第1章
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高町の中心地にある私の大きな家。
お父様とお母様とお姉様とわたし。
わたしたち家族を高町のみんなはお金持ちと呼ぶけれど、わたしには普通の生活がわからないから、どんな人がお金持ちなのかもわからない。
そんな家に生まれたわたしは今日、婚約者と初めて会う。
いつもより豪華なドレスを着て、おめかしをさせられて、お母様とお父様の間に立てば婚約者の家族はみんなニコニコとしてわたしを見た。
お母様もいつもより機嫌がいい。
「あなたの婚約者よ」
そういってお母様が紹介してくれたのはサボという男の子。
金色の髪がキラキラと光って星様みたいな男の子。
「エリザベート家次女、アリスでございます」
ドレスの裾をつまんで頭を下げればサボも初々しく頭を下げた。
チラッと男の子の方を見れば綺麗なつむじが見える。
「将来あなた達は結婚するんですよ」
"結婚"
小さい頃から言われ続けた言葉がようやく現実味を帯びてきて、少し怖くなった。
サボは頭を上げるとソファに座り、わたしのほうには目もくれずに仏頂面をして明後日の方を見た。
大人達はみんな相手の顔色を伺いながら談笑中。
誰もわたしを見てくれない。
「それじゃあそろそろ晩餐に致しましょうか」
お父様の一言でみんなが腰を上げ始めたとき、ドアの向こうからパタパタという足音が聞こえた。
わたしはこの足音があまり好きじゃない、むしろ嫌いと言ってもいい。
だって全部奪っていくんだもの。
「アリスっ!」
ドアをバンっと開けて入ってきたのはわたしのお姉様。
お姉様はわたしと違って綺麗な顔をしているから王家の方と結婚した。
だからお父様もお母様もお姉様の話しかしない。
まるでわたしのことは最初からいないみたいに扱う。
「お姉様、わざわざ御足労いた」
「マリアちゃん!」
「マリア!」
わたしの挨拶を遮るぐらいの勢いで名前を呼ばれたお姉様は綺麗な顔に笑みを浮かべる。
ほら、お姉様が来ただけでお父様もお母様も嬉しそうな顔をする。
うちの自慢の娘なんです、近所の人に言うのを何回も聞いた。
こういうときわたしは邪魔者。
部屋にいると怒られる、だからそっと部屋を出る。
ドアを少しだけ開けて、隙間に体を滑り込ませるようにして廊下に出れば、客間の明るさに慣れたせいなのか、それともドレスの重みなのか分からないけれど転けそうになってしまう。
咄嗟に踏ん張って体制を立て直して、何事もなかったかのように立つ。
今の踏ん張りをお父様に見られていたら30分の説教は確実。
ふぅ、と一息ついて散歩でもしようと右足を出した時だった。
「どこ行くんだ?」
後ろから急に話しかけられたせいでまたもや体制を崩してしまう。
あ、今度は踏ん張れないや。と思い次にくる衝撃にギュッと目をつぶる。
けれど次に目を開けた時見えたのは整ったサボの顔だった。
「サボ様…」
名前を呼べばサボはスっと支えていた手を離して、うんと悩んだ後少しかしこまったように背筋を伸ばしわたしの前に手を差し出した。
「おれ…私と一緒に歩きませんか?」
わたしの目を見てしっかりと言ってくれた。
それが堪らなく嬉しくて心から笑顔が溢れてしまう。
「はい、よろこんで」
サボの小さな手(同い歳だけどわたしより幾分か小さい)に手を重ねれば、サボは安心したように肩の力を抜いた。
「えっと…家を案内してくれる…ますか?」
急いで取り繕ったような言葉に思わず大声で笑ってしまう。
さっきもサボの素であろう言葉が出ていた。
同類はすぐにわかる。
お腹を抱えてヒーヒー言えばサボは度肝を抜かれたような顔をした。
「ビックリしました?サボもだと思うけどわたしあんなキャラじゃないの」
そう言うと、サボはしばらくフリーズしていた頭を必死に動かし現状を理解すると、なるほどと言いたげな顔でわたしを見た。
「お前も頭の中では様とかつけないタイプか」
「あら、同類ね。もしかして堅苦しいのも…」
「「嫌い!」」
あはは、と2人で大きな声で笑えばわたしたちはもう友達。
間にあった'婚約者'の壁を取り去るにはそれだけで充分だった。
