はつこいのおもいで

「むつきはじめです」

 その日、花園雪が初めて会った親戚の男の子は、物怖じせずにそう名乗った。
 礼儀正しくお辞儀までする彼とは対称的に、人見知りの激しい雪は母親の陰に隠れてもじもじするばかりだ。
 そんな雪の態度に気を悪くした様子もなく、男の子――睦月始は優しく彼女に話しかける。
「きみのなまえは?」
「……はなぞの、ゆき」
「きれいななまえ。ゆきってよんでいい?」
 綺麗などと言われたのは初めてで、雪は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になり俯いてしまう。
「……ダメだった?」
 不安げな始の声音にはっとして、雪は慌てて首を横に振った。
「ダメじゃ、ないです」
 おずおずと顔をあげると、嬉しそうに微笑む始と視線が絡む。
「ありがとう、ゆき。おれのことも、はじめってよんで」
「はじめ……にいさま?」
 始のほうが自分より年上だということを思い出し、雪はそう呼んでみた。
〝兄様〟と呼ばれたことに驚いたのか、始はきょとんとした表情で瞳を瞬かせた。しかし、すぐにまた笑顔になり、雪に向かって手を差しのべる。
「ゆき! いっしょにあそぼう!」
 引きよせられるように雪がその手を取ると、始は笑みを深め、彼女を連れて駆け出していった――
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