Team C
いらっしゃい、小鳥ちゃん?
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コンクリートの壁で出来た無機質な部屋にガサゴソとダンボールを漁る音が響く。
作業の音は2人分。私とカスミさんだ。
いくつものペンライトを一つ一つ手に取りそれぞれの色ごとに仕分け、手元の納品書を確認しながら検品していく。
先程、事務室でこの検品作業を黙々と進めていた彼をたまたま見つけた。
しかし、何かあった訳でもないがその姿にしばし目を止めてしまっていた。
最近こんな事がよくある。
カスミさんがホールで料理を運んでいる時や、バクステでダンボールを運んでいたり、PCで作業している時、他キャストの為にあちらこちら奔走する姿を見ると、つい目で追ってしまうのだ。
何故かはまだはっきりとはわからない。
それでも私の視線はカスミさんを追い、眺めている。
気になってしまうのだなあ、と思うも自分の中でしっくりとくる理由は見つからない。
振り返ってこちらに気づいたカスミさんに声をかけられて、はっと我に返った私はただ見ていたのも失礼な気がしたため自分も手伝うと申し出たのだった。
カスミさんはケイさんの事を気に停めながらも「じゃあ少しお願いするッス」と快く承諾してくれた。
そして今に至る訳だが、検品に意識を集中していても何故か隣で作業をしている彼に意識が向いてしまう。
床にしゃがみこんで手元の資料とペンライトを見ながら色ごとに分けているカスミさん。
ペンライトはいくつもあるため、作業工程の動きはほぼ同じだが、時々ダンボールの中のペンライトを探したり、仕分けた後の商品の個数を指差し確認していたり。
仕分けのため足元を少し移動したりなど、一つ一つ機械的な動きでは無いためか彼の行動をずっと見てしまう。
ふと、カスミさんがこちらを振り向いた。
しまった、自分の作業が止まってしまっていた。
「早希さん、どうかしたッスか?」
「いや、えっとすみません。ちょっとボーッとしていたみたいで……」
あははと咄嗟に苦しい笑顔を取り繕う。
自分から手伝うと言いながら、カスミさんを眺めてサボっているなんて酷いし、恥ずかしい。
不思議そうな表情を浮かべたカスミさんだったが、ふっと頬を緩めて「何か分からない事があったら遠慮なく聞いてくださいね~」とだけ残し、また手元の作業に戻った。
ずっと見つめていた事はバレていたのだろうか。
彼の瞳は重たい前髪にいつも遮られてて、どこを見ているのか分からないから視線を探ることは難しい。
しかし、とりあえずは彼の視界から私は外れたようで多少安堵した。
今度こそはちゃんと手伝わなくては。
そう心の中で制し残りの検品に精を出した。
しばらくすると、よし、とつぶやく声とパッパと紙を床に何度か立ててそろえる音がした。
カスミさんの作業が終わったんだなと直感し、自分の手元の1枚残っている納品書を見て焦りを覚える。
「早希さん、こっちは終わったんスけどそっちはどうッスか?」
「あっ、すみません。あともう少しです…!」
「ありがとうございます。残り自分がやっとくんで、ソファで休んでていいッスよ」
残りはわたしがやらなくては、と決めていたが、彼の優しい声音に少し甘えてしまいそうだ。
少し揺らいだ心が油断し、気がつけば手元の作業一式は消え、カスミさんが手にしていた。
「あ…ごめんなさい、自分から手伝うと言い出したのに……」
「いえいえ、十分手伝ってもらったので。お気持ちが嬉しいッス。それに、あなたはお客様ですから。本当はこんな事頼むもんじゃないんスけど……」
言葉を続けると思ったが、「あぁ、いや、何でもないッス〜」と上ずり気味に何かを誤魔化してしまうカスミさん。