どちらからともなく手を繋ぎ家中を駆け回る。
家の人に見つかりそうになったら如何にも2人で散歩してます、というふうに優雅に歩く…それもまたわたしたちの爆笑を引き出した(もちろん隠れて笑った)。
晩餐に出ないかったことについて後で怒られるだろうけれど、それよりも今、この瞬間を大切にしたかった。
「俺、アリスとなら結婚してもいいって思うよ」
「あら奇遇ね。私も同じこと思ってた」
「きっと毎日が楽しくたるだろうな」
「というより、うるさいわね」
そう言えばサボはちげぇねぇ、と笑って私の手を引いた。
「どこにいくの?」
「んー、どこだろうな」
「あんまり動かない方がいいと思うけど」
「この家のことならアリスがわかってるだろ?」
返答に迷っているとサボはそんなのどうでもいい、と小さく呟いてわたしの部屋からバルコニーに出た。
「今度はバルコニー?外が好きなのね」
「いや、中が落ち着かねぇんだ。中にいると自分の未来について考えちまう」
「未来…考えたこともなかったわ」
サボと色々なことを話した。
サボの両親は王族の娘と結婚させたかったこと。
家に居ずらいこと。
それから…大きな海のこと。
「俺は海賊になりてぇんだ」
「海賊?野蛮ね」
「そんなことねぇよ!アリスは海賊を見たことがねぇからそう思うんだ!」
海賊はな…そう言って大海原について語るサボの横顔が月明かりに照らされて妙に神秘的に見えた。
こんなのわたしらしくない。
昔から周りの目はお姉様に向けられてきたから、こうしてわたしだけに向けられる目は少し慣れない、というよりなんだかサボを独占してるみたいで優越感がうまれる。
「アリスはお姉さんのこと嫌いなのか?」
サボに見とれていると、突然わたしへの質問が投げかけられた。
ボーッとしてたからつまらないと思われたのか心配になったが、どうもそういうことじゃないらしい。
「わたしのことはつまらないし海についてもっと教えてよ」
「いや、海は自分で見ないとな。今度連れて行ってやろうか?」
「外に出してもらえたらね」
「俺と結婚すれば自由だ」
それじゃあサボは海賊になれないね。
言いかけた言葉を飲み込んでそうだね、と返せばサボは満足気に笑った。
途端に小さな罪悪感がうまれる。
サボに嘘をついてしまった。
でもこれは仕方の無いこと。だってサボは結婚したらうちに来なきゃいけない。所詮婿養子だ。
「なぁ、やっぱりさ、アリスってお姉さんのこと好きじゃないよな?」
またそこに戻るのか…正直わたしもわからない。
でもサボになら言ってもいい気がしたのだ。
「別にお姉様のことは嫌いじゃないわよ。ただ…お姉様のせいで寂しく思ったこともあるけど、お姉様のおかげでわたしは家の重圧に耐えなくて済んでるし、お母様とお父様の期待を一身に受けることもない。それにお姉様は心からわたしを愛してくださってるわ。それでも…周りの人の愛情を受けて育ったお姉様が嫌いな時がある。好きになれても大好きにはなれない。お姉様を見るとモヤモヤするの」
そんな自分が嫌い。
最後の言葉は口から出ることはなかった。
サボの端麗な顔が目の前にあって…そう、キスをされている。
少し乾いている唇からサボの熱が伝わってきてわたしはそっと目を閉じる。
全てどうでもいい気がしてくる。
お父様に見つかったら打首かしら、とか。
でも婚約者なんだし大丈夫よね、とか。
色々なことが頭を巡っては、結局唇の熱には勝てずに頭から消えていく。
そっと唇が離れ、サボがおでことおでこをくっつけ合って恥ずかしそうに笑った。
「俺だけがアリスに愛をあげたんじゃ足りない?これから先、ずっとアリスだけに愛をあげる、それでもモヤモヤは消えずにある?」
子供の言葉だってわたしもわかってたけどサボの言うことはどうしても信じてしまう。
サボの瞳、手、……サボの全てがわたしを救ってくれるのだ。
唯一わたしが独り占めできる存在がサボなのだ。
「サボ…わたし、サボと一緒にいたいわ。この先もずっと」
「ああ…もちろん。家公認だしな」
そうだね、という意味を込めてわたしはサボの唇に自分のを重ねた。
わたしたちの小さな約束。
