シャンクス長編
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ドキドキわくわく知らない島に初上陸☆イベント当日のその日、名前は非常にムッとしていた。
怒ってるわけではないが、どうにも納得がいかない。そんな気分だ。
それもこれも先程船長室に呼び出され、シャンクスにされた話のせいである。
「えーと、嫌ですって言ったら…?」
「悪いが、今回お前に拒否権はない」
「…」
「さっき言った通り、島に入るときは一人で行くな。暇そうなやつ誰か連れてけ。誰もいねェときは俺かベックに言ってくれ」
「……………」
「まァ気持ちはわかるが…今回は折れてくれ」
納得いかない気持ちが全面に漏れ出ていたらしく、ベックマンにそうフォローされたが、それでも到底ハイわかりましたとは言えなかった。
ただでさえ忙しそうなシャンクスやベックマンに余計な手間を掛けるなんて、申し訳なさ過ぎるしそれに正直大変頼みづらい。というかそもそもそこまでして守ってもらう理由もないのだ。
「…この船に乗せてもらってることは、大変ありがたいですが…。わたしは船員じゃありません」
「だからなおのことだ。この船に乗ってる以上、お前を見た奴はうちの船員だと思うだろう、赤髪の船に女が乗ってると。」
「…だとしても、例えばわたしが出港日に船にいなかったとしても、わたしを置いて船を出してください。わたしとこの船の関係性はそういうものだと思います。ただでさえ居候させてもらってるのに、守ってもらうなんて」
言葉をつづけようとしたが、ハァ…とシャンクスが眉根を寄せて溜息をついたことで、その後の言葉が出てこなかった。
普段は軽いノリなだけに、今日のこのギャップはこわい。そして空気が非常に重い。
「何度も言うが…ダメだ」
「…」
「この船に乗ってる以上お前もうちの船員だ、船長命令には従ってもらう」
「…」
「今日は出掛けたいならベックに着いてけ、話しは終わりだ」
「………………」
いつもより乱暴に船長室のドアを閉め、足早に自室に帰った。
あんな風に言わなくても。守ってもらう理由もないのに。負担ばかりかけている。気を遣わせて申し訳ない。
半分は怒っていて、半分は申し訳なくて。
自分の中で折り合いがつけられずモヤモヤする。シャンクスの話し方や雰囲気がいつもと違って威圧的だったのも原因の一つだろう。少しは打ち解けられたと思ってたのに。あんな言い方しなくても。
そもそも初手をミスったのだ。
戦えるのかどうか聞かれたから、今後発生するであろう船上戦に参加可能かどうかの確認だと勘違いしてしまったのも仕方ない。戦えなくはないけど、人を傷つけることは苦手だしあんまりしたくない。ついついその通り答えてしまったら、まさか島内の一人歩き禁止令が発令されるなんて誰が想像できただろうか。
名前が部屋で一人悶々としていると、部屋のドアがノックされた。声をかける前にきちんとノックしてくれるのは、ベックマンかヤソップかハンスあたりだ。
「…名前、もう少ししたら出掛けるが、一緒に来るか?」
ドア越しに話しかけてきたのはベックマンだった。
さっきの今で、気を遣って来てくれたのだろうか。
先程の話の中でも始終フォローを入れてくれたベックマンへのわだかまりはなく、名前はすぐに「行きます」と返事をした。
ベックマンと共に島へ降り、買出しや情報収集等を終えると、時刻は昼時を過ぎていた。
ベックマンは段取りも良く話術も巧みな有能っぷりで、1日のスケジュールは滞りなく進み、1日どころか約半日で全ての予定を終えてしまった。
ベックマンが船長だとしてもきっと全く不足ないんだろうなと、一歩後ろを歩きその広い背中を見つめながら考える。ただでさえ今は実際の船長であるシャンクスに恨みつらみが募っているので、何であの人が船長でこの人が副船長なんだろう、なんて失礼な考えも頭をよぎった。
「ありがとな、これで終わりだ。どっか寄りたいところはあるか?」
