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第一話後編「長髪女と金髪ヤロウ」

 音の正体は、侵入者の男が窓を破った音である。男は中にいた女生徒を持ち上げて連れ去ろうとした。
男「ははははは!やっぱり雄英高校の女子は可愛いな!」
女生徒「や、やめて…!」
女生徒は抵抗もできず、恐怖で目が潤む。
男「俺と楽しいことしようぜ!がはははは!」
亜理子「待ちなさい、変態男!私が来たからにはもう誘拐なんて出来ないわよ!」
男「ああ?」
男と女生徒の目線の先には金色の髪の女がいた。そう、亜理子だ。
女生徒「た、助けてください!」
女生徒は救世主が来てくれたことによって少しだけ表情が明るくなった。それに対して男は少しだけ表情が曇った。
亜理子「今助けるわ!だからもう少し頑張って!」
髪木「待てよ!」
外に髪木の声が響いた。亜理子、男、女生徒の視線の先には、走ってきたからか顔が火照っている髪木の姿があった。髪木は焦った顔で亜理子に言う。
髪木「鏡沢、俺も来たぜ。何があったんだ?」
亜理子はそれを説明する前に、髪木が来たことに対して嫌がった。
亜理子「ちょっと、なんで来たのよ!」
髪木「教えてくれるくらいいいだろ!?」
亜理子「この状況から察することも出来ないのね!あなたは本当に馬鹿だわ!」
髪木「え、あれ?」
髪木は横を向いた。近くに恐怖で怯えた女生徒が男に拘束されているのを見て、ようやく何があったのか察することができた。髪木はとても気まずくなる。
髪木「あー、なるほどな…。悪かった。」
亜理子「はぁ…。こんなに頭でっかちな人が特待生なんて信じられないわ。」
亜理子は呆れてため息をついた。髪木は咳払いでなんとか話をごまかす。
髪木「ゴホン!そ、それよりお前!その人を離せ!さもないとこの学校の先生に言うぞ!」
亜理子「そんなことしてたらその間に逃げられるに決まってるじゃない。てか、なんであんなに大きな音がしたのに私たち以外に誰も気づかないのかしら…、警備薄すぎね。」
男「お前らガキだから俺がどうやって警備をくぐり抜けたのか分かるわけねぇよな!俺は!この女を手に入れるんだよ!」
勝ち誇った顔で大笑いする男。それを見ていた亜理子はどうやらつまらなかったようだ。
亜理子「…あら、ガキはあなたじゃなくて?」
男「なんだと!」
亜理がは二歩男に近づいた。そして指をさして男の核心を突くように蔑んだ。
亜理子「なんて汚らしい男。そんなんだから彼女もできないんじゃなくて?まずは自分を磨くことから始めたらどう?」
亜理子は高笑いをした。男は胸の中が煮え立ってしまった。
男「うるせぇ!俺は昔からどんなに頑張ってもモテなかった!だからこうして彼女を手に入れるしかないんだよ!」
髪木「おいおい捕まった生徒さんがかわいそうだな…。」
髪木は男に呆れてため息をついた。亜理子は男にいくら説得しても意味が無いと分かり、最終手段に出た。
亜理子「いいわ…。説得しても無駄なら最終手段に出るしかないわね。」
亜理子の発言に目を丸くする髪木。
髪木「まさかお前、個性使って戦うわけじゃないよな…。おい!ヒーロー以外は戦闘行為はしちゃいけねぇって知らないのかよ!?」
亜理子は顔を真っ赤にして、唾を飛ばす勢いで髪木に言った。
亜理子「今こうして!!「救け」を求めてる人がいるのに!!どうして助けないのよ!!」
髪木「…!!」
髪木は目を閉じて腹を括った。
髪木「そうだな。鏡沢の言う通りだ。ここで俺たちが助けないで、誰が助ける。」
髪木は戦闘態勢を取った。
髪木「それじゃあ行くぜっ!うおおおお」
突然、髪木は男の元へ突進し始めた。
髪木「俺の攻撃を、くらえええええ!!」
髪木は頭をブンと振って、髪の毛を男にぶつけようとした。
亜理子「ちょっと!早とちりしすぎよ!」
男「フン!」
女生徒「きゃあっ!」
男は女生徒を盾にした!
