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第14時間目「受験票を失くした少年を救え」

 今日も1年A組に放課後が訪れた。生徒たちは帰りの準備をして、ルンルンに家へ帰るのであった。
翼「よお相棒、今からラーメン食いに行こうぜ。」
走太「?????」
翼「…なんてな。相棒、帰ろうぜ。」
走太「あ、う、うん!」
二人の下校の道は、駅へ繋がる近道を通る。つい最近翼が見つけた道で、ほとんどの雄英生がこの道を知らないまま卒業していくとか。二人は今日の国語の授業の話で盛り上がっていた。
翼「ミサキは時を超えて、過去に死んだ弟へ逢いに行った…、か。まるで都合の良い話だ。」
走太「うん。まあ小説の話だし、そんな個性持ってる人がいたら、その人の思い通りの世界になっちゃう。」
そんな時だった。なんと二人の目の前に渦巻く光が現れた!
翼「な、なんだなんだ!?」
走太「ま、眩しい!」
光の渦の中から飛び出してきたのは…。
渡「よっと!未来に着いたー!」
一人の小さな少年だった。
走太「子ども…?」
走太と翼は少年と目が合ってしまった。
走太「…。」
翼「…。」
渡「…。」
        



渡「ああああああああ!!」
走太・翼(えええ…。)
いきなり少年に指をさされ大声を上げられて戸惑う走太と翼。一方で少年は口を押さえてオロオロした。
渡「み、見つかってしまいました!どうしましょう!」
翼「おいおい、いきなりどうしたんだ?」
走太「え、なに、僕たちキミを見ちゃヤバかった?」
渡「いえ、別にいいのです!僕の姿を見られてしまったらもう自己紹介するしかありません!」
大人びた少年は咳払いをして自己紹介を始めた。
渡「僕の名前は渡遼と申します。突然ですが聞いて驚かないで下さい…。実は僕、個性を使って過去から来たんです。」
走太・翼「「過去!?」」
渡「やっぱり驚かれましたね。予想はしていましたが。」
走太と翼は、たとえ個性であろうと時を移動できる人がいるのは疑い深いことだった。
翼「お前…、宗教勧誘じゃないよな。」
渡「違いますー!本当に時渡りできるんですからー!…あ。」
渡はつい言ってはいけないワードを大声で言ってしまったことに気づき、ハッと口を塞いだ。
渡「あ…、僕の個性をみんなに知られては悪用されてしまいます!静かに話さないと…。」
渡は深呼吸して一旦心を落ち着かせて話を続けた。
渡「えー、説明しますと、僕の個性は「時渡り」。時空を超えて様々な時代に行くことができる、言わばチート個性です。」
翼「本当にそんな個性あるのか。」
渡「はい。この僕が、その個性を持っているのですから。」
渡は真剣な眼差しでキッパリと断言した。ここまで言われたらさすがに走太と翼も信じることにした。
翼「そこまで言うなら本当なんだな。教科書の話だけだと思ってた。」
走太「本当に時渡りできる人がいたんだ…。」
渡ははっきり、ゆっくりと話した。
渡「でも僕は個性を決して悪い方向に使いません!むしろいい方向に使わなくてはならないのです!あなたたちは制服から見ると、雄英高校の方ですね?」
二人は頷いた。すると渡は安心したようにホッと息を吐いた。
渡「ならばラッキーです!本当はプロヒーローの方に頼もうと思ったのですが、お二方なら安心して頼めますね!」
渡は真面目な顔で話し始めた。走太と翼も真剣に聴く。
渡「実は僕は過去からタイムスリップしてこの時代に来たんです。なぜここに来たというのかは、過去で大変なことが起こっているからなのです。」
走太「過去で大変なこと?それってなに?」
渡は悲しそうに目線を落として言った。
渡「過去にあなたたちの大先輩である雄英生の方がいるのですが…。その人は本当なら大きな事件がなく受験に行くところなのです…。ですが、何者かによって受験票が盗まれてしまったみたいなのです!」
走太「受験票が盗まれた!?」
走太は受験票を盗まれたと聞いたことで目が丸くなった。だが翼は冷静さを保ち、なにが最も大変なのかを理解した。
翼「つまり、過去が変わってしまった…、ということだな?」
渡「おっしゃる通りです!」
渡は頭を九十度下げて、必死の思いで叫んだ。
渡「どうかお願いします!どうか過去に遡って、彼を助けてくれませんか!?」
お願いされた走太と翼は顔を合わせる。
翼「相棒、覚悟は出来てるよな?」
走太「うん。たとえ過去の人であってもね。」
二人は渡を見た。
走太「いいよ!困っている人を放っておけないからね!」
笑顔で答える走太。渡は喜びで表情が緩まった。
渡「ありがとうございます!」
だが翼は不可解なことがあって顔が歪んでいた。
翼「でもなんでわざわざ未来人に頼む必要があるんだ?同じ時代の人に助けを求めてもいんじゃないか?」
渡「そもそも同じ時代の人に未来のことを話しても信じてくれませんし…。あと、まだ時の流れの変化に影響がない未来人の方にしか頼めないのです!」
翼「そうか。納得した。」
ようやく疑問が解決して翼の表情も晴れた。
渡「ありがとうございます!では早速過去の世界へ行きましょう!」
渡はそう言うと目の前に白い光の渦を作った。
走太「え!?いきなり行っちゃうの!?」
渡「早くしないと、あなたたちの世界が変わってしまう!なぜなら助けてほしい人は世の中を大きく変える力を持っているので!」
翼「よく分かんねーけど、つまりソイツは有名人なんだな!」
渡「その通りです!では行きますよ!」
三人は光の渦に吸い込まれ、目の前が真っ白になった。