「あ、いえ、散策しに出たかっただけなので。十分いろんなところ見せてもらいました。いやもう、ほんとに。」
それは紛れもない事実だった。
武器の卸商屋のVIP室とか、一見普通に見える商店の裏の顔が情報屋とか、名前一人だったら一生足を踏み入れることのないであろうエリアまで存分に見させてもらった。
栄えてる島だから手配書が行き届いているのだろうか、それとも以前も利用したことがあったのか。店によってはベックマンの顔を見るなりVIP客専用と思しき個室に案内されたりして、驚くことも一度や二度じゃなかった。名前だけキョロキョロしてしまい、場違い感が半端なかっただろうな、と今更思う。
「はは、じゃあ飯食って帰るか」
「はい」
そこそこ大きい食堂に入ったが、昼時を過ぎていたせいか客足はまばらで、周囲に他の客がいない窓際の席に通された。
席に腰掛け一息つくと、ベックマンが名前の顔色を伺うように視線を向けていることに気づく。
「…なんですか?」
「…まだ納得できてねェか」
「…う、……………はい」
「っはは、だろうな。お前の性格じゃ」
ベックマンはそう言って笑ったが、今朝のモヤモヤ感を思い出した名前は、楽しかった気分がすっかり吹っ飛んでしまった。
「…シャンクスさんの言ってることはわかります。危険性もわかってます。でもそこまでしてもらう筋合いも無いと思って…あ、すみません言い方悪かったですけど、なんていうか、ただそこまで責任取ってもらう必要もないし、迷惑もかけたくないというか…」
「…いや大丈夫だ。こっちもお前の性格はだいぶわかってきた。遠慮しがちなとことかな」
目を細めてそんなことを言う様子を見るに、名前の考えてることなど全部お見通しの様だ。
何が言いたいのかきっとベックマンはわかっているんだろうけど、それでも敢えて話を続ける。
「フェアじゃないっていうか。嫌なんです。…我ながら駄々こねてる子どもみたいなこと言ってるなとも思うんですけど…」
「はは、だろうな。」
「…」
「けど俺たちは別にお前を負担に感じたりはしてないし、どっちかってェと目の届く所にいてもらった方が安心するな。…要はみんなお前のことが気に入ってて、心配してるんだ」
「…でも、」
納得していない様子の名前を見て、ベックマンは一つ息を吐き、そして微笑んで問いかけた。
「じゃあ名前、お前は俺やお頭が敵襲でやられそうになってたら、黙って見てるか?」
「え?いやまさか。まぁ出ていったところでお役に立てるかどうかまぁ微妙ですが…」
自分が出て行っても何の役にも立たないかもしれない。でも、何かできるかもしれない。ならただ見ているだけなんて嫌だ。他人の血を見たくないとか言ってる場合じゃない。
というか目の前でそんなことになったら考える前にたぶん飛び出すだろうな、と名前はそんなことを思った。
「はは、即答か。嬉しいもんだな、ありがとよ。」
「あ、いえ…」
「俺らも同じだ」
「…」
「うちの船に乗ってることで、お前に何か危害を加えようとする輩がいるかもしれない。例えお前が多少腕に覚えがあったとしても、多勢に無勢でどうにもならんこともある。であれば俺たちは予めそうならないよう策をとりたい。」
「…はい、」
「お前が俺たちを思ってくれるように、俺たちもお前を大事な仲間だと思っている。短い付き合いだが、それは確かだ。腑に落ちねぇ部分もあるかもしれんが、この件については飲み込んでもらいたい。」
「……はい。」
「あー、だからな、まァアレだ、今朝のお頭の物言いも許してやってくれ。ちと言い方がキツかったな」
ベックマンはハァ、と溜息をついて、頭の後ろをガシガシとかいた。こうやっていつもフォローしてるんだろうなと思うと、2人の信頼関係がうかがえる。
なんだかモヤモヤもどこかにいってしまい、名前はふと笑みをこぼした。
「…なんかまぁいっかって気持ちになってきました」
「おお、そうか、そりゃよかった」
「…ありがとうございます、なんかすみません」
「いや?俺もお前とちゃんと話せてよかったよ」