わたしの大きな幸せ。
月明かりの元わたしたちは静かに笑っていた。
お父様とお母様とお姉様とわたし。
わたしたち家族を高町のみんなはお金持ちと呼ぶけれど、わたしには普通の生活がわからないから、どんな人がお金持ちなのかもわからない。
そんな家に生まれたわたしは今日、婚約者と初めて会う。
いつもより豪華なドレスを着て、おめかしをさせられて、お母様とお父様の間に立てば婚約者の家族はみんなニコニコとしてわたしを見た。
お母様もいつもより機嫌がいい。
「あなたの婚約者よ」
そういってお母様が紹介してくれたのはサボという男の子。
金色の髪がキラキラと光って星様みたいな男の子。
「エリザベート家次女、アリスでございます」
ドレスの裾をつまんで頭を下げればサボも初々しく頭を下げた。
チラッと男の子の方を見れば綺麗なつむじが見える。
「将来あなた達は結婚するんですよ」
"結婚"
小さい頃から言われ続けた言葉がようやく現実味を帯びてきて、少し怖くなった。
サボは頭を上げるとソファに座り、わたしのほうには目もくれずに仏頂面をして明後日の方を見た。
大人達はみんな相手の顔色を伺いながら談笑中。
誰もわたしを見てくれない。
「それじゃあそろそろ晩餐に致しましょうか」
お父様の一言でみんなが腰を上げ始めたとき、ドアの向こうからパタパタという足音が聞こえた。
わたしはこの足音があまり好きじゃない、むしろ嫌いと言ってもいい。
だって全部奪っていくんだもの。
「アリスっ!」
ドアをバンっと開けて入ってきたのはわたしのお姉様。
お姉様はわたしと違って綺麗な顔をしているから王家の方と結婚した。
だからお父様もお母様もお姉様の話しかしない。
まるでわたしのことは最初からいないみたいに扱う。
「お姉様、わざわざ御足労いた」
「マリアちゃん!」
「マリア!」
わたしの挨拶を遮るぐらいの勢いで名前を呼ばれたお姉様は綺麗な顔に笑みを浮かべる。
ほら、お姉様が来ただけでお父様もお母様も嬉しそうな顔をする。
うちの自慢の娘なんです、近所の人に言うのを何回も聞いた。
こういうときわたしは邪魔者。
部屋にいると怒られる、だからそっと部屋を出る。
ドアを少しだけ開けて、隙間に体を滑り込ませるようにして廊下に出れば、客間の明るさに慣れたせいなのか、それともドレスの重みなのか分からないけれど転けそうになってしまう。
咄嗟に踏ん張って体制を立て直して、何事もなかったかのように立つ。
今の踏ん張りをお父様に見られていたら30分の説教は確実。
ふぅ、と一息ついて散歩でもしようと右足を出した時だった。
「どこ行くんだ?」
後ろから急に話しかけられたせいでまたもや体制を崩してしまう。
あ、今度は踏ん張れないや。と思い次にくる衝撃にギュッと目をつぶる。
けれど次に目を開けた時見えたのは整ったサボの顔だった。
「サボ様…」
名前を呼べばサボはスっと支えていた手を離して、うんと悩んだ後少しかしこまったように背筋を伸ばしわたしの前に手を差し出した。
「おれ…私と一緒に歩きませんか?」
わたしの目を見てしっかりと言ってくれた。
それが堪らなく嬉しくて心から笑顔が溢れてしまう。
「はい、よろこんで」
サボの小さな手(同い歳だけどわたしより幾分か小さい)に手を重ねれば、サボは安心したように肩の力を抜いた。
「えっと…家を案内してくれる…ますか?」
急いで取り繕ったような言葉に思わず大声で笑ってしまう。
さっきもサボの素であろう言葉が出ていた。
同類はすぐにわかる。
お腹を抱えてヒーヒー言えばサボは度肝を抜かれたような顔をした。
「ビックリしました?サボもだと思うけどわたしあんなキャラじゃないの」
そう言うと、サボはしばらくフリーズしていた頭を必死に動かし現状を理解すると、なるほどと言いたげな顔でわたしを見た。
「お前も頭の中では様とかつけないタイプか」
「あら、同類ね。もしかして堅苦しいのも…」
「「嫌い!」」
あはは、と2人で大きな声で笑えばわたしたちはもう友達。
間にあった'婚約者'の壁を取り去るにはそれだけで充分だった。
どちらからともなく手を繋ぎ家中を駆け回る。