 眩しい光が消えていき、三人はようやく目を開けられるようになった。
渡「過去に着いたみたいです!」
翼「…?本当に過去に来たのか?全然風景変わってないように見えるけどな。」
渡「確かにこの場所はあなたたちの時代とあまり変わりませんから。でも証拠ならありますよ。ほら。」
渡は近くにあった電柱に貼ってある広告を指差した。
翼「広告?ああ、ヒーローコスチュームならヒロド屋まで…って宣伝してるよな。」
走太「翼くん!全然違うポスターが貼ってあるよ!」
走太と翼が見たのはヒロド屋のポスターではなく、「長谷川接骨院」と書かれたポスターだった。ようやく二人は過去に来たのだと実感したのだった。
翼「すげぇ…、本当に過去に来たんだな…。」
走太「なんかテンション上がっちゃうね!」
渡「あの!興奮しているところごめんなさい!早速助けてほしい人の元へ行かないと!」
走太「そうだった!早く行かなきゃね!」




 三人は雄英高校の正門に到着した。大きくて無駄に威厳のある正門は走太の時代と全く変わらない。正門の端には、白い板に墨で「雄英高校実技試験」と書かれた立て札が置かれていた。
翼「この時代は入試の時期なんだな。」
走太「実技試験か…。なんだか懐かしいね。」
二人が懐かしさに浸っていた中、渡は目を凝らして辺りを見回してた。
渡「そろそろあの人が来るはず…。あ、来ました!」
渡の目線の先にいたのは、モジャモジャ緑髪で、そばかすが特徴の学ランを着た中学生だった。
走太「あの子が今回僕たちが助ける人?」
渡「そうです!」
中学生は緊張した面持ちでロボットのようにガチガチになって歩いていた。
翼(リュックが無駄にデカいな…、肩凝らねぇのか?)
中学生はリュックから筋骨隆々のヒーローがプリントされたファイルを取り出した。そして中を開いた。
緑谷「…あれ?」
中学生はもう一度ファイルの中を確認した。そしてリュックの中をごそごそと漁った。突然彼は焦った顔になる。
渡「やっぱり!何者かによって受験票が盗まれてます!」
翼「アイツを助ければいいんだな。」
渡「はい、ですが一回話しかけてみませんか?彼が最後に受験票を持っているのを確認したのはいつか、どこを通って来たのか、聞いてみましょう。」
走太「そうだね。」
三人は中学生の所へ向かった。
走太「おはよう。キミ、そんな怖い顔してどうしたの?」
中学生はいきなり雄英生に話しかけられて心臓がビクンと飛び跳ねる。
緑谷「わあっ!雄英高校の方!な、何でもないです!」
三人は、中学生は怖くてただ頼めないだけなのだろうと推測した。翼は中学生の核心を突くように話した。
翼「分かってる、その表情…。お前、受験票失くしたんだろ?」
緑谷「ひえっ!?な、何で分かったんですか!?」
走太(遼くんに教えてもらったからね…。)
翼「受験票を失くすなんて、試験行くのに大「しけん(事件)」!試験だけに、なんてな。」
走太「翼くん、空気読もう…?」
突然中学生は地面に頭をぶつける勢いで土下座した。
緑谷「あ、あの!僕の名前は緑谷出久と言います!お願いです!突然ですけど、僕の受験票を探すのを手伝ってくれませんか!?僕の恩師が今日のために特訓してくれたんです!ヒーローになれるって、言ってくれたんです!!!」
緑谷という少年は想いが込み上がって、声が裏返るほど大きな声で叫んだ。走太と翼は黙って緑谷を見ていた。
緑谷「それを無駄にしたくない!どうか、お願いします!!」
緑谷の体が震えていた。走太と翼は緑谷に安心してもらうために笑顔で話した。
走太「顔を上げて。大丈夫、任せて!僕たちが必ず見つけてくるよ!」
翼「お前の努力、無駄にしない。」
緑谷はハッと顔を上げた。涙を堪えるのに必死だったからか、顔が赤くなっていた。
緑谷「あ、ありがとうございます!あの、僕も探します!だって失くしたのは僕ですから。」
翼「その方が早く終わるな。受験前で切羽詰ってると思うが、一緒にがんばろうな。」
緑谷「はい!」




