シャンクス長編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雲ひとつない青空に、白い鳥が2羽追いかけ合うように飛んでいる。島が近いんだな、となんとなく目で追っていると、太陽の眩しさに目が眩んだ。今日も今日とて、良い天気過ぎるくらい良い天気である。
おやつどきを過ぎたころ、名前は下っ端クルーたちとともに洗濯を終えたタオルを延々と畳み続ける作業に勤しんでいた。次の島は夏島だろうか、乾いた風が吹き渡り、洗濯物も日中の時間帯だけで気持ちよくからりと乾いた。
しかし共有したり使いまわしたりしているとはいえ、この大所帯だからとんでもない量のタオル類の数である。(名前はありがたいことに自分専用のものをきちんと確保してもらっている)ちなみに質もすこぶる悪い。まぁみんな気にしないんだろうけど、と、触り心地の悪い黄ばみがかったゴワゴワのタオルを畳んでいると、下っ端Aが名前に話しかけるように口を開いた。
「なぁ、…オレ、彼女できたわ…」
「えーおめでとう。傘下の船の子?」
「そう、傘下Aの船の子、めっちゃ可愛いまじで」
「まじか?!」
「いつのまに?!」
「クッソ…!!!」
「裏切ったな?!?!」
馴れ初めでも聞こうかと口を開いた名前だったが、良い成果が得られなかったのであろう周りの男たちが即座に反応し、そして。
「「「「で、ヤッたのか?」」」」
さすがお年頃の男子たち。馴れ初めやらのろけやらはどこへやら、即座にシモの話へ持って行かれた。結局気になるのはそこらしい。
若いなぁと思いつつ、こうなったら名前は黙るに限る。というかそういった話は女子(とは認識されてないらしいが)のいないところでしてほしい。
下っ端Aが返答の代わりにドヤ顔まじりの笑顔を見せると、ヒュー!とかええー?!とか各々驚愕の声があがった。どの子?あーあの子か!普通に可愛いじゃねぇか!なんてそれっぽい会話で盛り上がるのを横目に、名前は黙々と作業を進めていた。すると、
「実はオレも…ヤッたんだけど…」
またの別のクルー、下っ端Bがボソっと呟いたその一言に、周囲は誰とだ誰とだとさらに一層の盛り上りを見せた。
しかし、下っ端Bは青白い顔で、先ほどのクルーが告げた名と同じ名前を、ポツリと小さく口にした。
「「「………え、」」」
「オイお前らァ!口より手ェ動かせ!」
一瞬静まり返ったその場に、タイミングよく近くで作業していた中堅のクルーから怒声が飛んできて、下っ端たちは一気に口をつぐんで姿勢を正した。年功序列ってすごい。
彼らはその勢いのままものすごい早さで作業を終わらせると、名前が畳んだ分も一緒に片付けてやると申し出た。珍しく女扱いしてもらったのだろうか、それとも先ほどの中堅クルーがそのままそこに居座って武器の手入れを始めたせいか。おそらく後者だろうと名前は思いつつも、ありがたくお願いすることにした。
しかし下っ端AとBはこの後どうなるんだろう修羅場だろうか…と思うと、もう少しだけ話の続きを聞したい気もした。
ポツンと残された名前へ、中堅クルーが声をかける。
「名前は良い男いなかったのか?」
「…え、わたしですか?」
もともと気の良く面倒見も良いクルーである。名前も何かと教えてもらって日頃からお世話になっており、軽口も聞ける間柄だった。
「や…まぁ、それどころじゃなかったっていうか…」
ここ数日のことを思い出し、正直に感想を述べると、中堅クルーは大きく笑い飛ばした。
「らしいなぁ、まぁ、お疲れさんだったな」
「や、まぁ、はい」
「はは、日常が戻ってきてよかったな」
気にしすぎだとか気を違うなとか、そういうことを言ってこないのがこのクルーと話していて楽なところである。本人にその自覚があるとわかっていることをあえて指摘してこない、ここのクルーには珍しく気の回る人物だと名前は思っていた。
「ハンスの嫁とは気が合ったみたいだな」
「え、えー、へへ。はい。」
サラの話しは、思い出すだけでも自然と頬が緩むのがわかり、おっと気持ち悪い笑い方をしてしまったと慌てて口元を引き締めた。彼女のビブルカードは、大事に大事に引き出しにしまっておいてある。また会う機会があるわけでもないけれど、楽しかった記憶として、大事に持っていたいと思う。
「あっこも長ェ付き合いだもんなぁ」
「え、あ、そうなんですね」
別の方向から声がして、返事をしながらそちらを見ると、また別の中堅くらいのクルーが自然な流れで会話に参加してきた。そしてさらにまた別のクルーが口を開く。
「ああ、別居生活みたいなもんだろ、よく続くよなぁ」
「愛ですね…!素敵でしたよね。ハンスさんも、なんか見たことない顔してて」
「メロメロだかんなぁ」
「尻に敷かれてやがんな」
「サラは強ぇからなぁ」
「おっかねぇしな」
「ちがいねぇ!!」
ロマンチックさのカケラもないガサツなオッサンたちにガッハッハと笑い飛ばされはしたが、本当に素敵なカップルだったと、名前はまた頭の中で二人のツーショットを思い描いた。思い出すだけでもホワホワしてしまう。
素敵でしたねぇ、と再度小さく呟くと、最初に話していたクルーが名前に向かって口を開いた。
「お前は結婚願望ねェのか?」
想定外の問いに、しばし固まる。
「…考えたことなかったですねぇ」
人生でおそらく初めての問いに、目を丸くする名前。しかし、んなわけねーだろ!だの相手がいなかったのかァ?!だのと、即座にヤジまがいの怒声とも取れる声がとんできた。非常にやかましいことこの上ない。人の結婚観なんて本当に放っておいてほしいものの一つである。
そこへ、周りのクルーからも矢継ぎ早に質問が飛んできた。
「つーかお前将来どうすんだ」
「そういえば誰か探してるんだったか」
「好きな奴追いかけてるんじゃなかったか?」
「オアヤシ島に着いて探し人に会えたらうちに入るんじゃなかったのか?」
いつの間にそんな話に?と困惑していると、「いや想い人に会えたんならうちにゃあ入らねぇだろう」「シッ、普通に振られる可能性だってあんだろ」「しばらく会えてねぇんじゃなぁ…」などと心配しているように見せかけて、ガヤのオッサンたちが好き勝手なことを言いだした。完全に面白がられている。なんだろうこの人たち暇なのかな?