少し不思議に感じるも、彼にソファへ促されてしまいそれ以上は何となく聞けなかった。
その後、彼は私の作業の続きを再開していたが、私は何故かその姿をずっと目で追っていた。
いや、見ていたかったのだ。
先程から見てしまう行動が自分でも不思議だったが、しばらく彼の横顔を見つめているうちに、ひとつの結論にたどり着き、腑に落ちた。
「な、何かあったッスか……?」
「え…?」
はっと我に返ると、困ったような表情を浮かべたカスミさんがこちらを振り向いていた。
いけない、気づかれてしまっていた。
時すでに遅しだが、自分の顔に少し熱が集まるのを感じる。
「そんなに見つめられてると、自分穴開いちゃうスよ~」
「!ええっと、ごめんなさい、つい……その……」
私の様子に首を傾げるカスミさん。
これくらいなら言っても大丈夫かな。
少しまごまごしてしまった後、私は先程見つけた理由を伝えることにした。
「……私、カスミさんがお仕事されてる姿を見るのが好き……なんです」
好き、という言葉を使ってしまった為か恥ずかしさと緊張が入り交じり、多少なりともドキドキと鼓動を打つ私の心臓。
さらに誤魔化そうとして口を開く。
「何か、こう、黙々と作業している姿だったり、何か運んでいたり、常に誰かの為に動いてる姿が、好きみたいで……あぁ!もちろん公演している姿やホールスタッフとして働いているカスミさんも好きなんですけど……!あっ」
言えば言うほど墓穴を掘っているような気がする。
こんなに好き好き言ってしまう自分が恥ずかしい。
けど、本当に好きなのだから仕方ない。
顔が火照るのを感じていると、ぽかんと口を開けていたカスミさんがくすりと笑い出す。
「ふふ、ショーの時以外で普段からあなたの視線を独り占め出来るなんて嬉しいッスね」
「!…」
「そういえば、最近になって早希さんは誰よりも自分に気づくのが早いと感じてたッス」
あなたが自分を見かけていた時、実は、何度も目が合っていたんスよ。とニコニコしながら伝えてくれる衝撃の事実に驚きが隠せない。
いつも忙しそうにしている姿に声をかけるのを遠慮して遠くから見ていることが多かったが、カスミさんに気付かれていただなんて。
目が合う、なんてことはこちらからはほとんど無いのに。
彼の重たい前髪を少しだけ恨めしく思ってしまう。
カスミさんは、でも、と言葉を続けた。
「モブの努力、あなたが見てくれていると思うととても頑張れるんス。だから、これからも見守っていてくれると助かるッスよ~」
そう言って、こちらに微笑みかけてくれるカスミさんを見てさらに応援したくなってしまう。
目で追っているだけだが、それでも彼の頑張りに繋がっていたと知るととても嬉しい。
彼の笑顔を見ると元気が湧いてきて、良かった、と思わず笑みがこぼれた。
ちょうど作業が終わったらしく、段ボールの蓋を閉め、立ち上がったカスミさんは空の段ボールを積み、その場で両手を組んで前方に突き出し伸びをした。
ふう、と一息ついた彼に、お疲れ様でした、と声をかける。
「早希さんもお疲れ様ッス~、手伝ってくれて助かりました。モブからのお礼に紅茶でもいかがッスか?」
「ありがとうございます、いただきます」
こちらに背を向けお湯を沸かしたり、茶葉を出し入れして準備している姿も私は先ほどと変わらず眺めてしまっていた。
自分にもカップを出したり手伝わなくてはという思いもあったが、それよりもカスミさんを終始眺めていたかった。
テキパキと準備を進めるカスミさんを見て、とても頼りがいがあるなぁと感じる。
ふと、彼がこちらを振り返り、「もっと頼ってくださいね」とほほ笑んだ。
心を読まれたのかと思ったが、声に出てましたよ~、との返答に初めて気づき恥ずかしくなる。
こんなことも笑って許してくれる彼との一緒の空間は心地いい。
