シャンクス長編
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4日間の眠りから目覚め、ゆっくり養生という名の惰眠を貪っていた名前だったが、そううまいこといかないのが人生である。
先ほどから部屋のドアが割れんばかりに叩かれていて、その音に名前は頭を抱えた。
(う、うるさい…)
しばらく無視すれば収まるかと思ったが、諦める様子は一向に無さそうだ。
「名前ー!なーまーえー!!!」
「おーい起きてるか〜〜〜お〜きろ〜〜〜!!」
全然諦めないじゃん…。名前は観念し、ヨロヨロと扉に向かい鍵を開けた。
「お、起きてんじゃねーか!」
「…起こされたんだわ…。どうしたの?」
部屋を訪ねてきたユーリはニカッと笑って一言告げた。
「宴だぞ!来い!」
(頭おかしいんじゃないかな…)
甲板ではすでに大勢のクルーたちが飲み始めていて、名前が姿を見せるやいなや歓声と拍手が上がった。
”お頭の腕を治した女神”との扱いらしい。その女神さんは病み上がりで頭重いんですけどねェ…と心の中で悪態をついたが、4日間ただ寝てただけ説が広まっているらしく誰も心配をしてくれなかった。むしろどこの席でも酒を勧められる始末だ。
まだ4日振りのお粥しか食べてないのにお腹壊したらどうしてくれる。
「よォ名前!よく寝てスッキリしたか?!よォし飲め飲め!」
「突然倒れて心配したけどよ、寝てただけならよかったぜ」
「しっかしよく寝たなァ。長ェ成長期だなぁオイ」
「そういやお頭とおてて繋いで見つめあってたってェ?!」
「おっ前…やっぱそのためにこの船に…?!」
ないことないこと好き勝手盛り上がり、ウザ絡みしてくる男たち。この人たちほんとお頭ネタ大好きだな、と名前は少しゲンナリした。
(今日はもう絶対シャンクスさんの近くには行かないどこう…)
しかしこのイカつい男どもはすぐ恋愛ネタにはしるな、意外にロマンチストなのかな。そんなことを考えつつ、酒を断り絡んでくる男どもをいなしながら、名前は食堂へ向かうことにした。
「すみませーん…」
食堂はまさに戦場と化していた。
これだけの大人数が飲み食いしているのだ。焼くだけ煮るだけそのまま出すだけの料理にしても、相当な量になるのだから手間も時間もかかる。
「あらお嬢ちゃん!元気になってよかったわねェ」
手の動きは止めず、顔だけこちらに向けて声をかけてくれたのは料理長のハンジだ。オネェ言葉が特徴的ですぐに顔を覚えた。口調の割にシュッとしたかっこいい中年男性で、紹介された際にイカつい個性派揃いのこの船では珍しいな、と思ったことを覚えている。
「あ、さっきおかゆいただいて…。ありがとうございました」
「いいのよォ!ちゃんと全部食べられた?」
「はい、おいしかったです」
「ん、顔色も良さそうね、何か食べる?」
飲み会料理はまだ胃に重いと思ったのだろうか、ハンジは気遣って何が食べたいかと聞いてくれた。
名前も正直そのつもりで食堂に来たのだが、料理も洗い物も追いついてないこの惨状を見て自分に個別の料理を頼めるほど図太い神経は持ち合わせていなかった。
「えーっと…それより何か手伝えることありますか?」
というわけで名前は今ひたすら洗い物をしている。
今夜の主役に裏方はさせられない、と断るハンジに、いや今夜の主役はまだお腹が落ち着いてないんでここに避難させてくださいと頼み込み、今に至る。
ひたすら洗って拭いて戻すだけの簡単なお仕事だ。頭がぼーっとしていてもできるので助かる。
「悪いわねェ、でも正直助かったわ」
「いえいえこちらこそです。あそこ(甲板)にいると誰かしら飲み食いさせてこようとするし。…あの人たち病み上がりって言葉知らないんですかね」
「まぁ…この船には病気する人なんてほぼいないしねェ…二日酔いくらい?それも迎え酒で治すよのね」
ああ…と名前は妙に納得した。しかしそれならやっぱり今日はここに隠れていた方が良さそうだ。
食堂の外からはたまに「そういや名前はどこいった〜?」と叫ぶ声が聞こえる。主役というのなら気を遣って欲しいものである。
「こんなとこでよければいつまででもドーゾ。頃合い見て部屋に戻るといいわ」
ハンジさん…!好き…!
