長編パラレル
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青い空に、風に吹かれて花びらがヒラヒラと舞い飛ぶ。
現在赤髪海賊団一行が寄港している島は、様々な花々を特産品としており、今はちょうど花祭りの真っ最中だった。多種多様な花が年がら年中咲き乱れているらしく、花祭りは年に数度あるらしいが、今回は春夏の花がメインの祭りだそうだ。
そんな中、上陸して街歩きをしていた名前は、花屋の店先に並べられた花に目を止めた。
「どうした?」
その様子を見て声をかけたのは、今日の上陸のお供であるシャンクスである。船長自ら街歩きの付き合いを買って出るなど、後々ベックマンあたりに怒られないかとこちらのほうが心配になるのだが…。
そんな心配をよそに、シャンクスは名前が目を止めた花をチラリと見やり、意外そうな表情をした。
「珍しいな、欲しいのか?」
「いえ……………この花、さっき普通に野原に咲いてたなと思って」
「おま、…言うなそういうことは」
野花が売り物になるのであれば簡単に小銭稼ぎができそうだと思っただけなのだが、客と思われたようで、気の良さそうな店主が声をかけてきた。
「いらっしゃいお嬢さん!良い花に目をつけたね、そいつは”どこでも成功”だよ!」
「…どこでも、…?」
「花言葉さ、白い方は普通に“成功”だよ!」
花言葉。
名前の人生の中では全くと言っていいほど触れることのなかったものだ。
よく見たら名前と値段の書かれたプレートに、それぞれの花の花言葉も書いてあった。先ほど目についた花から順に目で追っていく。どこでも成功、あどけなさ、愛の絆、慎重な愛、夢の中の恋、あ、あなたに愛されて幸せ…?
なるほどなるほど。声に出して読むと恥ずかしくなるやつだ。
花言葉を添えて売るというのはなかなか粋な売り出し方だなと思いながら、並んでいる花々を眺める。どの花も可愛らしい花言葉が添えてあり、物によってはダイレクトに“あなたを愛しています”なんて花もあった。なるほどだからプロポーズに使う花は薔薇なのだな、などとそんなことを考えていると、いつの間にか本日のお供が花屋の店主と盛り上がっている。
「なんだなんだぁ、にいちゃん色男なのになぁ」
「なかなかうまいこといかなくてな。ああ、そのままもらおう」
「お、そうか?じゃあオマケにこれも持ってきな」
「いいのか?」
「幸運を祈るってこった!頑張れよ!」
「はは、ありがとう」
その会話からシャンクスが花を購入したらしいことがわかる。花とか無縁そうなのに…と失礼なことを考えていると、小さな白い花がたくさんついた切花と、薔薇に似た大ぶりの紫色の花1輪を手にしてこちらへ戻ってきた。両方とも短く切られていて、花瓶に生けるには長さが足りないように思える。
すると、断りも入れずにその花々を名前の頭にグサグサ挿した。
「…?なんですか?」
「やるよ、花祭りっぽいだろ」
「あ、ありがとうございます…?いやでも頭に花とか挿してて大丈夫な年齢ですかねわたし」
「みんな挿してるし、いいだろ。似合うぞ」
女性の髪の毛にサラリと花を挿すって…。
ずいぶん手慣れていらっしゃいますね、とやや胡乱な目で見つめてしまったものの、屈託なく笑うシャンクスの笑顔に絆されてそのまま花屋を出る。シャンクスの言った通り、通りには髪の毛や洋服、バッグなど其処此処に花をあしらっている人々で溢れかえっていた。
確かにこれなら目立たないだろう。
シャンクスが「な?」と言いたげに目を細めて笑った。
通りも人も何もかも花だらけの中、大通りを道なりに進んで街の中心まで行くと、そこは大きな広場になっていた。ここもまた端から端まで花で飾り付けられている。中心に大きなステージ、そしてその周囲をテーブルやイスなど座って休めるような設備がぐるりと取り囲み、さらにその周りは建物沿いに露天がずらりと並んでいた。主に食事の屋台と、そして観光客向けの花屋が大部分のようだ。
「なんか食ってくか」
「はい!いい匂いがしますね」