無機質な事務室にはアップルティーの甘酸っぱい香りが広がっていた。
fin
作業の音は2人分。私とカスミさんだ。
いくつものペンライトを一つ一つ手に取りそれぞれの色ごとに仕分け、手元の納品書を確認しながら検品していく。
先程、事務室でこの検品作業を黙々と進めていた彼をたまたま見つけた。
しかし、何かあった訳でもないがその姿にしばし目を止めてしまっていた。
最近こんな事がよくある。
カスミさんがホールで料理を運んでいる時や、バクステでダンボールを運んでいたり、PCで作業している時、他キャストの為にあちらこちら奔走する姿を見ると、つい目で追ってしまうのだ。
何故かはまだはっきりとはわからない。
それでも私の視線はカスミさんを追い、眺めている。
気になってしまうのだなあ、と思うも自分の中でしっくりとくる理由は見つからない。
振り返ってこちらに気づいたカスミさんに声をかけられて、はっと我に返った私はただ見ていたのも失礼な気がしたため自分も手伝うと申し出たのだった。
カスミさんはケイさんの事を気に停めながらも「じゃあ少しお願いするッス」と快く承諾してくれた。
そして今に至る訳だが、検品に意識を集中していても何故か隣で作業をしている彼に意識が向いてしまう。
床にしゃがみこんで手元の資料とペンライトを見ながら色ごとに分けているカスミさん。
ペンライトはいくつもあるため、作業工程の動きはほぼ同じだが、時々ダンボールの中のペンライトを探したり、仕分けた後の商品の個数を指差し確認していたり。
仕分けのため足元を少し移動したりなど、一つ一つ機械的な動きでは無いためか彼の行動をずっと見てしまう。
ふと、カスミさんがこちらを振り向いた。
しまった、自分の作業が止まってしまっていた。
「早希さん、どうかしたッスか?」
「いや、えっとすみません。ちょっとボーッとしていたみたいで……」
あははと咄嗟に苦しい笑顔を取り繕う。
自分から手伝うと言いながら、カスミさんを眺めてサボっているなんて酷いし、恥ずかしい。
不思議そうな表情を浮かべたカスミさんだったが、ふっと頬を緩めて「何か分からない事があったら遠慮なく聞いてくださいね~」とだけ残し、また手元の作業に戻った。
ずっと見つめていた事はバレていたのだろうか。
彼の瞳は重たい前髪にいつも遮られてて、どこを見ているのか分からないから視線を探ることは難しい。
しかし、とりあえずは彼の視界から私は外れたようで多少安堵した。
今度こそはちゃんと手伝わなくては。
そう心の中で制し残りの検品に精を出した。
しばらくすると、よし、とつぶやく声とパッパと紙を床に何度か立ててそろえる音がした。
カスミさんの作業が終わったんだなと直感し、自分の手元の1枚残っている納品書を見て焦りを覚える。
「早希さん、こっちは終わったんスけどそっちはどうッスか?」
「あっ、すみません。あともう少しです…!」
「ありがとうございます。残り自分がやっとくんで、ソファで休んでていいッスよ」
残りはわたしがやらなくては、と決めていたが、彼の優しい声音に少し甘えてしまいそうだ。
少し揺らいだ心が油断し、気がつけば手元の作業一式は消え、カスミさんが手にしていた。
「あ…ごめんなさい、自分から手伝うと言い出したのに……」
「いえいえ、十分手伝ってもらったので。お気持ちが嬉しいッス。それに、あなたはお客様ですから。本当はこんな事頼むもんじゃないんスけど……」
言葉を続けると思ったが、「あぁ、いや、何でもないッス〜」と上ずり気味に何かを誤魔化してしまうカスミさん。
少し不思議に感じるも、彼にソファへ促されてしまいそれ以上は何となく聞けなかった。
その後、彼は私の作業の続きを再開していたが、私は何故かその姿をずっと目で追っていた。
いや、見ていたかったのだ。