家の人に見つかりそうになったら如何にも2人で散歩してます、というふうに優雅に歩く…それもまたわたしたちの爆笑を引き出した(もちろん隠れて笑った)。
晩餐に出ないかったことについて後で怒られるだろうけれど、それよりも今、この瞬間を大切にしたかった。
「俺、アリスとなら結婚してもいいって思うよ」
「あら奇遇ね。私も同じこと思ってた」
「きっと毎日が楽しくたるだろうな」
「というより、うるさいわね」
そう言えばサボはちげぇねぇ、と笑って私の手を引いた。
「どこにいくの?」
「んー、どこだろうな」
「あんまり動かない方がいいと思うけど」
「この家のことならアリスがわかってるだろ?」
返答に迷っているとサボはそんなのどうでもいい、と小さく呟いてわたしの部屋からバルコニーに出た。
「今度はバルコニー?外が好きなのね」
「いや、中が落ち着かねぇんだ。中にいると自分の未来について考えちまう」
「未来…考えたこともなかったわ」
サボと色々なことを話した。
サボの両親は王族の娘と結婚させたかったこと。
家に居ずらいこと。
それから…大きな海のこと。
「俺は海賊になりてぇんだ」
「海賊?野蛮ね」
「そんなことねぇよ!アリスは海賊を見たことがねぇからそう思うんだ!」
海賊はな…そう言って大海原について語るサボの横顔が月明かりに照らされて妙に神秘的に見えた。
こんなのわたしらしくない。
昔から周りの目はお姉様に向けられてきたから、こうしてわたしだけに向けられる目は少し慣れない、というよりなんだかサボを独占してるみたいで優越感がうまれる。
「アリスはお姉さんのこと嫌いなのか?」
サボに見とれていると、突然わたしへの質問が投げかけられた。
ボーッとしてたからつまらないと思われたのか心配になったが、どうもそういうことじゃないらしい。
「わたしのことはつまらないし海についてもっと教えてよ」
「いや、海は自分で見ないとな。今度連れて行ってやろうか?」
「外に出してもらえたらね」
「俺と結婚すれば自由だ」
それじゃあサボは海賊になれないね。
言いかけた言葉を飲み込んでそうだね、と返せばサボは満足気に笑った。
途端に小さな罪悪感がうまれる。
サボに嘘をついてしまった。
でもこれは仕方の無いこと。だってサボは結婚したらうちに来なきゃいけない。所詮婿養子だ。
「なぁ、やっぱりさ、アリスってお姉さんのこと好きじゃないよな?」
またそこに戻るのか…正直わたしもわからない。
でもサボになら言ってもいい気がしたのだ。
「別にお姉様のことは嫌いじゃないわよ。ただ…お姉様のせいで寂しく思ったこともあるけど、お姉様のおかげでわたしは家の重圧に耐えなくて済んでるし、お母様とお父様の期待を一身に受けることもない。それにお姉様は心からわたしを愛してくださってるわ。それでも…周りの人の愛情を受けて育ったお姉様が嫌いな時がある。好きになれても大好きにはなれない。お姉様を見るとモヤモヤするの」
そんな自分が嫌い。
最後の言葉は口から出ることはなかった。
サボの端麗な顔が目の前にあって…そう、キスをされている。
少し乾いている唇からサボの熱が伝わってきてわたしはそっと目を閉じる。
全てどうでもいい気がしてくる。
お父様に見つかったら打首かしら、とか。
でも婚約者なんだし大丈夫よね、とか。
色々なことが頭を巡っては、結局唇の熱には勝てずに頭から消えていく。
そっと唇が離れ、サボがおでことおでこをくっつけ合って恥ずかしそうに笑った。
「俺だけがアリスに愛をあげたんじゃ足りない?これから先、ずっとアリスだけに愛をあげる、それでもモヤモヤは消えずにある?」
子供の言葉だってわたしもわかってたけどサボの言うことはどうしても信じてしまう。
サボの瞳、手、……サボの全てがわたしを救ってくれるのだ。
唯一わたしが独り占めできる存在がサボなのだ。
「サボ…わたし、サボと一緒にいたいわ。この先もずっと」
「ああ…もちろん。家公認だしな」
そうだね、という意味を込めてわたしはサボの唇に自分のを重ねた。
わたしたちの小さな約束。
わたしの大きな幸せ。
月明かりの元わたしたちは静かに笑っていた。