名前は元気良くお礼を言い頭を下げると、皿洗いの作業に戻ったのだった。
「今日はホントにありがとう、何か食べる?」
結局食堂の仕事が落ち着くまで皿洗いを手伝い、食事が落ち着くに連れて下っ端料理人たちも次々と宴へ参加し始めたため、食堂にはハンジと名前の二人きりになった。
「あ、ありがとうございます…。そしたら何か、お腹にやさしいものがあればお願いします」
「じゃあ麺類にしましょうか、香辛料使わずにやさしい味でつくるわね!」
ハンジの料理は手際が良く、見ているだけでも退屈しなかった。動きが優雅で踊ってるみたい…なんて考えてるうちに、あっという間に料理が出来上がる。
「ハイどうぞ。火傷しないようにね」
「…いい匂い…、いただきまーす。」
と、その瞬間。
「おいハンジ肉くれェ〜〜!…っと名前、お前こんなところにいたのか」
もはや肉のついていないただの骨の棒と酒瓶を持ったルーが、勢いよく扉を開けて食堂に入ってきた。
「ルーちゃんお肉食べ過ぎじゃなあい?」
「うるせェ肉くれ肉!名前は外で飲みたいやつらが待ってンぜ」
「しっ!ルーさんわたしがここにいることはナイショでお願いします!」
オイオイどうしたと怪訝そうな顔のルーに、普通4日も食べてなかったら突然酒飲んで肉食べるなんてとんでもないんですよ、と名前のお腹事情を説明し、3人で食堂でご飯を食べることにした。
お腹事情にトンと縁のなさそうなルーは名前の説明を1ミリも理解できていないようだったが、キッチンが近く、肉と酒がすぐに出てくるためここにいることにしたらしい。
「ルーさん…体積以上にお肉食べてませんか…?どこに入ってるんですか四次元胃袋ですか?」
そんな話をしながらしばらくすると、「オゥ名前ここにいたのか、」と船員たちが続々と集まってきた。甲板では酒が尽きたらしい。
キッチン奥の食糧庫から酒を取ってきた彼らもそのまま居座り、案の定食堂での大宴会になってしまった。
「さァ改めて、オレらの幸運の女神にカンパーイ!」
オオオ!と歓声が上がる。名前もちゃんとしたご飯食べたしもういいか、とジョッキを煽ろうとしたが、後ろから大きな手が現れて名前の手ごとジョッキが取り上げられた。
「お前は今日はやめとけ」
見上げると、顔の横に黒いマントがかかった。
シャンクスさん、と言う間もなく名前のジョッキは空になり、代わりに赤髪の男が名前の横に座った。
「オイお前ら大概にしとけ、こう見えて病み上がりだからな」
気を遣ってもらってありがとうございます、と本来なら言うところだが、正直今日は相席したくなかった…と、名前はどうやってこの場を去ろうか瞬時に思考を巡らせた。
「お頭、左腕の調子はどうだ?」
「あァ絶好調だ、これも名前のおかげだな」
ルーに聞かれたシャンクスが名前の顔を除いてイタズラ顔でそう言うものだから、名前はますます逃げるタイミングを失い、結局夜が更けるまで付き合わされたのだった。
(よく飲むなぁ…)
誰かが席を立つと別の誰かがそこにやってきて、入れ変わり立ち替わり宴は続き、やがて段々と人が減ってきた。周りを見渡すと、潰れたのか単に寝ているだけなのか、そこかしこで男たちが転がっている。
それでも幹部たちを始めまだ半数ほどは飲み続けていた。
「よォ、夜更かしして大丈夫か」
顔色も変えずに飲み続けている1人、ベックマンだ。
「あー、なんかいっぱい寝たので。大丈夫そうです」
「はは、確かにな」
「何日分寝たんだろうって感じです」
乾いた笑いのあと、煙草に火をつけ、慣れた所作でゆっくりと煙を吐き出すベックマン。
この人もイケメンだよな〜色気あるよな〜と何処ぞのオッサンみたいなことを考えていると、ふと、ベックマンかシャンクスに聞こうと思っていたことを思い出した。
「そういえば、明日から何すればいいですか?」
「あー、それな。お頭とも話したが…、何もなくてな」
「………………は?」
「強いていえば…ケガ人が出た時の治療くらいか。ホンゴウからも聞いたか?…あとはまぁ好きに過ごせ。暇だったら適当にどっか手伝ってやれば野郎どもも喜ぶだろ」
「………無賃乗船じゃないですか…」
