露天商
「はぁ……」
「ココも駄目だったね兄さん。」
カランとドアに付けられたベルの音が無情にあたりに響いた。今のでこの街の宿は最後だ。そう、すなわち今日は野宿という意味になる。
「ったく…なんで空いてねーんだよ」
愚痴をこぼしても部屋が空くわけでもなく、すでに星が見える薄暗い空を睨みつける。
この旅が始まって野宿は少なくない、慣れというものがあるが、なるべく屋根のあるところで寝たいと思うのが普通だろう。まったく、こういう時金なんか役に立たないってことが身にしみてわかるぜ…
「じゃあ、移動すっか」
野宿をするといっても町中でしていたら荷物が盗まれてもおかしくない。町外れの静かなところにしよう。……まぁ、どうせアルが隣にいる限り誰も近寄ろうとはしないけどな。それを本人に告げると器用に鉄の体で「怒」を表現してくるから止めておこう。
カツンコツン、カシャンカシャン。3つの違う足音が人気のない路地に響く。
『ねぇ、そこのお兄さん達?』
ぞくり、どこからともなく声が聞こえた。まるで影が急に喋り出したように。気配など一切感じなかった。
頬に一筋冷や汗が伝う。
ぐるりと振り向いてその音源に目を向けると
真っ黒いマントを顔が見えなくなるぐらいかぶった【商人】らしき人間が、コレまた真っ黒い敷物にところ狭しと【商品】を並ばせていた。
「なんだ、」
『いやぁ~お困りのようですね!是非うちの子達見ていってくださいよ。なにかのお役にてるかもしれないですよ?』
男…の声…? いや、なんとなく機械を通したような独特の…そう、ラジオから聞こえてくるような声…
「見ていかねーよ。金ねぇんだ」
ただの商人か、無理矢理にでも商品を買わされる前に無視したほうがよさそうだ。…そう思って商人とは逆方向に足を伸ばす。
『そんな!ねぇお兄さん!!お安くしますから!!見ていくだけでも見ていって下さい!!』
いつのまにか腰回りにひっついてきた商人。
『お話だけでも!お話だけでも!!』「聞かねぇって言ってんだろ!」『3分!お時間は取らせません!きっと気に入る商品が!!』「はーなーせー!」
最初に感じた恐怖はどこへやら、ただの押し売りとなった商人を剥ぎ取ろうとするが…コイツ…地味に力が強い……
「おいアル!コイツ離すの手伝……アル?」
「すいませーん、コレなんですか?」
いつのまにか商品を物色している弟……。がっくりと肩から力が抜ける、そしてまたいつの間に移動したのか『お目が高い!そちらの商品はですねぇ…』などと商人が最初に居た位置に戻っている……
「話し聞くだけだからな…」
生憎のところ急ぐようもなく。暇つぶしにでもなるか………。
商品を見渡すと、針が6本ある時計。瓶に詰められた何か得体のしれない物。40本はある鍵束。本のページをちぎり取ったような紙切れ。鎖で開かないようになっている本。銀細工のネックレス。…食べかけのパン???
うさんくせぇ……
「コレは…ライト?」
アルが手にとったのは緑色のどこにでもあるようなライト。
『ちっちっち!ただのライトじゃありませんよ!!』
その風貌からは想像できないような明るい声で商品説明に入った、
『ごっほん。 ぱららっぱっぱら~ん!光を当てたものをなんでも大きくできる不思議なライト~~』
「「は?」」
『ぱららっぱっぱら~ん!光を当てたものをなんでも大きくで「そういう[は?]じゃねぇよ!!」
ぽかんと商人は首をかしげた、え?コイツ今なんて言った?光を当てたものをなんでも大きくできるライト?
「んな非科学的なもんあがあってたまるか!!」
『信じがたいでしょうがコレは未来の道具なのです…未来では技術がすすんでるのですよ!』
ばっと両手を上げて商品をアピールするが、未来から持ってきた方が信じられねぇよ…
「バカ言ってんじゃねぇよ!!そのライトは置いといてとしても、未来から?ってことは誰かが持ってきたってことじゃねぇか!」
『未来にお得意様がいまして、商品をたまに入荷させていただくんです』
まるで話が通じない。コイツの中ではタイムマシーンが当たり前となっているのだろうか?胡散臭いなんとも胡散臭い!久々に出会った悪徳商人だ!こんなんで人を騙せると思うなよ!!
「いいか?質量とエネルギーは等価だ、仮に未来から持ってきたとしてもその質量がすべてエネルギーになるとしたら、元の世界は確実に破滅するエネルギーが出てくるんだぞ?!それをホイホイ持ってこれっかよ!」
隣から「兄さん大人気ないよ」なんてセリフが聞こえるが知ったこっちゃねぇ!俺はコイツを完膚なきまでに叩きのめす!そしてもう二度と商売できなくしてやる!!
『お兄さんは頭が硬い「はあ?!」……ごほんごほん、頭がとてもよろしいようで…』
違和感しか覚えないこの商人…声も見た目も商品も謳い文句も。全てが信用ならねぇ……。
『ではでは、百聞は一見にしかず。今回は特別に大きくなるところをご覧に入れましょう!!!』
「「!」」
意気揚々と準備を始めた……。これで言い逃れはできねぇぞ!
『じゃあいきますよ!このパンを大きくしてみせましょう!!』
横にあった食べかけのパン
ほんの少しだけ体が前のめりになる。「兄さん楽しそうだね…」「アルこそ…」 ほんの少しの期待…何が起こるのだろうか。
『せーの!』
-カチッ-
-カチッカチッ-
『あぁ~電池切れですねコレ。』
「ふっざけんなぁああ!!」
悲痛な叫びが路地裏に響いた。
『次回またお求め下さい☆』
てへっと効果音が付きそうなほど無責任な単語が吐き出される。
「てんめぇ!!悪徳にもほどがあるだろ!!」
「まぁまぁ兄さん」
今にも殴りかかりそうな俺をアルが押さえる。何言ってんだコイツ!!
『運が悪かったですね~昨日は使えたのになぁ~』
かちゃかちゃライトをいじって、出てきたのは単三電池……『あ、予備ねーや☆』……なんというか、
「…はぁ、もう、いいや。」
気張っていた力が一気に抜ける。こんなヤツに怒るのも馬鹿らしくなってきた。
『さて!次は何にしましょう?』
ラジオ声の怪しい商人、ガラクタにしか見えない商品。
「アル、行くぞ。」
付き合ってられるか、荷物を持ち直して商人に背を向ける
「え、わっわかったよ兄さん」
俺の考えていることが見えているようにアルは慌てて俺の後についてきた。
『ありゃ? またのご来店をお待ちしておりまぁ~す』
後ろから聞こえてきたのはなんとも気の抜けた声……
「二度と来るかこんなみ……せ……?」
振り向いて文句の一つでも浴びせようとした
が、
元から何もなかったようにそこには黒より暗い闇が広がっているだけだった。
「「は?」」
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