短編
your name?
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午後の授業が全て終了し、生徒は部活に精を出す時間だがどの部活にも所属していないユウはオンボロ寮への帰路につく。
オンボロ寮への近道なら中庭を突っ切るほうが早い。
学園長が大切に育てているらしいリンゴの木がそこらに生えている中を進んでいると、となりにいたグリムが急に小道の脇に飛んで行った。
ユウが、ちょっと、どうしたの?と声をかけるとグリムはパッと振り向き、両前足にもった青い布をぴらりと見せた。
「何か見つけたと思ったらただのハンカチだったんだゾ」
「あらら、誰かの落とし物かも」
もしかしたら名前が書いてあるかもしれない。
そう思いながらグリムから青いハンカチを受け取り、裏表をよく見ると端っこに黒い糸でイニシャルが刺繍されている。
「J・L……」
「誰かのイニシャルなんだゾ?」
「そうだね。J・Lと言えば……じぇ……ジェイド……ハッ」
数少ないナイトレイブンカレッジの知り合いを辿っていくと1人の先輩が浮かび上がる。
彼の名前を思い出すとともに、彼の一見優しそうだがどこか狂気を感じる笑みを思い出したユウは思わず「ゲッ」と顔を引きつらせた。
筆記体で綺麗に刺繍されたイニシャルを目で追い、イニシャルにピッタリとあてはまるその名をつぶやく。
「ジェイド・リーチ……」
「もしかしてジェイドのやつなのか?!」
「可能性はあるね」
ジェイド・リーチ。
オクタヴィネル寮の2年生でありながら副寮長を務める優秀な人、だが、笑顔の裏の腹黒い所が侮れない先輩である。
双子のフロイド先輩よりかは会話が成り立つだけまだマシだが、なるべく関わりたくない人の一人だ。
オレサマ届けになんか行きたくないんだゾ…とグリムが眉をしかめた。
しかし、先日のスカラビアの一件で助けてもらった事もある。
「不安ではあるけど…聞いてみて合ってたらそれでいいし、違ったならすぐ戻ってくればいいか」
「すぐに戻ってこれる気がしないんだゾ…オレサマ早く帰りたいんだゾ!」
「持ってても仕方ないし、ちゃっと行ってちゃっと帰ろうね」
むくれるグリムを宥めながら、ユウはハンカチをブレザーのポケットにしまい歩き出そうとする。
そんな彼らを遮るように声が降ってきた。
「おや、監督生さんにグリムさん」
声を聞いたユウの肩と心臓がビクリと跳ねる。
穏やかなテノール。聞き覚えのある声に心の準備が整っていなかった。
頬と背中に冷や汗がつたう。
こんないいタイミングで?あり得るのか?
いやまさか、と何故か否定してしまうのは申し訳なかったが、それでもゆっくり振り返ると、自分よりはるかに背丈の高い男が微笑みながらこちらをぬっと見下ろしていた。
「「わああっっ!!/ふなあぁぁっっ!!」」
「ふふ、今日はいつにも増して活きがいいですね」
自分を前にして叫び声を上げながら飛びのくユウらを楽しそうに眺めるジェイド。
驚かされた側のグリムはぜぇぜぇと肩で息をしながら怒り気味に話す。
「き、急に現れるんじゃねーんだゾ!し、心臓止まるかと思ったんだゾ……」
「それはそれは、失礼いたしました」
「いえ…自分らも勝手に驚いてしまってすみません…」
失礼しましたと言うものの悪びれる様子はないジェイドに、深呼吸をして息を整えたユウが軽く頭を下げた。
ジェイドはユウにニコリと微笑むと、ところで、この辺りで青いハンカチを見ませんでしたか?と話した。
あっ、とグリムと顔を見合わせたユウは、ブレザーのポケットからさっき拾ったハンカチを取り出す。
「もしかして、これですか?」
ジェイドは青いハンカチを見ると、あぁそれです、と表情を明るくさせながらハンカチを受け取った。
J・Lのイニシャルを確認し頷いた彼は、一瞬いつもより優しい目をしていた。
ユウの胸がどきり、と音を立てる。
(ジェイド先輩、あんな顔するんだ)
「ありがとうございます。ユウさん、グリムさん」
「へへん、オレサマが見つけたんだゾ!」
「落とし主が見つかって安心しましたよ。とてもきれいな刺繍でしたし」
「あぁ、素敵でしょう。あのイニシャルの刺繍、実は僕の母が縫ってくれたんです」