あれもこれも美味しそうとグルグルと屋台を見て周り、ようやく決めた屋台でシャンクスが昼食を買ってる間に、名前はその隣の店でお酒を買ってくることにした。お昼からお酒、これぞ休日の醍醐味である。
2人の距離が開くことにシャンクスが少しばかり難色を示したが、ほんの数メートルの距離だし、見える範囲内だから問題ないだろうと押し切らせてもらった。
「あら、素敵な花ね」
突然かけられた声に、見慣れない地酒の名前ばかり並んだメニュー表から視線を移すと、ご年配の女性が名前の頭に挿された花を見ながらにこやかに微笑んでいた。
「プレゼントかしら」
「あ、はい、一応…?」
「恋人から?」
「え?!…いや、違います」
「あら、ウフフ、その花の花言葉知ってらっしゃる?」
「…?」
「“この恋に気づいて”よ、可愛らしいわね」
「………」
「あら、下の方にもう一つあるわね。そっちは確か、…“幸福”、ね」
「………」
「フフ、想われてらっしゃるのね」
言葉の出てこない様子の名前に、女性はニコリと微笑んで去っていった。大変素敵なご婦人である。
全然頭に入ってこない地酒の説明が右耳から左耳へと流れていき、店員とのやりとりを愛想笑いと会釈で受け流し、なんとか適当にお酒を二つ注文した。
その間も女性に告げられた花言葉がグルグルと頭を回る。
“この恋に気づいて”
購入したアルコールを両手に踵を返すと、先に食事を買い終えて席を確保したらしきシャンクスが手を振っているのが見えた。
いやいやいや三十代男性よ…?いや花言葉とか全然見ないで買ったんだろうなたぶんきっと。
それともまた何かからかおうとしているんだろうか。
この恋に…ってどう考えても十代の乙女の発言ではないか。
もし、もしも万が一、本気で買ってくれていた場合…ときめくところなのかちょっと気持ち悪いなと思うところなのかどっちなのかコレは。
「おお、ありがとな」
「とりあえず乾杯すっか」
そして当の本人はと言えば、全然いつも通り飄々としている。
「どうした変な顔して」
「っと、ちょっとじっとしてろ、花直すな」
大きな手が髪に触れる。
その手慣れた動作に少しだけ心がザラリとしたような気がした。
“この恋に気づいて”…?
いやでも名前が花言葉に気づいて内心悶々するところまで折り込み済みで、イタズラを兼ねてのあえてのチョイスなのではないだろうか。どうせ大した意味なんてないんだろう。
シャンクスがあまりにいつも通りすぎて、どうしても穿った見方をしてしまう。
「…シャンクスさん」
「ん?」
「お花ありがとうございました」
「なんだ改まって。ああ、やっぱ似合ってるな」
いつも通りの笑顔でサラリと笑う。
こちとらどう受け取ったらいいのかわからなくてアワアワしているというのに。いつも通りの余裕綽々な笑顔が、名前を何とも言えない気持ちにさせた。
そしてふと目線を上げると、近くの露店に先ほどの花屋で見かけた花があるのが目に入る。
「シャンクスさん、ちょっと待っててください」
「名前、おい、」
「すぐもどります」
…確かこれだったと思う。
お金を支払い、白い花を1輪手に持つ。
「どうしたいきなり」
「…お返しです」
勢いで買ってみたものの、なんだか気恥ずかしくなって目を合わせないままシャンクスの胸ポケットに無造作に花を挿し入れた。
「お、ありがとな」
「…いえ」
「なんて花だ?」
「…え、……イ、イ…イなんとか……?」
「お前そういうとこだぞ…」
「……」
「…花言葉は?」
その言葉にシャンクスの顔を見ると、目があったその人は悪戯そうな瞳で柔らかく笑っていて。
…やはり、これは完全にわかっててやってる顔だ。
「…知りません」
「…へェ?」
「………」
「…オレはちゃんと選んで買ったけどな」
「……?!」
「あの花屋の店主に聞きに行くか」
「…え、え?!?!」
「っはは、どんな花でも嬉しいさ、ありがとな」
その言葉に、胸をほっと撫で下ろした。
絶対絶対教えないけれど。
花言葉は、“あなたと一緒に”
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