 走太と渡、翼と緑谷で分かれて受験票を盗んだ犯人を探した。走太と渡はというと
渡「全然見つかりませんね…。」
走太「ねえ、本当に受験票を盗んだ犯人は見つかるの?だって建物に逃げたり、何もしていないフリをすれば分からないよ…。」
正論を言う走太だが、渡は冷静に断言した。
渡「いえ、僕が体験した未来だと、受験票を盗まれて受験できなかった受験生がおよそ百人いました。」
走太「ひゃ、百人!?」
渡「今はまだ受験三十分前です。犯人は恐らくまだ受験票を半分の五十人分ほどしか盗んでいないでしょう。」
走太「なんかすごい、遼くん頭いいね…。」
自分より何歳も歳下なのに自分より賢い渡。彼の論理的思考に圧倒される走太であった。
走太(将来有望だなぁ…。)




一方で翼と緑谷は
翼「なかなかそう簡単に見つかるわけないよな。」
緑谷「そんな…。」
翼の発言に不安が増す緑谷。翼は緑谷を不安にさせるつもりはなかったので、慌てて修正した。
翼「悪いな、絶対に見つからないわけじゃない。安心しろ。」
緑谷「はい…。」
沈黙が流れる。翼はこの空気を変えようと無理やり話を切り出した。
翼「俺もな、受験前はいろいろ不安だった。だって俺のヒーローへの道に関わる大試練だったからな。」
緑谷「ですよね。みんな緊張しますよね。僕だってそうだから…。でも!僕は緊張に負けません!だって絶対に、みんなを笑顔にするヒーローになりたいから!」
緑谷の目は希望に満ち溢れていた。
翼「そうか、強い意志を持ってるんだな。今のお前なら大丈夫。無敵だ。」
翼は優しく微笑んだ。
緑谷「ありがとうございます…。なんだかあなたは僕の師匠みたいです。」
翼「師匠?」
緑谷「はい。僕の師匠はとても有名なヒーローなんです。いつもみんなを笑顔で助ける…。僕の憧れなんです。」
翼「笑顔で助ける…。まるでヒーローデクみたいだ。」
緑谷「え?」
翼「あ?」
緑谷「あの、ヒーローデクってー」
女子「きゃーっ!」
突然、緑谷の言葉を遮るように女子の悲鳴が響き渡った。
女子「ちょっと!何か盗んだでしょ!?」
翼「む?敵か?だが今のお前なら「無敵」だ。なんてな。」
緑谷「ふ、普通に寒いですー!」
走太「おーい!翼くん!聞こえる!?」
犯人の近くに走太と渡がいたようだ。翼と緑谷は急いで走太たちと合流する。
渡「あの女性です!あの人が犯人です!」
渡がピシャッと指をさした向こう側には猛スピードで走っていく女がいた。それを追いかけるセーラー服を着た女子。
女子「私の受験票返して!」
渡「きっとあの女の人が受験票を盗んだ犯人に違いありません!」
女の足は地味に早かった。走太と翼は個性を使って追いかけるしかないと考えた。
走太「分かった。それじゃあ僕の個性でー」
緑谷「救けなきゃ…。」
翼「ん?」
緑谷「僕が!みんなを救けなきゃ!」
なんと緑色のイナズマが緑谷の身体にまとわりついた!
渡「これはまさか…!」
渡は大変なことを思い出して顔が青ざめた。
渡「いけません!彼はまだ、自分の個性が制御できない!もし個性を使ったら彼の身体が壊れてしまう!」
翼「なんだって!?」
走太「そんなんじゃヒーロー科を目指す人とは思えないよ!出久くん、落ち着いて!」
走太と翼が止めようとしたが少し遅かったようで、緑谷の目は正義の炎で燃えていた。
緑谷「僕の身体が壊れてもいい!みんなを救ける!オールマイトみたいな、みんなを笑顔にするヒーローになるために!!」
緑谷は救けたいと強く思うと身体が勝手に動いてしまうようだ。
渡「ダメっ!」
緑谷「今救けー」
走太は緑谷を止めるように、緑谷の肩に手を乗せた。
走太「待って!ここは僕たちに任せて!」
緑谷を取り巻いていたイナズマは、我に返ったようにフッと消えた。緑谷は走太と翼を見る。
翼「俺たちはヒーロー科だ。」
緑谷「でもー」
走太は緑谷に優しく笑顔で言った。
走太「大丈夫。絶対に取り返してくるよ。」
緑谷「…ありがとうございます。」
緑谷が立ち上がったと同時に、走太はクラウチングスタートのポーズをした。走太の身体から黄色いイナズマがまとわりつく。
翼「俺もちょっとやってやるか。」
翼はポキポキっと指を鳴らし、なるべく高く羽ばたいた。
走太「行くよー!」
走太は全力で地面を蹴りスタートした。
渡・緑谷「「うわっ!」」