そんなことを言ってはいるが、たぶんきっとこのために連れ出してくれたのだろう。自分が子どもみたいに拗ねてたことが少し恥ずかしくなった。ベックマンはしっかり大人だ。
「でもシャンクスさんのあの有無を言わせぬ物言いは、正直とてもイラっとしました」
「ハッハッハ、それはまぁお前が怒るのも仕方ねェ、お頭は肝心なとこ説明が抜けてたからな」
「…ベックマンさんと話して納得はできたんですけど、顔は合わせづらいです…」
そう言って名前は机に突っ伏した。
落ち着いて思い返せば、あのとき船長室のドアを壊れんばかりの勢いで叩き閉めた気もする。
ベックマンはその様子を思い出したようで、ハハハと笑った。
「ああ、珍しく明らかに怒ってたもんな」
「うう…だって言い方が…イラッとしたんですもん…」
「そうだな、あの人もあの後気にしてたようだから、…まァあっちから寄ってくるだろ」
「それはそれで…1人だけ拗ねてた自分が恥ずかしい…」
ベックマンに笑い飛ばされ、後はたわいない話をしながら遅めのランチをとると、2人は船へ帰るため荷物を持って歩き始めた。
帰り道、行きよりは元気を取り戻した名前がふと思い出したようにポツリと言った。
「そういえば、わたしやりたいこともう一個あって」
「どうした、どっか寄って帰るか」
「あ、じゃなくて。ちょっと小銭稼いで来たくて」
その言葉の意図が分からず、ベックマンは眉根を寄せた。
1人で行動するなと言ったハナから日雇い仕事でもするつもりなのだろうか。
「今までも、立ち寄った島では旅のお医者さん的な感じで露店の通りとかでお店みたいなの出して、治療で日銭を稼いでたんですけど…」
こいつそんなことしてたのか…。
話を聞くに、旅のお医者さんじゃなくて流れの闇医者の間違いじゃなかろうかと思った。
まぁでも海賊でもない限り、海を渡りながら金を稼ぐのは簡単なことではないだろう。海の上では他人のものを奪うか賞金首を捕まえるくらいしか金銭を得る方法はない。
争いも好きじゃなさそうな名前のことだ、確かにそういうやり方をしてきたならしっくりくる。
「あんまりずっといると能力者だってバレてめんどくさいことになるので、最初会ったときみたいに顔は隠して…まぁ、長くても数週間とか?わたし今手持ちほぼゼロなんでちょっと資金調達してきたいんですけど…」
そう言って真剣な面持ちで見上げてくるが、今までの話は記憶から吹っ飛んでいるのだろうか。ダメに決まっている。顔を隠せばイケるとでも思っているなら大間違いである。
「却下だ」
「ハァ、ですよね…」
隣で歩きながらあからさまに肩を落とす名前。
「そもそも金が必要なら俺かお頭に言え」
「は?!いやそんなとこまでお世話になれないです」
「いや、日々の働きに対する正当な報酬だ、他の船員と扱いは変わらん」
「…ろくに働いてないのに貰えません、」
実働内容だけでなく、周囲のモチベーション上昇効果という点でも十分役に立っているのだが、本人だけは露知らず。名前のことだから説明してもきっと納得しないだろう。
厄介なほどに頑固で遠慮がちなこの娘だが、その性根を好ましいと思っているのだ、自分は。
ベックマンはフッと笑った。
「じゃあツケ払いってことにしとけ。今後船上戦もあるだろうから、そんときゃまぁキリキリ働いてくれ」
「…それなら!頑張ります!」
どうせいくら必要なんだと聞いても答えないだろうから、船に戻ったら金一袋渡しとくかと考えながら、渡しても絶対また遠慮するんだろうな、ということがいとも簡単に想像できて、喉からククッと笑いが漏れた。
初日のアレでうちの船のヤツらはみんな名前を受け入れてるし、金には変えられないほど恩恵を受けているのだが。当の本人はそんなことなどなかったかのように。
遠慮ばかりのこの娘がもう少し自分達を頼ってくれるようになるのはいつのことになるのだろうと、隣で歩く名前を見ながらそんなことを考えた。
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