩いたらしいな」
「ただの散歩ですよ?」
「ユーリがもう歩けねェっつって引き摺られてったぞ」
「…」
まじか。そんなに疲れてたなんてちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。いくら鍛えてると言っても、戦闘と散歩じゃ使う筋肉が違うのだろう、たぶん。明日湿布でも差し入れておこうかな。
そして気づかれないようにチラリとシャンクスを見ると、いつも通りの顔をしていた。もしかして、気にしてたのは自分だけなんだろうか。
「…あ、そうだ、お金。ありがとうございます」
「ん?ああ」
「けど、こんなに貰えません…。」
「っはは、ベックの予想通りだな」
「う、わかってたならもうちょい減らしといてくださいよ」
「ベックが用意したモンだからな、まぁ貰っとけ貰っとけ」
そう言って面白そうに笑っているが、ハイどうもと貰える額ではないから困っているのだ。一体どういう金銭感覚で生きてるんだこの人たちは。
「…………じゃ、ありがたく一部頂きますので、残りはシャンクスさんたちの飲み代にでも」
「お、そりゃいいな」
シャンクスの顔がパッと輝き、ガタンと姿勢を変えててこちらに向き直る。
「じゃ、明日メシでも行くか」
「…え?」
「せっかくだから夜がいいな、予定あるか?」
「いや、ない、です、けど…」
「決まりだな、仕事が終わったら声かけるから船にいてくれ」
「え、はぁ…」
「めかしこんでこいよ」
イタズラ顔でそう言うと、上機嫌で立ち去ってしまった。
気まずい雰囲気はなくなっていたようでホッとしたが、結局お金は全額手元にあるし、めかしこめるような服もない。悩みが一つ解決してそしてまたひとつ増えたのだった。
翌日の日が沈む頃、悪ィ遅れた、と少し息を切らして現れたシャンクスは、名前の姿を見るなり眉根を寄せた。
「却下だ」
「…どういうことですか」
「めかしこんでこいっつったろ」
…本気だったのか。いつも通りの適当な格好で行こうとしたら、出合頭で却下されてしまった。
まさかドレスコードがある店に行くわけでもあるまいし、時間もないし、別にこれで良いのではないだろうか。大体シャンクスはいつも通りの軽装だ。
「でもシャンクスさん普通の格好ですし」
「いや?よく見ろ」
「?」
「ホラ、新品」
「…」
そう言って指差したのは、一見いつもと同じように見える白いシャツ。確かに言われてみればいつもよりパリッとしてる気もするが…。いやわかるかいそんなもん。
名前も新品のTシャツに着替えてきてやろうかとも思ったが、相手がめかしこんでる(?)以上、多少のおめかしは必要なのかもしれない。名前は諦めて、たった今出てきたばかりの自室に戻ったのだった。
昨日船から見た光景の通り、街は夜でも明るく賑わっていた。出店もたくさん出ていて、ただ歩いているだけでもワクワクする。
「名前、はぐれんなよ」
「はい!」
久しぶりの夜の街に気分の昂揚が抑えきれず、そんな気持ちが読まれたかのように釘を刺された。
そしてシャンクスの一歩後ろからその背中について歩き、大通りから一本奥の通りに入ると、店名しか書かれてない店の前で歩みを止める。一見さんお断り的な雰囲気を醸し出す店構えにも関わらず、躊躇なくドアを開けるシャンクス。名前はその背中に隠れるようにして後に続いた。
「よォ、邪魔するぜ」
「…オオ!久しぶりだな!生きてたか!」
そう言って背中を叩き合うがっしりした体型のおじさんは、顔馴染みのようだ。他の店員がマスターと呼んでいるところを見ると、店長さんなのだろう。
「シャンクスさん!」
「あら久しぶり」
「相変わらずイイ男ねェ」
…それにしても女性店員、というかセクシーなお姉さんが多い。マスターの趣味だろうか。そしてあっという間に彼女たちに囲まれてしまったシャンクスの様子を伺うと、どうやら彼女たちも顔見知りらしい。
「久しぶりだな」
「何年振りかしら」
豊満な肉体と黒髪が豊かな美女が妖艶に笑う。美男美女ってこういうことなんだろうな、などと考えていると、美女の視線がふいに名前に向けられた。
「…お連れ様?」
「ああ、今日は2人だ」
「あら、一緒に飲もうと思ったのに」
そう言って美女が拗ねた顔をするものだから、つい口から出てしまった。
「あ、全然、お気に」
「ダメだ」