時差で吹いた風が二人を吹き飛ばした。翼も犯人を目掛けて急降下で飛んでいった。渡と緑谷が気づいたときには、走太と翼は犯人とだいぶ距離が詰まっていた。
走太・翼「「うおおおおおおお!!!」」
犯人は声が聞こえたので後ろを振り返った。目の前で男二人が自分に向かって突進してきているのだから、腰を抜かしたのだった。
女「きゃあああ!」
       ドーン!!!
   「「「イテテテテ…。」」」
三人は同時にぶつかった。相当な衝撃だろう。
緑谷「大丈夫ですか!?」
渡と緑谷も後を追ってやってきた。三人は重なって倒れていた。
翼「大丈夫だ…。それより俺たちは痛くて動けない。受験票を代わりに取り返してくれないか?」
緑谷「は、はい!」
緑谷は女が持っていたバッグを開けた。中に入っていたのは大量の受験票だった。
渡「相当盗まれていたんですね…。」
緑谷「僕だけじゃなかったんだ…。でも」
緑谷は自分の受験票を手に取った。
緑谷「見つかってよかった。」
ホッとため息をついた緑谷。その間に走太と翼は立ち上がった。
渡「それにしてもヒーロー科にしては無鉄砲な捕まえ方でしたね。」
翼「これが一番スピーディーなんだよ。もういいだろ?それより、たとえあなたが犯人であろうと怪我をさせてしまってすみません。」
翼は女に手を差し出した。女は一瞬嫌そうにしたが手を取って立ち上がった。
女「私が憎んでいる奴らに捕まるなんてね…。」
走太「憎んでる?」
女はぶっきらぼうな表情で話した。
女「私は雄英高校を憎んでいる、言わばろくでなしさ。」
翼「なぜ憎んでいるんですか?」
女はプイッと横を向き、決して走太たちと目を合わせないようにして話を続ける。
女「そりゃあ言ったら呆れられると思うけどね…。私さ、過去に雄英高校に落ちたんだよ。」
緑谷「落ちた…んですか?」
女は頷いてため息をつき、うつむいた。
女「私はずっとヒーローになりたいって思ってた。でもその試験で一気に壊されてしまったわけ。まだ希望はあると思って普通科に入ったものの、ヒーロー科に入ることはなく、もうこの有様さ。」
だんだん震えてくる女の声。女の発言は、まるで自分で自分に追い討ちをかけるようだった。
女「ヒーローに、なりたかったなぁ…。」
よく見ると女の目が潤んでいた。過去を思い出してよほど辛かったのだろう。
緑谷(なんて、話しかければいいんだろう…。オールマイトなら、どう話しかけるのかな…。)
緑谷は女を救いたい気持ちでいっぱいだったが、受験に落ちるということをまだ経験してない緑谷は黙っていることしかできない。
走太「あなたはどうやって受験票を盗んだんですか?」
女「私の個性だよ。私の個性はテレポート。物を移動させることができる泥棒向きの個性だよ。それで受験票をテレポートさせて受験票を盗んでいたわ。」
翼は目を閉じて、しばらく考えてから言った。
翼「本当に泥棒向きだと思ってます?」
女「…え?」
ようやくみんなと目を合わせた女。走太と翼は笑顔で話した。
翼「テレポートってとてもいい個性じゃないですか。な?相棒。」
走太「そうだよね。すごくいい個性だよ!」
女「いい個性なんて…。」
女は走太と翼の発言が気に食わなかったようで、今まで我慢していた悔しさ、怒り、涙を爆発させるように言った。
女「それってヒーロー科に受かった人の余裕でしょ!?あなたたちに私の気持ちが分かるって言うの!?」
どんなに女が感情的になっても、翼は冷静に返した。
翼「分かりませんよ、あなたの気持ちなんて。でも、あなたの個性ならなんでもできるのは分かります。」
走太「テレポートできるなら、例えば食べ物がない人のところへ食料や水を運んであげたり、身体が不自由な方を運んであげるとかできると思いますよ。」
女「…。」
女は走太の正論に何も言い返すことができなかった。そして走太は真っ直ぐな目で、女にはっきりと言う。
走太「あなたなら絶対に、「ヒーローになれる」。そう信じてますよ。」
女は目を丸くした。そして考えた。今までヒーローになれなかった悔しさが自分の足を引っ張っていた。でも今ここで何かが吹っ切れたようで、心の暗闇の奥底で、何かが光ったような気がしたのだ。
女「…!私は自分を信じていなかっただけかもしれない。道を示してくれてありがとう。」