へぇ!と感嘆の声を上げるグリムとユウに、フロイドのハンカチにも縫ってくれたんですよ、とジェイドは嬉しそうに話した。
「母は裁縫が得意なので、ナイトレイブンカレッジに入学するときに僕たちにイニシャル入りのハンカチを持たせてくれましてね。僕にとって大事なものなんです」
「優しいお母さんですね」
「そんな大事なものなら失くさないようにするんだゾ」
えぇ、全くです。とジェイドは眉を八の字にさせた。
彼の話を聞き、ふとユウはぼんやりと自分の母のことを思い出した。
お母さんか…私のお母さんは今どうしてるだろうな……。
自分がいなくなったことに気付いているのだろうか。
元の世界にいた母を思いふけた。
「…さん、ユウさん?」
「あっ」
しばらく空を見つめていたユウに気づき、ジェイドは呼びかけた。
幸いすぐに意識は戻ってきたが、彼は寂しそうな目に視線をそらされた。
「ははっ、すみません。ちょっとボーっとしてたみたい」
頬を掻き苦笑するユウに、考え事を察したのかジェイドは口角を上げる。
「大丈夫です。きっとあなたなら戻ることができますよ」
一瞬何の話かと思ったが、ユウはすぐに気づいた。
まさか胸の内が読まれていたなんて。
ジェイドの言葉が胸にしみ込んだような感覚がした。
とても素直に響いた。お世辞ではなく。
安心感が生まれ、ちょっぴり寂しく感じた心が温かくなる。
「ふふ、ありがとうございます。ジェイド先輩」
「えぇ。それでは、僕はモストロ・ラウンジの開店準備がありますので」
とても元気が出たようなユウをみて安心したジェイドは、良ければまたいらしてくださいね、とその場を後にした。
ジェイドの背中を見送り、オンボロ寮へユウ達は歩き出す。
(思ったより、いい先輩なのかも)
(あっ!ハンカチ拾ってやったのにツナ缶の一つもないんだゾ!)
(いいじゃん、この間助けてもらったんだし…ね?)
オンボロ寮への近道なら中庭を突っ切るほうが早い。
学園長が大切に育てているらしいリンゴの木がそこらに生えている中を進んでいると、となりにいたグリムが急に小道の脇に飛んで行った。
ユウが、ちょっと、どうしたの?と声をかけるとグリムはパッと振り向き、両前足にもった青い布をぴらりと見せた。
「何か見つけたと思ったらただのハンカチだったんだゾ」
「あらら、誰かの落とし物かも」
もしかしたら名前が書いてあるかもしれない。
そう思いながらグリムから青いハンカチを受け取り、裏表をよく見ると端っこに黒い糸でイニシャルが刺繍されている。
「J・L……」
「誰かのイニシャルなんだゾ?」
「そうだね。J・Lと言えば……じぇ……ジェイド……ハッ」
数少ないナイトレイブンカレッジの知り合いを辿っていくと1人の先輩が浮かび上がる。
彼の名前を思い出すとともに、彼の一見優しそうだがどこか狂気を感じる笑みを思い出したユウは思わず「ゲッ」と顔を引きつらせた。
筆記体で綺麗に刺繍されたイニシャルを目で追い、イニシャルにピッタリとあてはまるその名をつぶやく。
「ジェイド・リーチ……」
「もしかしてジェイドのやつなのか?!」
「可能性はあるね」
ジェイド・リーチ。
オクタヴィネル寮の2年生でありながら副寮長を務める優秀な人、だが、笑顔の裏の腹黒い所が侮れない先輩である。
双子のフロイド先輩よりかは会話が成り立つだけまだマシだが、なるべく関わりたくない人の一人だ。
オレサマ届けになんか行きたくないんだゾ…とグリムが眉をしかめた。
しかし、先日のスカラビアの一件で助けてもらった事もある。
「不安ではあるけど…聞いてみて合ってたらそれでいいし、違ったならすぐ戻ってくればいいか」
「すぐに戻ってこれる気がしないんだゾ…オレサマ早く帰りたいんだゾ!」
「持ってても仕方ないし、ちゃっと行ってちゃっと帰ろうね」
むくれるグリムを宥めながら、ユウはハンカチをブレザーのポケットにしまい歩き出そうとする。
そんな彼らを遮るように声が降ってきた。
「おや、監督生さんにグリムさん」
声を聞いたユウの肩と心臓がビクリと跳ねる。
穏やかなテノール。聞き覚えのある声に心の準備が整っていなかった。
頬と背中に冷や汗がつたう。
こんないいタイミングで?あり得るのか?