そんな空気を察知し、名前はハァ…とひとつ呆れ混じりのため息をついた。
「………アオヤシ島には、占い師を尋ねに行くんです」
「「「「「「「占い師ィ?!」」」」」」」
周りで話を聞いていたクルーたちが、揃って素っ頓狂な声を上げる。そんな怪しげなものに?!と、口にこそ出してはいなかったものの、全員顔に出ていた。
「探してるのは、兄弟みたいな…?一緒に育った人なんですけど、昔別れたきりで」
周囲の視線が名前に集まるのがわかる。
会話に参加せずとも、話を聞いていた者もいるらしい。確かに今までたいしてちゃんと話したこともなかったな、なんて頭のどこかで考えた。
「海に出ればいつか会えるだろうって思って白鬚の船を降りたんですけど、世界って思ってたよりめちゃくちゃ広いんですよね…いやコレ普通に無理だわって気づきまして」
「「「「………」」」」
そりゃそうだろうという無言の圧と、呆れ混じりの視線が集まるのを感じる。お前そんな神頼みみてぇなことでいいのか?といろんなところからチラホラと声も聞こえた。
そう言われるであろうことももちろんわかっているのである。でも、それでももう、名前はむしろこれしかないとすら思っていた。
「で、その占い師の話を聞いて。本当に、百発百中なんですって。だから…、むやみやたらに航海するよりいっそ効率がいいのかなって」
「…能力者だってはなしのバアさんだろ?」
「え、」
周りで聞いていたクルーの一人が口を開く。
知ってるんですか?と聞けば、ずっと昔この船に乗る前に、アオヤシ島で働いていたことがあるらしい。
「姿は見たことねェけどよ、その頃から有名なバアさんだったぜ。だが、みてもらえるかどうかはバアさん次第でなァ。大金積んで占ってもらおうとやってくる金持ちがあとを絶たなかったが、バアさんは誰でもみてくれるワケじゃあねェから、乱暴な手段をとろうっつーやつも珍しくなかったな。ただどういうわけか、バアさんが被害にあった話は聞いたことがねェ。…今も生きてるとすると、いくつくらいなんだろうなぁ…。」
なかなかに有力な情報だ。というかほんとに存在してるんだ…と名前は今更感心した。いやまぁ、いてもらわないと困るんだけれども。
眉唾モンじゃあなかったのか!とかよっぽど強ェバアさんなのか?!などと外野がガヤガヤ盛り上がっている中、また違うざわめきが聞こえ、そして群衆が割れた。
「なんだ、身の上話か?」
その声に目を向ければ、この船の船長であるシャンクスが、ゆったりとこちらへ向かって歩いてきていた。その存在感ゆえか、カリスマ性か、完全にガヤと化していた外野のオッサンたちの視線も自然に集めてしまうのがこの男である。
「名前の話か、そういえばちゃんと聞いたことなかったな」
何の気なしに発したであろうその一言に、我が我がと外野のガヤたちが一気に口を開いた。
「アオヤシ島に占い師に会に行くらしいですぜ」
「会えるかどうかもわからねぇってのになァ」
「無鉄砲にも程があらァ」
「名前はもうちっと計画性ってもんをなァ、」
「兄弟を探してるんだそうだぜ」
「あァ?兄弟じゃねぇんじゃねぇか?」
「みたいなモンだっつったか?まぁなんでもいいじゃねぇか!」
「まぁ、ダメだったらこのまま乗ってりゃぁいいじゃねぇか、なあお頭!」
クルーたちが説明やらちょっとした悪口やら何やらを矢継ぎ早に口にするが、シャンクスは涼しげな顔で聞き流し、そうだな、と呟くと、名前へチラリと視線を向けた。
その瞬間、名前が少しだけ身構えたのに気づかなかったのかあえて気にしなかったのか、シャンクスはほどほどにしておけよとだけ言い残してその場を離れた。そして少し離れたところで別のクルーと何事か話し始めたのを、名前は視界の端でチラリと眺めた。
「で、結局結婚願望はあるのかねぇのか」
ふと、最初のクルーにもう一度問われる。
そういや最初はそんな話だったなぁと外野のガヤたちも口にした。いやこの人たちわたしの結婚観にそんなに興味ある?と思ったものの、名前は再度同じ答えを口にした。
「だから、…そんな先のこと、考えたことなかったですって」