髪木「うわっ!」
髪木の髪の毛があと少しで女生徒にぶつかるところだったが、寸前で髪の毛の動きを止めた。
髪木「危ねっ!」
髪木は一瞬心臓がドクンと鳴った。男は勝ち誇った顔で髪木を見た。
男「ざまあみやがれ!」
亜理子「やっぱりツルサンは馬鹿なのね!あの変態男みたいな心が汚れたやつは、誰かを犠牲にして自分を有利にするに決まってるじゃない。」
亜理子はやれやれとため息をついた。髪木はまたもや怒りが爆発してしまった。
髪木「おい、変態男ッ!テメェはどこまでねじくれてんだよ!」
男「この女を傷つけたくないなら、まずは俺に攻撃しないことだな!ははは!」
髪木「あーっ!ムカつくぜ…!」
髪木はなんとか女生徒を助ける術を考えた。自分の個性は使えない。だからといって男を説得しようとしても無駄である。
髪木(考えろ、俺…!)
髪木は一生懸命頭をフル回転して考えた。だが残念なことに全く思いつかない。
髪木(クソッ!)
髪木は女生徒を助けられない無力さが遺憾で仕方なかった。隣で亜理子が呆れた目で髪木を見た。
亜理子「こんなの私一人で解決できるのに。」
髪木「は?」
亜理子「女子生徒さん。あなたの個性、借りてもいいかしら。」
女生徒「借りる…?」
亜理子は指をポキポキっと鳴らした。
亜理子「待たせてごめんなさいね。さっさと変態男と女子生徒さんを引き離してあげないと。」
亜理子の目元が赤く光った。すると男と女生徒の体が浮いたのだ!
女生徒「わ、私の個性と同じだわ!」
髪木「またかよ!?」
男「な、何が起こってるんだ!?」
周りが騒然とする中、女生徒がおどおどと言った。
女生徒「私の個性は「サイコキネシス」で、見たモノを浮かすことができる個性なのです!でも私はせいぜいボールペン程度の重さまでしか持ち上げられなくて…。でも、あなたは人を持ち上げられる、凄いです!」
なんと亜理子が使った個性は女生徒と同じ個性だったのだ。しかもその個性を女生徒よりも巧みに操る、高度なテクニックも持っている。
亜理子「ほらほら、変態男にはこうしてあげるわ!ツルサン、女子生徒さんを助けてあげて。」
髪木「よく分からねぇが、やるぜ。」
亜理子「安心して女子生徒さん!」
亜理子は女生徒だけ個性を解除した。
女生徒「きゃあっ!」
男「おい!?重力で落としちまうだろ!うわあっ!」
男の腕の中から女生徒がズルリと落ちてしまった。
髪木「おっと!」
髪木は女生徒をお姫様抱っこでキャッチした。
髪木「ケガはありませんか?」
女生徒は男から解放された安心感で力が抜けていた。
女生徒「いえ、無いです…。助けていただきありがとうございます。」
そして亜理子はまだ男だけ浮かせたままにする。亜理子は今、一部のモノだけ個性を解除し残りはそのままにするというとても難しいことをしているのだ。
亜理子「さて、あなたにはお仕置きしないと。」
亜理子は男を解除し、地面に叩き落とした。
男「痛えっ!」
男は地面にぶつかって、痛みで動けなくなってしまった。
亜理子「これで降参でしょ?」
勝ち誇った顔で男を蔑む亜理子。
男「く、クソーっ!」
男は悔しそうに叫んで、力尽きた。




 その後髪木が教員を呼びに行き、教師たちが男の身柄を拘束した。男はどうやら偽物の他校の教員だった。教員としてこの学校を見学したいと事前にアポを取ってきたので疑われることもなく学校に入れたのだ。ちなみに男が女生徒を襲った理由は「一目見て可愛くて、どうしても欲しかったから。」だそうだ。ついでに言うと、男は偽物の教員なので、雄英高校の教員が、男が名乗った学校に再度問い合わせるとその教員は存在しないと言われたのだ。
髪木「これで一件落着と…。」
亜理子「ようやく片付いたわ。」
二人の元に特待生試験の監督がお礼を言いに来た。
試験監督「あらあなたたち、さっきの受験生さんね?」
髪木「はい。」
試験監督は「ふふっ」と微笑んで言った。
試験監督「この男を止めてくれて、そして我が校の生徒を助けてくれてありがとう。」
髪木「いえいえそんな…。」
亜理子「「トップヒーロー」として当たり前の事をしただけです。」
髪木「ええっ…。」
亜理子の発言に引く髪木。一方で亜理子は試験監督の前なので笑ってはいなかったが、どこか自信に溢れていた。
