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とてとてぼてぼて

 最初は、兄弟たちと身を寄せ合って暮らしていました。それはそれは光もなく狭い場所です。寂しさはないけれど、とても窮屈に暮らしていたので、早く一人になって自由に動き回りたいと思っていました。母は、苛立ちを隠しきれない私達をやさしく揺らしながらあやしてくれました。「今だけの辛抱よ。兄弟たちといる時間を大事にしなさい。」毎回この言葉を言っていました。
 しばらくすると、頭上が何やら眩しくなってきました。そしてほのかに暖かい。眩しさに少し慣れてきた頃、私たち兄弟は離れて過ごすようになりました。嫌いになったわけではありません。なんだか少し歯痒いのです。
 視界がはっきりとした、あの朝のことは忘れません。私たちが存在している場所がどんなところかよく分かったのです。母は私たちをずっと抱き上げていてくれました。母は黒い破片が数多に敷き詰められた場所に立っていました。空は青いです。白だったり黒だったり。赤の時もありました。朝と夕方には、同じ姿をしたものが私たちの前を通り過ぎていきました。
 静かな月が登って降りて、何回か繰り返した時、母が突然言いました。「可愛い子供たち、一緒にいられる時間はあと少しです。風が強く吹いた時、貴方たちは旅立たなくてはいけません。楽しくて、悲しくて、孤独な時間が来ますが、どうか母と兄弟たちといた時間を忘れないで。」少し寂しそうな、でも嬉しそうな声でした。
 眩しい太陽が登って降りて、三回繰り返した時、母は急に話さなくなりました。その時、母の足元がぐっと遠くなり、次の瞬間には隣にいた兄弟たちが頭上を舞っていました。
『ふぅーーーーーーーーーー』
また、兄弟達が次々と頭上に消えていきました。最初に離れて行った兄弟達の姿は見えません。
『ふぅーーーーー。ふぅーーーーーー。』

 風が近い。ぐっと、足元の締め付けが消え、体が軽くなった時には、私は一人になっていました。見渡すと、兄弟たちも同じように勝手が分からない様子でした。近づきたくても、一度風が吹けば別の方向に伸ばされてしまいます。
 母が言っていた旅立ちとはこの事かと、寂しさの中で思い出しました。兄弟たちよ、どうか幸せに。
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