「…そんな先って、おめぇ自分いくつだと思ってんだ」
「10代の小娘じゃあるめぇし」
「もうしっかり適齢期に足突っ込んでんぞ?」
「しっかり考えとかねぇと売れ残るぜ」
グゥの音も出ない正論に、う、と言葉に詰まる。
いやいやいやでもちょっと待ってほしい。結婚してない(してる人もいるかもだけど)オッサンたちに言われたくない。額に青筋が浮かぶのを感じたが、グッと堪えた。…つもりだったが。
「余計なお世話がすぎません…?」
思わず呟いた一言に、うるせぇ心配してやってんだろうがァといった怒声混じりの爆笑が起こった。
「絶対面白がってるだけじゃないですか!」
名前の反論に、さらに爆笑が巻き起こる。もはや何をどう言ってもネタとして面白いらしい。
もうヤダこの人たち…と最初に話していた中堅クルーに視線で助けを求めると、目が合ったのち、すかさず違う話を振ってくれた。さすがいい人である。
「そもそも帰るとこはあんのか?」
相変わらず外野のガヤがやかましいが、名前は一旦もう無視することにした。これは雑音これは雑音…。
「ないです」
「兄弟みてェなやつとやらを見つけて、そっからどうすんだ?」
「どう…?えー、生きて会えたら、普通に嬉しいですし、、、幸せに暮らしてるならそれでいいんです。一目会えたら。」
「じゃあその兄弟みてェなやつを見つけて、生活に問題なければお前は自由になんだな」
「まぁ、、、、そうですかね…?」
自由…?自由とは。考えたこともなかった。
むしろ今も別に不自由ではないと名前は感じているのだが。
「じゃあまあ、うまくいくといいな」
中堅クルーがにっと笑う。
その瞳から、ちゃんと名前のことを思っての言葉だということが、じんわりと伝わってくる。騒ぎたいだけの小うるさい外野とは大違いである。
「その後戻ってくれば良いだろ」
「ちげぇねぇ」
「どうせ何の予定もねェんだろ」
「嫁入りの予定もなぁ」
「(爆笑)」
すかさず間に入ってくるガヤ担当たち。少しの間黙ることはできないのだろうか?いや待てそもそも私は海賊ではない。そう答えると、
「じゃあどうするつもりなんだ?」
「え、えーと、」
「どっかに住み着くのか」
「永住、は、、、考えられないかも…?」
ずっと放浪して生きてきたからか、今更どこかに住み着くなんて想像もできなかった。
そもそも将来なんて、そんな自由に広がる世界なんて、考えたこともなかった。
でも、もし。そんな未来があるのなら。
うーん、と思いの外真面目に考えていると、ガヤ達の視線は静かに名前に向けられた。そしてそれは、名前の周りのガヤに限ってのことではなく。
「治療でお金稼ぎながら、いろんな島を巡るとか、ですかねぇ…」
名前が捻り出した答えを聞いた、一拍の、そののち。
「なんだぁ、結局今までと同じじゃねェか!」
「別にここでできるだろそれは」
「神妙に考えてっから何かと思ったぜ」
「残りたいなら最初から言えばいいだろ」
「ああ安心したぜ!」
「お前がいれば安心してケガできるからなぁ」
え、え?!と困惑する名前を他所に、なんだなんだァ結局オレらの一味に入りたいんじゃねーかと妙な方向へ納得したらしい面々は、さぁメシの時間だと食堂の方へ向かって歩き出した。
見上げれば空がもう群青色に染まっていて、もう間も無く夕飯の時間のようだ。
何人かのクルーは、これからもよろしく頼むぜ!と名前の肩を叩いて過ぎ去っていった。
何故か勘違いさせてしまったことへの動揺や、何を言っても都合の良いように捉えるオッサンたちへの非難等を孕んだ視線を中堅クルーへ向けると、眉尻を下げて苦笑いを返された。
「ありゃァ、お前船降りる時に相当文句言われるぞ」
「…これはさすがに冤罪じゃないですか?」
そう、わたしはそんなこと一言も言っていない。
怪訝そうな顔をしていた名前だったが、中堅クルーに二言三言慰めの言葉をかけられると、観念して食堂に向かったのだった。
そしてその様子を、少し離れたところで別のクルーと話しながらも、シャンクスがじっと見つめていた。
10/10ページ