いやまさか、と何故か否定してしまうのは申し訳なかったが、それでもゆっくり振り返ると、自分よりはるかに背丈の高い男が微笑みながらこちらをぬっと見下ろしていた。
「「わああっっ!!/ふなあぁぁっっ!!」」
「ふふ、今日はいつにも増して活きがいいですね」
自分を前にして叫び声を上げながら飛びのくユウらを楽しそうに眺めるジェイド。
驚かされた側のグリムはぜぇぜぇと肩で息をしながら怒り気味に話す。
「き、急に現れるんじゃねーんだゾ!し、心臓止まるかと思ったんだゾ……」
「それはそれは、失礼いたしました」
「いえ…自分らも勝手に驚いてしまってすみません…」
失礼しましたと言うものの悪びれる様子はないジェイドに、深呼吸をして息を整えたユウが軽く頭を下げた。
ジェイドはユウにニコリと微笑むと、ところで、この辺りで青いハンカチを見ませんでしたか?と話した。
あっ、とグリムと顔を見合わせたユウは、ブレザーのポケットからさっき拾ったハンカチを取り出す。
「もしかして、これですか?」
ジェイドは青いハンカチを見ると、あぁそれです、と表情を明るくさせながらハンカチを受け取った。
J・Lのイニシャルを確認し頷いた彼は、一瞬いつもより優しい目をしていた。
ユウの胸がどきり、と音を立てる。
(ジェイド先輩、あんな顔するんだ)
「ありがとうございます。ユウさん、グリムさん」
「へへん、オレサマが見つけたんだゾ!」
「落とし主が見つかって安心しましたよ。とてもきれいな刺繍でしたし」
「あぁ、素敵でしょう。あのイニシャルの刺繍、実は僕の母が縫ってくれたんです」
へぇ!と感嘆の声を上げるグリムとユウに、フロイドのハンカチにも縫ってくれたんですよ、とジェイドは嬉しそうに話した。
「母は裁縫が得意なので、ナイトレイブンカレッジに入学するときに僕たちにイニシャル入りのハンカチを持たせてくれましてね。僕にとって大事なものなんです」
「優しいお母さんですね」
「そんな大事なものなら失くさないようにするんだゾ」
えぇ、全くです。とジェイドは眉を八の字にさせた。
彼の話を聞き、ふとユウはぼんやりと自分の母のことを思い出した。
お母さんか…私のお母さんは今どうしてるだろうな……。
自分がいなくなったことに気付いているのだろうか。
元の世界にいた母を思いふけた。
「…さん、ユウさん?」
「あっ」
しばらく空を見つめていたユウに気づき、ジェイドは呼びかけた。
幸いすぐに意識は戻ってきたが、彼は寂しそうな目に視線をそらされた。
「ははっ、すみません。ちょっとボーっとしてたみたい」
頬を掻き苦笑するユウに、考え事を察したのかジェイドは口角を上げる。
「大丈夫です。きっとあなたなら戻ることができますよ」
一瞬何の話かと思ったが、ユウはすぐに気づいた。
まさか胸の内が読まれていたなんて。
ジェイドの言葉が胸にしみ込んだような感覚がした。
とても素直に響いた。お世辞ではなく。
安心感が生まれ、ちょっぴり寂しく感じた心が温かくなる。
「ふふ、ありがとうございます。ジェイド先輩」
「えぇ。それでは、僕はモストロ・ラウンジの開店準備がありますので」
とても元気が出たようなユウをみて安心したジェイドは、良ければまたいらしてくださいね、とその場を後にした。
ジェイドの背中を見送り、オンボロ寮へユウ達は歩き出す。
(思ったより、いい先輩なのかも)
(あっ!ハンカチ拾ってやったのにツナ缶の一つもないんだゾ!)
(いいじゃん、この間助けてもらったんだし…ね?)
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