長編パラレル
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
硬めの髪をさらりと撫でる。
仮にも海賊が、こんなにも無防備に昼寝してていいんだろうか。人の気配で目が覚めるものではないのだろうかと、名前は不思議に思いながらも、赤い髪をサラサラと弄っていた。
日に焼けた肌、端正な顔立ち。目尻の笑い皺。
いびきかいて寝そうなのにかかないんだな、と失礼なことを考えながらその寝顔を見つめる。
ここがわたしだけの特等席ならいいのに、なんて。
ふとそんなことを考えてる自分に気づいて、慌ててかぶりを振った。
ほだされている。
普段から無駄にドキドキさせられているから、脳が好きだと勘違いをしそうになっているんだ、たぶん。きっとそうに違いない。
手を繋がれたり、抱きしめられたり、甘い言葉を囁かれたり。
この人にとってはきっと全部何でもないことで、挨拶でハグするくらいの軽いノリなんだろうとわかっているのに。
今日だって洗濯中にフラリと現れて、タオルを畳んでいる名前の膝で寝てしまった。こんなにスマートに他人の膝で寝れる人、なかなかいないのではないだろうか。
なんかこう、上手いんだよな。普通なのに、言い回しとか、接し方とか。わざとらしくないのにドキドキさせられるような要素を言動に散りばめてくる。
そしてまんまと毎回それに引っかかってることが、名前はなんだか癪だった。
洗濯物の片付けも終わり、いつもなら頭をどけるか起こすかするところだが、今日は何故かこのまま寝顔を見ていたい気分だった。
とはいえこんなに気持ちよさそうに寝られると、何かちょっかいでも出してやりたい気分に駆られる。たまにはこちらから何か仕掛けることはできないだろうか。ギョッとさせて、あわよくばシャンクスを照れさせることができるような、何か。
ギョッとさせるだけなら、この髪を全て細い三つ編みにしてみるのもいいかもしれない。髪をいじりながらそんな事も考えたが、めんどくさいしほどくのを手伝わされそうだからやめた。
化粧でも施してみようか、でも道具取りに行ったら起きるか。
いっそこの無精髭を全部剃ったらスッキリするのでは?いや起きるな。
瞼の上に目を描くとか…。
…いや発想が子どもか。
全然ドキドキさせられるようなイタズラが思いつかなくて、名前はゲンナリした。艶っぽさのかけらもない。これほど才能がないとは思わなかった。
女慣れしてるであろうこの人には、体を使ったドッキリも効かないだろう。…まぁそんなことする気もサラサラないのだけど。
ベックマンあたりにシャンクスの弱点を聞いてみようかな。そして今度また出直そうか…。
よし、そうしよう。
じゃあ今日はもういいや、と立ち上がるために足を少し動かすと、寝ていたシャンクスがピクリと動き、眉根に皺を寄せた。起こしてしまったようだ。
「…名前…?」
「…おはようございます、シャンクスさん」
眠そうに目を擦るシャンクスにそう声を掛けてみると、「目覚めのキスがないと起きれねェ」とかまたしょうもないことを言い出した。
いつもだったら叩き起こすところだが…。
たまには普段と違うことをして反応を見てみるのもいいかもしれない。
ふとそんな気になったので、そっとおでこにキスをしてみた。
「…起きてくださいね?」
姿勢を起こし、首を傾げてそう告げてみれば、シャンクスは目をまん丸くして、しばらくの後、無言でむくりと起き上がった。
心の中でおや?と思う。
おや?おやおや?
これはもしや、今日は私が一本取ったのではないだろうか。
いやなんの勝負って感じだけど。
しかし、ゆっくりとこちらに向き直ったシャンクスの顔はもう、いつものイタズラ好きな笑顔になっていて。
「足りねェなぁ」
その言葉に名前がギクリと身構えた時にはもう遅く、シャンクスの大きな手が頬まで伸びてきて、そしてその手が名前の後頭部を包んだかと思うと、優しく頭を引き寄せられた。
咄嗟のことに目を閉じる余裕もなく、
シャンクスと名前の視線が至近距離でぶつかる。
先程とは反対に、目をまん丸くした名前の唇にシャンクスのそれが触れ、唇をペロリと舐められた後、ゆっくりと離れた。
「…オイ、
口開けてくれねェと舌入れられねェだろ」
「…いや開けるかァ!もう!!離れてください!!」
乱暴にシャンクスを押しやって、畳んだタオルを抱えて立ち上がる。顔が熱い。してやったかと思ったのに、結局いつもいつも負けてばかりだ。
そして残念ながら、ここから反撃できる術もない。
「またこういう…!もう、ほんともう、…………ああもう、馬鹿!!!」
せめて捨て台詞を、と思ったが、語彙力も悲しいほどになかった。
ドスドスと足音を立てて立ち去れば、うしろからダッハッハという腹立たしい笑い声が聞こえてくる。
「あー…………、今のはヤバかったな」
そんなシャンクスの一人言も、そう呟く彼の耳が少しだけ赤くなっていたことも、名前は知る由もなかった。
4/14ページ