試験監督「怪我がなくてよかったわ。」
亜理子「私だから大丈夫です。でもこの女は危険ですよ。ヒーローには向いてません。だから合格させてはいけませんよ。」
亜理子に視線を向けられた髪木は驚いた表情で言った。
髪木「それ俺のことか!?なんだよー!一緒に戦ってあげたのに!」
亜理子「あなたはただ女子生徒さんを危険な目に遭わせただけのお荷物さんだったじゃない。」
亜理子の「お荷物」という発言は髪木の起爆剤となったようだ。髪木は顔を真っ赤にして感情をあらわにする。
髪木「じゃあ最初からお前がああすればよかったじゃねーかっ!!ふざけんな!」
亜理子もプライド、そして対抗心から髪木に言い返す。
亜理子「あなたがついてこなければあそこまで大事にならなかったのよ!」
髪木「俺だってヒーローになるんだ!人が救いを求めているのを放っておけない!」
試験監督「あらら…?」
試験監督は突然の喧嘩に挟まれて戸惑うことしかできなかった。
亜理子「でもあなたは状況を察することもできなかったでしょう!?」
髪木「あれはもう終わったことなんだ!もう突っ込まなくたっていいだろっ!?」
亜理子「だからあなたは馬鹿なのよ!」
髪木「バカ言うな!ぐぬぬぬ!お前のその金髪!本当に目障りだぜ!」
女生徒「あの、お二人さん…。」
試験監督「ダメよ、今二人の会話に入っちゃ。」
感謝の言葉を言いに来た女生徒は試験監督に促されて、共に髪木と亜理子から静かに離れていった。
亜理子「髪が長いって特徴だけで、ここまで頭から離れなさそうな女がいたのね…。」
二人の間には火花が散っていた。馬が合わない彼女たちはクルッと後ろを向いて、どこかへ歩いていった。
亜理子「あなたなんて試験に落ちちゃえばいいのよ!!長髪女サン!!」
髪木「お前なんかもう見たくねぇぞ!!金髪ヤロウ!!」
亜理子「フン!!」
髪木「べーだ!!」
 二人は不機嫌ながらもそれぞれ家に帰っていった。



 そして雄英高校入学当日。髪木は1年A組の教室に入った。髪木は随分と早く来たつもりだったが、とっくに一人の男が席に座っていた。髪木はその男に話しかけることにした。
髪木「初めまして…。だよな?」
男は髪木と目を合わせた。男の背中には真っ白で立派な羽が生えている。
翼「ん?おう、初めましてだな。俺、大空翼って言うんだ。よろしく頼む。」
早速自己紹介してくれた翼という男は笑顔で話してくれたので、髪木は打ち解けやすいなと思った。髪木も自己紹介することにした。
髪木「俺は髪木弦だぜ!これでも一応特待生なんだ。」
翼「やるな。俺は一般で入ったからな…。」
特待生という言葉に目を丸くする翼。
髪木「でもここからはリセットされてみんな平等だ。お互い頑張ろうぜ!」
翼「ナイスフォロー、ありがとな。」
突如、教室の扉がピシャッと音を立てた。
亜理子「いえ?私がもうトップだってことは決まってるわ。」
髪木「!!そ、その声は…。」
髪木と翼は扉の方を向いた。そこには金髪で黒い大きなリボンが特徴の女が、堂々たる態度でいた。
髪木「はっきりと覚えてたぜ。」
亜理子「私も頭からどうしても離れなかったわ。」
翼「なんだ?髪木、アイツとは知り合いなのか?」
翼は髪木と金髪の女を交互に見て言った。
髪木「ああ。特待生試験で嫌な思い出を残してくれた…。あの金髪が目障りなヤロウだぜ!鏡沢っ!」
髪木は怒りまかせに髪を一振りした。だが亜理子はひょいっと避けた。
走太「痛ええええ!!!!」
なぜか後ろに倒れていた男の頭に髪木の髪の毛が当たったが、怒りで亜理子しか見えていないせいか、男に謝らずにずっと亜理子を睨んでいた。亜理子はそれが随分と面白いのか、蔑みながら髪木を見た。
亜理子「あら、あなたの挨拶って随分と暴力的なのね。」
髪木「はあ?こういう奴に限って試験落ちたと思ったのになんで受かってんだよ!!」
鋭い目で亜理子を睨む髪木。だが亜理子は全く動じなかった。
亜理子「この私、鏡沢ヒーロー事務所の「鏡沢亜理子様」が、特待生試験に落ちるとでも思ったの?」
翼(うわっ、早速喧嘩かよ。めんどくせぇな…。)




 彼女たちの因縁はいつまで続くのやら。
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