「はは、お頭が決めたんだことだ、異論がある奴ァいねぇ。むしろお前にはお頭の腕の恩があるからな、それだけで釣りが出るくらいだ。」
腕の件はwin-winだったはずだが、恩と言われると何か違う気がする、というかみんな仕事してるのにひとりだけフラフラしてるのは立場上いかがなものか…。
どうにも納得いかない表情をしている名前に気づいたベックマンは、何か面白いものを見つけたような気持ちで、自然と口の端が上がった。
「…お前、真面目だなァ」
「う、逆に面倒くさい奴ですみません…」
「いやいいと思うぜ、特にこんなとこでは貴重な気質だろ。まぁ暇だったら今日みたいに食堂の手伝いでもしてりゃいい。あとはまぁ、やりたいことがあったらオレかお頭に言え。」
まぁそれもそうだな、と名前は思った。
ハンジさんは今日1日でだいぶ好きになったし。
とりあえず明日は船内探検から始めることにしよう。
「あ、あと朝ごはんは何時ですか」
ブフォッと吹き出す音がして、突然いくつもの笑い声が上がった。寝てると思っていた船員や周りで酒を飲んでいた船員たちがこっそり聞いていたらしい。突然の爆笑にキョロキョロしている名前を見て、ベックマンは苦笑している。
「…食堂はいつでも空いてるから、腹が減ったら来ればいい」
「はーい。…ってもう!ちょっと笑いすぎなんですけど!」
これだけの大人数だから何かしらルールがあるだろうと、良かれと思って聞いたのに、大爆笑されるとは心外だ。しかし酔いが回っているせいかなかなか笑いが引かない。ルーなんて「真面目か!」と床を叩いて大爆笑である。みんな笑い上戸か。
すると突然、背中にドッと重みを感じた。
「よォ名前、飲んでるかァ〜〜〜?」
ここにも出来上がってる人が約1名…。
先ほど今日は酒飲むなとかナントカナントカ言ってたシャンクスが、背中合わせに名前にもたれながら話しかけてきた。
返事を待つ間もなくどんどん倒れ込んでくるので、押し戻す余裕もない。体格差を考えてほしい。
「いやさっき飲むなって…重っ!ちょっと、」
背中を押し戻そうとくるりと振り向くと、シャンクスはそのまま膝の上にドサリと倒れ込んでしまった。
「えええええ……」
「だっはっは、あー…いい夜だな…。」
ゲンナリ顔の名前とは対照的に、相当に酔っ払ったらしいシャンクスは、にこにことご機嫌だ。
そしてフゥ、と息を吐くとそのままスッと目を閉じた。どうやらここでそのまま寝るつもりらしい。名前が呆気に取られているわずかな間に、遊び疲れた子どもかと突っ込みを入れたくなる早さで眠りについてしまった。
「…嘘でしょ…」
どうすんのこの状況、とあたりをぐるりと見渡すと、ヤソップと目があった。すかさず視線で助けを求める。
「…まァここ数日自分の腕のことより目覚めない名前を随分気にしてたからな…。今日は名前も目覚めてホッとしただろうし、今夜一番楽しんでたのは間違いなくお頭だろうな…」
「それはどうもご心配おかけしまして…。それはそれとしてちょっとなんとかしてください」
目線でシャンクスをなんとかしろと示しながら、小声で応える。
「だからまぁ…今日は優しくしてやってくれ!お前もよく寝ろよ!」
頭をポンポン、と2回叩かれ、そのままよっこいしょと席を立つヤソップ。
反射的にえ?!と大きな声が出た自分に驚き、シャンクスに視線をやるとすやすやと変わらず寝息を立てていて、ホッとしたのも束の間。再びヤソップに視線を戻した時にはもう、その姿は消えていた。名前は逃げられたことに気づいた。
他に誰かいないか、と改めて辺りを見回すも、酔い潰れたのか逃げたのか、起きている人間は見当たらなかった。
「嘘でしょ…」
この頭どけていいかな、どうしようと悩んでいる名前をよそに、シャンクスは気持ちよさそうにいびきをかきはじめた。
そんな寝顔を見ていたら、なんだか気を遣ってる自分が馬鹿みたいに思えてきたので、結局普通によっこらしょとシャンクスをどかして自室に戻らせてもらったのだった。
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