先程から見てしまう行動が自分でも不思議だったが、しばらく彼の横顔を見つめているうちに、ひとつの結論にたどり着き、腑に落ちた。
「な、何かあったッスか……?」
「え…?」
はっと我に返ると、困ったような表情を浮かべたカスミさんがこちらを振り向いていた。
いけない、気づかれてしまっていた。
時すでに遅しだが、自分の顔に少し熱が集まるのを感じる。
「そんなに見つめられてると、自分穴開いちゃうスよ~」
「!ええっと、ごめんなさい、つい……その……」
私の様子に首を傾げるカスミさん。
これくらいなら言っても大丈夫かな。
少しまごまごしてしまった後、私は先程見つけた理由を伝えることにした。
「……私、カスミさんがお仕事されてる姿を見るのが好き……なんです」
好き、という言葉を使ってしまった為か恥ずかしさと緊張が入り交じり、多少なりともドキドキと鼓動を打つ私の心臓。
さらに誤魔化そうとして口を開く。
「何か、こう、黙々と作業している姿だったり、何か運んでいたり、常に誰かの為に動いてる姿が、好きみたいで……あぁ!もちろん公演している姿やホールスタッフとして働いているカスミさんも好きなんですけど……!あっ」
言えば言うほど墓穴を掘っているような気がする。
こんなに好き好き言ってしまう自分が恥ずかしい。
けど、本当に好きなのだから仕方ない。
顔が火照るのを感じていると、ぽかんと口を開けていたカスミさんがくすりと笑い出す。
「ふふ、ショーの時以外で普段からあなたの視線を独り占め出来るなんて嬉しいッスね」
「!…」
「そういえば、最近になって早希さんは誰よりも自分に気づくのが早いと感じてたッス」
あなたが自分を見かけていた時、実は、何度も目が合っていたんスよ。とニコニコしながら伝えてくれる衝撃の事実に驚きが隠せない。
いつも忙しそうにしている姿に声をかけるのを遠慮して遠くから見ていることが多かったが、カスミさんに気付かれていただなんて。
目が合う、なんてことはこちらからはほとんど無いのに。
彼の重たい前髪を少しだけ恨めしく思ってしまう。
カスミさんは、でも、と言葉を続けた。
「モブの努力、あなたが見てくれていると思うととても頑張れるんス。だから、これからも見守っていてくれると助かるッスよ~」
そう言って、こちらに微笑みかけてくれるカスミさんを見てさらに応援したくなってしまう。
目で追っているだけだが、それでも彼の頑張りに繋がっていたと知るととても嬉しい。
彼の笑顔を見ると元気が湧いてきて、良かった、と思わず笑みがこぼれた。
ちょうど作業が終わったらしく、段ボールの蓋を閉め、立ち上がったカスミさんは空の段ボールを積み、その場で両手を組んで前方に突き出し伸びをした。
ふう、と一息ついた彼に、お疲れ様でした、と声をかける。
「早希さんもお疲れ様ッス~、手伝ってくれて助かりました。モブからのお礼に紅茶でもいかがッスか?」
「ありがとうございます、いただきます」
こちらに背を向けお湯を沸かしたり、茶葉を出し入れして準備している姿も私は先ほどと変わらず眺めてしまっていた。
自分にもカップを出したり手伝わなくてはという思いもあったが、それよりもカスミさんを終始眺めていたかった。
テキパキと準備を進めるカスミさんを見て、とても頼りがいがあるなぁと感じる。
ふと、彼がこちらを振り返り、「もっと頼ってくださいね」とほほ笑んだ。
心を読まれたのかと思ったが、声に出てましたよ~、との返答に初めて気づき恥ずかしくなる。
こんなことも笑って許してくれる彼との一緒の空間は心地いい。
無機質な事務室にはアップルティーの甘酸っぱい香りが広がっていた。
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