 その後、女は走太と翼と一緒に受験票が盗まれた受験生の元へ行き、一人一人に丁寧に謝った。そして女はこれからは誰かのために尽くす人生を送ると言い、どこかへ姿を消してしまった。走太たちは緑谷を雄英高校の正門まで見送ることにした。
緑谷「みなさん、本当にありがとうございます。」
走太「いや、僕なんて大したことしてないよ。」
渡「なんとか解決してよかったです…。」
緑谷「さっきのあなたたちは…、なんだかオールマイトみたいでした。」
「オールマイト」という言葉に、走太と翼の頭の中はハテナマークでいっぱいになった。
走太「おーる、まいと?なにそれ。」
翼「直訳すると「全ての力」になるが、よく分からないな。」
緑谷「え?」
まるでオールマイトを知らないような発言をする走太と翼に混乱する緑谷。渡は焦って話を遮った。
渡「あー、えっと、僕たちはそろそろ帰りますー!それじゃあ緑谷さん、受験頑張ってください!ほら、お二人とも帰りますよ!」
渡は逃げるように走太と翼を引っ張った。
走太「わわっ、遼くん何するの!?い、出久くん、受験頑張ってね!」
翼「お前なら大丈夫だ!乗り越えられる!」
緑谷「は、はい!ありがとうございました!」
緑谷(あの二人、オールマイトを知らないみたいだったけど…、なんで?)




 その後、走太と翼は過去の世界を堪能した。そして渡と共に未来へ帰っていった。





渡「ふう、未来に着きましたね。過去を救っていただきありがとうございます。」
渡は気分が良いのか笑顔だった。だが翼はずっと気がかりなことがあり、顔が歪んでいた。
翼「で、ずっと思ってたんだが、オールマイトってなんだ?」
渡「オールマイトは今で言うデクのような存在です。」
走太「へぇ、偉大なヒーローなんだね。褒められたんだね、僕たち。」
渡は少し言いにくそうに、ボソボソと話す。
渡「あと、言うの忘れてたのですが…、あなたたちが救ったあの少年は、将来のヒーローデクなんですよ。」
走太・翼「「ええっ!?」」
衝撃の事実を知ってしまった二人は、女とぶつかったときよりも大きな衝撃を受けた。
走太「本当に!?」
翼「そりゃあアイツが受験受けられなかったらこの世界の治安も変わってしまうわけだ…。」
渡「それでは僕はこれで。では!」
渡は一礼すると渦巻く白い光を作った。
走太「はっ!遼くん待って!」
走太が呼び止めるももう遅く、渡は光の渦中に飛び込んでしまった。そしてその光はすぐに消えてしまった。
走太「…。」
翼「なんだ?なんか気になることでもあったのか?」
走太「…ううん、なんでもないよ。それにしてもなんだか不思議だったね。」
翼「俺たちがヒーローデクを救ったなんてな。それに俺はゾンビーの廃盤フィギュアも手に入れたし、なんだかサイコーな気分だ。」
走太「僕はもう廃業された美味しいパン屋さんに行けて嬉しかったよ!夢のふわふわ食パン…、美味しかったなー!」
走太は絶品パンを思い出して顔が綻んだ。翼もつられて笑顔になる。
翼「そんじゃ、いい気分の中で帰ろうぜ、相棒。」
走太「うん!」
オレンジ色に染まった空の下を、二人が歩いていった。




 同じ夕暮れの中、過去では受験に合格した受験生の喜びの声が空に響き渡っていた。
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