なさらず、と言う前にシャンクスに一刀両断された。そのまま美女に向き直って悪ィな、と笑うと、螺旋状のこれたま小洒落た階段を目線で示され、上がるよう促された。
3階がVIP席的なものらしく、他にお客さんのいないテラス席に通された。隣の建物が低いので、大通りの賑やかな様子が見える。
「わぁ…!」
思わず手すりから身を乗り出すと、シャンクスがクスリと笑った。
「帰りにぐるっと見て回るか」
「…はい!」
食事と十分なアルコールを頂き、店を出たのは夜更け過ぎになった。マスターと女性陣に大層別れを惜しまれながらの退店となり、結局シャンクスとの時間を一人占めのような形になってしまったことを申し訳なく思った。
「…よかったんですか?」
「ん?ああ、今日はいいさ」
こともなさげにそう言われると、それ以上何も言えなかった。しかしあの美女には悪いことをしたかもしれない。
「少し歩くか」
「はい」
人もまばらな通りを、連れ添って歩く。
ここが有名な店だとか、珍しいフルーツが売ってるとか、所々でシャンクスが観光案内をしてくれる。(店はあらかた閉まってたけど)何故か猫の集会所を知っているのには笑った。
「…この前は、悪かった」
突然振られた話題に、この前ってなんだっけ?と一瞬忘れていた。それほど今日が普通で、楽しかったせいだろうと思う。
シャンクスも、このために連れ出してくれたのだろうか。いつの間にか元通りという解決方法の方がずっと楽だし、大半の人はそちらを選ぶだろうに。そしてどちらかと言うと名前もそうしようと思っていたのに。きちんとケジメをつけようとするところに、男気を感じる。
「…いえ、わたしも、ごめんなさい。今はちゃんと納得してますし…色々考えてもらって、ありがとうございます」
そう言って頭を下げれば、シャンクスは少しだけ驚いたように目を見開き、そしてすぐにそうか、とホッとしたように笑った。
ただの居候だというのに、怪我しないように配慮してくれたり、機嫌を気遣ってくれたり。懐が広いといえばそれはそうだが、抱えるものが多そうな人だなぁとも思う。
人というのは大事にされると同じだけ返したくなるもので。だからきっとこの人の周りにはいつもたくさんの人がいるんだろう。昨日チラリと考えた失礼なことは、心の中で謝っておいた。
そして、肝心なことを思い出した。
「お金!!!!!!!」
シャンクスは思っていた通りのスマートさでいつの間にか支払いを終えていてくれたらしく、お金を出すタイミングもなかった。というか忘れてた。
せっかくこの無駄に重い金袋を持ってきたというのに。
「支払い、わたしがする予定だったのに!」
そう言って顔を見ると、ダッハッハと笑い飛ばされた。
「律儀だなァお前」
「いや荷物が重いんですって!減らしたいの!ていうかそういう話しだったじゃないですか!」
「もう払っちまった」
「…おいくらでしたか?」
「女に出させるかよ、とっとけとっとけ」
いやこれ元々シャンクスさんたちのお金…と言いかけると、名前が手にしていたバッグをヒョイと取られた。
「あー、まぁ確かに重いな、ていうかお前全部持ってきたのか」
「え、いやだって何人で飲むのかもわかんなかったですし…」
シャンクスが何言ってんだお前というような顔をしている。
バッグを返してもらおうと右を伸ばすと、なぜかシャンクスも左手を差し出してきた。やっぱ金くれってことだろうか。
「…お金ですか?」
「ンなわけあるか。ほれ、手」
いや犬じゃないんだから、と思いつつとりあえず手を乗せてみると、そのままギュッと握られ腕を下ろした。お互いの腕が触れ合うほどの距離感に困惑しつつ顔を見上げると、引き寄せた張本人も名前を見ていて、目が合うとニカっと笑った。
「じゃ、帰るかァ」
「あ、あの、これ、」
上機嫌で歩き出すシャンクスに、この状況は一体なんでしょうかとも聞けず、困惑しながら帰路に着いたのだった。
「ちょっと、そろそろ離していただいてもよろしいですか」
「部屋まで送らせろよ」
「いやホラ甲板に人いるんで」
「見せつけてやりゃあいいだろ」
「…は?!」
「はは、冗談だ」
どこまで本気でどこから悪ふざけなのか。
わかりにくくて判断に困る。
すんなりと放されてしまった右手が何だか少し寂しいような気がしたのは、きっと気のせいだろう。
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